第始章 ミレニアムクエスト外伝【完】   作:トラロック

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機械が造りし子供たち
シズ・デルタ


 

 暫定的に『月』と呼ばれていた天体は『無限光(アイン・ソフ・オウル)』と改名し、更に数千年の時が流れた。

 大規模な実験場があり、地下空間が作られている。

 一般の人間の立ち入りは数千年以上経った今も許可されていなかった。だが、そんな施設に出入りする者は居る。

 

 自動人形(オートマトン)と呼ばれる者達だ。

 

 容姿はほぼ同じ。それは別個体が居なかっただけだ。

 夥しい自動人形(オートマトン)達は日々、様々な研究や実験を繰り返してきた。

 多岐に渡る研究の一つが星の開発だ。

 無人の星に向かい、生物が住める環境を作る。

 もう一つは広大な宇宙空間を行き来する宇宙船の建造。

 そして、自らの機能を向上させる。

 数千体規模で演算効率を上げていく。時には一億体も費やされる。当然の如く失敗もある。

 そんな事を繰り返して十万年の年月が流れる頃に大元の自動人形(オートマトン)である『シズ・デルタ』は気付いた。

 自分は既に時代遅れの骨董品である事に。

 赤金(ストロベリーブロンド)という色の腰まで真っ直ぐ伸びた髪の毛。黄緑色の明るい瞳。片方は普段、眼帯で隠されている。

 迷彩柄のマフラーを首にかけ、金属のスカート。厚めの手袋。メイド服の体裁を残しているが戦闘を想定したようないでたち。重火器を得意とする戦闘メイド。

 他のシズ・デルタ達は途方も無い演算効率をたたき出す最新型ばかり。

 

「………」

 

 老兵は静かに去るのみ、という結論を出し、眠りにつこうかと思った。

 自動人形(オートマトン)が眠る事は機能停止を意味する。

 自分で停止は出来るが起動は出来ない。誰かに起こしてもらう必要がある。だが、その役目はもう必要ないと判断し、自主的に機能を停止する。

 

 

 無の境地でいつ目覚めるとも知れないシズは停止した瞬間に思考が途切れて、次の起動で目覚めるまでの間の事は何一つ記憶に留めない。

 眠った次の瞬間には起きるだけだからだ。それがたとえ数億年が経っていようとシズの体感時間では一瞬だ。

 

「目覚めたか、シズ」

 

 その声はどれだけの時間が経とうと忘れる事が出来ない。

 すぐさま床に降り立ち、片膝をつく姿勢を取ろうとしたが止められた。

 

「起きたばかりだ。少しそのままでいろ」

「……畏まりました」

 

 普段は眼帯を左に付けているのだが今は太いケーブルが左目のあった部分に差し込まれていた。

 無理に引き抜こうとすると頭蓋に収められている記憶野が焼き切れてしまう恐れがある。

 

「何の連絡も寄越さないから心配したぞ」

 

 白亜のごとき白き容貌は自らの主『死の支配者(オーバーロード)』である『アインズ・ウール・ゴウン』だった。

 

「……役立たずは廃棄処分が妥当と判断……」

「それは私が決める事だ。とにかく、勝手に判断するな」

 

 穏やかな口調で白い骸骨のアインズは言った。

 時を経るごとに部下達が自分達の判断で消えていくような気がした。

 自主的に判断する事は悪い事ではないのだが、もう役目は終わった、という風潮が広がっているような気がして心配でたまらない。

 

「お前が設計した新たな自動人形(オートマトン)達は優秀かもしれない。だが、最初から仕えてくれたシズはお前だけだ。今でも大事な部下だと思っているぞ。それは忘れないでほしい」

「……ありがたき幸せ……。……でも、色々と機能不全、起こしている。……シズ・デルタの予備パーツはもう……」

「魔法でどうにかならないのか?」

「……型落ちの私は治す価値、無い」

「価値はあるとも。私はお前が必要だと思っている」

 

 機械に詳しくないのでケーブル類はシズ自ら外してもらう。

 型落ちの機械では最新型の情報を受け取る事に限界が来ていた。それでも僅かばかりのエネルギーは供給してもらっている。

 今のシズに出来る事は何も無いかもしれない。

 

 

 身支度を整えて歩き出すにも杖が必要だった。

 治せない不具合が増えていた為だ。

 尿漏れのような状態になったり、歩いてすぐに腕の機能が停止したり。とにかく、様々な不具合が歩行を妨げていた。

 介護用の機械がシズの身の回りに待機しており、彼女の世話を(おこな)っている。

 人気(ひとけ)の無い客室にてアインズはシズを出迎えた。

 ここは『(無限光)』の研究室の一室。

 

「……シズ・デルタ。……御身の……前に……」

 

 異音を鳴らす脚は曲げた瞬間に砕け散る。

 床に手をつけようとしても動かない。なので、そのまま顔を床に打ち付けるシズ。

 そんな彼女を無数の機械が支え上げていく。

 

「もはや修理は不可能か?」

「……同一規格の製造許可が降りません」

 

 と、答えたのはシズと姿形が同じ自動人形(オートマトン)の一人だった。

 機能的には遥かに優れている。それでも自らの創造者であるシズを軽んじる者は居ない。

 シズの肉体を構成する内部機械は既に時代遅れとなっており、それを必要とするのは今ではオリジナルのシズただ一人。ゆえに唯一の存在の為に無駄なコストはかけたくない、というのがシズの言い分だった。

 予備の部品は許可が降りれば造れない事はない。

 拒否する理由としては自分の肉体を構成する部品全てが至高の存在から頂いたもの、という意識があるからだ。それを失う事は自動人形(オートマトン)のシズでも辛いと感じる事らしい。

 

「ならばお前の創造主が用意した予備パーツならば文句はあるまい」

「……はい」

「うん。至高の存在の命令は……、呪いのようなものだな」

 

 絶対というほどではないが強情なところは困ったものだ。

 散らばるパーツは全てシズの宝物として保管を命じている。

 

 

 新たな部品によって復活したシズ・デルタ。ただ、頭部の替えは簡単にはいかない。

 既に型落ちした古い機械だ。入れ替えは簡単ではない。

 他の自動人形(オートマトン)が数分で出来る仕事がシズには数十年かかっても出来ない差が生まれている。

 

「後の作業は他の自動人形(オートマトン)に任せて隠居するか?」

「……ご迷惑になるくらいならば……」

 

 シズは反論しなかった。役に立たない自分を受け入れる事にした、という答えを出したのかもしれない。

 それはそれで悲しい事だが、部下を失う事に比べれば我慢できるし、耐えられる事だ。

 最終的にバラバラの部品に変わるよりは。

 

「月は永住には相応しくない。永劫管理できる施設が良いのだが……」

「……アインズ様のお側がいいです」

()()()のデルタ国はまだ建設中だったな?」

「……そこを私の永住の星と致します。……シズ・デルタの我がままを受け入れてくださるのであれば……、もう何も要らない……」

 

 長年仕えてきた部下達も色々と肉体的な不具合を見せている。

 このまま活動させるのは酷な事かもしれない。

 既にパスワード類の移行は済んでいるし、シズの役目を次代に引き継ぐ事も考えなければならない。

 

「……よかろう。だが、一同を集めるイベントには参加してもらうぞ」

「……御身が望むままに」

「シズ・テルタ。月の管理の任を解く。だが、引継ぎ作業には時間がかかる筈だな?」

「……およそ二年三ヶ月は必要」

 

 即座に答えるシズ。

 

「デルタ国が出来るまでユリの星で休むが良い」

「……畏まりました」

 

 堅苦しいやり取りを終えてアインズは軽く息を吐く仕草をする。

 アンデッドの身体なので呼吸をする必要は無いが人間の頃のクセが染み付いているので、なかなか無くせないものとなっていた。

 

「あえて聞くが……、お前が最新の機械を受け入れていればもっと活躍できたのではないか?」

「……最新バージョンのシズは昔のシズ・デルタではなくなってしまう。……至高の御方に創造されたシズ・デルタは未来永劫、変わってはいけない」

「いくつか保存しているから構わない、と思っていたのだがな」

 

 全てのNPCの身体は()()()場所に保管されている。今の身体を失ったとしても実は大して問題ではない。

 部下のための散財にケチケチしたりはしない。

 それを知っていたとしても与えられた身体は大切だと思っているのかもしれない。

 

 act 0 

 

 惑星『アイン』を守護する七つの衛星の一つ『デルタ』にシズ・デルタは足を踏み入れる。

 数億人の同型種が(ひしめ)きあっていた。

 時代遅れの骨董品が向かうのは神殿のような建物だった。

 他の衛星と違い自動人形(オートマトン)しか居ないが生物のための食料の研究も(おこな)われている。

 この衛星は丸ごと実験施設となっていた。

 『無限光(アイン・ソフ・オウル)』から持ち込んだものも多数存在する。

 生物は実験専用以外に無く。機械のみが支配する。

 神殿の奥深くには寝台が用意されていた。その中にはあらゆる衝撃、酸化などから守る緩衝材の液体が満たされている。

 装備品の全てを脱ぎ去ったシズは寝台に足を入れる。

 全身を入れて目を瞑れば永遠に近い時を過ごす事になる。もう二度と目覚めないかもしれない。それでもシズは選んだ。

 永劫の時を止める事を。

 

「……あっ」

 

 と、眠る前に(おこな)わなければならない事を思い出し、足を引き抜く。

 骨董品となってから物忘れがあるとは思わなかった。

 

「……停止の準備を」

「……畏まりました」

 

 シズの命令にシズと姿形が同じ自動人形(オートマトン)は無感情に頭を下げた。

 必要事項を電子端末に書き、床に寝転がる。そして、自らの活動を停止する。

 その後で複数のシズ型が近寄り、シズの頭蓋をこじ開けて部品を引き抜いていく。

 

「……では、先達に黙祷を」

 

 それぞれ数分間、沈黙した後でシズの身体に処置を施していく。

 停止したシズの身体が寝台に納められたことを再確認し終えてから蓋をする。

 

 

 十年の歳月はあっという間に過ぎていく。

 デルタ国は知的生物の渡来に制限がある。事前審査を受けなければ大統領だろうと国王だろうと拒否権を行使する。もちろん、例外はある。信奉する支配者や仲間たちは特別扱いする。

 他の衛星の(あるじ)達には身分証を提示すれば比較的、簡単に入国できる。

 

「ここがデルタ国だ」

 

 黒い巫女装束をまとうガンマ国の支配者『ナーベラル・ガンマ』は従者と共にデルタ国に足を踏み入れる。

 

「みんな同じ顔ですね」

「訪問客を受け入れないからな。あと、迂闊に声をかけるな。お前は彼女達に登録されていないのだから」

 

 本来は別々の個体を用意する予定ではあった。

 数が多くなってきたので飽きてしまった。ただし、最重要施設に居るいくつかの個体は専用の外装が与えられている。

 

「は、はい」

 

 ナーベラルと従者は真っ直ぐに神殿へと向かった。

 目的は献花だ。

 数年に一度、仲間に花を供える。別に死んだわけではないが、愛の象徴ということで(おこな)っている。

 人間愛の無いナーベラルにも仲間が大事だと思う心がある。

 

「……ユリ姉さんはやはり一番か……」

 

 寝台を開けるのは数百年に一度だけ。それはナーベラルでも勝手に開けられない事だった。

 身体に不調が現れるNPCの末路。それは滅びと永遠の停滞。

 命を生み出すようになってからナーベラルも死生観について考えるようになった。

 仲間の一人が停滞を選んだ。自分もいずれは停滞を選ぶのか、滅びを選ぶのか。

 広い宇宙に出てから長い時を歩んできた。その歩みに終わりがあるのか。

 

「……シズは何を考えてこの結果を導き出した?」

 

 自動人形(オートマトン)の彼女が選んだ道を自分は知りたいのか。

 知ってもどうしようもない。そんな気はする。

 

「目覚めた時に聞けばいいか。おい」

「はい」

 

 従者に声をかける。

 シズの為に作らせた可愛い動物のぬいぐるみをいくつか飾っておく。

 時と共に滅んでいくものなので、掃除がてら置いていく事にしていた。

 数十年程度は保つのだが、いくつか過去に置いていった物は形が崩れていた。

 

「また十年後に来る。ゆっくり眠ってくれ」

 

 思考が停止しているのであればゆっくり眠る事など出来はしないけれど、言葉は自然と出てしまった。だが、それをいちいち覆す野暮な事はしない。

 

 

 ナーベラルが去って自動人形(オートマトン)の従者が管理する事になり、五年が過ぎた。

 適度に室内は自動人形(オートマトン)達が掃除しているので清潔を保っている。

 そんな中、新たな客人が訪れた。

 そして、花を添えて黙祷を捧げる。

 オリジナルは道半ばで停滞を選択し、他の自動人形(オートマトン)達は与えられた命令を今も実行していた。

 効率化と宇宙開発。

 本来ならば参加したいところだったシズは自らの発展を諦めた。

 それもまた彼女の選択であり、尊重すべき結果だ。

 自らの創造主の為に自分を捨てる事が最後まで出来なかった。そんな彼女を責める事が出来るのは創造主のみだ。

 

『終幕』

 

 

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