日本には在り得ないほどのブリザードが周囲の心象の中で吹く中、
やはり、天使は人間達に祝福を齎した。
「スズカさん、今日のお泊り会私も参加してもよろしいかしら?」
天使は心が結界となって現実を塗り替える手前の様な凍れる地獄の顕現を、
その一歩手前で防いだ。
「…。(すずか、YESと言いなさい。YESと。OF COURSEでもいいわでもOFF COURSEじゃ駄目よ。)」
「…。(えっ、どうしてそんなに切羽詰まってるのかわからないけど解ったよ。)
ねえ、ファリン。今日のお料理一人分増やしておいて貰ってもいい?」
月村姉妹が人外の魔眼を伴わない姉妹の絆によるアイコンタクトを完了させた結果、
今度は、それ以外の(YESといってくれ。)という、世界への平和を歌った割に解散したイギリスのバンドや、
お薬を処方されてしまった結果やっぱり駄目になったバンドのような気持ちで哀れな駄目メイド、
略して駄メイドに無言の圧力をかけた結果、
レイスは今晩シルヴィアとシチーを食べる機会を失い、
心のブリザードは彼だけのものとなった。
かくして、シルヴィアのお泊り初体験(はーと)INすずかんちが開催されることになった。
シルヴィアはそこで初めてアリサ・バニングス、そして高町なのはと出会う事になった。
「始めまして、シルヴィア・グランツァーリンです。」
ロシアっぽい顔立ちなのに、どうしてかその発音は日本びいきのフランス人の様に感じてしまう挨拶だった。
発音的にはあいえあーいえ、いういあうあんうぁーりんえう。の方が適切である。
私は頭が良いの。を地でいくアリサ・バニングスさん(小学生)は、
シルヴィアのグランツァーリンという家名に大変聞き覚えがあった。
見た目は目の前の美少女とは系統は違う物のやっぱり神々しいまでの美形で、
不思議な何かでアリサを助けてくれて、彼女の父親に、
「寿司はやはりワサビマシマシでなくては。」
と言われた瞬間、一瞬真顔になり、
それを注文して口に含んだ直後2秒程真顔になっていた青年と同じ名字だ。
まさか、他人という事も考えにくい。
「シルヴィアさんはお兄さんいたりしない?」
「ええ、兄が一人おりますが。」
すずか同様一見儚いが、決して周囲に怯えているわけではない。
だが、物理的には頑丈なすずかとは違い、精巧なガラス細工の様な儚げなシルヴィアはそう答えた。
「えーと、銀髪で、凄く色素の薄い眼で、メガネの?」
「はい。銀髪で、凄く色素の薄い眼で、メガネの。」
その一言で、場にいる全ての人間がレイス・グランツァーリンを特定できた。
尚、アリサの好感度は上々。
すずかの好感度は普通。
そして世界に主人公と認められた高町なのはからの好感度は最悪である。
今でこそ、危険で出張ばかりのボディーガードを引退して、家でお菓子屋のマスターをやっている父親が、
昔に戻ってしまったような感覚を受け、なのはは回転寿司に行こうと言い出した自分を責めてしまった程だ。
更に言えば、あの時、確かに膨れ上がる攻撃的な何かを感じてしまった。
そういうこともあり、少し色眼鏡でシルヴィアを見てしまった。
「シルヴィアさんのお兄さんには危ない所を助けられたの。感謝しているわ。」
感謝しているはずなのに何故か偉そうなのが、そしてそれが許されるのがアリサ・バニングスという少女である。
「そうだったのですわね。でも兄はきっと自分の正義に乗っ取って行動しただけと思いますの。
お気になされないで下さいませ。」
逆に、感謝されているのに偉そうではない、
しかし常に頭を下げられる側である雰囲気を持つのがシルヴィア・グランツァーリンという少女であった。
「そう、それならそうしておくわ。それにしても一瞬不思議な事に私を踏みつけようとした相手が止まったのよね。
一瞬だったけど、確かに。人間業じゃないわ。う~ん、そんな非科学的な魔法みたいな力ってあるのかしら?」
「っっ!? にゃはははは…。」
「あはは…。」
「うふふふふ。」
上からなのは、すずか、シルヴィアの反応である。
ついでに言えば、なのはのペットも跳び上がっている。その理由はアリサには解からないが。
この中で魔法も使えない、人外でもない、純粋な人間は、
一般的に知られている社会的にはこの中で一番普通でない、大財閥のお嬢様である。
尤も、表立って言えない社会的には似たようなお嬢様が主人公のなのは以外は勢ぞろいな訳であるが。
幼気な美少女達がきゃっきゃうふふで過ごして終わる一日。
そうは世界が許さなかった。イベントも起こさずに何も無い日常系ジャンルで無い世界で、
そんな事許される訳は無い。
…要するに、メタな理由だ。
何が起こったか、単純に言うと、
「ちきゅ…日本の猫って大きいのですわね。」
そんなシルヴィアの能天気な天使ボイスで他の3人と1匹が気付いた先には、
日本どころか、世界探してもいない規模の猫。
もしこれを新種の猫だというのなら、これ程までに大きな種を見つけてこれなかった動物学者の無能の証明になるのだろう。
「そんなわけないじゃない。そんなわけないじゃない。そんなわけないじゃない。大事な事だから2回言ったわ。」
「アリサちゃん、3回言ってるよ…。」
「…そんなっ、ジュエルシードッッ!?」
この中で一番驚いているのが戦う魔導師のなのはちゃんである。
戦いとは無縁なお嬢様型はもう少し落ち着いている。(一部高耐久物理型お嬢様と、紙装甲高魔力型お嬢様もいるが。)
紙装甲高魔力型お嬢様は寧ろ、自分が日本の外からではなく、地球の外から来たような発言をしたことに内心焦っていた。
意外と余裕である。
シルヴィアは一応、この地球では魔法は無い事になっており、
もしそれが知られれば、軍事転用目的で多くの国家や組織が欲する事は理解していたのだが――――――――、
「レイジングハート、セーットアップッ!!」
魔法少女してしまった地球での友達その3と、
「お願い止まって。」
まさしく人外の、それこそ魔法を使わなければ在り得ない身体能力でアリサ・バニングスと己を抱えて巨大猫から回避する月村すずかを見て、
シルヴィアは思ってしまったのだ。
…多分、少しだったら魔法を使ってもバレない、と。
「チェルノブリュニーク、連動圧縮式多重封印2層解除。」
故に彼女は水を濁す燃え盛る星の名前を冠する彼女のデバイスを起動させて、
リンカーコア循環安定化の為の、拘束を外す。
それと同時に解放される暴力的な迄の魔力の奔流と、彼女の本来のドレス。
すずかの腕から解放され、
純白のロングドレス姿になったシルヴィアは彼女の持つ魔法使いの杖である野草の花束を猫に向ける。
彼女が魔法を使ってもバレないと思ったのには理由もある。
彼女の魔法の属性は『生命』。
派手な物理現象を伴わない力だった。
「良い子ですから、鎮まりなさい。」
その声が耳に入ると同時に全身から力が弛緩していくのを猫は感じた。
それと同時に、自分の大きくなりたいという願いを叶えた魔法の石が不甲斐ない宿主を見限って排出された。
久しぶりに魔法を使った昂揚感で顔が上気したシルヴィアだったが、
その様子は明らかにおかしかった。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ。」
陶酔したようにその場に立ち尽くしているが、その身体は痙攣していて尋常ではない。
その衣服も元のドレスに戻っていた。
以前、帝国の優生学はサラブレッドを創る完全で完璧な方法であり、
競馬と言う文化が人類に残される限りその優位は崩れない生物的には正しい学問だとあったが、
まさしくそれこそがシルヴィアを致命的に重症にさせていた。
サラブレッドは用意された環境と状態でなら最良の結果を提供できるが、
その完全とは小さな枠の中でしかなく、
それが変わってしまえば生命力は雑種に劣る。
多くの実りを付ける穀物は肥沃な土壌で無ければ育たず、
巨大なクジラは水中でしか自身を支えられない。
強すぎる魔力を内包するシルヴィアは、魔力の器に罅が入ったことで、
中の魔力を動かすような真似をすれば罅は更に広がる。
元々は強大な魔力を内包する器が確りとあったのだが、
それも闇の書のリンカーコア蒐集により、脆弱な器になり果ててしまった。
人間が食べる為に、大きくなった実に薄くなった皮を持ち、
虫除けに紙で作った覆いを付けたリンゴのような状態がシルヴィア・グランツァーリンなのだ。
そんな彼女が久しぶりにその魔力を行使してしまい、今の異常に至る。
なのは以上の魔力の持ち主であるシルヴィアに対して、
「僕と協力して魔法少女になってよ。」と言おうとしたユーノ君(動物モドキ)も思わず息を呑み込み固まるほど異常だった。
というか、男子から見れば正直言ってエロかった。
そんな変態男子は置いておいてなのはがジュエルシードを封印しようとした時、
「そのジュエルシードを渡して。」
金髪ツインテールの恰好だけならシルヴィアよりエッチぃ魔法少女が出現した。
封印作業を行うなのはへの襲撃と言う形で。
シルヴィアはその姿を視界に収めた途端、その身体の震えは残ったまま座り込み、
身体を抱きしめて震えだした。
「いや、まだ死にたくない。アリシアさん。連れて行かないで。
私はまだ死にたくは無いの。いや、いや、いやーーーーーーーーーっっ!!」
そう叫んでシルヴィアは気絶した。
そう。目の前に現れた新たな魔法少女、
フェイト・テスタロッサは肉体的観点からみればほぼ死んだはずのアリシア・テスタロッサと同一なのだ。
挙句に、魔法の遣えなかった彼女ではありえないことに宙を浮いており、死神の様な鎌を持っていた。
そして、これは彼女が兄にも言っていなかった事だが、彼女には弱った時には死んでいない魂が見えていたのだ。
一方、アリシアと間違えられたフェイト・テスタロッサの側も、
「アリシア…アリシア…?
違う、私は…、私はアリシアじゃない。アリシアじゃ、ない…?
フェイト。そうフェイト。フェイ…ト?あ、あああ、ああああああ、ああああああああああ、あああああああああああああああああ――」
突如頭を抱えだして彼女の使い魔であるアルフに連れて行かれた。
襲撃者が去った。
ひとり、フェイトと分かり合えなかった事を気にするなのはという例外はいるが、
それ以外の少女二人はその場で倒れ込んで目を覚まさないシルヴィアの事で頭がいっぱいになっていた。
「ファリン。今すぐ救急車を呼んでっ!!」
そう叫んだすずかの声に少しの間だけ意識が覚醒したシルヴィアが発狂したようにそれを否定した。
「病院は、病院だけはやめて。いや、あそこだけは、今はあそこだけは絶対に―――」
それを告げると彼女は吐血して再び気絶した。
しかし、救急車を呼ばないとなると他に彼女たちに思い浮かぶ方法は無い。
すずかは月村家と伝手のある医者をファリンに、アリサはデビットに派遣できる医者に心当たりが無いか尋ねる事にした。
結局それまでの間にできる事は無く、すずかは自分の使っているベッドにシルヴィアを運ぶことにした。
ベッドに寝かされたシルヴィアの口元に残る血液、
それを見たとき、すずかの本能が疼いた。
今すずかの部屋にはすずか自身とシルヴィアを除いて他は居ない。
アリサは今電話で父親とお話し中だ。
すずかは耐え切れない誘惑に負け、シルヴィアの口の端を、
そしてそのまま口の奥を舐めた。
「か・ん・ろ…。」
それは耐えきれる筈も無い誘惑だった。
その匂いに相応しい極上の血液だった。
月村すずかは所謂吸血鬼と呼ばれる種族だ。
そして吸血鬼が好むのは美しい乙女の血。
それは必然だった。
加えて、シルヴィア・グランツァーリンの血は魔を内包し、命を呼び込む。
まさに極上の血液だった。
きっと幾ら呑んでも物足りなく、
その血液の味を想像で思い出すこともできず、それでも高みである事だけは思い出せ、
呑むたびにその最高を思い出す。
そんな血液だった。
至高の容姿に、極上の血液。
更に言えば普通でない自分を受け入れてくれそうな普通でない条件。
それらを併せ持つ少女を前にして、
すずかはごくりとつばを飲み込んだ。
OFF COURSE(道を外れる)をしちゃってもいいよね。