フェイトは不思議な青年と出会った。
親しげに近寄ってきたときはアルフのよく言う『ろりこん』の可能性を考えたが、
もう雰囲気が『ろりこん』っぽくは無かった。
だって私は彼を知っている。何も知らないけど、あったことも無いけれど、
きっと私は彼を知っていた。
何処までも冷たい、まるで氷の彫刻の様な造形は、
何故か解からないけど良く解からない温かな気持ちを感じていた。
その口がまた
「アリシア」と告げるまでは。
また、また『アリシア』だ。
私はアリシアではないのに。どうしてこの人もアリシアを私に求めるの?
そもそもアリシアって、私って、フェイトって?
アリシアと言う言葉を心に反芻する度に苦しくなる。
だから、だからこそ決着が必要なのだ。
「教えて下さい。私は―――――――――――――――――フェイト・テスタロッサは、何者なんですか?」
その質問にレイス・グランツァーリンという青年は結局の所良く解からないと困ったように笑って答えた。
だけど代わりに「フェイトの事を教えてくれたら解かる事があるかもしれない。」
そう言ったので、フェイトは話した。
色々と言ってはいけないようなこともあったはずだが、彼になら全部話せるような気がしていたからだ。
大好きだけど自分に厳しい母さんの事。
アルフの事。
ジュエルシードの事。
色々話した。
彼はそれを聞いている途中ずっと同じ顔をしていた。
不思議なくらい綺麗な微笑で話を聞いていた。
途中で「フェイト自身の事は?」
そう聞かれたけども、思ったよりも言える事が無かった。
だからジュエルシードの話に戻す事にした。
彼になら手伝って貰うのも良い。何故かそんな気がしたから協力を依頼した。
そして彼の答えは、
「ずっと昔から僕はテスタロッサの味方だよ。」
その言葉に何処か聞き覚えがあり、でも言葉の何処かに違和感があった。
でも、その言葉は不思議と心に染み渡った。
暫く話した後、彼はもう遅いから早く帰る様に私に促して何処かへ消えた。
そしてその後に続けたジュエルシード探しが不調だったので、
また母さんを悲しませる。
そう思って帰ると、
そこには母さんに抱きしめられて動かない、先程の彼がいた。
心に染みた感情は良く解からない。
だけど多分それは嫉妬、なんだと思う。
「あら、帰っていたの?」
母さんはいつももの様なそっけない言葉で、
だけれどもいつもと違って少し動揺したように恐る恐る私を見た。
「はい。」
その様子が何故か良く解からない不安でいっぱいになった。
でも、何が不安なのか良く解からない。
それもまた、不安になった。
「この子はね、私の娘がとっても大好きだったの。
だから無理矢理眠ってもらったのよ。
…本当に、愛こそが人を壊す特効薬ね。」
母さんは彼の髪を撫ぜながら私が最近は思い出の中に見られない慈しむ様な顔をした。
正直羨ましい。
…ちょっと待って?
彼は母さんの娘が好き?
母さんの娘は私。
という事は彼は…
「ロリコン」
「…アルフ……。」
顔に上った血がアルフの冗談で少し降りた。
「…先に言っておくと、今のあなたが彼を好きにならない方が良いわよ。
きっと傷つくことになるわ。」
言っている意味が良く解からないけど、
それは私を心配してくれているんだと思う。
そう思うと少し、ううん、とっても嬉しかった。
――だから、その深い意味は考える事は無かった。
∮∮
「所でフェイト、あなたアリシアとして生きてみるつもりはないかしら?」そう口に出してみようとして、
やっぱりできなかった。
やはりあの子とフェイトは違う。
理屈は解からないけれど、完全に行動や性質が一致してもそれでも違う。
それは母親としての本能なのかもしれない。いや、きっとそうだ。
自分以上に壊れたレイス君を見て、少し私もまともな理性が戻ったような気がしたけど、
私もやっぱり壊れた人間だった。もう今更戻れない。
レリックの案は失敗。
再洗脳の案は論外。
シルヴィアちゃんを使う案はきっとレイス君が赦さない。それでもアリシアを助けられるならとは思うけれど、
傷つけずにアリシアを助けられる案があるならそちらを取る。
アルハザードに向かう計画を。
それに私にも科学者としての意地がある。
今まで突き詰めてきた研究が無意味だなんて認められない。
研究成果もまた私の子供達なのだから。
ふと、彼の言葉を思い出す。
例え、全ての癖や性格がアリシアそっくりだとしてもきっとそれでもフェイトはアリシアじゃない。
では、どうしてこの子を作ったの?この子の存在は何?
解からなくなってくる。
彼が目覚めたらきっとフェイトをアリシアに変える計画を実行し、そして成功する筈だ。
彼の所属する部隊の噂は少しだけだが聞いている。
情け容赦のない手段と絶対的な任務の成功。
彼がなりふり構わずにアリシア(フェイト)を求めるのならきっと私じゃもう止められない。
それで良いのかしら?
アリシアにそっくりなフェイトと共にアリシアを蘇らせる旅に私が耐えられるかしら?
いえ、きっと無理ね。
アリシアとフェイトの違いに耐えられなかった私だもの。
きっとアリシアと違いの無いフェイトに耐えられない。
だから、アリシアとしては未完成なままのフェイトでいて貰い、
私がそれを受け入れなくては。
そう思うと、少しだけ、
今までやって来たことを変える事は、過去の修正なんてできないけれど、
そう、少しだけ、フェイトに優しくしてあげよう。そう、思えた。
気が付かないうちに久しく忘れていた笑みが浮かぶ。
「彼の好物のシチューを作るわ。
いえ、シチーと呼ばないと訂正されるんだったわね。全く面倒な子よね。
久しぶりだから大変だわ。
フェイト、少し手伝ってくれるかしら?」
愛を識り、けれども愛を知らないフェイトは、
少し驚いた顔をして、
「はいっ、母さん。」
あの子とは違う笑顔で元気にそう答えた。
共通の敵ができたら仲良くなれる法則。
危険人物レイス君投入でテスタロッサ母娘の距離が少しずつ縮まりました。