朝起きると物々しい装いの黒服に囲まれていた。
普通に考えればとんでもない異常事態だが、その異常の中心である少年は何事もないように朝の支度を始めた。
少年の名は織斑一夏、この世でたった一人ISを動かすことができる男性である。
第一話「鉄仮面とおサルと金髪と」
「迎えが到着しました」
黒服の海が割れ出口までの道ができる。
やくざ映画のワンシーンみたいだなとどこか他人事のように思いながら一夏は外へ踏み出した。
外には黒塗りのセダンが横付けされており、後部座席の扉が開いている。
黒服の一人があたりを警戒しながら一夏を座席へと誘導した。
部屋から車へ移動するだけでもこれなのだから肩がこってしまう。
そしてこの車の行き先、これからの生活を考えると思わず深いため息をついてしまった。
するとクスクスと小さく笑う声がした。
声の方を見ると自分と同じような色合いの制服を着た小柄な少女が座っていた。
座っているので正確にはわからないが自分より頭ひとつくらい小さいだろうか。
襟の辺りで切りそろえられた黒髪に百合の花の髪留めをつけているのもあいまって、一夏にはとても幼く見えた。
「はじめまして、私は辻谷文香と申します。今日からあなたと同級生になります。よろしくお願いしますね」
少女は満面の笑みで黄色い後光の様な元気オーラを発散しながら自己紹介をしている。
うん?同級生?同い年?
「15歳!?」
思わず叫んでしまった。
しまったと思って口を塞ぐが一度出てしまった言葉はそんなことをしても戻らない。
彼女は苦笑いしながらよく言われますと返した。
「ごめん、無神経だった」
「謝らないでください慣れてますから」
慣れているからといって傷つかないというわけではないだろう。
それに謝らないでというのもこれ以上触れてほしくないという意思表示なのかもしれない。
昔から男友達にデリカシーがないと言われ続けてきたが、初対面の相手の地雷を踏むとは我ながら度し難い。
自分は相当困った顔をしていたのだろうか。
隣に座る少女が申し訳なさそうにこちらの表情を伺っている。
傷つけた上に気を使わせてどうする織斑一夏!
女の子の笑顔を曇らせるなんて、男の風上にも置けない最低野郎のすることだろ!
気合を入れて笑顔を作ると、今度は自分のことを話し始めた。
ニコニコとした仮面を貼り付けながら文香は少年の自己紹介を聞き流していた。
なにせ彼女は当人が語るよりも、正確で客観的な視点での織斑一夏という人間を知っているからだ。
第二回モンド・グロッソでの誘拐事件以降、織斑一夏には重要人物保護プログラム第二級対応がなされている。
第二級対応、すなわち護衛チームによる24時間体制の監視である。
文香はすでにここ数年分の「一夏観察日記」を担当者から引き継ぎ、熟読していた。
好きなもの、嫌いなもの、趣味、一日の行動パターン、癖、好む異性の特徴までスラスラと言える。
この顔に貼り付けた仮面も織斑一夏に「気持ちのいい友人」として取り入るために観察日記から得た情報を元に作り上げたものだ。
作戦立案者は"友人"ではなく"恋人"を望んでいたようだが、私が彼の趣味でないのだから仕方がない。
まぁその点についてはほっとしているわけだが。
気付くとずいぶんな時間話し込んでいたようだ、IS学園まではあと10分というところか。
いつまでも彼の話に相槌をうっていても仕方がない。
申し訳ないが弱みに付け込んで私の仕事をしやすくさせてもらおう。
「織斑君、無理しなくていいんだよ?」
前までの会話の流れを無視した私の言葉に面食らったのだろうか。
それともやはり自分を取り巻く状況に不安を感じていたのだろうか。
会話がとまった。
彼の視線が私から離れ宙を泳いでいる。
人の目と脳は密接に連携しており、考え事をするとそれが目に出ると何かの本で読んだことを思い出した。
彼も頭の中で何を話すべきかいろいろ考えているのだろうか。
私は答えを急かさずに彼が話し出すのを待った。
「やっぱりわかる?」
哀愁を感じさせる笑顔でポツリと彼は呟いた。
思えば彼もISという兵器に人生をかき回された被害者の一人だ。
それでも明るく誠実に月並みな幸せを享受しようと生きてきたのに、IS学園なんて壺毒のなかに放り込まれるのはさぞかし最低な気分であろう。
「わかりますよ」
それについては同情するし、優しくもなろう。
そう、私が行おうとしている打算的な行為もそのすべてが演技ではない。
そもそも彼に対して直接的な不利益を生むものではないのであるし。
理論武装終了。
「今なお国際IS委員会はあなたの所属をめぐって紛糾していますし、水面下ではありとあらゆる国家、組織があなたを手に入れようと策謀を張り巡らせています」
「モテモテで困るねどうも」
「IS学園は世界中から生徒が集まってきます、そういった意味でも身の回りには気をつけてくださいね?」
言外にもう安住の日々はないぞと宣告したようなものだ。
不安を言い当てた側が不安をあおるなんて、わかってやっているのだから本当に性質が悪い。
改めて言葉にして自覚してしまったからなのか彼の表情に少し翳りが見えた。
「大丈夫です」
不安そうに握っては開いてを繰り返していた彼の手に、掌を重ねた。
こんなことをされるとは露程にも思っていなかったのであろう、困惑した視線がこちらを向く。
私は気合を入れて精一杯の笑顔を作って
「私は織斑君の味方ですから」
嘘をついた。
IS学園に着くと適当な理由をつけて彼を先に行かせた。
ドアを閉めてしまえば要人警護用であるこの車は外から中の様子を覗くことはできないし、中から音が外に漏れ出すこともない。
私は感情に任せて助手席のシートを殴りつけた。
「私はこんなのことをするためにISに乗ってるんじゃない」
嗚咽と共に搾り出された言葉は謝罪ではなかった。
今彼に謝ってしまえば私は崩れてしまう、そんな予感があった。
だから私は罪悪感を怒りで縛りつけて心の底に沈めるほかなかったのだ。
動物園のパンダの気持ちを問われたら、私には想像できないがその答えを持ち合わせている知り合いなら紹介できると答えるだろう。
乙女の園に放り込まれ、現在私の目の前で全方位から好奇の視線にさらされている彼のことだ。
前もって心の準備をしてきてもさすがに堪えるのだろうか、冷や汗を流しながら青い顔をしている……おっと目があった。
私にはこの状況をどうすることもできないのでとりあえず手を振っておこう。
屍は拾ってやらないこともないぞ、がんばって爆死しろ少年。
私の気持ちが伝わったかどうか定かではないが、彼は意を決したように自己紹介を始めた。
「織斑一夏です、よろしくお願いします……以上です!」
思いっきり肩透かしを受け、どこぞのコントを思わせる見事なリアクションでずっこけるクラスメイトたちとその中心できょとんとしている天然ボケ一名。
そしてボケには突込みが必要とばかりに目視できない速度で出席簿が一夏の頭頂部に突き刺さった。
「まともに挨拶もできんのかお前は」
世界最強の生物、生身でISを圧倒する人類、ブリュンヒルデこと織斑千冬の登場である。
それと同時にクラス中から黄色い歓声が上がる。
私にはわからないが、彼女はIS乗りを目指す目指さないに関わらず今時女子の憧れの存在らしい。
確かに美形であるし、凛々しい立ち振る舞いもあいまってまるで宝塚の男役のような秀麗さは女性の心を掴んではなさないのだろう。
重ねて言うが私には本当にわからないが。
もしくはIS登場以前から女性の中では男性に負けない強い女性への憧れというものがあったらしい。
強さで言えば、彼女はすべてを等しく蹂躙し一騎当千を体現する力の具現者とでも言えばいい存在だ。
強い女性への憧れの対象にはうってつけといえる。
いわば世界最強を目指す女子の群れ、言葉にするとすごく嫌だがこの学園においては何一つとして間違ってはいない。
くだらないことを考えてるうちに、姉弟漫才、先任軍曹式挨拶が終わり再び自己紹介が始まっていたようだ。
それまではア行の生徒達によって構築されたテンプレートに倣った自己紹介が数珠繋ぎされていた筈なのだが、今現在は金髪さんのお家自慢が垂れ流されている。
自己主張に対して恥じらいがないのか、よほど自分に自信があるのか、それともこれが噂の英国冗句なのか、まぁどれにせよよく口が回る。
どうリアクションをとっていいかわからないそれは、彼女の脳天に出席簿が降るまで続いた。
強制的に金髪が席に着いたのでサ行がおわり、タ行の私の順番まであと数人もないだろう。
いろいろと後ろめたいものがある私の立ち位置を決める大事な一戦だ、念入りに考えておいた自己紹介を暗唱する。
「次は辻谷文香さん、お願いします」
副担任の山田先生に呼ばれ私は立ち上がった。
一夏の時程ではないが専用機持ちであるからか私にも視線が集中する。
さて茶番をはじめるとしよう。
「はじめまして、辻谷文香です。サナリィという会社でテストパイロットをやっています」
前提として専用機持ちである以上、国家か企業の所属ということになるが自衛隊所属だというのはあまり公になってほしくないと思っていた。
端的にめんどくさい案件が増えそうだからだ。
それにサナリィは公社なので嘘は言っていない。
周りのクラスメイト達は聞いたこともない会社だとひそひそ話している。
一般に配備されるような装備の開発などはサナリィではF計画以前は行われていなかったため、一般の認知度はかなり低い。
知っているとすればそれは産業スパイかミリタリーオタクぐらいのものであろう。
とにかくクラスメイトにはマイナーな会社のテストパイロットくらいに誤解されていたほうがよい。
その後、好きな物や趣味を適当に話して席に着いた。
うまくいったと胸をなでおろすと意地悪な笑顔を浮かべた織斑先生と目が合った。
とても嫌な予感がする。
「サナリィというのは海軍戦略研究所の略称だ。辻谷は自衛隊からの出向扱いで階級は准尉だったな」
爆死したのは私だった。
「待ってください!織斑先生!」
一限目が終わり教室を出た織斑先生を急いで呼び止めた。
いぶかしげな表情をして振り向いたが呼び止めたのが私だとわかるとまたあの意地悪な笑みを浮かべた。
「どうした、辻谷?授業終わりに質問はないかと聞いたはずだが?」
何を問いたいかすべてわかっていてのその笑みだろうに白々しいことを言う。
怒りで血管が浮きそうになるのを抑えつけながら、とりあえず礼儀正しい生徒を演じることにした。
「この前の代表候補合宿では大変お世話になりました。また先生にご指導していただけるとは光栄です」
正確には私は国家代表候補ではないが、国家に属するパイロットとして合宿に招集された。
そのとき、私に地獄を見せてくれたのが目の前の女だ。
「ふん、心にもないことを……それで?まさかそんなことを言うために私を呼び止めたわけではないのだろう?」
「なぜ私が自衛官であることをわざわざ皆の前で話したのですか。」
「だめだったか?」
「私は一学生としてIS学園に来ています。無用な誤解は避けたいんですよ」
それを聞くと彼女は上体をかがめ私にしか聞こえないような声で呟いた。
「武力とは持っていること誇示することではじめてその意味を成す。抑止力くらい知っているだろう?」
ぎりりと奥歯をかみしめる。
もはや怒りの表情も隠せてはいないだろう。
この女は私がここに何のために来たかを全て知った上で弟の弾除けにするつもりなのだ。
「まぁお前も一学生に変わりはない。余計なことはせずに三年間勉学に励めよ」
そういうと話は終わりだとばかりに踵を返して去っていった。
余計なことね……私だって好きでやってるわけじゃない。
開きかけた傷を無理やり押し込めて私は教室に戻った。
「参考書は古い電話帳と間違えて捨てました」
おかしい、さっきまで織斑先生と大変シリアスなシーンを演じていたはずなのだが、世界の中心、我らが主人公織斑一夏はマイペースにすべてを台無しにしていく。
こいつは主人公は主人公でも、ラブコメかなにかの主人公なのではないだろうか。
朝の車中で自分の状況が如何にハードモードかを説明し、本人もそれを自覚している様子であったがどうもそれは勘違いだったようだ。
自分がどんな状況か正しく理解していれば、今後の生命線になるであろうISに対して知識を深めようとするのは当然であるはずだ。
それを参考書は捨て、なんの予習もせずに始業式を迎え、それに対して平然としているなんてちょっと常人の思考回路とは考えづらい。
織斑先生が人が集団に属するの何だの難しい話をしているが、おそらくそんな問題ではない。
この男の問題は自分の状況への無知、無自覚さもあるが、その本質である能天気さと鈍感さだと私は思う。
そしてそれの被害は今は内側に向いているが、そのうち周りを巻き込んで大爆発する予感がある。
きっとその時、至近距離で被害をこおむるのはおそらく私だ。
そうなる前にもう一度、ちゃんとお話すべきかもしれない、いやすべきである。
この授業が終わったら一夏とちゃんとお話をしよう、もう女子間での牽制合戦なぞ知ったことか。
「あなた、私を馬鹿にしていますの!?」
うわー、なんで金髪さん一夏さんの席で怒髪天をついちゃってるのー?
ドリルヘアーだからなの?天を突くドリルだからなの?
一夏さんも何で怪訝な顔してるの?なにか怒らせるようなことを言ったのでしょ?
人間ここまで怒ることも少ないよ?もしかして馬鹿なの?
「あ、辻谷さん。代表候補生ってなに?」
馬鹿でした。まごうことなき馬鹿でした。
金髪さんが日本にはテレビもないのかと呆れているが、こいつが例外なだけだ一緒にすんな。
私もほとほと呆れ果てているが、一夏の前では親切な同級生を演じなければならない。
ツライ……。
「代表候補生っていうのはね、国家代表IS操縦者候補生の略称だよ」
「そう、IS操縦者の中でも上位数パーセントの選ばれた存在、いわゆるエリートなのですわ!」
そして金髪さんは如何に自分が優れているか、そんな自分と勉学を共にできることがどれだけ光栄で幸運なことかを語り始めた。
自己紹介のときも思ったが価値観の差を感じるというか、そんなに自画自賛して恥ずかしくないのかね。
「えと……それでその代表候補生さんが俺に何の用で?」
「セシリア・オルコットですわ!……コホン、先ほどの授業の様子だとあなたまるでISに対しての知識がないんでしょう?不出来な同級生を教え導くのもエリートとしての勤めですわ」
「はぁ……つまり?」
「あなたが泣いて頼むのであれば勉強を教えて差し上げてもかまわないと言ってるのです」
こいつもしかして相手に対して優位なことを確立しないと友達になれないとかそういう人間性の持ち主なのだろうか。
傍からみてて一夏が背負い投げかまさないのが不思議なくらいだ、私なら迷わず投げる。
あぁ、一緒のクラスになった専用機持ちだから仲良くしてサンドバッグになってもらおうと思ってたのに先が思いやられる。
「それなら辻谷さんに教えてもらうからいいよ」
「っ!そういえば、あなたも確か企業所属の専用機持ちでしたわね」
いきなりこっちに振るなよ、金髪さんが超睨んでるじゃん。
私はまだ何もしてないのに、金髪さんとの仲に亀裂が入ったらどうするんだよ。
とりあえず事なかれ事なかれ、あいまいに微笑んでお茶を濁そう。
するとその表情はみるみる優越感を感じさせる笑みに変わった、また長い自慢話が続くのだろうか……。
「しかし私は入試主席、唯一教官を倒したエリート中のエリートですわ。凡百のIS乗りと一緒にしていただきたくはないですわね」
はいはい、エリートエリー……うん?入試で教官を倒しただぁ!?
「入試ってあのISでの実技試験のことか?それなら俺も倒したんだけど」
お前もかよ!見かけによらずトンでもねぇなこいつら……。
サンドバッグなんて舐めたこと考えてたら実戦でこてんぱんにのされてるとこだった。
「お二人ともすごいんですね、織斑先生を倒しちゃうなんて。私なんか時間切れでドローに持っていくのが精一杯でしたよ」
私の素直な感想だ。
ちょっと驚いたがこんなつわものがクラスに二人もいるなんて本当にわくわくする、この一年退屈せずにすみそうだ。
「「……」」
何やら二人の様子がおかしい。
少し引かれてるというか、恐ろしいものを見る目で見られている気がする。
恐る恐るといった体で金髪さんが私に言葉を返す。
「辻谷さんは試験で織斑先生と戦ったのですか?」
「そうだよ、二人もそうでしょ?手加減してくれていたし、乗ってたのも打鉄だったし、近接戦用ブレードしか使ってこないのに殺されるかと思ったよね」
先ほどまで険悪だった二人が顔を見合わせている。
なにやら雲行きがおかしい、まるで入試であの女に殺されかけたのが私だけと言っているような……。
「か……勝ったと思わないことですわ、辻谷文香!織斑一夏!」
金髪さんが捨て台詞を残して去っていく、と同時に三限目始業の鐘が鳴る。
いろいろ腑に落ちないがが嵐は去った。
私は授業以上の倦怠感を引き連れて自分の席へと戻った。
「さて、授業の前にクラス代表を決めたいと思う。自薦他薦は問わない、誰かいないか」
三限目のはじめ、うっかりしていたと織斑先生が切り出した。
あの人外でもうっかりとかするんだなと考えていたらとんでもない眼力で睨まれた。
それはともかく、クラス代表とは普通の学校のクラス委員長であると共にIS戦でのクラス代表者でもある。
そのため、IS操縦に秀でたものが選出されると聞く。
ただそれは上級生の話で、入学の時点での実力差などはあってないようなものだ。
よって一年生のクラス代表なんてのは雑用を押し付けられた不幸な奴か目立ちたがりの馬鹿がやるのだろう。
ただしこのクラスは例外だ。
イギリス代表候補生にして専用機持ちのセシリア・オルコット。
男性ながらISを動かし入試で教官を倒した織斑一夏。
そして自分で言うのもなんだが、私も専用機持ちである。
実力で言えばおそらく私たちの中の誰かに絞られるはずだ。
そして、民主主義的に多数決をとれば当確であろう人物が一人いいる。
「私は織斑君がいいと思います!」
理由はいろいろある。
一夏のアイドル性、織斑千冬の弟であるという期待、そしてまだ派閥が出来上がってないクラスの和を乱すことなく、後腐れもなさそうな人物であること。
「私もそれに賛成ー!」
ようは安寧にかつ娯楽に飢えない一年を過ごすために生贄の羊として祭り上げられようとしているのだ。
まぁ本人たちにそこまでの悪意はないわけだが、羊としてはたまったもんではない。
「ちょっと待ってくれ!他に適任者がいるだろ!」
あわてて異議を申し立てているが、君の生き残る道はそうじゃないよ?
あらかじめ種はまいておいた、あともう少し待とう。
「……そういえば、辻谷さんは自衛隊のテストパイロットだったよな!俺は辻谷さんを推薦します!」
そう、生き残るには他薦しかない。
多数決であれば、そう言ったのはクラス代表の選出方法がそうでないからだ。
ではどうするのか、模擬戦をするのである。
クラス代表を決める模擬戦は公式な行事として情報公開されていないものの、一年生最初のイベントとしてわりと有名である。
一夏がそのことを知っていれば、この展開になった時必ず自分よりも実力が上でかつクラスの中で多少面識のある人物を指名してくると踏んでいた。
まぁ実際のところ、授業中のあの様子では知っていたかどうか怪しいところであるが思惑通りに進んだので問題ない。
私は表面上しかたないなぁとあきらめた表情を浮かべつつ、心中で一夏を賞賛した。
クラス代表の雑務は煩わしいが、代表になればその分模擬戦を行う機会も増える。
そしてなにより他の専用機持ちとの接点がほしい。
なので他薦がなければ自薦するつもりだったが、代表は一夏というのがクラスのほぼ総意であったためできれば自薦は避けたかったのだ。
そしてその総意に含まれない人物が騒ぎ立てる。
「イギリス代表候補であるこのセシリア・オルコットを差し置いて素人がクラス代表だなんてありえませんわ!」
どんな理由をつけて模擬戦申し込もうか考えてたところにこれだ、もう笑いが止まらない。
これも一夏が事前に喧嘩を売ってくれていた成果か。
「あなたもですわ!聞けば日本はまだ第三世代型の試作機すら完成してない御様子ですが、そんなことで他のクラス代表と渡り合えると思っていまして?」
そういえば対外的にはそうなっているんだっけ。
わざわざ訂正する必要もないだろう、私は今日一日で貼りついてしまったあいまいな笑顔で返す。
それが彼女の怒りの火に油を注いだのか、罵詈雑言はヒートアップしていく。
「そもそも、このような後進的な国で暮らすこと自体、私としては我慢ならないことだと言うのに、その上このような侮辱を受けるだなんて!」
もしかして金髪さんは本当に日本がテレビすらない国だと思っているのか。
そもそも、ISに使われているコアを除く中枢パーツの何パーセントが日本のシェアか知ってて言っているのだろうか。
実は機体としての開発競争には遅れているものの、細かいパーツ自体は日本で量産しているものが多い。
それはISが日本で開発されたこともあるが、工作精度のよい部品を安定供給できる元からの工業技術の高さもあったらしい。
まぁそうでなければとてもでないがこんな学園を維持はできまい。
「イギリスだってたいしたお国自慢ないだろ、てかうなぎのゼリーって何だよ!」
「あなた、私の祖国とうなぎゼリーを侮辱しましたわね!許せませんわ!」
「お前が先に人の国、侮辱してきたんだろう!あと許せないのはうなぎの調理法だ、泥臭いんだよ!」
「濃いタレで素材の味を殺してしまう下品な料理よりはよっぽどいいですわ!」
いつの間にか一夏がけんか腰になって金髪さんと言い合っていた……論点がとてもおかしいが。
このままいくとうなぎ料理対決でクラス代表が決まりそうな勢いだ。
一夏、おまえラブコメの主人公じゃなくて料理マンガの主人公だったんだな、なんでも料理対決で解決しちゃう感じの。
しかしそうなると私では勝ち目がないので方向修正させてもらおう、金髪さんもなんか違う意味で危険な予感がするし。
「あの、二人とも?クラス代表を誰がやるかって言う話なんだしISで戦って決めたらいいんじゃないかな?」
「よろしいですわ、極東の雄猿に格の違いと言うものを見せ付けて差し上げましょう」
「はっ!売られた喧嘩は買ってやる。ハンデはどれくらい必要かな、お嬢さん?」
おおぅ……見事に私、眼中の外だこれ。
泣かないぞ、こんなことで泣かないんだからな。
「話はまとまったようだな、試合は一週間後に行う。各自準備をしておくように」
絶対に、容赦なく、無慈悲に叩きのめしてやるからな、覚悟しておけよ……
グスン
続く
本SSには本編中で描かれていない部分に対して独自の解釈を行っています。(挨拶)
ここまで読んでいただきありがとうございます。
F91クロスを謳いながら、F91要素がタイトルの鉄仮面のみという広告詐欺。
本当に申し訳ありません、次回は戦闘パートにいけると思いますので多少は増えるかなと思います。
さて本文では主人公がさんざん一夏のことを馬鹿にしていますが、主人公も相当残念な部類です。
潔癖で、豆腐メンタルで、でも自分の欲望に逆らえなくて悪いとわかっていながら手を汚す。
すごくいい意味で虐めたくなるのですが、そうするといつまでも鬱々としたパートが続くので一夏さんに道化になってもらいました。
次回、一夏さん@がんばる。