どうぞ、ご覧ください。
扉を開けると薄暗い室内が目に入る。棺桶が床に散乱し、所々ほこりをかぶっている。人の気配は感じられない。誰もいないのかと思ったその時、どこからか不気味な声が聞こえてきた。
「……ヒッヒ……よぅ~~~こそ…いらっしゃい……」
……? いったい何処から?
「こんな所に
中から人が姿を現した。全身黒ずくめの神父のような格好に帽子、
「これはこれは。勝手に入ってしまい申し訳ありません。私は人捜しをしているただの旅行者です。街を歩いていたらふと此所が目に入りまして、失礼ながら立ち寄らせていただきました。ここは葬儀屋で間違いありませんか?」
「そうだよ、此所は小生がお客さんをきれいにしてあげる場所さ…。でも……人捜しなら此所は場違いじゃないのかなぁ……」
「私としてもそう思ってはいるのですが、何分私の勘が此所に手がかりがあると言っておりましてね。」
これは嘘ではない。この葬儀屋に入った瞬間から懐かしい感じがするのだ。最初はこの葬儀屋という死に近い場所だからかと思ったが、違う。彼のセバスチャンの気配がある。
「私が探しているのは、『シエル=ファントムハイヴ』とその執事『セバスチャン』なのですが、ご存じないですか?」
私が問いかけたその瞬間、対面する葬儀屋の雰囲気が変わった。先ほどまでのこちらに興味なさげな様子が一転、値踏みするような視線に様変わりした。
「……さてねぇ。聞いたことがあるような…ないような……。すぐには思い出せないなぁ……。どうやら
ただ者ではないと思っていましたが、裏の世界の住人だったとは。さらに、明らかに彼の情報について匂わせている。これは思わぬ収穫があったものだ。
「そうでしたか。では、是非とも先ほど申し上げた二人についての情報を頂きたいのですが、それはおいくらですか?」
「いくら?」
私が情報の値段を尋ねると葬儀屋が今までの態度を一変させ、こちらににじり寄ってきた。
――何です? 何も間違った事は言ってないはずですが……。
「小生は女王のコインなんかこれっぽっちも欲しくないのさ。」
口の端から軽くよだれを垂らし、息を荒げ近づいてくる。よもや私の身体が目的か? それならそれで問題はないが……。
「さぁ
――さて、行為に及ぶなら何処にしましょうかね。この室内だと汚れてしまいますし、どこかの宿の方が良いのですが……いや、あえて此所でと言うのも悪くないかもしれません。
「極上の笑いを小生におくれ…!! そうしたらどんなことでも教えてあげるよ……!!」
――は? 笑い?
予想外の報酬を提示され、私は思わず固まってしまった。葬儀屋はその“極上の笑い”を思い出しているのか、息を荒げながら恍惚の表情をしている。ぼそぼそとした呟きを聞くと『あの執事君は理想郷を見せてくれたけど…グフッ…
――これは引くわけにはいかないですね……。
「仕方ありませんね……わかりました、良いでしょう。彼に出来て私に出来ないことはありますまい。」
さて、それでは久々に
――そこで見ていらっしゃる皆様も、今少し、ご退出ください。
――ギャッハハハハ!! ブフォッ ア゙ハハハハハッ!! ヒ、ヒィーー…も……やめ……アッハッハッハッ!!
――お待たせいたしました。もういいですよ。
報酬を渡すことに成功し、私は服を整えた。セバスチャンとネタが被っていたらどうしようと思ったが、違ったようだ。その甲斐あってか、葬儀屋は今も痙攣を繰り返し、時折息を詰まらせている。
――魔界では大受けしたネタでしたが、地上でも通用するものですね。
「ご満足いただけたようで、何よりです。では、話していただけますね?」
「っえふぉ……い、いやぁ…こんな短期間にまた理想郷を見られるなんて……小生は幸せ者だ……何でも教えてあげるよ…」
そして葬儀屋は『シエル=ファントムハイヴ』と『セバスチャン』についての情報を語り出した。途中、ビーカーに入ったお茶と骨型のクッキーをもらった。
――しかし、あのお茶は微かに血の味がしましたね。遺体を整える前に
セバスチャンの主、シエル=ファントムハイヴ伯爵は、「悪の貴族」として英国の裏社会の管理人のような職務を帯びているそうだ。そして現在、彼らは切り裂きジャックの事件を調査しているという。私に関係ないと読み流した彼の事件が、よもやこの様なところで巡ってくるとは。
さらに、実はほんの少し前に彼らはこの場所を訪れていたそうだ。(どおりで彼の気配がするわけだ。)そして、ここで被害者の娼婦の内蔵、子宮が総じて抜き取られているという情報を得て帰って行ったらしい。英国の上流階級は、普段は地方の
――しかし、ロンドンにいること、行動目的、そして情報が判明した今、見つけることはそう難しいことではありません。セバスチャンを見つけたら、気取られない距離でしばらく見ていればいい。社交期がもうすぐ終わってしまうのであまりのんびり出来ませんが、ゆるりと探しに行きましょう。
「では、葬儀屋さん。有用な情報をありがとうございました。また機会があればお邪魔させていただきます。」
「ぐふっ…またおいで、
葬儀屋に別れを告げ、私は外に出た。まだ明るい時間だ。おそらく彼らは現在調査中であろう。今までの情報から推測するに、
――しかし、事件の詳しい内容が知れない私は迂闊に動けないのも事実です。ならば、病院で待ち伏せしておくのが得策でしょう。ファントムハイヴ伯爵の顔は知りませんが、彼の顔なら知っています。さて、とりあえずはBarts、王立聖バーソロミュー病院に行ってみましょう。ロンドンで私の知っている病院と言えばあそこぐらいですしね。たしか、ロンドンの北西部、スミスフィールドのあたりだったはずです。……すこし、急ぎますか。
如何でしょうか?
手の状態もだいぶ回復してきたので、投稿をなるべく早くしたいと思っています。……思ってはいるのです。
活動報告も上げました。よろしければそちらもご覧ください。
今の英国散策篇が終わっても黒執事とのクロスオーバーをしたいです。