ぼっちの門 〜圓明流異聞〜   作:エコー

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年明け一発目。
今回から新展開、夏休みの千葉村合宿編に突入です。




奉仕部夏合宿の章
十二、千葉へ行こう!


 

 夏休み最初の厄日以来、ここ数日の俺は非常に平和な世界を堪能していた。

 早々に夏休みの課題をやっつけた俺は、お遣いという名の神武館での殺人組手の代償、つまりお駄賃で買ったラノベを読み漁り、合間にプリティでキュアッキュアなアニメを嗜む日々を送っている。

 んー、何たる幸せ。

 

 冷房の効いたリビング。俺の寝っ転がるソファーの側には千葉のソウルドリンクであらせられるマッカンと、その暴君の如き甘味を引き立てる塩味のポップコーン。

 本場、ネイティプの発音では「パップカオオォン」とか云うらしいが、ここは日本だ。誰が何と云ってもポップコーンだ。

 ちなみに正しくは「ネイティヴ」らしいが、それもどっちでもいい。

 ソファーに身を横たえたままぺらりとページをめくり、ひと摑みのポップコーンをむきゅむきゅと頬張り、マッカンを流し込み、再び文面に目を戻す。

 そんな至福のひと時──だったのだが。

 物語のヒロインの意味のないパンチラのシーンを読み終えた辺りで、思考が枝道に分け入った。

 

「わたしの代で、比企圓明流は終わらせる」

 

 先日の神武館千葉支部で聞いた、お袋の言葉。それが脳の真ん中にこびりついて剥がれない。

 親が決めたことだ。子供が口を挟むことではない。とはその夜の親父の言だ。

 きっと親父も長年に亘ってお袋の葛藤を見続けてきたのだろう。俺や小町には気付かせないままで。

 大人ってすげぇな。働きながら家族に気を遣って、それだけ尽くしても家庭内ヒエラルキーが下位グループとは、同情を通り越して同属嫌悪してしまいそうになる。

 とりあえず身体だけは気をつけて欲しい。せめて小町が大学を卒業するまでは。

 いかん。思考が逸れた。

 

 お袋はといえば、俺が記憶を失くしてから一度は小町に比企圓明流を教える事を考えたらしい。が、それは親父が猛反対したという。理由は、小町の手がごつくなったら嫌だからだと。

 その小町の手も小遣いをねだられる時にしか見られなくなった、と親父は物凄く寂しそうに、それこそ泣きそうな顔で零してたっけ。

 親父よ、哀れだなぁおい。

 

 なぞるのみの文面から目を離して栞を挟んで本を閉じ、一息つこうと手に取った缶は、軽い。

 

「──何だ、もう空っぽかよ」

 

 ぼやきながら、振っても水音がしなくなったマッカンを置く。

 さて、お代わりお代わり、と。

 

 ぴるるるる、ぴるるるる。

 

 目覚まし機能付き多機能型時計、通称スマホが鳴った。伏せてあった画面を捲り見ると、本日何回目だよという着信。

 ──平塚先生だ。

 

 朝一番の着信からこっち、一時間に八回くらいのペースでスマホが音を立てて踊っていた。

 メールも何件か来ているが、用心深いく思慮深い俺は不用意に開いて既読をつけるなどというミスは犯さない。

 つまり、読まない。

 だって、折角の夏休みなのだもの。

 元々は学校側が決めた「休む期間」なのだから、その休みを学校関係者に邪魔されてしまうのは本末転倒である。

 もちろん屁理屈である。

 

「電源切っとくか」

 

 ようやく鳴り止んだスマホを手にとった処に、とたとたと階段を駆け下りる音が響いてくる。

 

「おにーいーちゃんっ」

 

 きゃろんっ、と変な効果音が鳴りそうな勢いで視界に飛び込んできたのは、我が愛妹であり天使でもある小町だ。

 

「おう、もう昼メシか」

「小町ね、宿題ぜんぶ終わったんだ」

「おう、えらいえらい」

「小町はすっごく頑張って勉強しました」

  「まあ、そうだな」

「頑張った小町には、自分へのご褒美があっていいと思うのです」

「……お前は丸の内のOLかよ」

 

 五キロ痩せる目標を達成出来たから、自分へのご褒美にスイーツ。

 今月もお仕事頑張ったから、自分へのご褒美に一泊で温泉。

 今年は色々あったから、自分へのご褒美にハワイ旅行。

 自分磨きとそんな自分へのご褒美の繰り返しで満足出来ることは素晴らしい。見事な自己完結だ。本当、ぼっちの鏡である。

 こういうOLは独身を貫いて「お局様」へと進化を遂げるのだろう。

 まるで魔法使いへと進化するDTのようだな。

 と、まだ小町の話の途中だったな。

 

「だからお兄ちゃんは、小町とお出掛けしなければならないのです」

 

 んーと、いまいち理論がわからん。何故そこで俺を引っ張り出す。

 自分の宿題を終わらせた自分へのご褒美なら、自分に貰うべきだろ。

 だがそこは愛に溢れる千葉の兄妹。妹の為なら動く覚悟は無きにしも非ず、である。

 でもね、でもでもね。もう一押し、言葉が欲しいのだよ、千葉の兄としては。

 

「ほう、で?」

「だから……千葉いこっ」

 

 原作をお読みの皆々様ならお察しと思うが、千葉市民が「千葉へ行く」と云えば、それは千葉駅周辺の街へ行くことを指すのである。

 ──だから原作ってなに。

 

「ねっ、お・に・ぃ・ちゃ・んっ」

 

 おぅふ。かわいいじゃないですか。

 いいボディブロー頂いちゃいました。

 よし、行くか。

 さてさてスマホと財布を……あ。

 

「……四百円しか無いぞ?」

 

 済まぬ妹よ。無い袖は振れぬのだ。

 ラノベを15冊も買い込んでしまった愚かな兄を許してたもれや。

 

「そんなのいいって、小町はお兄ちゃんとお出掛け出来れば良いのです。あ、今の──」

 

 はいはい。ポイント高い高い。

 

「じゃあ、動きやすい格好でねー。小町は荷造りしてくるから」

「おう、任せろ……って、荷造り?」

 

 どういうこと?

 ──夜逃げかな?

 

 

 




あけましておめでとうございます……と云うには少々遅い、松ノ内を過ぎた新年一発目の投稿になってしまいました。

どうぞ、今年も宜しくお願い申し上げます。
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