魔法騎士レイナース   作:たっち・みー

9 / 14
#009

 act 9 

 

 先に飛び込んだルプスレギナは辺りを見渡す。

 暗くて先が見えにくい。だけど自分の姿は輝いているようにはっきりと見える。

 

「地面はあるようっすね」

 

 確認出来る範囲に味方は居ない。イビルアイ達の姿も無い。

 

「さて、何が待ち構えているっすかね」

 

 軽く首を捻る。

 ここしばらく満足な戦闘経験が無く退屈していたところだった。

 その前に水辺のある所だと思っていたのに残念に思った。

 お尻を拭いていないから。レイナースも同じだ。

 汚いまま冒険する事になろうとは思わなかった。

 

「水の出る魔法でもあれば……。無いのは仕方ないっすね……」

 

 はぁ、とため息をつく。

 そろそろ変化が生まれそうな予感がした。

 危機意識は人間よりも高いと自負している。だから、何者かの気配が生まれれば早い段階から察知する自信はかなりあった。

 

        

 

 気配の数は複数。

 足音もそれに比例している。

 それぞれの音は何故かとても()()()()()()()()

 音に敏感な人狼(ワーウルフ)が聞き(たが)える事など滅多に無い。

 

「……マジっすか……。雰囲気からしてお仲間という気がしないっすね……」

 

 暗がりから姿を現したのは戦闘メイド『プレイアデス』の七名。つまり()()()()()()を含めての数だ。

 それぞれ手に武器を携えている。

 

「試練って奴っすね。なるほど……」

 

 友好的な気配は皆無。ならば答えは一つしかない。

 彼女たちは倒すべき敵である。

 

「〈雷撃(ライトニング)〉」

「むっ!?」

 

 どう見ても『ナーベラル・ガンマ』にしか見えない相手が魔法を唱えてきた。

 条件反射で避けようとしたがタイミングが少し遅かった。

 顔を掠めていった。そして、地面に色々なものが落ちる。

 

「……殺る気まんまんって事っすね……」

 

 目と耳が吹き飛ばされたが、すぐに治癒魔法をかける。

 油断したとはいえ、けっこう強力な魔法で驚いた。

 味方から攻撃を食らうことは物理攻撃以外ではなかった事だから。

 

「……隙、だらけ」

 

 短銃で攻撃するのは『シズ・デルタ』で他のメンバーもそれぞれ動き始める。

 シズの攻撃を横っ腹に受けたが相手は容赦が無い様だった。

 

「逃がしませんわ」

 

 短刀で襲い掛かる粘体(スライム)状に変化した『ソリュシャン・イプシロン』の攻撃をなんとかかわす。だが、すぐに蟲による弾丸攻撃が放たれる。更に七人目の末妹たる『オーレオール・オメガ』は袖から数枚の札を取り出して、様々なモンスターを召喚する。

 長姉の『ユリ・アルファ』は的確に指示を飛ばしていく。

 

「凄まじい連携っすね」

「油断は命取りっすよ」

 

 と、自分と同じ声、姿の『ルプスレギナ・ベータ』が背中から襲い掛かる。

 当初の明るい雰囲気から一転して窮地に追い込まれる非常事態へと変貌する。

 

「……しぶとい」

 

 新たな武器を召喚するシズは二挺のショットガンを発射する。

 それぞれルプスレギナの腕と脚に当たり、吹き飛ばしていく。だが、それで怯むルプスレギナではない。

 残った足で後方に一回転し、治癒に専念する。

 あまり攻撃ばかり受けているとMPが尽きてしまう、と危惧する。だが、そんな思考にもかかわらず攻撃は飛んでくる。

 

「〈万雷の撃滅(コール・グレーター・サンダー)〉」

 

 容赦の無い攻撃を何の感情も見せずに放つナーベラル。

 

「ぎゃっ!」

「……お前に相応しい弾丸が決まった。……シルバー・ブリット」

 

 と、言いつつ拳銃に弾丸を詰め込む。

 シズは器用に武器を人差し指だけで回し、そして不可視化した。

 彼女の身につけている迷彩柄のマジックアイテムの効果なのはすぐに理解出来た。

 音も無く相手を狙い撃つ、その瞬間にしか姿を確認する事が出来ない。まして、敵は他にまだ六人いる。

 大抵の敵には負ける気はしないのだが、仲間内では話しが変わる。

 (なぶ)り殺しは好きだが、嬲り殺されるのは嫌だ。

 ここから逆転したいのだが、それぞれ攻めにくい立ち位置に移動していた。

 手持ちの武器は棒一本。魔法は治癒に回している。

 

「……詰んだっすかね」

 

 諦めるのは簡単だ。

 怒涛の攻撃の嵐。攻略の糸口が見えない。絶体絶命。

 とても楽しくて仕方が無い。戦いはこうでなくては、と苦境に立たされているにも関わらず、ルプスレギナは微笑む。

 戦闘メイドとしては今の状況は実に心地よい、と。

 役立たずのまま最下層で待機していた頃では味わえなかった臨場感は初めてではないか。

 狼形態に移行しつつMPの残り具合を確認する。

 難敵はソリュシャンくらいだ。後は物理攻撃で倒せる。最後のオーレオールだけは残ってしまう。レベル差の開きが大きいから。

 回復手段を与えないようにするには末妹を先に撃破し、次に自分()だ。

 

「……反撃と行くっすか」

「〈魔法二重最強化(ツインマキシマイズマジック)龍雷(ドラゴン・ライトニング)〉」

 

 いやに冷静にナーベラルが魔法を唱えたが、敏捷は自分の方が上だ。それに彼女たちは気付いていないのかもしれない。

 

 同士討ち(フレンドリーファイア)が解除されている事に。

 

 どういうわけか敵方も味方の攻撃を受けているようだ。それはソリュシャンの酸に身体を焼かれているのが見えたので気づいただけだが。

 何気にシズの攻撃の余波も受けている。

 完全に形態変化が終わりきらないうちにルプスレギナは駆け出す。

 レベルは高いが召喚魔法しか使わないオーレオールに掴みかかる。その身体を盾にナーベラルの魔法を受け切る。

 そして、そのまま投げ飛ばし、次に回復役の敵側のルプスレギナに向かう。すぐに守ろうと姿を現したシズに気付いたが、それは想定内だ。

 

「……生憎とシズちゃんの攻撃は()()()()いるんすよ」

 

 打ち出される弾丸を肉眼で確認など、到底出来ない。だが、タイミングくらいはなんとか取れる。

 オーレオールならいざ知らず、シズのレベルは自分より低い。

 ステータス的には色々とシズの方が高いが狼形態となった今はモンスターとして上昇しているはず。

 

 パンッ。

 

 乾いた音の後にルプスレギナの脳天を直撃する。

 

「……そんなに甘くないっすか……」

 

 言葉が正しければ銀製の弾丸のはず。ならば致命傷かもしれない。

 だが、今までの人生で()()()()()してきたので驚きは小さい。

 脳が少し砕けるくらい、平気だ。もちろん、やせ我慢だが。

 意識が飛ぶ前に弾丸を直に抉り出し、治癒魔法をかける。

 素早く(おこな)えば即死は回避される。と、()()の言葉が聞こえた気がした。

 言語、視覚、色んな機能が一時的に混乱状態となったが数秒で回復する筈だ。

 

「……えべべべ……」

 

 危険な行為は二度としたくないが、今は我慢あるのみだ、と強く自分に言い聞かせる。

 動けるうちに回復役の首を数撃で落としていく。次にオーレオールは盾役として利用し、ナーベラルを撃破。

 種族的に倒しやすいし、物理攻撃が通じない相手ではない。

 蟲をたくさん吐き出すエントマも装備品を避ければ倒せない事も無いが、防御に厚い蟲を召喚されては困る。だが、そうであっても身体を掴み、ソリュシャンに投げ込めば話しは変わる。

 ソリュシャンの中で蟲の召喚と溶解が始まり、二人は身悶えし始める。

 残りはシズとユリだ。

 

「見事です」

 

 冷静にユリは言った。

 仲間内での殺し合いは経験したくないものだとルプスレギナは思う。

 

「……しぶとい。……殲滅」

 

 シズは眼帯をめくる。そこには本来は一つしかない瞳が無数に蠢いていた。その複数の瞳の眼球から無数の光線が発射される。

 口を開けると中から銃口が現れる。更に両手の手首が落ち、腕そのものが砲撃用の武器と化す。

 それらの一斉射撃もオーレオールで防ぐ。レベル100なので意外と丈夫だった。

 

「シズちゃんの本気モードは怖いっすね」

 

 打ちつくした後で口の銃身を吐き出す。

 

「……リミット解除。……ジェノサイダーモードに移行」

「むむっ、それはヤバそうっすね」

 

 シズの全身に亀裂を入れるような光りが走る。

 全身凶器のシズの隠し玉。

 

 超電磁砲(レール・キャノン)

 

 両腕の一部を変形させ、巨大な大砲に形作る。

 それをのんびりと眺めるルプスレギナではない。砲身にオーレオールを投げ込む。ついでに先ほど倒した敵方のルプスレギナも投げ込む。

 直接、打倒する手間が省けて楽だった。

 

「ぶばばば!」

 

 物凄い暴れ方をしてエネルギーの本流に身体が引き裂かれていく。

 ついでにソリュシャンも投げ込む。

 

「……そんなことをしても無駄。……指向性の雷撃はあらゆるものを分解する」

 

 螺旋を描くように引き裂く雷撃砲。

 

「そうっすか? こっちは結構、余裕になってきたっすよ」

 

 敵の数を減らす上では、と。

 残るはユリ。

 大技は発射までに時間がかかるし、連射は無理だ。

 不可視化はシズには通用しない。であれば、次の一手はユリしか居ない。

 今のシズは待機モード。迂闊には動かない筈だ。すばやく駆け出してユリの腹に一撃を加える。

 拳による打撃中心の相手。魔法による攻撃は来ない。だから、物理攻撃を加える事に躊躇いはない。

 爪を服に引っ掛けてシズの砲身に投げ込む。首無し騎士(デュラハン)であるユリは首のチョーカーを外せば頭部を外す事が出来る。そして、その首を持って距離を取る。

 

「必殺……。ファイア、頭、アタック!」

 

 魔法で燃やしたユリの頭部を力いっぱいシズに向けて投げ込む。

 

「わぁ!」

 

 砲身に様々なものが入り込み、シズの身体から電気が漏れ出る。

 ソリュシャンの身体の粘液で更に事態は悪化。

 爆発を想定し、現場から駆け出すルプスレギナ。

 出来るだけシズの射程に入らない位置に気をつけつつ移動する。

 

「……原子に帰れ」

 

 静かに呟くシズ。そして、放たれる。

 

「……漏電は想定内。……私の一撃は……」

 

 青白い光りと共に砲身から崩壊していくシズ。それから数瞬の後、大爆発が起きる。

 爆風に巻き込まれる事を覚悟して身体を丸めるルプスレギナ。

 隠れる場所は無いので、出来る限り爆風に身を任せる。

 

        

 

 それから数分、数十分と時間が経過しただろうか。

 追撃の気配は無かった。

 ルプスレギナは治癒魔法で焼け焦げる自身を癒しつつ目蓋を開く。

 狼化によって身体の痛みは比較的、軽減されたようだ。

 

「お、終わったっすか?」

 

 暗い空間には焼け焦げる匂いが充満していたが敵の気配は殆ど無かった。

 爆心地に向かうと様々なものが散らばっていた。

 

「随分と派手に吹っ飛んだっすね」

 

 人間形態に戻りつつ、ルプスレギナは呆れた。

 ちゃんとした武器を装備していればルプスレギナとて苦戦はしない。だが、それでも多勢に無勢だ。

 勝利は望めなかったと思う。

 

「……生きている事に感謝するっす」

 

 軽く伸びをしたところで中空(ちゅうくう)に赤い光りが生まれた。

 それはすぐに宝石の塊へと変化していく。

 

「……これが伝説の鉱物……、エスクードっすか。綺麗っすね」

 

 軽く飛び跳ねて宝石を掴む。

 

「……なんか……、疲れたっす」

 

 ふう、とため息を付いてその場に座り込む。

 仲間と戦うのは気分は良くないが、油断は禁物という事なのかもしれない、と思う事にした。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。