そのお陰か、お気に入り登録者様が300人を突破。
ありがたや。
二人目は神武館千葉支部長、眉無し強面筋肉ダルマこと陣雷師範だ。
つーかこの未経験者一人に対して手下の黒帯同級生をぶつけた後にご本人さん登場って、なんかおかしくない?
休憩時間に龍造寺つむぎに聞いた眉無しオヤジのスペックは半端では無い。
若き日には神武館主催の全日本空手選手権で常に一位か二位。
その何年後かに開催された「
しかも、非公式ながら本物の化け物である陸奥九十九と仕合って善戦したこともあるという。
千葉支部長に収まってからは大人しくなったらしいけど、その直弟子の一人は全日本空手選手権で優勝の経験を持つという。
意外や意外、指導者としての資質も兼ね備えた御仁な訳だ。
色々と並べ立ててきたが、簡単に言うとだ。
──ここで俺は終わる。
「あたしが審判やるね。頑張って」
緊張を解そうとしてくれているのか、中央に立って笑顔を向ける龍造寺つむぎ。だが生憎なことに俺は頑張るつもりはない。
いかに被害を少なくして帰るかだけを考えている。
屠殺場、もとい稽古場の中央で相対すると、眉無しオヤジの凄さに圧倒される。
身長は俺より十センチ以上は高く、その筋肉の量は桁違いに多いことは道着の上からでも判る。腕回りが俺の太ももと同じくらい。肩幅なんか俺の倍はありそうだ。
だが、本当に凄いのは……眼前に立った時の威圧感だ。
──殺される。
本気でそう思ってしまう程の威圧。
これは組手なんかじゃない。捕食だ。
「八幡……覚悟はいいか」
「いいか悪いかで言うと、全然良くないですが」
何とか毒気を抜こうと吐いた言葉を鼻で笑った眉無し筋肉ダルマは、一礼をして構えを取った。
「お前の記憶……俺が戻してやるよ」
斯くして、組手の名を借りた俺の処刑が始まった。
* * *
組手が始まってから二分程が経過していた。
強え。強えなんてもんじゃない。まるで猛獣だ。
筋肉の塊みたいな身体の癖に動きは速いし、何より手数が多い。その手数の全てが食らったら致命の攻撃である。
龍造寺に聞いていた、ハリケーンソルジャーの異名は伊達じゃない。
で、何故俺がそんなことを冷静に言えているかというと──。
「……くっ、当たらねえっ」
──攻撃が見えるのだ。
確かに速いけど、見えてしまう。見えて、避けることが出来ている。
それというのもこの眉無し肉ダルマ、ベタ足で上半身しか使っていないのだ。
龍造寺に聞いたもう一つの異名は、ローキックの鬼。その片鱗さえ見せていない。
だからこそ、目と反射神経が良いだけの俺でも対処出来ている。
つまりは遊ばれている状態だ。
「ヒッキーすごい……」
「ええ。本当に。悪い夢かしら……」
「比企谷……カッコいい」
凄いもんか。
由比ヶ浜、雪ノ下、川崎が口々に感想を述べるが、実はもう限界だ。
これまで躱した手数は二十くらいだが、十を数えた辺りからヤバい。
眉無しオヤジが当たらないとボヤくのはクリーンヒットが無いという意味であり、実際には何度も拳は身体を掠めている。
その掠めただけでも痛い拳がもし直撃したら、即お陀仏だ。だから俺も必死で避ける。
避けて避けて、これくらいなら当たっても死なないという突きに当たって倒れるのが、今の俺に残された最善策だ。
だが、その程度の攻撃が未だに来ない。すべてが俺にとっては必殺の拳なのだ。
右頬を抉る様に掠めた拳を引き戻して、苛立つ眉無し支部長は何度目かの舌打ちを鳴らす。
「──反撃……しねぇのかよ」
「そんな余裕……ないって」
反撃する余裕が無いのに喋る余裕があるとは、これいかに。
ふと、ハリケーンが止んだ。
見ると、一つも呼吸を乱していない眉無しきんにくんが溜息を吐いた。
「焦ってぇ……本気でやるぞ」
間合いを詰められた。
勝負は、たった一発で終わった。
* * *
「痛ってぇ……」
勝負を決めたのはたった一発のローキックであった。
インパクトの瞬間左足に思いっきり力を入れたにも関わらず、その打ち下ろす様な蹴りの衝撃で俺は沈んだ。
その後も追撃の構えを見せてきたが、それは審判を務めていた龍造寺の声で制止された。
左足の腿にアイスパックを当てて、崩れ落ちる様に壁に寄り掛かって座る俺の視界の隅、何故か眉無しきんにくんが正座させられている。
その前に仁王立ちするのは、龍造寺つむぎだ。
「ったく。おじ様は加減ってものを知らないの?」
「だ、だってよ……あいつちょこまかと動きやがるから」
「だからって、ローキックの後に顔面を蹴りに行く必要は無いと思いますけどねぇ。あれ、死んじゃいますよ?」
うわ、俺って死ぬ寸前だったのか。
それを止めてくれたつむぎたんマジ天使。
女子高生の前で正座しながら言い訳をする四十オーバーの中年男性。
うむ、シュールだ。
その後、五分程続いたお説教の後である。足の痺れが取れてきて、さあお役御免、退散と考えていた俺に、龍造寺つむぎが笑顔を向けてくる。
「じゃあ、最後はあたしね」
すっげぇいい笑顔を残して、龍造寺はさっさと中央へと向かった。
──はぁ、まだ続くのかよ。