俺たちの冒険の書No.001〜ロトの血を引きし者〜 作:アドライデ
「死んでしまうとは何事だ!」
「好きで死んだ訳ではないです!」
見慣れた光景。何度繰り返されたか分からない。
「嘆かわしい。命をなんだと思っているのだ! 何人も帰ってこぬのじゃぞ!」
「分かっております! これ所持金の半分ですから!」
「これ、話はまだ終わっとらん!」
互いに互いの反応が投げやりになってきている。
「全く、この御守りも万全ではないというに」
ハラハラと父である王と勇者様のやりとりを見ていて不安に思う。
助け出されたときは余裕そうで、まさにこの世に舞い降りた救世主、そう思った。
暗い洞窟の奥、己がなぜ生かされているのかも分からず【ドラゴン】に見張られる日々。
心が押し潰されそうな年月を耐えたときに放たれた一筋の光。その希望の光が勇者様であった。この胸の高鳴りは本物だが、勇者様は今も尚、傷付き戦っている。
それを祈りながら待つしかできないもどかしさ。
「勇者様…」
「はい」
次で竜王と対峙することを告げた。もし我が帰らなければ、次を探せとも。
その言葉の端々に、己の運命を受け入れ、それでも尚、命に従ってくれる強い眼差し。
「ローラはあなたのことをお慕いしております。なのに凄く不安なのです」
数多くの勇者の一人、されど己には唯一の希望の光、失うのがとても怖い。誰一人、あの闇の牢獄から連れ去ってくれなかった。救ってくれたのは勇者様あなた一人です。
「姫、私は結構、好き勝手しておりますよ」
クシャっと笑いかけてくれた。彼の心は死んでいない。そして、既に決意していることが垣間見えた。なぜそこまでお心を強くあれるのか。
束縛されぬ意思の自由。自分は選んでここにいるそう言ってくれたように感じた。
使命でもなんでもない、己を助けたのは彼の意思。
「ならば、私も私の意思で全てを賭けましょう」
ついに世界に光が戻った。あの禍々しいオーラを発していた竜王城から、天高く登る一筋の光、暗くどんより覆っていた雲を突き破り、辺り一面に青い空を覗かせた。
ついに、勇者様が竜王を討伐したのだ。
なぜかそれを知った己の目から涙が溢れ落ちた。
「ありがとうございます」
誰にも聞かれることのない感謝の言葉が漏れた。
少ししてから、戻ってきた勇者様に激励の言葉をかける王。もはやこの国の英雄。在位を譲ることに文句を言うものはいない。
「いいえ。もし私の治める国があるならそれは私自身で探したいのです」
しかし、父の王への誘いを断り、旅立つと宣言した勇者様。わかっていた、理解していた。彼が断るだろうということは。
ならば、勇者様は己が支えたいという意志を貫きたい。
「待ってくださいませ! そのあなたの旅に ローラもお供しとうございます」
階段を降り、勇者様に駆け寄る。
「このローラも連れてって下さいますわね?」
はい or いいえ
THE END