聖櫻番長のガールフレンド(仮)だらけな日常 作:クビキリサイクル
中々筆が進まないのもあったんですけどね。
前後編と言いましたが、ちょっと展開的に分けた方が良いと思い、中編を挟みました。嘘予告で申し訳ありませぬ。
「もう始まってるみたいだ。急がないと」
お手洗いで出来るだけ身綺麗にして、急いでステージの方へと向かう。
スタッフ専用ではない道を通ってもお客さんの人達が全く見当たらないこと、設置されたスピーカーから歌声が流れていることから、既にステージは始まっていることが容易に想像ついた。今回行うライブは複数のアイドルが順番に歌う形式で、真白さんは最後から三番目に歌うので、ステージに上がるまでの時間的余裕はある。けれど、兄貴のお言葉に甘えて、休んでるわけにもいかないだろう。
僕が足手纏いなのはわかってる。
だからって分不相応だと何もせず突っ立てた所で、何も変わらないのもわかってる。
「……どうしたらいいんだろう」
ふと、足が止まる。
今すぐ僕が強くなるなんてのは無理な話だ。
この仕事をやり遂げるためには、弱い僕が弱いままに、乗り越えなければならない。倒されるばかりで兄貴に尻拭いさせるだけじゃ、仕事したなんて言えないだろう。
弱いなりに、僕がやれること。
そんなこと、あるのだろうか。兄貴の中には、答えがあるのだろうか。力がなければ出来ることは限られてくると言った兄貴の中に。
「…………そうだ。真白さんにも、なんて言うか決めておかないと」
僕の余計な一言のせいでプレッシャーを与えてしまったのだから、僕がそれを払ってしまわなければならない。
こんなことに模範解答があるとは思えないけど、答えを見つけなければ。でなければ僕は、兄貴だけじゃなく真白さんにまで迷惑をかけることになる。
でも、なんて言えばいいんだろう。
なんて言えば、真白さんはプレッシャーなくステージに臨めるだろう。
答えの出ない悩みを抱えながら、僕はステージに歩き出す。
僕の居ぬ間に真白さんがステージに上がってしまっては、元も子もない。
僕がいない方がいいんじゃないかと、悩みと同じくらいの思いを持ちながら。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
ステージは大きくもなく小さくもなく中くらいで、あれほど熱狂的なファンがいるアイドルが複数人で開催するとは思えない規模だった。
ステージ横の観客からは見えない位置にアイドル達、勿論真白さんと兄貴も控えていた。今アイドル個人個人についているボディーガードは一人ずつのようで、他の面々は客席側についている警備員と合流している。僕達は例外として客席側に合流しなくてもいいことになっている。
僕がステージ脇に到着した頃に、真白さんの前のアイドルの歌が始まる。一人一人のアイドルの持ち時間は10分程。つまり、残り10分で真白さんの歌が始まるのだ。
さて、二人は――――――いた。
「お待たせしました」
「おー。おかおか」
「…………」
ひらひらと手を振る兄貴。
真白さんからの返答はない。
ただただ、今歌っているアイドルのステージと、それを見て、聞いて、熱く盛り上がるお客さんに視線が注がれている。大根おろしによるリラックスは果たされなかったようだ。
「……で、どうよ?」
「……正直自信は無いんですけど、僕なりにまとめてきました」
「ん。じゃあ言ってみろ」
「…………」
「…………」
「…………」
「……あ、あのぅ」
ゆっくり深呼吸して、僕は真白さんに話し掛けた。
「僕がさっき言ったことですけど、気にしないでください。その、僕お仕事って初めてですから、何の説得力もありませんし、真白さんなりの仕事に対する考えを大事にしてください」
「……私なりの考え、ですか」
ようやく真白さんから反応が返ってくる。その視線は未だステージに注がれていたけど、話は聞き取れているようだ。話を続ける僕。
「僕は真白さんについて何も知りませんけど、きっと大丈夫です」
「…………」
「プロデューサーの人は、新人の中でも特に歌声が綺麗なアイドルだって言ってましたから、だから」
「歌えればいい、ってことじゃないんですよ」
「……え?」
肩越しに振り返り、ほんの少しだけこちらに目を向ける真白さんは、微笑んでみせた。
僕が見て分かるくらい、無理して作ったものだった。
「確かに、プロデューサーも先生も、身近な人は私の歌を褒めてくれます」
「じ、じゃあ……」
「でも、レッスンの中じゃ自己完結じゃないですか」
真白さんが左手で掴む右腕は、微かに震えている。
「私が歌える、踊れる。それは、見てるお客さんが満足してる、ということにはなりません。満足できる結果が、目に見えなくて、自分で決められないんです。……そんなの当たり前なんですけどね。これなら、学校のテストの方が気楽だったかなぁ」
「…………真白さん」
「…………ステージに立つのが怖いなんて、おかしいですよね。アイドルなのに」
そう呟く真白さんは、自虐的な笑みを浮かべる。
それはいけない。そう思っても、僕にはそれを止める言葉が見つからない。
「失敗することが怖いわけじゃ、ない。恥をかくことが怖いわけでも、ない」
「…………」
「せっかく、せっかく期待してくれていた人達の、その期待に応えられずに、失望させて……」
真白さんが言う、期待をかけてくれる人達というのは、きっとお客さんだけではないだろう。
このステージを作ったスタッフさん。仲間かライバルか分からずとも、互いに高め合う同じアイドル。もしかしたら僕達までも、その中に入っているかもしれない。
「なのに、私が慰められることが、一番辛いんです」
それは紛れもない本心だった。
僕だったら、失敗することは怖いし、恥をかくことだって怖い。
緊張でどうしようもなくなるし、不安でいっぱいになるし、まともに動けるとは思えなかった。
対して、真白さんはどこまでも他人の心配だ。期待している人達を想って、無理な笑顔を浮かべて、腕を震わせている。
立派だった。
ずっと自分の事だけだった、僕とは比べられる筈も無い。
ステージは佳境に入る。
真白さんの出番が近付く。
黙った僕を尻目に、真白さんは自分を抱くように、右手でも左腕を掴もうと手を伸ばす。
「だから、必死にやらないと―――」
「必死にやって、どうすんだ?」
真白さんの右手が、止まった。
次いで、驚いたように振り返る。
僕も驚愕して、バッとその声の主を見た。
視線の先は、今まで一言も発さなかった兄貴。
「ど、どうするって……」
「必死にやれば、いつも以上の歌が歌えるか? いつも以上に踊れるか? まぁそれを否定する気はねぇよ。俺も似たような経験はあるし。でもな」
兄貴は呆れたような顔で、真白さんの顔を指差す。
「どれだけスゲェパフォーマンスされようが、そんな顔でステージに上がる奴見て、楽しめなんかしねぇよ」
「……っ!」
言われ、真白さんは自分の頬を両手で挟むように触れる。
どんな顔をしているのか、客観的に示唆されたからだろうか。
兄貴は続けた。
「まるでこんなステージ来たくなかった。ファンの人に会いたくなんてなかった。そんな風に見えるぜ?」
「ち、違……そんなこと」
「ないだろ。じゃあ何を怖がることがある。それに、客席にいるあいつらは敵じゃない。味方だ。お前の歌を聞きたくて、踊りを見たくて、顔が見たくて、遠路はるばる金払ってやってきた、お前のファンだ」
「……そのみんなが、失望したら」
「期待持たれようが、お前は今のお前の力を出し切るしかねぇだろ。それ以上にやることっつったら、一つだけだ」
ステージを指差し、兄貴は言う。
「楽しんで来い」
「「…………え?」」
僕まで間抜けな声を出してしまった。
「精一杯楽しんで来い。それこそ必死に、無我夢中になって楽しんで来い。あそこの狂喜乱舞してる客共をそんなもんかって嘲笑うかの如く、お前のステージを楽しんで来い」
「た、楽しんで来いって、そんな無責任な……」
「良く考えてみろよ。ステージに立つアイドルが、心から楽しそうな笑顔を浮かべて、そいつの精一杯のパフォーマンスと、自分達への嘘偽りない感謝を届けられて…………失望するような奴がいるか?」
「それは……いないですね」
答えたのは僕だった。
確かに、そんな人種は、このステージに足を運ばないだろう。
「お前は、キャラ作りでもなんでもない、心からファンを想う気持ちがある。ファンを想って、思い悩む事が出来る。だったら、正直でいればいいんだよ」
「正直で……」
「それでも、期待に応えられなくて失望されたと思ったなら―――」
真っ直ぐなその視線に、僕も、真白さんも引き込まれそうになる。
それだけ、その言葉と眼には力があると思わされた。
これが本当に「強い」という事なら、僕はこれまでの人生で「強さ」を持った人間に出会っていなかったことになる。
「笑ってやるよ」
「……笑、って?」
「お前が背中を丸めた姿を指差して、げらげら笑ってやんよ。惨めさ際立つ感じでな」
「あ、兄貴? それは如何なものかと……」
「慰められるのが辛いって言ってんだ。だったら、こっちも正直な反応してやんのが良い」
そんで、と言う。
「お前が楽しんで、笑ってステージを降りてきたら、最高だったって言ってやるさ」
……そう言われた時の真白さんの表情を、どう表現すればいいだろう。
驚きに満ちたような、喜びに満ちたような、その他の様々な感情にも満ちているような。
少なくとも、悪い感情が表れたものではないと思った。
「………いいのかな?」
呟くような、真白さんの声。
ここまでずっと変わらなかった敬語が、取れていた。
「私も、楽しんでもいいのかな?」
「いい。俺が許可する」
腕の震えが止まった。
「みんなの声に、ただ喜んで、笑顔で返してもいいのかな……?」
「むしろそうして欲しくてどいつもこいつも来てんだろ。存分にやれ」
表情の強張りが、緩んだ。
「…………うん。それならちょっとだけ、出来る気がする」
「だったら、行ってこい」
一度目を閉じ、深呼吸して。
「――――――行ってきます!!」
ステージが終わり、先のアイドルへと入れ替わる。
真白さんは、一歩を踏み出す。
それは、この短い間に見てきた真白さんのどんな歩みよりも、力強かった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
―――駄目だなぁ、僕は。
視線の先、観客席はこれまでのステージと勝るとも劣らない盛り上がりだった。
誰も彼も真白さんのステージに不満を持たないような顔は見られない。それは他の人は勿論、話を聞いただけの僕でも予測できていたことだ。
ただ、ステージ上は違った。
視線をステージに戻す。
そこには笑顔があった。
アイドルという職業柄、歌って踊って笑うなんて当たり前だろうとは、僕も思う。けれど、今真白さんがその顔に浮かべるそれは、ステージのライトさえ霞むような光輝くようなそれは、きっとこれまでにない魅力を生み出しているのだろう。今まで彼女の活躍を目にしてきたアイドルにも、プロデューサーにも、スタッフさんにも、予測できなかったことだったことだろう。その呆けた、見惚れた顔が物語っている。
ちらりと、この驚きの光景を作り上げた隣人を窺う。
笑ってる。
これには、真白さんのステージ以上に驚かされた。
出会ってからというもの、僕はこの人の笑った顔を見たことがない。
まずもって過ごした時間が一日ちょっとだからというのもあるけれど、今まで浮かべた表情は大半が呆れた顔、後は驚いた顔と、怒った顔がちょっと。さっきの強さが表れた顔を何と表現すればいいかは分からないけど、それらが僕が見てきた兄貴の表情だ。それだけ言うとただ無愛想な人だと思うけれど、その実、厳しくも暖かな心の持ち主であることは、この短い時間の中でも疑いようがない。しかし、あまりに他の表情を見せた様子が無いから、余程の事が無い限り笑わないのだと思っていた。あるいは、今ステージにいる真白さんの様子が、この人にとって余程の事なのか。
彼が浮かべているのは、楽しいものを見つけたかのように愉快気に歪む口元と、親が子を見守るような優し気な目元と、なんだかちぐはぐな印象を受ける笑みだった。
その表情に兄貴の人間性を垣間見た。そんな気がした。
これまで浮かべた表情にも嘘は無いと思うけれど、本質と言えばいいだろうか。
「どう思うよ」
不意に、そんな兄貴から声が掛かった。
「ぅえ? な、何がでしょう?」
「真白だよ真白。あのステージ見て、どう思う?」
言われ、ステージに視線を戻す。
その先、真白さんの歌は観客の声を意に介さないかの如く響いてくる。その顔は、兄貴に言われたように、一心不乱に楽しんでいるようだった。
無論、僕でも知っているような有名なアイドルと比べてしまえば、技術の粗のようなものが目につかないこともない。僕でさえそう思うのだから、その道のプロにしてみればまだまだといったところだろう。
しかし、だ。
今の彼女にはそれさえも、眩しいのだ。
美点も欠点も呑み込んで、光に変えたような輝き。
「―――凄い、ですね」
「お前はさ」
「……?」
「いちいち俺と比べて、落ち込んでんのが目に見えてんだよ」
「うぐ」
図星を的確に突かれた。
でもなんで急に?
「……それと真白さんになんの関係が?」
「今のあいつはスゲェだろ?」
「え、ええ……」
「じゃあ、何を
「…………?」
兄貴の凄さに拘る?
確かに兄貴は凄いだろう。
最初に出会って見せた理不尽をものともしない暴力に限らず、人間性や、本質の強さ。きっとこれからも凄い所が出てくるに違いない。
僕もその凄さに少しでも近付こうと―――
(あ)
近付こうと、どうしてた?
必死に頼み込んで、その姿を間近で見て。
自分が出来ないことをあっさりやってのける兄貴を見て、落ち込んで。
兄貴と同じことが出来るようになりたいと、
「……拘ってたんですね。僕」
「そうだな」
真白さんを見てみる。
彼女は、凄い。そう心から思う。
アイドルになれただけでも凄い。なのに、それに満足せず、見に来てくれる人の事を考え、精一杯頑張ろうとする姿も。
今、ステージで輝く姿も。
例えそれが、明日になれば消えてしまうような、一夜限りの魔法だとしても。
「真白も凄いんだと、俺だけじゃない
「……何を、ですか?」
「俺にはまだ見えない、
「僕の……」
僕の、凄さ。
「どうしたって、お前は俺にはなれないし、それは俺も同じだ。今あそこにいるあいつにしたって、誰かになんてなれやしない」
あるんだろうか、僕に。
胸を張れる、何かが。
「それでもなれるんだよ。
真白さんが、ステージを駆け下りてくる。
永遠のような、あっという間のような時間の中、彼女の歌が終わっていた。
「おう、お疲れさん」
「……お疲れ様でした」
「はぁ……ふぅ……はい。あの」
「ん? どうした?」
「ど、どうでしたか?」
何故だかこちらを窺うように尋ねる真白さん。
僕と兄貴は顔を見合わせ―――にんまり笑って言った。
「「超最高だった(でした)!」」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
真白さん―――今更だが、芸名でCOTOと呼ばれているそうだ。なのに本名を知ってた侵入者……恐ろしや―――のステージが終わり、その後も恙なくイベントは進み、無事終了の運びとなる。
ステージが終わり、真白さんを控室に届け、侵入者が何故かステージ前の倍の数くらい来た後、僕等は僕等に割り当てられた控室に戻った。
そして、入り口で挨拶したスタッフさんに呼ばれた。
「二人共、お疲れ。いやぁ今日は大漁だったね」
「あ、お疲れ様っす」
「お疲れ様です」
侵入者とはいえ、客相手に大漁とは。
警備員の客は雇い主だから、それに害するのは客じゃないと意識が徹底されているんだろうか。
「うむ。雇い主を自宅に送り届けるまでが我々《剣警護》の仕事だが、君達のシフトはここまでだ。よって、給料を渡しておこうと思ってな。現金手渡しで良かったかな?」
「ええ。俺はともかく、こっちの円岡は自分の口座持ってないもんで。これを機に作らせてもいいんすけど」
「そうしてくれたまえ。うちはいつでも人手を歓迎しているからね。口座がある方が面倒がなくて助かる」
「……今後も参加する前提で語ってますね」
「もちろん君が良ければだがね。次回以降は書類も必要ないだろう。なんなら、卒業後の就職についてもうちは優遇させてもらうよ?」
「どれだけ人手が欲しいんですか……?」
警備員なんて地味な仕事だから、人気がないと思うなかれ。
さっきちょこっと調べてみたらこの剣警護、なんと全国の地方に最低三つは支部を持つ、日本最大の警備会社なのだ。
僕達の親世代が設立したという若い会社でありながら、支部の一つ一つがその地域の安心と信頼を勝ち取り、それに応えてきた。中でも本部と、最近支部長に昇格したという若手が治めるNo.2の支部に至っては、この国の重鎮を始め、諸外国の大統領や外交官、果ては王族までもを警護している。「なにその漫画の世界……」みたいな感想が浮かぶスーパー警護会社なのだ。
ちなみに、僕達のこの仕事はそのNo.2支部預かりのものだとその時に知った。
世界を股にかける剣警護No.2支部がアイドルの警護をしてるのに驚けばいいのか、その剣警護を雇えるような真白さんの事務所に驚愕すればいいのか、そんな警護会社が気軽にバイトを雇う所に突っ込めばいいのか、その警護会社のバイト情報を普通に知ってたっていうか普通にコネ持ってた兄貴を問い詰めればいいのか、僕には判断つかない。
ていうか、その支部長に昇格した若手って、「木戸さん」だったような……?
謎は深まるばかりだ。
「わざわざ僕に声を掛けなくても、十分優秀な人材は集まると思うんですけれど」
「その優秀な人材に声を掛けているつもりだがねぇ」
「……お世辞ですよね?」
「いいや? 私も長いことこの仕事に就いているが、君程我慢強い子も最近では中々いないからね。身体は作ればいいが、心はそうそう鍛えられるものでもなし。うちでは新人ベテラン関係なく鍛えることに重きを置いているから、今の体格だとか気にすることはないよ?」
「はぁ」
「信じてないねぇ。まぁいいだろう。とにかく、これが君の分だ」
そう言って茶封筒を手渡してくるスタッフさん。
「ありがとうございます」
受け取る僕。
確認してくれたまえ、という言葉に従って、封筒を開き、金額を確認する。
……考えてみれば、僕の人生で初めて自分で稼いだお金なんだな。
そう思うと、紙幣と硬貨しか入っていないこの茶封筒が、重く感じられ―――って、あれ?
「あの」
「うむ?」
「……事前に聞いていた給料と手当を総合しても、このお金と計算が合いません」
「少なかったかい?」
「多いんです」
具体的には、諭吉先生が一名程。
「ふむ、そうか」
「はい、多いです」
「多い分には問題ない。受け取りたまえ」
「…………え?」
「ボーナスだよ。君の働きに対するね」
「ちょ、ちょっと待ってください! 僕達の所は他より多かったと聞いてますけど、それは全部兄貴の働きで―――」
「何を言うんだい。君も後半の動きは良かったじゃないか」
「――――――――――――」
「上背の低さを利用して相手を転がす。確かに、新城君がいてこそ発揮される足止めだが、随分やりやすくなったろう?」
「そうっすね。転んだ奴に踵落とすだけの簡単なお仕事でしたし」
「そういうことだが、納得したかい?」
……あの後、僕はとにかく倒されないようにと必死で、相手の下に潜り込もうと試行錯誤した。
最初の内はそりゃあそのまま床に叩き伏せられたけれど、段々と足にしがみつけるようになり、転ばせられるようになった。
「おーい、円岡くん?」
「なに? どしたん?」
僕一人でなんとかできるならそれに越したことはないけれど、それについては諦めた。だから、せめて倒せる兄貴の力にと思ったんだ。
これぐらい出来なきゃ、連れてこられた意味がない。そう思って。
でも、こんな……こんなの……。
「ん、んんっ!? どどどうした!? 何故泣くんだい!? もしかして少なかったか!? 君の怪我に対してその手当では足りなかったか!?」
「今の話の流れでどうしてそうなる……」
いつの間にか涙が出てて、余計な心配をさせてしまったようだ。
慌てて涙を拭う。
「ご、ごめんなさい。これは嬉し涙ですから、問題ないです」
「そ、そうか。ならいいんだが」
この人、この現場を管理してるみたいだし、剣警護でも結構偉い人だと思うんだけど、これで務まってるんだろうか。
仕事の時は切り替わるタイプだと思うけれども。
「色々と……本当にたくさんの事をありがとうございました。バイトの身でしたけど、感謝しきれません」
「ふむ。気にすることは無い。この仕事で何かを得たというなら、それは君の力だ。愚昧な輩は、何をやっても上達しないからね」
お疲れ様と、最後にそう言って貰い、僕はこの会場を後にした。
次回はなるべく早く更新したいですけど……大丈夫かな。またデスマーチしそうなんだけど。
ちなみにこのスタッフさんの再登場予定は、ないです。あって木戸さんのお付き、かな?