いえ、別にショタ×熟女でも全然良かったんですが…。
士官学校卒業1ケ月前。
最終学年の次席であるクロノ・ハラオウンは在校中に受験した執務官の試験に合格し、
今期の士官学校卒業生の花形であった。
仲の良い活発な美少女に絡まれる形で友好を育み、主席である堅物の親友をライバルとして成長する姿は、
同期をして嫉妬する気も起こらない存在になっていた。
加えて彼は名家の出であり、次元航行艦長補佐に確実に手が届く事は保証されていた。
血統良し、顔良し、能力良しの身長以外は全て良しの彼は最終学年のダンスパーティーでは淑女垂涎の対象だった。
本人は件の活発系美少女エイミィ・リミエッタに
親友である学年主席のレイス・グランツァーリンは自分の妹をクロノに宛がおうと考えていたが、
妹シルヴィアが兄に依存。要するに極度のブラコンを拗らせていた為、叶わなかった。
レイスもまた、血統良し、顔良し、能力良しな上に高身長の超優良物件であったが、
彼は酷く詰らない人間と言う欠点があった。
所謂、面白みが無いというタイプである。
そして一見にこやかな表情を浮かべてこそいるが、
クロノ以外には何処か壁を作っているのが、彼に近づこうとした女性には理解できてしまったようだ。
愉しもう、愉しみたいという発想が薄いレイスには、真剣な無表情と作り置きの微笑以外の表情は存在しない。
只二人、クロノとレイスの家から滅多に出られない病弱な妹を除いては。
結局、彼を好きになった女性達は、
「クロノ君とお幸せに。」と腐っていくことになる。
主に掛け算が大活躍する世界で。
エイミィとしてはクロノにホモ疑惑が浮かぶのは避けたい事柄だったのだが、
クロノの女性避けとして都合の良い状況の為、最近は敢えてそれを煽っているようだ。
彼女がクロノを愛しているかと言えば彼女は違うと言うだろうが、
他の女性がクロノに纏わりついているのは何だか面白くないと感じていた。
レイスには、
「エイミィ・リミエッタ。
シルヴィアが身を引いたんだ。
クロノの事を宜しく頼む。」
と言われているが、クロノ曰く、レイスの妹がクロノを好きになった事実は一度たりとも無いようだ。
どうやらレイスの思い込み、というか、レイスの思い描く幸せな家族の妄想の押しつけと言うのが正しい。
それより、いちいちクロノ以外の人間をフルネームで呼ぶのは止めればいいとエイミィは思うのだが、
その件については前向きに善処するという玉虫色の回答以上のものは引き出せていない。
他人を求めていない性質の人間に、愛する事を求めても報われることは無い。
愛されなくても良い。ただ自分が相手を愛すればよいという感情では疲弊がいずれ迫る。
終わりの無い永遠の片思いに幸せな未来は無い。
エイミィは失恋しては掛け算限定の数学者に目覚めた友人達に心の中で合掌した。
卒業の日、クロノを新たな職場の人間達が迎えに来た。
まさに超エリートに相応しい待遇であった。何せ彼は史上最年少の執務官なのだ。
その華やかなサクセスストーリーは皆に知られてしかるべきだった。
――――――では、彼よりも成績の良かった主席はどうなったのか?
その答えは学校長と本人しか知らないが、彼の親友であったクロノだけはその話を聞いていた。
「クロノ、僕は父と同じ法の守護者になる。
何時の日にか、全ての誓いを果たす為に。」
その後のレイスの管理局職員としての活動はクロノも、彼以上の権限を持つリンディも詳しくは知り得なかった。
彼は一応軍警として働いていると聞いていたが、彼のポジションはどう考えてもクロノを上回り、
一度たりとも敗北せしえなかったレイスの能力とは一致しなかった。
レイス曰く、
「家の事もあるから、あまり危険じゃないところで上に行けば良いから。」
と言っていたが、クロノの頭の中には何かが引っ掛かっていた。
軍警。正式には軍隊警察。
つまり、軍隊に所属する屈強な者達を取り締まる更なる屈強さを持った集団である。
捜査員とも職域が被ることもあり、互いのテリトリーを脅かしうるために仲は良くない。
レイス・グランツァーリンは
客がいる時には彼は新入りの幹部としてNo2としての立場で対応する。
しかし、客がいないときにはこの部署は本来の姿を見せる。
『執行部隊』
隊員の全員が『執行官』の資格を持っている特殊な部署である。
執行官は執務官とは違い、自らの正義では無く管理局の正義の為に無慈悲なる鉄槌を下す武力組織である。
その上には、管理局そのものである最高評議会が存在し、
管理局にとってより良い世界に変えるべく、あらゆる権限を付与された集団である。
そしてレイスはその長であった。
彼は威厳を身に着ける為にもその一人称を僕から俺に変えていた。
そんな彼のもとに美女が優雅に歩いてやって来る。
「レイス部隊長。先程通信で上の方から命令がきましたわ。
今、エネルギー開発において今表に上がっていない者で、
最も有能な方に心当たりがあるかしら?
できればやり方や倫理に拘らない方が良いそうよ。
あの方々は、クローンを使った新しい器を作る計画が頓挫しているので、
取り敢えずは聞こえの良い民政に手を出したいようですわね。
確かに資源と言うのは物事全ての基盤であり、戦争だって少なくない理由が資源問題ですものね。
それに、首都に莫大なエネルギーを使用して何かされるというお話もある事ですし?」
彼の部下である警務隊長の肩書を持つ執行部副長は最高評議会から来た命令の前置きを告げる。
紅い髪とその髪に相応しい情熱と凍えるような闇を心に抱く女性は、
フランクな対応とは裏腹に、レイスに忠誠を誓っている。
レイスは彼女に言われた内容を考える、否、考える振りをする。
「一人心当たりがある。まさにその条件に当てはまる人材だ。
――――――――――――――それでその人材をどうすればいい?」
「勿論、協力して頂くのですわ。
拉致、脅迫、誘拐。
それでもノーと言うのなら脳だけになってもらっても何とかして下さるそうよ?
脳だけを活かすのは得意分野なのですって。ふふっ。」
悪趣味な冗談だと思うが、彼はまさにその冗談の世界で生きている。
より強く、より苛烈な、より絶対の正義を貫くために。
「プレシア・テスタロッサ。
彼女こそ俺の知る最高のエネルギー科学者だ。」
そして彼の初恋の相手である。
美しく娘思いの優しい母親で、未だにレイスには前夫が離婚を承諾したのかは理解できない。
彼女はSSクラスの有能に過ぎる魔導師であり、知識も豊富で話も面白かった。
娘のアリシアとは1歳違いであったが、それでもまだプレシアは若く、
幼い少年の憧れになるなと言う方が難しい。
実際、アリシアに離婚で父親がいないことを聞いたとき不覚にも喜んでしまった程だ。
だが、いや、だからこそ彼は決断する。
「俺が出向く。サポートは要らない。」
「…宜しいので?」
暗に副官であるプラチナは、それで
と聞いているのだとレイスは判断しているのだが、
実際には彼女は
彼には彼女に異性としての興味は全くない為その判断には届かない。
だが、彼女にはプレシア・テスタロッサの名前を出した時にだけ、
彼の2種類しかない表情ではない別の表情が浮かんだのを見てしまった。
嫉妬しないと言えば嘘になるが、彼に逆らうことなど考えもしなかった。
「旧知の女性だ。俺以上の適任は居ない。」
プラチナにそう言い残してレイスは出発準備をすることにした。
プラチナについてこられても困るので、その場に留まるどころか別の所に去っていく撒き餌を置いて。
「例の『世界全ての嫌われ者』の情報が手に入った。資料は後で送っておく。
好きにすると良い。」
『世界全ての嫌われ者』、広域指定接触禁止犯罪者ジャック。
プラチナから全てを奪いつくした仇である。
その情報で足止めをできたことを確認するとレイスは自室へと去って行った。
ふと彼は考える。
余りに上手くできすぎている。
最高のエネルギー技術者が都合良く堕ちている。
挙句にその交渉材料も資料には都合良く揃っている。
まるで彼女がその対象であることが前提であるかのように。
ひょっとしたらあの時あの施設に起きた悲劇も最高評議会の思惑があったのかもしれない。
あの時にエネルギー開発を成功させるわけにはいかなかった、
若しくはプレシアさんを此方に引きずり込む為だけに…。
だとしたらアリシアは――――――――――――――――――――――
脳裏に浮かぶ少女の笑顔を振り切るが、
今度は妹と何やら揉めているアリシアの姿が浮かんできた。
頭を振って今度こそ気持ちを切り替える。
死者はもう蘇らない。
あくまでそれに近似したものが出来上がるだけだ。
そう、裏の技術を加えれば完成に近い極めて酷似したものが。
今からやろうとすることは、初恋の女性と、遊びの中ででも結婚の約束をした少女に対する裏切りだ。
それでも、それでもだ。
プラチナには最高評議会は応えてくれた。勿論思惑があるのが前提だが。
恐らくジャックが邪魔になったのか、ジャックの関わりのあるものを消したいのか、
そういう事だとは思う。
だが、それでも、それであっても――――――――――――――――――――
「俺達は正義の守護者なんだ。」
正義の執行者を名乗る割りに基本私怨100%で働ける素敵な職場です。
名前の由来
主人公→GTR(グランドツーリングレース)をロシア貴族っぽくツァーリに改変
シルヴィア→日産シルビア
プラチナ→プラティーナ。ルノーベースの日産海外発売車。
ジャック 日産グロリア・ジャックニコラス