ぼっちの門 〜圓明流異聞〜   作:エコー

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撮って出し、もとい書いて出しです。
やっとルミルミの件です。


二十一、鶴見留美の望むもの

 

 

 昼食が終わり、小学生たちは自由行動となった。残酷なことに班行動で、である。

 本当、社会はぼっちに厳しく作られているな。

 案の定鶴見留美は班という群れに混ざることなく、独り抱えたデジカメで草花の写真などを撮っている。

 別に草花に興味がある訳でも無いのだろう。ただ「草花の写真を撮っている子」を演じて時間が過ぎるのを待っているように見えた。

 

「彼女、やはり独り……なのね」

 

 食後のマッカンをちびりと傾けた俺に雪ノ下は零す。

 

「そだね、なんか……悲しいね」

 

 雪ノ下の横、由比ヶ浜の表情も暗い。

 だが、悲しいというのはどうだろうか。

 由比ヶ浜は優しい。故に、彼女の言う悲しさは留美を取り巻く他者を含めた全てを指しているのだろう。

 

「ま、他に選択肢が無いんだから仕方ねぇよ」

 

 そう呟いてみたものの、釈然としない。

 

「あの子、ずっとあんな感じ?」

 

 恐る恐るという表情で話し掛けてきたのは川なんとか沙希、略して川崎だ。

 

「あ、サキサキ。そうなんだよ」

 

 応えた由比ヶ浜にも聞いた川崎にも笑顔は無い。

 

「あの子、戦ってるんだね」

 

 龍造寺がぽつりと言った。

 

「分からん。自分の意志で戦っているのか、戦わざるを得ないのか」

 

 午前中のスタンプラリーの時に見た鶴見留美の表情。あれは、戦う顔では無い。諦めの顔だ。

 

「戦っているのだとしたら、敵は果たしてあの子たちなのかしら」

 

 言外に否定を読み取らせる雪ノ下の言葉に息を詰まらせる。

 と、鶴見留美と目が合った。

 留美は立ち上がり、近づいてくる。が、その足取りはゆっくりで、たまたま進行方向に俺たちがいるだけ、とでも言いたげな動きだ。

 

「やっはろ、留美ちゃん」

「……八幡、何してるの」

 

 挨拶を軽くスルーされた由比ヶ浜が所在無く笑う。

 

「……やること無いんだよ」

「ふーん、ヒマ人。あと女ったらし」

「なんでだよ」

「八幡の周り、女子ばっかり」

 

 ぐっ、確かに。状況だけ見ればそうなるのか。

 

「いや、違うぞ。俺は常に独りだ」

「ふーん、どっちでもいいけど」

 

 おぅふ。中々の冷めっぷりだぜ。

 

「ルミルミ」

「キモい……留美でいい」

「お、おう。じゃあ、留美」

「なに」

 

 留美の眼前にしゃがみ込み、目線を合わせる。おっと、しゃがみ過ぎて俺の方が下になっちまった。

 

「独りは、嫌、か?」

「──別に」

 

 逡巡の後、端的な言葉で返す留美の顔に浮かぶのは、諦め。目は光を失いかけて、口角も上がることは無い。

 その諦めの顔に高さを合わせて話し掛けるのは、千年の孤独を味わってきた一族の娘だった。

 

「留美ちゃん、だったよね」

「誰?」

「あたしは、龍造寺つむぎ」

「で、何」

「留美ちゃんは、どうなりたい?」

「別に」

「そっか」

 

 千年の孤独も、独りの少女の諦観には勝てないらしい。

 かたや千年無敗、かたやたった十年そこらの少女の諦観。仕方ないよな。孤独のベクトルが違い過ぎる。

 

「……逃げたっていいんだぞ。恥かも知れないが、役に立つしな」

「それもどうかと思うけど……ははは」

 

 苦笑を浮かべる龍造寺の後ろ、部長さんは何やら言いたげですね。

 

「ま、そこの情けない平匡(ひらまさ)くんは置いておくとして──」

「平匡って誰!?」

 

 あー、由比ヶ浜は読んでないのか。つーか雪ノ下みたいな頭の固い人間がこの漫画を知っているのが意外か。

 由比ヶ浜の突っ込みを華麗にスルーした雪ノ下は、更に続ける。

 

「鶴見さん。私たちは、あなたが何かを望むのなら、その手助けをする用意があるわ」

「わたしは……もう独りでいい。でも」

 

 胸元に提げた高そうなデジカメを握る留美の手に力が入る。

 

「戦う強さが……欲しい」

 

 留美が求める強さとは、云うまでも無く腕力ではない。どちらかというと精神力に該当するものだ。

 だがそれは、本人にしか鍛えることが出来ない、人間としての最後の拠り所だ。

 勿論それを与えてやれはしない。もしも与えてやれたとしても、他人から与えられた強さなど脆いものだ。

 

「方針は決まった、な」

 

 鶴見留美の望み。

 それは、戦う強さを得ること。だがそれは本人の意思、努力でしか養えない。他人が何とか出来るものではない。

 ならば──選択肢はひとつ。

 この合宿中に、少しでも戦いやすい状況を作ってやることだ。

 

「じゃあさ、あんたも空手、やってみる?」

 

 それは何か違うぞ、サキサキ。

 

  * * *

 

 話し合いの結果、鶴見留美を取り巻く環境を壊すという俺の案が通ってしまった。葉山は最後まで「みんな仲良く」を提唱していたが、雪ノ下に冷たく一喝されて渋々引き下がった。

 さて、目的は決まった。次はその方法だ。

 俺は二日目の夜に行われる肝試しに着目した。そこで彼女を疎外し続ける同じ班の子たちの人間性を暴き、その関係性を破壊する。

 

「なら、比企谷くんはゾンビ役が適任ね」

「そういうお前は雪女だな。この猛暑じゃ辛かろうが頑張りたまえ」

 

 だから何故暴言を暴言で言い返されて可愛く笑っちゃうのかね部長の雪ノ下くん。普通は怒るとこだぞ。

 

「ね、ね、ヒッキー。あたしはっ?」

 

 由比ヶ浜は、そうだなぁ。

 ふとその無防備な胸元に目がいく。また万乳引力の法則ですか乳トン先生。

 

「由比ヶ浜は……サポートだな。バックアップだ」

 

 決してサポーターでバストアップではない。もう万乳引力には負けないもんっ。

 とまあ──冗談は抜きにして、相手が小学生とはいえ、愛嬌のある由比ヶ浜では脅かし役は難しいだろう。

 それに、お化け役なら適任が一人いるし。眉無しの筋肉オバケがね。

 

「で、肝心の実行班だが、俺──」

「──それは俺にやらせてくれないか」

 

 俺の議事進行を遮ったのは葉山隼人だった。それは凡そ葉山隼人らしくない行動だと思えた。

 

「実行班の役目、解って言ってんのか」

「ああ……悪役、だろ」

 

 オーケー、理解していることは理解した。ならば残る疑問は、何故小学生達に人間的な恐怖を与えるなどという悪役に立候補したのか、だ。

 

「えー、どーしてそんなことするし。隼人には似合わないっしょ」

 

 三浦優美子に先を越される。その三浦に対して葉山は、何時もと変わらない爽やかな笑顔を向けている。

 ──こいつ、まさか。

 

「すまないな優美子。これだけは譲れないんだ。悪いが戸部も手伝ってくれ」

「い、いいけど……なんつーか、気が重い役だわ、それ」

「……はぁ。ま、隼人の初めてのワガママだし、やろっか」

 

 三浦が承諾したことで意見は纏まり、その後は作戦の細部の話し合いとなった。

 

  * * *

 

 夕食の時刻までは人手は必要ないらしく、自由時間となった。

 俺は独り森の中へと分け入る。

 

「ここら辺、だよな」

 

 探していた場所は、すぐに見つかる。

 昨夜、あの男──陸奥九十九が無空波を見せた場所だ。

 あの時は暗くてよく分からなかったが、今見るとその技の破壊力が視覚情報として脳に刻まれる。

 

 木の幹の表面を覆う皮が無くなっているのだ。

 

 どういう原理かは知らないが、陸奥九十九が出したのは確かに振動による衝撃波だ。

 よく漫画やアニメで見る様な気功波の類いではない。

 視線を上方、枝葉に向けると、下の方の枝には葉っぱは無い。あの衝撃波が波のように伝播して、枝の葉を散らしたのだ。あの時砕けて舞ってきた葉の欠片がその残余だろう。

 例えば、この波のように伝わる衝撃を人体に与えたらどうなるか。

 語るまでもなく内臓が損傷する。

 人体の成分のうち半分以上は水分である。即ち、その衝撃波は体内の水を波のように伝播し、身体の内部から破壊する。

 恐ろしい技だ。

 いや、恐ろしいのはそんな技を可能にしてしまう圓明流、か。

 

「正真正銘の化け物だな……」

 

 と、何処からか声が聞こえてくる。この声は……戸塚か!?

 草木を分け、声の方向へ足を進めると、小川の河原に当たった。

 

「──きゃっ、冷たいですって結衣さんっ」

「あはは、ほれっ、ほれっ」

 

 ……目の毒だな。

 そこにいたのは戸塚だけでは無かった。由比ヶ浜、龍造寺、それに小町。

 それぞれ川辺で遊んでいた。水着で。

 その下流側では、葉山グループも水遊びに興じている。

 こいつら、くそ暑いのに元気だなぁ。

 

「ね、龍造寺さん、さっきのもっかいやって?」

「えー、魚さんがかわいそうだよ」

 

 戸部が何やら手を合わせて龍造寺にお願いをしている。

 

「もー、すぐに逃がすからね?」

 

 龍造寺は川の中に入っていき、ちょうど膝まで水に浸かった辺りで止まる。

 そのままじっとしていると思いきや、突然龍造寺の蹴りと共に水面が跳ね上がった。

 

「はっ」

 

 キラキラした飛沫と一緒に宙に舞ったのは、魚だ。舞い上がった魚は重力に引かれて水面に落下、川の中へと戻っていった。

 

「うおーっ、すげぇ、マジぱねぇ!」

 

 戸部が戸部語で感嘆の声を上げるが、戸部の視線の先は魚ではない。蹴り上げた龍造寺の足、その付け根の水着にぴたりと照準を定めていた。

 このスケベさんめ。気持ちは分かるけどな。

 

「ツムツムって、野生児なの?」

「ち、違うよー、昔お父さんがやってたのを見て真似しただけだよー」

 

 お父さん。陸奥、九十九か。

 普通に考えたら川の中に泳ぐ魚を蹴り上げることなんて不可能だ。

 蹴りが接近すればその衝撃は水を伝わり、魚は逃げる。それを蹴り上げるには、魚が逃げるよりも速く水中で足を動かさなければならない。

 やはり圓明流は化け物ばっかりだ。

 つーか、俺もその化け物……なのだろうか。

 

 

 

 




お読みくださいましてありがとうございます。

物語の進みが遅くてすみません……
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