怨讐の浄銀   作:蕎麦饂飩

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見上げた空に堕ちていく

少し母さんが優しかった。

この変化はきっと彼のお蔭だろう。

そう思うと本当にレイスには来てもらって良かったと思う。

 

最初キャベツを切る様に言われたけれど、

やっぱりそれはフェイトには無しだと言われて、鍋の番を任せられた。

何処かで同じ事をしたことがある気がする。

何処であったことなのか思い出せない。

それを思い出そうとした時、少し意識が遠くなってボーっとしている内に、

スープが跳ねて手にかかった。

 

「熱っ。」

 

思わず口に出してしまった。

 

「「フェイト!?」」

 

私を心配してくれるアルフ以外にもう一人心配してくれたんだと思う声がした。

母さんだ。

心配、してくれたのかな? くれたんだよね。うれしいな。えへへ。

 

駄目駄目、しっかりしないとまた火傷しちゃう。

でもそれで母さんが心配してくれるなら、――――ううん、母さんに心配させたらまた嫌われちゃうかもしれない。

だからしっかりしないとね。

 

 

 

 

 

それ以降特に大きなミスも無く、『しちー』は完成した。

何だろう。ジュエルシードを探している時よりも楽しかったな。

 

母さんに言われてレイスを起こしに行く。

眠っている彼の顔をのぞくと、やっぱり綺麗な顔をしていた。

長い睫毛、整った鼻筋、染み一つない肌。見方によれば女の子にも見えるけれどやっぱり男の人の顔。

 

母さんが言っていた。

レイスは、私の事、好き…なんだよね。

 

 

 

そうしていると、少し身じろぎしてレイスが目を覚ました。

うわっ、目が合った。少し、恥ずかしい。

 

「アリ…シア?」

 

 

また、まただ。その名前を聞くたびに幸せな気持ちも全部ぐちゃぐちゃになる。

何が何か良く解からなくなる。

温かいのか冷たいのかよく、わからなくなる。

 

 

 

「あら、お寝坊さんのレイス君。

娘の名前を間違えてしまうような悪い子にはシチーはあげないわよ?」

 

「…ああ、プレシアさんはそうする事にしたのですね。」

 

 

 

「ええ、歩みは止めないけれど。」

 

「そうですか、当初のプランで行く、のですか。」

 

 

 

「ええそうよ、当初のプランで()くわ。」

 

「全てを置いて?」

 

 

 

「ええ、全てを置いて。整理整頓が得意なレイス君には苦でもないでしょう?」

 

「余所の家庭の片付けを押し付けるなんて酷い事をプレシアさんにされるだなんて思ってもみなかった。」

 

 

 

「ええ、私は酷い女なのよ、知らなかった?」

 

「いえ、知ってます。酷く優しい、優しすぎる女性ですよ、貴女は。」

 

 

「そうかしら、ああそれよりも早く食べないとシチューが冷えるわよ。」

 

「シチーですよ。プレシアさん。」

 

 

 

 

母さんとレイスが私には解からない会話を続けていた。

だけどどうしてだろう。

何故か私は大切なものを永久に失ってしまう。

そんな漠然とした不安を抱えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

∮∮

フェイトをアリシアに変える計画を私が実行しない事を伝えると、

彼は薄く笑った。彼の望みは永遠に叶わないかもしれないというのに。

 

一見平然と見えるこの仮面の下で、誰にも知られない幼い子供は何時もこの世界の理不尽を嘆いているのだろう。

誰にもそれを知らせぬまま、誰にも助けを求めぬまま、誰にも助ける事が出来ないまま、

きっと彼は独りで狂って往くのだろう。

 

そういう意味で、彼は私に良く似ていた。

本当に、酷く似ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気になった事があったがあの場では聞けなかったので、

フェイトが眠った後、私はレイス君に聞いてみた。

 

「あなたこそあれで良かったの?」

 

「…ええ。これも一つの結末ですよ。

仕事の関係で、あなたにはエネルギー技術を幾つかご教授して頂くことになりますが。」

 

 

 

 

「それくらい構わないわ。

それにしても話の逸らし方が上手になったわね、

確かに不自然ではない内容の連鎖で話を打ち切る事をできるようになったのね。

…いえなってしまったという事かしら。」

 

「どちらでも同じですよ。

先程のお話ですが、きっと僕はずっと前から知っていたんです。

死んだ者は二度と蘇らないって。

アリシアそっくりのフェイトを愛せないあなたを認めたくなくて少々動転していましたが。」

 

 

 

「くすっ、少々どころでは無かったけれどね。

まあ、あなたをいじめるつもりはないから安心していいわ。

でも、あなたが『アリシア』を手に入れる機会はアレが全てだったのではなくて?」

 

「…いえ、逢えたから良いんですよ。」

 

 

 

「それは…どういう事かしら?」

 

「やっぱり、成長しても僕はアリシアに手を引いて貰う側でしか無かった。そういうことですよ。」

 

 

 

「夢の中であの子に逢えたのかしら。」

 

「ええ、夢の中でしか逢うことすらできませんから。

死者は甦らない。あなた程では無いですが僕も死んだはずの人間の身体を動かす技術なら理解しています。

そしてそれが紛い物でしか無いことも。

だから例えあなたはフェイトを認めても、アリシアが望まなくても先へ進むのですよね。」

 

 

 

「それが母親という生き物よ。

笑うかしら、それとも嘲うかしら?

あなたのお仕事的には防ぐべき事のはずよ?

それにあなたの中での決着はまだついてないのではないのかしら?

それに――――男の子なのに泣いては駄目よ。」

 

「上には次元震の兵器運用データの貴重な収集機会とでも言っておきます、よ。

きっと、その時にはいつもの顔に戻っているはずです。

あなたが向こうにいっても、アリシアを向こうから呼び寄せられたとしても、それがあなた達の幸せに繋がることを祈っています。

さいごに、心残りは?」

 

 

 

 

「意地が悪くなったわね――――」

 

「――――魑魅魍魎に鍛えられたんですよ。」

 

 

 

「――――頼めるかしら。」

 

「さて、蘇生して犯罪に荷担したアリシア・テスタロッサは、プレシア・テスタロッサと共にアルハザードに向かい、

残されたのは無実の何も知らないフェイト・テスタロッサ。信用できる善良な執務官が保護してくれるように誘導しますよ。

――――これで、どうでしょうか?」

 

 

 

 

 

「あなたをそうさせた魑魅魍魎に雷撃魔法をプレゼントしたくなったくらいよ。」

 

「ええ、是非してあげて欲しいものです。

先程のアレは結構効きました。」

 

 

 

 

 

「では、始めましょうか。」

 

「ええ、終わらせましょう。」

 

 

あの子()の為に。




娘そっちのけでBBAがヒロインしている件については異論は認めない。
いろんな意味で病気な美人とかヒロイン張るしかないでしょ?

サブタイトルの意味は『永遠はありえない』です。
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