今回も色々詰んだりとしましたが試行錯誤して、ようやくどうにか投稿出来ました。
では始まります。
あの出会いから数日後、私はずっとあの子を探し続けました。
御礼を言う為に……そして何より、雷帝式を自在に操るあの子の正体を知りたかった――
あの誘拐犯の言う通り、あの子は私の知る限り雷帝の血縁者にはない顔をしていました。
念のため……手を打てる限りするべく、もう一度調べましたわ……ですがあの子の顔を知る者は血縁者や親戚にも誰一人として居なかった――
それに……調べによるとあの子は私と同年代だったのです。
初めてこの事実を知った時は驚きましたわ……
あんな小さな子が私と同い年だったなんて――もう少し年下なのかと思っていました。
ですが、それよりも先に思った事がありました
――それは何故あのような道端の生活をしているのか?というあの子の生活環境に対する疑問でした。
あの子は私と同じ18歳……ミッドチルダにおいては15歳以上は大人という事になりますわ。
血縁者でもないのにデバイスの補助もなく、雷帝式を使いこなす程の高い技量。
単独で闇ブローカーでありながら、3人の上級魔導師を圧倒する程の戦闘力。
そして……戦闘時に感じた私と同等、いえそれ以上とも言える魔力量。
万年人手不足の管理局があの子を見て見ぬ振りをするわけでも――ましてやそのままほって置く筈ありませんわ。
寧ろ雷帝式を使いこなすあの子なら――管理局や他の企業が高待遇でスカウトしていてもおかしくないでしょう。
あれ程の魔導師が、管理局に属するわけでもなく職にも就かず何故、あのような生活を送っているのでしょう……?
そう思いながら――今日も私は、あの子を初めて見た親しみのあるあの公園へ訪れる事にしました。
もう一度、あの子に会う為に――
* * *
「今日も、居ないのですね……」
日が昇り空が透き通った蒼へと染まり始めた頃、
金髪と緑の瞳、美女とも言える美貌を持つ少女「ヴィクトーリアダールグリュン」こと「ヴィクター」は自分が慣れ親しんでいた公園へと訪れていた。
何かを探すかのような素振りを見せるが、上手く行かず苦戦しているかのような表情を浮かべている。
(やはり、もう……会えないのでしょうか?)
あの誘拐事件以降、ヴィクターは自身が"あの子"と呼ぶホームレス少年の姿を見る事はなくなってしまっていた。
それでも暇を見つければこの公園に来ては、少年の姿を探し続けた。
それは最初は只トレーニングの序であったが――いつの間にか次第に、少年を探し来るだけのために来るようになっていた。
いつからか、何故なのかも分からなかった――
只、あの少年が自分のような雷帝の血筋ではないのに雷帝式を使いこなせるのか?という疑問、自分を助けてくれた御礼をするためというこの二つの理由だけで二度や三度であれは別だがもう何日も見つからない少年(あの子) を探し続けるのは、ヴィクターにとって無駄な時間の浪費ーーデメリットでしかない。
それなのに、自分はあの子の何に惹かれたのだろうか……?と思える程にヴィクターは少年を探す事を辞める事は無かった。
だがどれだけ探しても、少年が再び姿を現す事は無かった。
そして今回も、公園にホームレス少年が姿を見る事は無かった――
捜索を諦め、ヴィクターは帰路に着こうとしたその時
「――あの」
「っ!?」
突如、ヴィクターの後ろから聞き覚えのない高い声が聞こえて来る。
突然自分の後ろから誰かに話し掛けられたヴィクターは突発的な出来事のあまり、身体を一瞬だけビクッと震わせ驚いてしまい、構えを取る。
「うわぁっ!?す、すみません!!その、昨日から何か探していたみたいですけど――その、何か落とし物でもしましたか?」
服装と後ろに様々な壊れたテレビや電話といった電子機器を載せているトラックからして――廃品回収業者……およそ~30代から40代程の中年男性が立っていた。
恐らく、自分は考え過ぎていたのであろう――
あのホームレス少年の事で深く考えていたあまり、通常なら容易く気付く筈の人が自分に近いて来ていた事にすら気付けなかったのだろう――そうであると納得する。
(……怪しい者では、ないようですね)
男性の仕草、姿、顔……男性の特徴を観察し、ヴィクターは判断した。
前の闇ブローカーの件もあり、ヴィクターは前よりも強く警戒するようになっていた。
ヴィクターも決して無敵というわけではない――不意打ちとはいえ、どのような場合においても魔法発動や技を使う前に気絶まで追い込む程の一撃を受ければ、例え上級魔導師やヴィクターのようなインターミドル上位者といえど敵わない。
それはヴィクター自身自覚していたが、AMF機能付きの拘束器具まであったあの絶望的な状況を身を持って体験した事で独り行動の際は前回よりも警戒を怠らないようにしていた。
「――?どうかしましたか?」
「あ、いえ、その――落とし物ではなく……ある人を、探しているのですが……」
「ある人?」
「はい……私より小柄で白色の髪が特徴で――」
小柄で何処か幼い印象のある男の子と言い掛けたその時、業者の男性の口から予想外の答えが返って来る。
「――もしかして、シャルル君の事かな……?」
「シャルル君……?もしかして、ホームレスの白髪が特徴の男の子ですか?」
"シャルル君"という単語にヴィクターは首を傾げながらも、自分を助けてくれたホームレス少年の唯一知っている特徴を話しながらホームレスなのかを問う。
ゴミ袋を慣れた手つきで複数持ち、業者は何かを思い浮かべながらヴィクターの問いに答える。
「――うん、君の言った特徴に当てはまる人といえばこの辺りだとシャルル君しか居ないからね……」
業者の言う「シャルル君」が自分を助けてくれたあのホームレス少年本人とは限らない。
だが、それでも今のヴィクターにとっては貴重な情報源だった。
話からして、彼が嘘をっているようには見えない――逆に”彼”の事を良く知っているように話していた事から恐らく、自分を助けてくれたホームレス少年と予想される「シャルル君」と呼ぶ人物と何かしらの関係を持つ人物であろう。
そう推測したヴィクターは好機と考え、彼の居場所について尋ねる事にした。
「その、シャルル君の居場所についてはご存知でしょうか……?」
「シャルル君の居場所?」
返答を期待するヴィクターに尋ねられた清掃業者の男性は、ゴミを収集車にほうり込むと少し考える仕草を見せるが、男性の口から出たのはヴィクターの望んでいた返答ではなかった。
「僕にも分からないな……この公園に居るからよく見かけるけど、いつもいるわけじゃないし……ここを寝床にしてるわけでもなさそうだからね」
「そう、ですか……」
期待していた答えが得られず、ヴィクターは肩を落とす。
「でも、どうしてそんなこと聞くのかな?君は――シャルル君とは、どういう関係?」
「先日彼に、危ないところを助けられたものですーーそのお礼がしたいのですが、当の本人がどこにいるのか分からなくて……以前からこの公園で見かけていたので、ここに来ればなにか分かるかと思いまして」
「そっか、シャルル君らしいなーー彼自身とても苦労している立場なのに、困っている人がいれば手を差し伸べられる優しい子なんだ……私も、あの子にはいつも、元気をもらってばかりだよ」
タオルで汗を拭いつつ、清掃業者はとても嬉しそうな顔で語った。
その後、清掃業者は知っている限りのシャルルの行動範囲を教えてくれた。この公園にいないときは、商店街にいることが多いらしい。
全てのゴミを回収した清掃業者は、「シャルル君を見かけたら、キミがこの付近で探していたことを伝えておくよ」と言い残して、次の回収場所に向かった。
「ご親切に、ありがとうございます」
仕事中に話しかけてきた自分に対しても、嫌な顔を一つも見せず、丁寧な対応をしてくれた背を向けて次の回収場所へと向かう清掃業者に深々と頭を下げたヴィクターは、教えてもらった商店街へと足を進めた。
* * *
「あら、シャルル君かい?あの子なら、さっきあっちの方で見かけたわよ?」
「すみませんご親切に、ありがとうございます」
それから、どれだけの時間が過ぎたのであろうか――日が暮れて暗闇の中、街灯の明かりが照らす歩道をヴィクターは歩いていた。
廃品回収業者に「シャルル君」と呼ばれる”あの子”に似た特徴を持つ人物の居場所を教えてもらい、すぐさま商店街へと向かったが、シャルル君と呼ばれる少年の姿は見えない。
(ここにも、居ない……)
廃品回収業者から情報を貰った後、ヴィクターはホームレス少年「シャルル君」を探すために町中を奔走した。
公園の時とは違って、今まで難航していた”あの子”……「シャルル君」の情報を容易に手に出来るようになった。
この商店街では顔見知りの者は、皆ホームレス少年の事を「シャルル君」と呼ぶ。
だが、ホームレス生活者ゆえ定住先がなく、シャルル君と呼ぶは風のようにふらっと現れては消えてしまうため、『確実に会える場所』がない。
聞き込みを続けていくうちに、シャルル君という人となりがわかって来たものの、肝心の本人は見つからない。
それでも諦めずに探し続けたが見つからず、気が付けば日はすっかり暮れてしまい、星が見えるほどに辺りは暗くなっていた。
(結局今日も駄目でしたわ――帰りましょう……エドガーも心配しているでしょうし)
前とは違って進展はあったものの、街中を散々探し回っても結局は見つからず、どれくらい経過したのか分からない程に時間が過ぎていた。
捜索を明日に持ち越そうとしたその時
「――あの、どうかなされましたか?」
「――っ!?」
突如に後方から誰かに話し掛けられ、ヴィクターは少し驚きながらも後方へと振り向く。
だが振り返ったその瞬間、ヴィクターは驚異した表情を見せる。
ヴィクターの視線の先に居たのは一人の少年だった。
それもヴィクターの探していた”ホームレス少年”の特徴であった薄汚れた服装、バサバサした白銀の短髪、小柄で何処か幼い印象を持つ等、ヴィクターの記憶に残るホームレス少年の特徴のそれと全て一致していた。
「あ……君は――」
ヴィクターの事を知っていたのか、少年も驚いた表情を見せる。
偶然で突然の再会を果たした2人。ヴィクターは、最後の最後で巡ってきた幸運に鼓動が高鳴るのを抑えて、表面だけでも淑女らしさを保つ。
「ようやく、会えましたわ」
「アナタはこの間の――その、体の方は大丈夫ですか?」
「おかげさまで。その節は、危ないところを助けていただき、本当にありがとうございます」
「いえいえ、困ったときはお互い様ですから……それじゃ僕は、用事があるので失礼します」
「ハイ、ごきげんよう…って!ちょっと!!」
現れては、風の如く消えていきそうになるシャルルの肩を、ヴィクターは声をあげて掴んだ
「実は私、アナタに伺いたいことがあってずっと探していたんです」
「えっと、ごめんなさい――僕、用事を頼まれてて……その後でも良いですか?」
シャルルの、訴えてくるような目に、胸の内がキュンとなったヴィクターは、彼の肩から手を離した。押しかけているのは自分であるため強制することなどできず、シャルルの用事を優先することにした。
同行して辿りついたのは、質素な一軒家。インターホンを鳴らすと、温和な顔つきの老婆がシャルルを迎えた。
「はい、頼まれていた品物と、お釣りと、レシート――ちゃんと確認して」
「ありがとう、シャルル君。わざわざ隣町まで行かせてゴメンよ」
「気にしないで良いよ――新しくできたスーパー、とっても評判が良かったんだ……お婆ちゃんも早く足を治して、またご近所さんと一緒に買い物に行けるようになってね」
どうやらシャルルは、足を怪我した老人に変わって、隣町に新設されたスーパーに買い物に行っていたらしい
「そうだ、シャルル君これ、大したものじゃないけど……受け取っておくれ」
「え?で、でも」
「――お願いだから、お婆ちゃんのせめてもの気持ちだと思って」
「分かった……ありがとうお婆ちゃん、大切に頂くね」
老婆は受け取った袋の中から、お弁当とお茶を小袋に分けてシャルルに渡した。隣町まで買い物に出てもらい、そのお礼がお弁当とお茶だけというのは一般的な価値観からすれば割に合わない。それでもシャルルは、不満など微塵も見せず、心の底から老婆にお礼を言って有難く受け取った。
お弁当は、肉中心の特盛お得サイズ。老婆が食べるには高カロリーな食事。自分が食べられない弁当をわざわざ買ってきてもらったのは、初めからシャルルに渡すのが目的だった可能性が高い。だとしたら随分と回りくどいことをするのですね、とヴィクターは老婆とシャルルのやり取りを見ながら思っていた。
老婆に挨拶を済ませると、シャルルはヴィクターに「お待たせしてごめんなさい」と律儀に頭を下げた。
「いえ、こちらこそ忙しい最中引き止めてしまって申し訳ありません……それでは改めまして、私はヴィクトーリア・ダールグリュンと申します――貴方は一体……何者なんですか?」
ヴィクターの訊いてきた問いに
「――見ての通り、通りすがりのホームレスです」
と屈託のない笑顔で答えた。
Next Episode
遂にホームレスの少年「シャルル」と再会したヴィクター。
ようやく自分の窮地を救ってくれた時に見た光景を訊く事が出来るチャンスを掴めた事に内心嬉しく思い、シャルルへその正体を訊くが……
# 03「通りすがりのホームレス」