今回は1話でちょろっと出した子が出てきます。このタイミングで?と思う方もいるかもしれませんが、この作品ではここで出します
「一夏、一体どうするつもりなんだ?」
「ん?」
昼休み、群がる生徒達の間を抜けて食堂へと向かう最中、ほーきちゃんはそんなことを聞いてきた。言いたいことは十中八九、セシリア・オルコットとの試合のことだろう
「ん、ではない。相手は代表候補生なのだぞ。実力、経験、技術、機体の性能、どれを見てもお前より格上の相手だ。何かしらの対策をしなければ、恐らく勝負にもならんぞ?」
うん、至極真っ当な意見だ。彼女の言う通り、俺とセシリア・オルコットとでは全てにおいて差がありすぎる。加えて試合までの時間も一週間しかなく、その差を埋めることはまず不可能だろう。そんなことは百も承知だ
「まぁそうだろうな。でもほーきちゃん、千冬姉の言っていたことをよく思い出してくれよ。あの人はなんて言ってた?」
「……?確か、一夏とセシリア・オルコットは試合を行い、その勝者をクラス代表者とする……だったか?」
彼女は考えるように上を向き、ゆっくりと思い出してくれた答えに俺は頷く。そう、千冬姉は俺とセシリア・オルコットが戦い、勝った方をクラス代表にすると言ったのだ
「一応さ、最初っから俺はこの試合負けるつもりなんだよ」
「……どういう意味だ?」
「だって俺、クラス代表なんてやりたくねえもん」
勝った方がクラス代表となる。つまり負けた方はクラス代表にならないということである。誰でも分かる簡単な話だ。俺は他薦された身に過ぎず、本来ならば面倒事は真っ平ごめんな男である。わざわざ不利で、かつ勝っても特にメリットのない試合において勝ちを狙うより、負けを前提として善戦することを目的とした方が良いに決まっているのだ
ほーきちゃんは俺の言いたいことが伝わったのか、「……そうか」とだけ呟いて何かを考えるような仕草をし始めた。そして不意に、さっきまでと変わらない真剣な表情のまま言った
「だが一夏、お前は『織斑千冬の弟』だ。それは学園のほとんとの者が知っている。もし無様に負けるようなことがあれば……」
「あぁ。この勝負、はっきり言って勝ち負けはとっくに決まってる。でも、だからこそ手は抜く訳にはいかねえ。俺は『織斑千冬の弟』として恥ずかしくない勝負にしなくちゃいけねえから……」
俺、織斑一夏にとって『織斑千冬の弟』という事実は呪いと同じだ。誰と会っても、どこへ行っても、その事実は俺の背後にべったりとついてきてしまう。そして、それを見た連中は口々にこう言うのだ、あの人の弟なら……と。そして俺に無理難題や面倒事を全て押し付けてくるのだ
今までならそんな無茶に応える義務はなかった。だが今回は千冬姉が世界で頂点に立ったIS絡みである。『織斑千冬の弟』として、あの人の名に相応しい戦いをしなければ間違いなく失望され、最悪千冬姉にも迷惑が及ぶだろう。それだけは嫌だ
「……存外に難しいかな、こりゃ」
後ろ向きな思考を振り払うように頭を掻く。いっそのこと、セシリア・オルコットがぐうの音も出ないほど強かったなら気が楽なのだが、恐らくあいつは油断しているのだ。トーシローの俺に負ける訳がないと慢心しているせいで、本番では本気で来ないだろう。そこが狙い目っちゃ狙い目なんだろうが俺は別に勝ちたい訳じゃねえし……
そんな事を考えながら歩くこと数分、漸く食堂へと辿り着いたのだが……とにかく凄いの一言に尽きた。数多くの生徒達が利用出来るようかなりの広さを誇っており、世界中から集まった生徒達のニーズに応えるべくあらゆるカテゴリーの料理が提供されている。加えてあちこちから上がる料理を絶賛する生徒達の声から、その味も相当なものであることが想像出来た。確かにこの食堂に充満する匂いはどれも食欲をそそるもので、空いた腹が食べ物を求めて音を立てる
「おぉ……!こいつはすげえな……!」
「あぁ……予想以上だ……!」
あの少し厳しそうな表情がデフォルトのほーきちゃんですら感動のあまり微笑を浮かべている。凄いぜ食堂。そのまま券売機で日替わりランチを二つ購入し恰幅のいいおばちゃんに渡す。それにしてもこの食堂、料理の値段が大変リーズナブルであり学生の身からすれば大変助かる。赤字とかになっていないのかは気になるところではあるが
「はい、日替わりランチ二つね。あんたが例の男の子かい?しっかり食べて頑張りなよ」
「おっ、ありがとうございます!」
「ありがとうございます」
渡された日替わりランチにはおばちゃんの粋な計らいのお陰か、ほーきちゃんのものよりカツが一つ多くご飯も余分に盛られていた。育ち盛りの男子高校生には実にありがたい限りだ
さて、旨そうな昼飯は確保出来たのだがここで問題が一つ、どこの席に座ろうかということである。ほーきちゃんと二人で一つのテーブルを使えたらいいのだが今は食堂が一番賑わう時間帯であり、流石にそんな贅沢な使い方はさせてもらえそうになかった
ならば他の生徒にシェアさせてもらうしかないのだが、さっきから「私のところに来て」と言わんばかりの視線が突き刺さっており、どこへ行ったとしても一騒ぎありそうな空気なのである。せっかくの昼飯だから静かにとはいかなくとものんびり自分のペースで食べたい。間違っても質問攻めにされてこの昼飯を味わえねえなんてことはごめんだ
「えっと……どうしようか、ほーきちゃん」
「むぅ……これは確かに……」
そんな時、食堂の隅でひっそりとパンをかじる銀髪が目に飛び込んだ。ほーきちゃんもそれに気付いたのかゆっくりと口を開く
「……一夏、頼むのか?」
「そうだな。クラスメイト同士親睦を深めるってのも悪くない」
だって友達少ないし、と付け足せば苦笑された。そう、あの銀髪の生徒はクラスメイトだ。他の生徒と違って俺に対して特に反応せず、千冬姉が来た時にも騒いでいなかった子だからよく覚えている
……いや、確かにそれも理由の一つだが俺があの子を覚えていたのはもう一つ理由がある。彼女の、あの目だ
「なぁ、使わせてもらっていいか?」
「……好きにしろ」
その
「知ってるとは思うけど、俺は織斑一夏だ。同じクラスだろ?宜しくな」
「篠ノ之箒だ。宜しく頼む」
さて、反応してくれるか……
「……ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
今にも消えそうな、それでいて名前だけの素っ気ない返事。相手次第では不快に思う者もいるかもしれない。だが俺達にはそれで良かった。ほーきちゃんと目が合い、にっと笑う
俺はあらためてこのラウラ・ボーデヴィッヒという生徒を見る。紅と金のオッドアイには微かな光しか灯っておらず、綺麗な銀髪も長かったり短かったりとちぐはぐだ。顔色だってお世辞にもいいとは言えない。ここに来る以前に何かあったのは明らかだが、それを聞くのはタブーだろう。人間、誰だって聞かれたくないことくらいある。それを分かっていてわざわざ聞くのは馬鹿だけだ
「さて……いただきます」
「いただきます」
ほーきちゃんと二人で手を合わせ、お約束の言葉を言ってから箸を手に取る。まずは手始めにお米から……うん、美味しい。続いて汁物、おかず等々、盆の上に並べられた料理に次々と手をつけていく。あぁ、こりゃ皆挙って食べたくなるのも分かるわ。料理の腕にはそれなりに自信があったのだが素直に完敗だ
「もぐもぐ……ごくんっ、あぁ……美味い、美味いわぁ」
「あまりがっつくな。食事は逃げんぞ?」
そう言うほーきちゃんだが既にランチは結構減っている。案外食いしん坊なのか?だがスタイルのよさからするに、余分な栄養は全部あの豊満な胸にいっているんだろう。鈴が聞けば殺意に満ちた目を向けそうな話だ
「んぐんぐ……ふぅ。いや正直ここを侮ってた。まさかこんな美味いもんが食えるとは思わなかったわ。ボーデヴィッヒもそう思うだろ?」
「……別に味など気にせん。生きていけるだけの栄養と腹が満たせるか、私にはこれだけでいい」
俯いたまま彼女はゼリー飲料を飲み干し、パンの包装紙と共にビニール袋へ突っ込む。そしてそのまま立ち上がって、今度は一瞥もせずにどこかへ去って行った。残された俺達は暫し呆然となる
「……行ってしまったな」
「……無理に会話振ったのは失敗だった。お節介が過ぎたわ」
「気を落とすな。クラスメイトなのだから共に食事をする機会くらい何度もある」
「そりゃそうだけど、断られるんじゃね?」
「本当に断るつもりなら最初の時点で断っていただろう。そう悲観することもあるまい」
そう断言するほーきちゃん。根拠なんてない筈なのだがやけに自信のある言い方がなんとも頼もしい。この子、絶対俺より男前だわ
正直、ボーデヴィッヒの様子は普通じゃない。生気のない目や疲れきった表情、そして最後に言った言葉等、果たして過去に何があったのか、気にならないと言えば嘘になる。だが聞いたところで教えてくれはしないだろうし、聞くなんて真似自体するつもりはない。残った昼飯に手をつけながら、俺は次にどうやって彼女を誘うかを考えていた
△▽△▽
「えっと、次はここなんですど……」
「あっはい、ここはですね──」
放課後、俺は授業中にとったノートを片手に山田先生によく分からなかった部分を聞きに行っていた。因みにほーきちゃんは剣道部を見に行くらしく、放課後になるとそちらの方へ行ってしまったので既にいない
「と、いうことなんです。今ので大丈夫ですか?」
「あ、はい。ありがとうございます。とても分かりやすかったです」
そう言うと山田先生は照れてしまったらしく、少し顔を赤くしてはにかんだ。実際先生の説明は本当に分かりやすい。下手に教科書や参考書と睨め合いをして時間を浪費するより素直に聞きに行った方が余程いいくらいだ。だからといって端から頼りにしすぎるのは禁物だが……
「あ、そうだ。織斑君、寮の部屋が決まったのでこれを渡しておきますね」
何か思い出したように山田先生は一枚の紙とキーを取り出した。紙には『1025』と数字が書いてあり、これが俺の部屋の番号であることは分かったが……俺の部屋は決まってなかったんじゃなかったのか?
「あの、一週間は家から通えって話じゃなかったんですか?」
「そうなんですけど織斑君の事情が事情なので……その、元々決まっていた一室に無理矢理入れたらしいです。織斑君は政府の方から何か聞かされていませんか?」
俺は首を横に振る。確かに一週間とはいえ、自宅から登校している最中に何かあればまずいんだろう。だがいくら俺がISを動かせるとはいえ、年頃の女の子と同じ部屋に住ませるとは政府は何を考えているんだ。俺から手を出すような真似はしないが向こうから寄ってきて、仮に万が一のことがでも起きれば社会的に俺が死ぬんだぞ?
「個室の方は一ヶ月あれば用意出来ますので……その、ごめんなさい」
は?一ヶ月?おい政府、一週間つったのは嘘か。全く適当なこと抜かしやがって
「あの山田先生、そんなこと聞かされてなかったんで荷物とか全然準備出来てないんですけど……」
「あ、それは──」
「私が用意しておいた」
不意に後ろから掛けられる声、それと同時に凄まじい不安が襲ってきた。千冬姉、あんたそんなこと出来たっけ?絶対着替えとケータイの充電器くらいでしょ
「お、織斑先生……ありがとうございます」
「まぁケータイの充電器と着替えだけだがな。他に何かあれば休日にでも取りに行け」
知ってた。うん、知ってたよ。本当に必要最低限、予想通りすぎて逆に何も言えねえ。だからちょっと誇らしそうに「姉らしいことをした」みたいな顔するのはやめてくれ。わざわざ準備して持ってきてくれたのはありがたいけど、その顔のせいでありがたみが半減するんだよ
「夕食は六時から七時の間に食堂でとってください。各部屋にはシャワーがあるので織斑君はそちらを使ってくださいね。大浴場もあるんですが……織斑君はまだ使えませんので」
まぁ当然だな。俺だって知らない女と風呂に入るなんて断固として拒否する
「えっと……とりあえず伝えるべきことは以上です。私達はこれから会議があるので、これで。寮まで真っ直ぐに帰ってくださいね」
あ、ストップ。ちょっと待ってください山田先生。あと千冬姉も
「あの、ISを使うにはどうすればいいんですか?セシリア・オルコットとの試合前に、一秒でも動かしておきたいんですけど」
「あ、それはですね。IS使用申請用紙に記入してくれればいいんですが……実は……」
実は、なんだ?先程までと違って随分と歯切れが悪いな。そんな風に考えていると千冬姉が代わりに答えてくれた
「お前より以前から申請している生徒が多くいるんだ。今から申請しても回ってくるまで順当にいって一週間、残念だがお前には間に合いそうにないぞ」
「その……ごめんなさい。いくら織斑君でも他の生徒が待っているISを優先するのは難しいんです」
なんてこったい。理由としちゃ至極当然で納得いくがこれはまずい。ISなんざ実技試験や政府の連中の前で動かしたくらいで、時間に換算すれば精々一時間くらいでしかない。せめて移動の練習くらい出来たら良かったのに……残念だ
「な、ならせめてISに乗らなくても出来る特訓みたいなものは?」
「ISの操縦はイメージに頼る部分が大きい。そういう意味でイメージトレーニングはかなり有効だな」
「……なるほど、最後にもう一つだけ。セシリア・オルコットの過去に撮られた記録映像とかはありませんか?」
「それならば明日の放課後、私のところに来い。生徒が視聴覚室を使用するには教師の同伴が必要だからな。オルコットの映像についてはこちらで用意してやろう」
よし、実際にISが使えないのはかなりの痛手だがこれならまだなんとかなる。俺は千冬姉と山田先生に頭を下げると一先ず寮の方へ向かうことにした。食堂は6時から7時と言われたし、今から教科書類を置いて向かえばちょうど良い頃合いだろう
校舎から歩くことおよそ五十メートル、俺は一年生の生活する学生寮に到着し、そしてそのまま1025室の前に辿り着いた。コンコンと扉をノック、返事は……ない。どうやら相部屋の人もまだ帰ってきていないようだ
確かキーはポケットだ。ごそごそとキーを取り出して鍵穴に突っ込み……ってあれ?回らない。もしかして開いてるのか?首を傾げながらもそのままノブを回すと扉は何事もなかったかのように開いた。一体どうなってんだ、ノックの返事はなかったんだぞ。まさか部屋を開けっ放しにして出ていった?
「……お邪魔しま~す」
控えめに扉を開けて一応声を掛けるが、やっぱり何も返って来ない。てことはやっぱり開けっ放しでどっか行ったのか。戻って来たら注意くらいした方が良さそうだなこりゃ
それにしても豪華な部屋だ。内装は綺麗で一流ホテルも顔負けだろう。広さもでかいベッドが全部で
「……え?」
「……何故、貴様がここにいる」
そいつは、
ラウラ・ボーデヴィッヒは、
唸るような低い声でそう言った。向けられる射殺さんとばかりの視線にどっと汗が吹き出る。待て。ストップ、ストッププリーズ。俺がこいつと、ボーデヴィッヒと同室だと?
「え……ちょ……もしかして、俺の相方って……君?」
「相方?何を言っている、この部屋は私と──」
「ん、誰か来たの……か?」
え……?今の声って……?まさか……どうして……
「……ほーきちゃん?」
「い、一夏……?」
今しがた、恐らく浴室と思われる扉を開けて出てきたのは、剣道部の見学に行くとして別れたほーきちゃんだ。そんな彼女が俺と同じく驚きのあまり固まって口をぱくぱくと動かしていた。身に付けているのは真っ白なバスタオル一枚で、少し熱で上気した健康的な肌が露になっている。ポニーテールは当然下ろしてあるので、さっき見た彼女とは少し違った印象を受けるし、ついでに僅かに覗くうなじも色っぽい……って、俺はなんで呑気にそんなこと考えてるんだ!
──織斑君の事情が事情なので……その、元々決まっていた一室に無理矢理入れたらしいです
不意に山田先生の言葉が頭に浮かんだ。このIS学園の寮は二人で一つの部屋を共有する仕組みになっていると前に説明を受けた。山田先生の言う通りなら、ほーきちゃんとボーデヴィッヒの部屋は元々決まっており、そこに突然現れた俺がぶちこまれたということなのだろうか?いや、それにしたってこんな偶然が……
「……てけ」
「えっ?」
「今すぐ出ていけぇえええええええええええええええええええええええ!!!!」
「はいぃいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」
ほーきちゃんの怒声が部屋中に響き渡り、俺は条件反射で脱兎のごとくその場から逃げ出した。急いで部屋を飛び出し、絡まった思考を振り払うように駆ける
もう訳が分かんねえ。俺とほーきちゃんとボーデヴィッヒの三人で部屋を使う?せめてどっちかにしろや!てか出ていけって言われたから出ていったけど、次にどんな顔してあの部屋に行きゃいいんだ。絶対に気まずいじゃねえか!
後で電話して弾と鈴に慰めてもらおう、IS学園の敷地を走りながら俺はそう固く決心した
千冬さんは先生なので困った生徒は助けてくれます。優しい
ラウラはここで出しました。眼帯なし、覇気なし、髪はちぐはぐと変わってますがこれは後々触れていきます。まぁなんとなく分かる人もいるとは思いますが……
今回はこんな感じです。なかなか進まないね、申し訳ない