聖櫻番長のガールフレンド(仮)だらけな日常 作:クビキリサイクル
「戸村さん戸村さん」
「はえ? どしました橘センセ」
「聞いたよ? 新城君と爛れた関係になってるって」
「ええっ!?」
「本来なら反省文を提出してもらうところだけど、今回は花壇の草むしりで大目に見てあげます」
「ちょっとちょっと! なんですか爛れた関係って!?」
「新聞部の人に聞いたことだけど……え? もしかして間違ってた?」
「間違ってますよ! そんな証拠もないことに振り回されるなんて……」
「ご、ごめんね。ただのガセだったんだ……」
「そうですよ! あたしとカズくんの関係なんて」
「せいぜい同じお風呂に入って、同じ服を着て、同じ所で寝てるくらいです!」
「爛れてる爛れてる!」
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「ていうことがあって、私達で草むしりってわけなのサー」
「何もかもお前のせいじゃねぇか」
確かに同じ風呂に順番に入って、服を強奪されて同じ服を着て、同じ床で雑魚寝はしたが。
言葉の欠陥製品かよ。
そんなわけで俺達二人は花壇で草むしりをしていた。
園芸部が育てている植物は、この花壇と畑、室内物の三つの場所に分かれている。普通に考えたら有り得ないスペース占拠率だが、花も食物も育てて提供している園芸部の功績を考えれば納得できるだろう。その割には夢前以外の園芸部をあまり見かけないが、出席率が悪いのか夢前が頻繁に現れ過ぎているだけなのか。
名目上は園芸部である
おのれ。これだからマスコミは。頼もしい癖に、敵味方どちらであっても面倒事を運びやがって。
一緒に遊んだ姫島と東雲の名前まで出さない辺りが特にいやらしい。
雑草を引き抜く。
「なんつーか、説明下手だよなお前」
「何を失礼な! 私ほど言葉使いに長けたコスプレイヤーはいないですのことよ!?」
「ほほぅ、言うじゃないかトムトム」
「なにせ檻迎したら檻が出てくるからね」
「そっちの言葉使い?」
「遺言で月落とすし」
「それ俺が壊しに行かなきゃいけないの?」
流石に無理だし、死ぬわ。
ちなみに現在夢前は戸村とは反対の俺の隣で、ぽやぽやと雑草を抜いていた。
客観的構図としては仲良しオタクと単独の夢前である。
いや別に仲間外れにしてるわけじゃないんだけどね。ただ会話が盛り上がるにあたって、夢前はどうしても置いてけぼりです。
雑草を引き抜く。
「刀で空母を両断するし」
「続けんのかよ」
「何が狙いって聞かれたら、受け狙いって答えるしね」
「陰険院さんの! これでるきるき言彦くん対策ぅう!!」
「やったぁみんなずっこけて莫迦受けだね。やっぱり死にたての故人を冒涜した不謹慎ギャグは鉄板だなぁ」
一字一句丸暗記だった。
陰険さん好き過ぎ。
雑草を引き抜く。
「それにしても、あれの技名は微妙なのばっかりだったよねー。そもそも技が少ないっちゃ少ないんだけども」
「二つ名や能力名はワールド全開だったんだけどな。とても七花八裂を生み出した作者とは思えん」
「あれもあれで、他の技さ……」
「錆白兵をダイジェストで終わらしたのは許してない。未だに」
「予告の詐欺白兵さんかー」
「『お! 断片だけでも見れるのか!?』と原作読んだ人に思わせて、結局かませ忍軍三人が最強にやられる話だったし。ひどいったらありゃしねぇよ」
まぁあっちの最強も結構お気に入りなんだけどな。
雑草を引き抜―――いたところで、隣の夢前から「先輩方~」と声がかかる。
「お手伝いに来てくれて、ありがとうございます~。今日は、わたしだけじゃ大変な作業をするつもりだったので~」
「「遅っ!!」」
伝説的に遅っ!!
オタク二人の色濃い会話についていけなかった―――筈がない。
俺達が来た経緯を話す前は、黙って作業してたからだ。
沈黙に耐え切れず戸村が話し始めたのだって、少し間をおいてからだった。夢前の話すタイミングくらいあった。
俺達二人が来たときも雑草を抜きながらとはいえちゃんと返事はしたし、どの草をむしるのかを聞けばここの周辺とも頼まれたのだ。今まで俺達の存在に気付かなかったなんてこともない。
つまり、たった今思い立ったから言ったに過ぎないのだ。
思考速度遅―――遅くない?
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「
花壇の草むしりを粗方片付けた後、戸村が言う。
言いつけられた作業は草むしりだけだったが、一人じゃ大変だという作業があるならそっちも手伝ってしまおうか。
「お昼も済ませちゃったし、授業が終わるまでなら手伝えるよん」
「おいこら。手伝いにかこつけてサボろうとすな」
「え~っと~」
夢前は考え込む。
「うーんと~」
考え込む。
「ん~」
考え込む。
考え込む。
考え込む。
「う~」
「日が暮れるわ!!」
足に蟻が上ってくるのに気付かないくらい考え込まれてもだよ!!
花壇作業をするためであろう長靴を蟻が上ってきているという傍から見てるだけで割とホラーな状況。それに気づいても「わ~」としか言わない夢前の代わりに、長靴を越えて膝まで上り詰めてきた蟻を戸村と一緒に払ってやる。夢前は照れるでもなく「ありがとうございます~」と言うだけだった。
「とりあえず、何をしたいのかから言ってくれ。役割分担はそれから考えるから」
「はい~。ではでは~、土の入れ替えをしたいので、お願いしてもいいでしょうか~?」
「土の入れ替えかー。よし! カズくん! 君に決めた!」
「さては手伝う気もさらさらねーな?」
まぁ力仕事なら俺の出番だけど。
草むしりで大分よれよれな戸村に叱咤激励を送り、二人は芽が出たばかりの苗を一時的に掘り出していく。その間に、俺は倉庫から手押し車を引き出し、土袋を破いて積んでいく。土袋は一つだけなのでそのまま運んでもよかったが、帰りには入れ替える土を運ぶので手押し車は必要だ。どーせ持っていくなら行きで持っていっても変わらん。
ゴロゴロ転がし、二人の元へ着く。
流石に後輩と二人でいて自分だけサボるのは気が引けたらしく、せっせと苗を掘り出している戸村。手押し車を置き、二人の作業に合流する。
三人でやると意外と早く終わった。
「ではでは、土を入れ替えましょ~」
「頑張れカズくん! 略して頑くん!」
「いちいち癪に障るなお前のスタンス」
スコップを使い、花壇の土を横に除ける。二人は作業の邪魔にならぬ位置で座って休憩。一人掘っていく俺。
「えっさ。ほいさ」
「ん? なんか穴掘ってる」
「ふぅ~。ほぼ完成したぞぅ。戸村美知留用落とし穴」
「な、なんだって!?」
「ぐっきょりといい汗かいた」
「なんか嫌な汗だね」
「まったく戸村の奴。コスプレイヤーで有名になった途端、スター気取りで調子こいてるからな」
「こいてないよ失礼な!」
「この五メートルの穴で懲らしめてやる!」
「ご、ごご、五メートル!?」
「竹槍も仕込んだしー」
「殺す気か!」
「ひぃふぅみぃ……。よーし、ちゃんとトムトムの歳の数だけあるな」
「お誕生日ケーキか!」
「こんなのに刺さったらさすがの戸村の『おあまー』とか叫んで死んじゃいそうだな」
「そんな変な叫び声上げないよ!!」
「まぁー死なないまでも、激怒は必至だな。……あ、そうだ。トムトムがめっちゃ怒った時のために、ツナ入れとこ」
「それであたしの機嫌が直るの!?」
「ツナが大好き、トムトムミッチー」
「大好きじゃないよ!」
「上手く蓋してと……。うん。ここだけ全然土の色が違うけど、まぁ戸村なら落ちるだろう」
「落ちるかぁ!!」
「一週間かけて掘ったんだ。絶対見事に落ちてもらうぞぉ」
「? 掘ったのは今の筈では~?」
そんな感じでギャグ日和ごっこ『番長一週間』を一部お送りした。
続きはwebで。
ふざけている内に土の入れ替えが終わったので、今度はさっき掘り出した苗を植えなおす作業だ。
黒いカップのような小さい植木鉢に避難させていた苗達を、三人で手分けして植えていく。
「な~えを植えま~しょ~♪」
「み~ずをあげま~しょ~♪」
「す~くす~く、すこやかに~♪」
「おおきくな~れ~♪」
「素敵なお歌ですね~。お二人の即興ですか~?」
いいえ。ゲーム内音楽です。
掘り出した時も結構な数だと思っていたが、これもまた三人でやると早めに終わった。
「ふぃー。終わったー」
「お疲れ様ですー。とっても、とっても助かりました~」
「あっはは。まぁたまにはこうやって汗かくのもいいかもねー」
「いっつもバイトかコスプレ作るかのワーカーホリックが何か言ってます」
「にゃにをー! お金が出るならあたしももっと働きますねん!」
「そういう問題?」
「お金ですかー。部費から出るでしょうか~?」
「お前も本気で払おうとすんな」
ある意味ボランティア精神から縁遠い奴だった。
しっかし、なんだな。
これを一人でやろうと考えると、昼休み中に終わるような作業でないとわかる。
作業量もそうだが、夢前の筋力や作業速度では、諸々の作業自体ももっと遅くなっていただろう。俺達が体罰を受けていたからいいものを、そうでなければ放課後になっても終わるかわからない。
……他の園芸部を頼るなりすりゃいいのに。
「春瑚みんさー、いつもこれを一人でやってるの?」
「? いえー。いつも、というわけではありませんよ~?」
「その割には他の部員をあまり見かけねぇけど」
「ん~。……多分なのですけど、あまりお花に興味が無いのだと思います」
夢前はなんでもない風に言う。
いつものことだとでも言うように。
「園芸部は歴史の古い部活ですけれど、今では人気のないものですから~。成績があまりよくなくて、帰宅部というだけでは評価が悪いから、在籍だけでも、と言っておられました~」
「幽霊部員ってやつか」
「……先輩なのに、ちゃんと働いてる春瑚みんに向かって言ったんだね。辛くない?」
「いえいえ~」
心配そうな顔を向ける戸村ににぱ~と笑う夢前。
「わたしのは、ほとんど趣味の延長線のようなものですので~。お楽しみを独り占めしてしまって、申し訳ないくらいです」
「ううっ! なんて、なんて良い子! よっし! そんな春瑚みんには……」
戸村は上着のポケットから何かを取り出す。紙のような何かだと思って見てみると―――
「これあげる! ファミレスのサービス券! デザートのパフェが半額! 今ならお買い得ですよ!」
「わ~。ありがとうございます~」
「へぇ。先輩らしいところあるじゃん」
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「いっらっしゃいませ~♪ 何をお召し上がりになりますか~?」
「そうだね。まずは俺の感心から返してもらおうかな」
放課後。
早速サービス券対象のファミレスに向かうと、戸村が制服のエプロンに身を包み、営業スマイル全開で働いていた。
「君の感心はもうどこにもいないんだ。君も夢から覚めて、現実と向き合う時なんだ」
「健気な後輩に感動してサービス券をあげる先輩なんてどこにもいなくて、バイト先の売り上げ貢献に付き合わされた二人がいるだけなんだね。悲しい現実だよ」
「いやいや。サービス券に関しては何か言われる筋合いないよ。……おおっ、…そうか…。これこそが、無償の愛……!!! ってやつだよ」
「種の頂点、女王の域にまで到達したのか。人類にとってあまりにも危険な『愛』なのか」
「ていうかカズくんまで来たんだ。春瑚みんだけにサービス券あげたのに」
「わたし、ファミレスに来た経験があまりなかったので。先輩に案内していただいたのです~」
「貰ったはいいけど場所が分かんないっつーからな。まぁついでだしと思ったわけだよ」
「そっかそっか。それじゃーご注文を、どうぞ!」
「水で」
「頼まないんかーい!!」
ルネッサーンス! とおちゃらけたところで、戸村は注文受けの電子盤らしきものを取り出す。
このファミレスは初めて来たが、しかし制服のエプロンドレス似合うなぁ。この前行った(連れていかれた)メイド喫茶で働いてた時に比べても大人しめな制服とはいえ、他のバイトの子より堂々としてるのがわかる。
流石、有名コスプレイヤー・トムトムミッチーと自他共に呼ばれているだけはある。何着ても映える奴だ。
「ではでは~。わたしは頂いたこのチケットで、こちらのストロベリーパフェを~」
「はいは~い。ストロベリーパフェ一つ~。ねぇ旦那~、水なんてケチくさいこと言わないで、何か頼んでよ旦那~。あたしに投資すると思ってさ~」
「俺がこのファミレスのレジ箱にいくらくれてやろうとお前の時給はビタ一文上がりはしねぇ」
「悲しいこと言うなよぉ!! みんな真面目に働いてたら給料が上がる夢を見てるんだよぉ!! なんならチップでくれても!」
「それもうお小遣いあげてるだけじゃん!」
「ねぇお兄さ~ん? お小遣いちょうだ~い。代わりにイ・イ・コ・ト♥してあげるからぁ~」
「援交か!」
いたいけな後輩の前で洒落にならないボケかましてんじゃねぇ!!
「大体投資ってなんだよ。お前に投資したら何が返ってくんの?」
「そりゃあれだよ。君に着せる衣装が完成するんだよ」
「すごいね。話してるだけでどんどん注文する気が失せてくる」
「ああ! あたしの株価が大暴落!」
「買う価値があれば買い時なのになぁ……」
「なんでさ!? 衣装だよ!? 君の衣装のためにあたしが毎日色んなところでバイトして! 疲れた体に鞭打って布をチクチク! 閉じかける目をこすってチクチク! 朝起きてもチクチク! 休みの日にもチクチク! チクチクチクチクしてるっていうのに! カズ君はそれを応援もしてくれないの!?」
「良心の呵責と他の客からの視線のいたたまれなさで責める方向に持っていくな!! ありがた迷惑させてるだけのくせに!!」
「およよ~およよ~」
大変ムカつく感じで泣き真似始めやがった。
ああ、もう。
「じゃあこのトロピカルパフェ
「うちで一番高いパフェじゃーん! カズ君愛してるー♥」
「やっすい愛だなーおい」
戸村美知留の愛:1500円(税込み)。
どこぞの蝸牛の迷子だったら、ファミマで298円で買える愛だが、5倍価格でも安っぽく思えた。
セットでパフェも付いてくるし。
「ではでは~少々お待ちを~」
そう言って戸村は店の奥へと消えていった。
基本的にホールは女子、厨房は男子で固めるのがこのファミレスのようだが、戸村はホールでの接客も厨房での調理もレベルが高いので、そのどちらも臨機応変に対応しているらしい。他の飲食店のバイトでも似たような状況ではあるが、「大変だけど、その分給料も弾んでくれるからね~」と語っていた。
それもこれもコスプレと、漫画、ゲーム、その他諸々のオタグッズのためなんだよな。
オタクは金が掛かるもんだが、あいつ程時間も金も掛けてるのはレアだろうなぁ。
趣味に生きるという言葉を体現したかのような存在だ。
「お二人は~」
「ん?」
「とても、仲が良いんですねぇ~」
「んー」
対面の席で見てた夢前にそう言われる。
……まぁ確かに。
交流関係はかなり広い俺だが、戸村含む数人に至っては「仲が良すぎて気持ち悪い」とか耳にしたことあるくらいだしな。
「善吉と不知火か!」なんて二人して突っ込んだのも懐かしい記憶だ。
男女なのに話が合い過ぎて、当の俺でさえたまに怖くなる。
「わたしは、お話しするのがゆっくりなので~。お二人のように~……えっと~」
「テンポ良く」
「テンポ良くおしゃべりできないので~、お二人が羨ましくなります~」
「お前がテンポ良く喋るのも今更想像できんけどな……」
「お二人のように仲良くなれれば、わたしも先輩とあんなおしゃべりができるのでしょうか~?」
厨房の方を見て、こてんと首を傾げる夢前。
「……そりゃ、戸村みたいになれば戸村みたいなやり取りは出来るだろうけど」
「はい~」
「でもそれとこれとは別物だろ」
夢前は羨ましい、と言うが、正直俺はあまり夢前にそうなってほしいとは思わない。
戸村はオタク関連の話で気兼ねなくマシンガントーク出来る友達だけれど。
求めているものが違うのだ。
昼に考え込んだ時は怒ってしまったが、夢前と話してる中の、ゆったりした時間だって俺は気に入ってる。
俺にとっちゃ、どいつとのどんな時間も、捨てがたい時間なのだ。
「お前がああなりたいってどーしても思うなら協力しないでもないけどさ。ほら。別に俺達みたいでもなくても、お前だって不知火と仲良いだろ」
「ん~。そうですね~。五十鈴ちゃんとは、子供の頃からの付き合いですから~」
「ゆっくりとしか話せないっても、俺はそういうゆっくりしたのも好きだからよ。仲良くなれないなんてことないだろ」
「…………。……そうですね~」
「…………ん?」
なんかいつもとは違うテンポの遅れ方したような……?
なんてやっていると。
「おっ待たせしました~♪」
戸村がパフェ2つを盆に乗せてやってきた。
「ストロベリーパフェとトロピカルパフェ
「え? なんか見えんのお前」
「いえいえ~。なんでもないですよ~」
テーブルに配られたパフェ。
目の前に置かれたストロベリーパフェから、クリーム部分をほんの少しと、ソースがかかった苺をスプーンで掬い上げ、夢前は頬張る。
「甘くて、とろとろにとけちゃいそうですね~」
幸せ満開の笑顔が、そこに咲いていた。
あまり見ない組み合わせをしたいにしても、同時に動かすにはあまりにも扱いきれなかった組み合わせだったって感じです。
こういう日常って、思い浮かんでも四コマ漫画みたいな構図で短いのばっかりなんですよね。四コマ的日常ってタイトルでそういうの詰め込んでみようかしら。
次回は燕くんの過去回想第二弾で、魔改造ヒロイン第一号が出る話を……出来たらいいなぁ(願望)