ひねくれ凡夫ワンサマー   作:ユータボウ

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 0時ジャストに間に合わせたかった……!
 予告通り、一夏×ラウラ回です、ややごり押し感が否めませんがお楽しみ頂けたら幸いです。最初の方はモノローグ、あと途中から少し書き方が変わってますが、あれは全部一夏の台詞です

 あ、あと評価バーに色がつきました。お気に入り登録数も随分と増えて感謝感激です。これからも宜しくお願い致します



5話 ワンサマー、腹を割る

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒは軍人()()()。それもただの軍人ではない、ドイツが世界に誇るISを配備した特殊部隊『黒兎隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)』の一員だ

 

 黒兎隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)。ドイツの保有する十機のISの内、三機が割り当てられた正真正銘の軍事部隊だ。たった一機で国家を相手に出来るISが三機もある、それだけでこの部隊が如何に強大な力を持っているかが分かるだろう。部隊章は眼帯をした黒兎、所属する全員がそれに倣って眼帯を装着している。遺伝子強化試験体であり、兵士として生み出された彼女はそんな部隊の一員だった

 

 しかしそんな彼女を一つの悲劇が襲った。脳への視覚信号伝達速度の爆発的向上と、IS使用時の超高速戦闘状況下における動体反射の強化を目的とした、『ヴォーダン・オージェ』と呼ばれる肉眼へのナノマシン移植処置が失敗したのだ。理論上、不適合のリスクなどないと言われていた筈の処置が、である。彼女の処置が施された瞳『越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)』は制御不能となり、そして金色へと変色した

 

 これにより、ラウラは以降の訓練に大きな支障をきたすこととなる。当たり前のように出来ていたことに苦労するようになり、何気なくこなしていたことが出来なくなる。そんな地獄に、彼女は突然放り込まれた。右と左で見える範囲や解像度、反応速度が違うといったことは、ISを使う軍人にとってまさに致命的であったのだ

 そこで待っていたのは冷ややかな視線と嘲笑、そして出来損ないの烙印。以前は自分より劣っていた者達に軽々と追い抜かれていく、そんな悔しさや悲しさに彼女は生まれて初めて涙を流した。過酷な訓練に必死になって食らい付き、休みであっても自分に鞭を打つ。遺伝子強化試験体だからこそ可能な、常人には無茶とも言える日々を送った彼女だったが、しかし結果はほとんど変わらなかった

 

 無情な現実に打ちのめされる彼女は、ある時一人の女性と出会った。第二回モンド・グロッソにおいてドイツ軍に多大な恩を受け、その精算のために一年間黒兎隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)の教官を務めることとなった織斑千冬だ。世界最強のブリュンヒルデが直々に訓練を指揮する、このことにラウラは大きな期待を抱いて訓練に挑んだ

 

 

 

 結果として黒兎隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)の隊員達は、千冬の指導を受けた一年間で大きく成長した

 

 

 

 ただ一人、ラウラ・ボーデヴィッヒを除いて

 

 

 

 千冬が部隊を去って以来、彼女は隊員達より虐めの対象となった。体格は小柄、かつ部隊内でも最底辺に位置していた彼女は、ストレスを解消するには最適な()()だったのだ

 殴る蹴るの暴力や罵詈雑言は当たり前。訓練という名の下に徹底的に痛め付けられ、腰まであった長い銀髪は好き放題に切り刻まれた。食事を台無しにされることも多々あった。唯一、当時の隊長であったクラリッサ・ハルフォーフだけは彼女に気を遣っていたが、心を閉ざしてしまったラウラに彼女の声は届かなかった

 

 

 

 そんな日々が一年以上も続き、

 

 

 

 ある日、ラウラは軍の上層部よりIS学園への入学を命じられることとなる。同時に、黒兎隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)からの退役も

 兵士として生み出された彼女にとって、この命令は存在の否定に等しかった。理由を問おうにもなんの肩書きも持たない一介の軍人では、軍の上層部に連絡をとることさえも出来ない。いくら絶望しようと、いくら泣き叫ぼうと、彼女にはその命令を甘んじて受け入れることしか出来なかった

 

 

 

 そして彼女は、ラウラ・ボーデヴィッヒはIS学園の入学試験を無事に合格し、入学を果たした。自らの存在価値も、誇りであった隊の証である眼帯も失って……

 

 

 

 何より、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……

 

 

 

    △▽△▽

 

 

 

 俺は、俺と千冬姉はボーデヴィッヒの口から紡がれる言葉を、ただただ黙って聞いていた。淡々と語られる彼女の過去、これまでの彼女の様子から普通の生活をしてきた筈がないと思っていたが、正直ここまでとは予想していなかった。聞いたのは千冬姉がドイツを去ってからここに来るまでの間だけだったが、まさに壮絶の一言に尽きる

 

 「……すまなかった。わざわざ話させてしまって」

 

 暫しの沈黙を破ったのは千冬姉だ。ボーデヴィッヒに謝る千冬姉の顔からは後悔の思いが読み取れる。一年間とはいえ自分が受け持った教え子が、虐め虐められの関係になってしまったことに責任を感じているのだろうか

 

 「いえ……失礼します」

 

 そんな千冬姉へ控え目に頭を下げ、ボーデヴィッヒはとぼとぼと来た方へ戻っていった。その後ろ姿はあまりにも寂しくて、思わず後を追いたい衝動に駆られた。だが俺にはあいつに掛ける言葉が見当たらない。そんな自分が情けなくて、やけに苛立った

 

 「一夏……」

 

 「……なんだよ、千冬姉」

 

 不意に名前を呼ばれた。苛立っていたこともあって、いつも以上にぶっきらぼうに返事をしてしまう

 

 「こんなことを頼むのは教師として失格なのだろうがな……あいつを、ラウラを頼む。私ではきっと、あいつを変えることは出来ない」

 

 そう言う千冬姉はとても辛そうな表情をしていた。救うべき立場にいるのに、救えない。そんな無念がはっきりと表れている。千冬姉のことだ、ボーデヴィッヒがああなってしまったのは自分のせいだとでも思っているのかもしれない。あぁ、そういえば()()()も同じ顔をしてたような気がするな

 

 

 

 でも、そりゃ違うだろう

 

 

 

 千冬姉が気を病む必要なんて、ありはしない

 

 

 

 今だって、()()()だって

 

 

 

 「大丈夫だ、千冬姉」

 

 ──任せてくれ

 

 一言だけ言い残してから、俺はボーデヴィッヒが行った方へと向かった。幸いにもそこまで遠くまでは行ってなかったようで、目立つ銀髪と小さな背中はすぐに見つかった

 

 「ボーデヴィッヒ」

 

 ピタリと彼女の足が止まる。そしてゆっくりと振り返り、ギンと深紅の眼が俺を睨み付けた。話し掛けるな、近寄るな。俺には彼女がそう言っているように感じた。凄まじい威圧感で額に脂汗が浮かぶ

 俺は息を整えた。さっきは見当たらなかった言葉がどんどん浮かんでくる。そうだ、前から思ってたことじゃねえか。こいつは俺と似ているって。なら、俺が掛けるべき言葉だって沢山ある

 

 

 

 弾と鈴(あの二人)が俺に掛けてくれた言葉が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「晩飯、食いに行こうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……は?」

 

 彼女の目が見開かれる。一体何を言っているんだ、そんな感情がありありと顔に表れた。俺はもう一度息を整えてから、いつものへらへらとした笑みを浮かべてやる。そして一度止めた足を動かし、ボーデヴィッヒの横に並ぶ

 

 「……なんのつもりだ」

 

 ぞっとするような低音で呟かれる。でも不思議と怖くはなかった

 

 

 

 だって、こいつは昔の俺なのだから

 

 

 

 「別に、もうすぐ飯の時間だから誘っただけだ。一人で食うより二人で食った方が飯も旨く感じるからな」

 

 「……何故私に関わろうとする?」

 

 それは先程のような敵意のない、純粋な疑問だった。ボーデヴィッヒは此方を見上げ、じっと俺を見つめる。紅と金の瞳が綺麗だ、なんて場違いなことを思った

 

 「似てるんだ、お前が昔の俺に。独りにしてくれって雰囲気とかそっくりなんだ」

 

 ──だから、放っておけない

 

 その言葉にボーデヴィッヒは顔を歪めた

 

 「……貴様が私に?馬鹿を言うな。私には身内も、友も、存在する価値すらない。何も知らない分際で、分かったような口を利くな……!」

 

 「……そうだな。俺はボーデヴィッヒじゃねえからお前の全部は分からねえ」

 

 自分の存在価値とか、考えたこともねえしな。ボーデヴィッヒが何故そんなものに拘るのか、皆目検討もつかん

 

 「ならば──」

 

 「放っておけ、ってか?お前こそ馬鹿言うな。お前は俺のクラスメイトで同じ部屋に住んでんだぞ?仲良くやってきたいと思うのは普通だし、落ち込んでんなら力になりたいと思うのもごく自然なことだろうが」

 

 俺は一歩前に踏み出してやや戸惑った様子のボーデヴィッヒの前に立つ。お互いの視線が交差した

 

 「何故……貴様は……」

 

 「なぁボーデヴィッヒ、少しだけ昔話に付き合ってくれないか?」

 

 ふっと笑みを消して、俺は彼女に問うた

 

 

 

     △▽△▽

 

 

 

 ──と、その前にボーデヴィッヒは知ってるよな?第二回モンド・グロッソの真実をさ

 

 ──あぁ、そうだよな。ドイツ軍の人が俺を助けてくれたんだから、そのドイツ軍のボーデヴィッヒが知らない訳がねえよな。悪ぃ悪ぃ

 

 ──今からの話は第二回モンド・グロッソで誘拐されて、そんでその後俺が日本に戻って来てからの話だ。あの頃……ってのは変な話だが俺はごく普通の中学一年生だった。ISを動かせるなんて全然知らない、どこにでもいるような普通の学生だ

 

 ──ドイツから帰国してから、俺は普段通りの生活をしていた。ダチと駄弁って、適当に授業受けて、帰ってからはバイトに行って、そんな日々だ。千冬姉はドイツに残ってたから家には俺一人だったんだが……まぁ普通の生活だ。でもある日、一つの噂が学校に流れ始めた

 

 

 

 ──『織斑千冬がモンド・グロッソの決勝戦で棄権したのは織斑一夏のせいだ』って噂がな

 

 

 

 ──そんな馬鹿な、って思うだろ?そう、馬鹿な話だ。実際の正体は、女尊男卑でかつ千冬姉の熱狂的なファンの女子生徒数人が弟である俺を妬んで流したデマなんだよ。真実は日本とドイツ間にある国絡みの秘密で、俺が話したのも信用のある親友二人だけだった

 

 ──ただのデマだ。ただのデマなんだが……でもそれは真実だった。実際に千冬姉は俺が誘拐されたと知って決勝戦を投げ出した。あの人が決勝戦を棄権したのは、他でもない俺のせいだったんだ

 

 ──噂は瞬く間に学校中に広がった。俺は色んな奴から問い詰められたよ、『アンタのせいで千冬様は棄権したのか』ってね

 

 ──ん、なんて答えたんだって?俺は何も答えなかった。肯定も、否定もしなかった。ここで否定してりゃ良かったのかもしれないが……俺にはそれが出来なかった。理由は……どうしてだろうな。俺にも分からねえや

 

 ──で、そんな俺の反応から連中は何を思ったのか、噂を真実だと思い込むようになりやがった。あの時になって俺は漸く千冬姉の人気を理解したね。学校にいる女の大体8割……数にして150と少しが俺の敵になった

 

 ──そっからは今思い出しても酷えもんだ。机はいつの間にかぶっ壊され、持って行った荷物の幾つかは捨てられ、また幾つかは燃やされた。弁当は食う前にひっくり返され、運動靴は切り刻まれてバラバラ。休み時間には罵詈雑言が飛び交うのは当たり前、時にはいきなり殴られたりもした。顔も知らねえ上級生にいきなりキレられて殴られた時は思わず呆然としちまったりもしたな。地獄ってのはああいうことを言うんだろうって、ははっ……

 

 ──……悪ぃ。まぁこんな具合に学校中で俺への嫌がらせが始まった。でもすぐに終わると思ってた。人の噂も七十五日って言葉が日本にはあってな、どうせすぐになくなるだろうと思って抵抗もそんなにしなかったんだ。でも、現実はそうじゃなかった。俺への嫌がらせは千冬姉本人が直々に学校へ物申したって終わらなかった

 

 ──ん、味方はいなかったのかだと?いたさ。俺が秘密を話した二人のダチだけが俺の味方だった。一年の時に千冬姉は日本にいなかったし、そもそも心配させるのが嫌だから言わなかった。結局、それも暴力沙汰を起こしたせいでバレちまったんだがな。それに他の生徒は飛び火するのが怖かったのか全然俺に関わろうとしなかったし、極めつけが教師の中にもこの噂を信じるような女がいて敵に回ったことだった。嫌がらせは黙認され、授業を受ける用意を失った俺はぶん殴られて教室を追い出された。二人がいなけりゃ俺はろくに勉強も出来なかっただろうな

 

 ──ただ、やっぱり二人にも飛び火はあったみたいなんだ。俺に関わったばっかりにな。それを知った時、俺は二人を拒絶した。自分が傷付くのは構わなかったが、俺のせいで二人が傷付くのは我慢がならなかった。近付くな、独りにしてくれって、俺はダチにそんな態度をとった

 

 

 

 ──()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 ──でもな、ダチ二人は俺に関わることを止めなかった。何をされてもあの二人は俺を『織斑千冬の面汚し』でも『出来損ないの弟』でもない、『ただの織斑一夏』として接してくれた。飯に誘ってくれたし、休日には遊びにだって。誰も信じられなかった環境の中で、俺はあの二人だけは信じることが出来たんだよ

 

 ──だから、俺は今、この学園でこうしていられる

 

 ──……なぁ、ボーデヴィッヒ

 

 ──俺はお前じゃねえからお前の全部は分からねえ。お前がどうして兵士とか存在価値とかに拘るのかは知らねえけどさ……やっぱり放っておけねえよ。あの時の俺に似てる分、余計にさ

 

 ──俺はな、ただお前と仲良くなりてえだけだ。軍の人達がお前にしたことなんて関係ねえ。俺にとってのお前は『出来損ない』だとか『落ちこぼれ』だとか『存在価値がない』とかじゃなく、『クラスメイトでルームメイトのラウラ・ボーデヴィッヒ』なんだよ

 

 ──だからさ、ボーデヴィッヒ

 

 ──今日の晩飯、一緒に食いに行こうぜ

 

 

 

     △▽△▽

 

 

 

 「……」

 

 ボーデヴィッヒは何も言わなかった。俯いたまま服の裾をぎゅっと掴んで、ただ沈黙を貫いた。俺の気持ちは彼女に伝えた、だから、後は向こう次第だ

 

 「……下らん」

 

 ポツリと、唸るように彼女は一言だけ呟いた。するりと俺の横を抜けてゆっくりと歩を進める

 

 「貴様が何を言おうと、私に価値がないことには変わりない。私は出来損ないだ、落ちこぼれだ。その事実は……変わらん」

 

 「っ……」

 

 「……何をしている?貴様が言ったのだろうが」

 

 「へ?」

 

 俺は訳が分からなくて振り返った。そこには当然、仏頂面のボーデヴィッヒがいる。ただ、その顔には今までになかった微笑がある、ような気がした。気がしただけで本当に気のせいかもしれねえが、俺には確かにあいつが笑っているように見えた

 

 「晩飯だ。今日は気が向いたから一緒に行ってやる。来ないなら置いていくぞ」

 

 「……ボーデヴィッヒ」

 

 「ふん……早く来い」

 

 さっと身を翻して行ってしまう彼女を俺は慌てて追いかける。よく分からないがとにかく嬉しかった。ボーデヴィッヒの心を動かせた、そんな気がして俺は指摘されるまでの間、気持ち悪いくらいにだらしない笑みを浮かべていた

 




 はい、キリがいいのでここまでです。というわけで一夏のお友達になろうぜの誘いは一応成功しました
 こんな簡単に?と思う方もおられるでしょうが、ラウラはまだ『兵士ではない自分に価値はない』と思っていますので、根本の部分は変わっていません。一夏の認識も『有象無象』から『変わった奴』くらいになってるだけです。まだ堕ちません……まだ、ね

 一夏の過去も結構書きましたが、流石にあり得ない的な意見もあるかもしれません。お許しください、作者的には結構いいんじゃね?って思ったんです

 有名人ってか全女性の憧れ的な千冬の弟である一夏が何もされない訳がない、そんな考えから一夏の過去を作ってみました

 感想、疑問、批評、なんでも構いません。頂けたなら幸いです。次回は少し日常的なことを書いてからクラス代表決定戦までいけたらいいなぁ……
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