魔法騎士レイナース   作:たっち・みー

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#014

 act 14 

 

 旅の終着地点まで数十分はかかった筈だ。その間、ハムスケの背中は血だらけになっていて流れる体液はルプスレギナとレイナースが(すす)る有様となっていた。

 肉を食いちぎるところまで発展しなかっただけマシかもしれない。

 血では腹は膨れないが多少の空腹感は癒せた、ような気がした。

 

はっ! 私は何をしてるんだ」

 

 我に返ったレイナースの顔は血まみれだった。

 ルプスレギナは黙って治癒魔法を唱える。

 

「お腹が空いたら怖いっすよ」

「……はい」

 

 同じく顔を血まみれにしたルプスレギナは笑顔で言った。

 殺し合いに発展しなくて良かったとイビルアイが安堵していると目的地に到着したようだ。

 海底に存在する洞窟の中。そこに入り、泡が割れる。

 水の流入は無く、呼吸のできる場所のようだ。

 水圧の関係で耳鳴りなどは起きなかったが、泡が魔法によるものだったお陰かもしれない。

 

「大気は問題ないようっすね。多少は肌寒い程度……」

「ここは水底の神殿か?」

「海底っすね」

 

 イビルアイの世界では海水という概念がおかしな事になっているので海底という言葉がすぐには出て来なかった。

 知らない言葉は使えないという事なのか。

 薄暗い洞窟内は天井が高く、人工的な柱が何本も建てられていた。

 何者かによって作られた遺跡か研究施設のように見える。

 

「ここに食料は……、無さそうだな」

「人の気配が殆ど無いっすね。魚でも取れれば良いけれど……。冷たい水の中には入りたくないっす」

 

 試しに見えている水に指を入れて舐めてみた。とても塩辛く、飲めそうに無い。

 目の前に大量の水があるのに飲めないのは拷問かもしれない、と思った。

 洞窟の天井から落ちてくる水滴は少ないし、飲み水として適切か疑問だった。

 いざとなれば水溜りを啜るしかないか、と思っているとレイナースの身体の回りに大量の水がまとわり付いてきた。

 

「んっ!? 水のモンスターか!?」

 

 ルプスレギナが手で触ろうとしたが弾かれた。

 液体なので武器は通じそうに無いし、魔法を使うとレイナースに当たりそうだった。

 相手がどうなろうと知ったことではないのだが、彼女たちを守らないと後々、怒られそうなので手が出しにくい。

 

        

 

 迷っている内にレイナースは神殿の奥に引っ張られていく。

 ハムスケも尻尾で水を弾き飛ばそうとするが素通りしてレイナースに当たってしまう。

 

「……駄目でござるか……」

「氷系の魔法でなければ通じないか」

 

 ルプスレギナは炎系の魔法は使えるが熱湯になるだけのような気がした。

 二人と一匹が苦悩している間、レイナースの意識は薄れ、手足の力は失っていく。

 置くに向かうごとに魔力の障壁が強くなり、手が出しにくくなって最終的には連れ去られてしまった。

 

「……神殿の主に招待でもされたんすかね。あまり攻撃の意志は感じなかったっすけど……」

「情報が無いと何とも言えんな。ハムスケは何も聞いていないんだろう?」

 

 一応、役立たずのハムスケに尋ねてみた。

 自信満々知らないアピールをしたのでイビルアイは蹴りつけた。

 

「こんな状態で世界を救え、とはどういう了見(りょうけん)だ!」

「……それは私も思ったっす」

 

 無駄に動くとまた空腹を覚えそうなのでルプスレギナは武器を床において座り込んだ。

 食料の無い旅は二度と御免被りたい。そう思いつつ神殿の奥に顔を向ける。

 人が作ったにしては巨大すぎる規模に改めて驚く。

 今は無人なのか。それとも地上への出口でもあるのか。

 


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