聖櫻番長のガールフレンド(仮)だらけな日常   作:クビキリサイクル

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多分誰も覚えてないでしょうが、投稿します


不知火五十鈴と猫と勉強と虹と(前編)

 

 

 

 人間にせよ動物にせよ、生き物を捨てる、というのは無責任なことだ。

 育てるのに金も手間も掛かる存在で、経済的、精神的な理由で育てる事が出来ないと諦めるのは仕方ない。理想と現実が食い違った結果もあるだろう。しかしそれならそれで、人間ならば孤児院に、動物ならば動物保護団体なりペットショップなりのきちんとした施設に出せばいいのだ。

 その施設が本当にきちんとした施設なのかを見極めることは難しいだろうが、山奥や道端に捨てるよりは幾らか建設的だろう。良心的な人間が現れるなんて都合のいいことを考えて、遠回しにその生物を殺すような真似をするよりは。

 まぁ、それも見つければどうにでも出来る立場の俺だから言うので、本人達にはやんごとなき事情があるのかもしれない。別に知りたいとも思わないが。

 

 頭が良い方ではない―――少なくとも学業には上手く働いた試しがない―――俺は、同学年の不知火五十鈴がその小さな体で抱えて持ってきた、上の開けた段ボールの中身を見下ろして、そんな益体もないことを考えた。

 

 

「今失礼なことを考えなかったか?」

 

「別に。ただ、捨てる人あれば拾う人あり、なんてそんな格言を思い出しただけだよ」

 

 

 その中身には、にゃーにゃーと頻りに鳴く五匹の子猫がいた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 勿論不知火がそんな無責任な人間だという話ではなく、むしろ子猫達、或いは捨てた人間にとって都合よく現れた良心的な人間だという話で。

 しかし、ならば自分が飼う、というわけにもいかないので、こうして学校に持ってきたというわけだ。

 その段ボール(子猫入り)は、今は櫻井の手に預けられている。

 覗き込むC組女子達。

 

 

 みゃー にゃー

 にゃう

 

「かわいいなぁ~」

 

「本当だにゃ~」

 

「見吉さんまで猫になってるけど?」

 

「ありゃ?」

 

「どこで拾ってきたの?」

 

「拾ったのは私じゃなくて不知火さんなんだけど、道端に捨てられてたから持ってきたの」

 

「そうなんだぁ。可哀想にね」

 

「明音ちゃんが飼うの?」

 

「出来ればそうしたいけど、うちのマンションペット禁止なんだよねぇ……」

 

 

 問われ、一つずつ丁寧に答えていく櫻井。

 その背後に迫る影。

 ……なんて言っては物騒だが、普通に月白先生である。

 

 

「……櫻井さん」

 

「あ、先生。おはようございます」

 

「おはようございます。それはなんですか?」

 

「にゃんこズです」

 

「見ればわかります。何故子猫を学校に持ってきているのかと聞いているのです」

 

「えっと、貰ってくれる人がいないか、聞いてみようと思って……」

 

 

 飼えないなら里親を探そう。というわけだ。

 本人が飼えるならそれに越したことはないだろうが、その辺の折り合いをつけないから捨てる人も出てくる。

 世の中、可愛いだけじゃやっていけないのだ。

 世知は辛い。

 

 

「むむ…………」

 

 

 ……拾った後もこうして様子を窺いに来る奴もいるから、捨てたものでもないが。

 不知火は2-Cの生徒ではないので、教室外から二人が話し合う様子を眺めている。なにもそんな壁から顔を出すようにでなくてもいいと思うが、そこはまぁ気分的な問題だろう。

 そしてその不知火と壁を挟んで隣に寄りかかる俺。

 平均より高い背の俺から見下ろすように、艶やかな黒髪の頭頂部に語り掛ける。

 

 

「何気に好感触。これなら飼いたいって奴も出るかもな」

 

「だといいがな……。きみの家はどうだ?」

 

「うちは無理だな」

 

「無理か」

 

「無理」

 

 

 経済的な面ではなく、世話をかけてやれる人間がいないという意味で。

 お袋は外国に飛んでて、年に数回、少し長めの休みをもぎ取って帰ってくるくらいだから論外。親父も立て込んでたら何日も留守なんてざらにある。俺も学校があるし、たまに仕事があって夜になっても帰ってこない日がある。

 留守にする間は隣の上条家に頼る手もあるが……それなら最初から上条家に飼わせた方がいい。

 

 

「と言っても、親戚のあいつなら五匹まとめて引き取っても全然問題ないが」

 

「そうなのか? なら」

 

「ただあんまりおススメしないな」

 

「……何故だ?」

 

「…………先住民の動物達がな」

 

「そんなにいるのか? きみの、親戚の家には」

 

「お前が考えてる数の30倍はいるし、お前が考えてる500倍は物騒だよ、あそこは。子猫を放り込んだりしたら、子猫も生きた心地がしないだろ」

 

 

 その数と種類を思い出し、少し遠い目をする。

 

 

「…………とても預けたくはないな」

 

「まーあいつに預けりゃそれも心配ないんだろうけど、それでもおススメしねぇな」

 

「なにか問題があるのか?」

 

「あいつの家が遠い」

 

 

 ギリギリ県外には出ていないけど、最寄りの駅から車でなら通えるという、交通不便な場所に住んでいる。

 ぶっちゃけ山奥である。

 そんな所でなければあの動物達の群れを飼えないのも確かだが、そんな理由で住んでる訳でもない。

 まぁこれはべらべら喋ることでもないだろう。

 問題は、学校が終わった後に立ち寄れる距離ではないということだ。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()、物理的な距離の問題でおススメしないな」

 

「…………」

 

 

 そう言われて。

 頬を朱に染めて、ぷい、と顔を明後日の方向に逸らす不知火が、なんだかいじらしく思えたので。

 衝動に任せて頭を優しく柔らかく撫でた。

 全然痛くない正拳突きを腹にもらった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 子猫達はとりあえず先生が職員室で預かり、その後動物病院に一時的に預ける事となった。

 新しい飼い主が見つかるまで、という条件付きである。

 ……鈴河と大将率いる猫の軍勢に加えるという選択肢もあるが、除外した。いやだって、放り込んで群れから追い出されたらどうすんのって話だし。

 飼い主が現れなければ施設に預けるという話も出たが、その前に俺の親戚のあいつの話が出たので、最終手段として用意することとした。おススメしないとは言ったが、施設に預けるよりはまだ会いに行ける余地があるからだ。

 

 まぁあくまで最終手段。その前に貰い手が見つかればそれでいいのである。

 あいつの超能力的な動物愛を鑑みれば、最初からそうするのが一番子猫達の為にも思えるが……エゴを通すことにした。

 拾った不知火が、飼えなくても、たまには顔を見たいだろう。そんな些細なエゴ。

 

 

「…………きみは、本当……そういう所だぞ」

 

 

 それを月白先生に伝えたら、隣の不知火にそう言われた。

 顔を耳まで真っ赤にして、若干睨まれながら。

 何故だろう。

 あとどういう所だろう。

 子猫達を抱えて話を聞いていた月白先生も何故か呆れた視線を向けてきたが、俺はますます首を傾げるばかりだ。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「…………」

 

 にゃー にゃー

 みゃー みゃー

 にー

 

「……うふ、生徒たちよりは手が掛からないかも……」

 

「…………」

 

「いっそ私が引き取るというのも……、でも責任の無いことは出来ないし……。かといって新城君のいとこに預けるとそうそう会えないって話だし……」

 

「…………」

 

「それにしても、本当に可愛い~。 あぁ、生徒達もこれぐらい素直で大人しかったらなぁ……」

 

「…………」

 

「? お腹が空いているのかしら? 食べるものは私のお弁当しかないのだけれど」

 

「人間が食うものを不用意に与えるとお腹壊すこともあるそうなので止めといた方がいいですよ。ただでさえ子猫なんだからロクに噛む力もないとのことで」

 

「!!??」

 

「これ、いとこからの忠告。それと猫達への差し入れです」

 

「し、新城君!? いつからそこに!?」

 

「素直じゃなくて大人しくなくて可愛げのない、手の掛かる生徒ですみません」

 

「そそそそそんなこと言ってないわよ!?」

 

「その反応は言ったようなものですけど……。まーとにかく、ほれ猫共。存分に食らうがいい」

 

 

 みゃあ みゃー にゃあー みー

 

 

「……コホン。ええっと、その餌はどこから?」

 

「例のいとこにラインで話したら、超特急で持ってこられたんですよ。ちょうど連絡役が近くにいたんで、その人に買いに行かせて」

 

「そうなの……見ず知らずの猫の為にそんなことを」

 

「見ず知らずの猫の為にこんなことする奴だから、動物達からも愛されるんでしょうね。……衰弱してる可能性があるとかで予備のおやつも渡されたんで、今日一日の間催促されるようならあげてほしいって」

 

「……分かったわ。……いとこさん、良い人なのね」

 

「何かあったら祐天寺(ゆうてんじ)先生並みの怖さで怒るので、そのつもりで」

 

「…………肝に銘じておくわ」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 時は変わって、昼休み。

 早速櫻井が募集の放送をかけていた。

 

 

『ハーイ! 本日も、お昼の放送の時間です! 今日も二年C組櫻井明音が担当させて頂きます! 本日のゲストは! 5匹の子猫ちゃ~ん!』

 

 にゃーん

 

『たちでーす!』

 

『みんな可愛いにゃ~』

 

『この子猫ちゃん達を引き取ってくださる方、募集中です。一匹でも、五匹一緒でも、にゃんこちゃんを飼いたいという方は放送室まで来てくださいね。よろしくお願いします!』

 

 

 そして、ゲストの子猫を交えたトークが始まる。

 放送の私物化と思うだろうか?

 いやいや、先生にはちゃんと許可をとったものだろうし。

 子猫のこともあるので、今日は食堂で不知火と向かい合って昼食。メニューは日替わり定食(揚げ物メイン)だ。

 ……今日はって言うと、女子ととっかえひっかえ遊んでるみたいだな。

 普段の生活を思い返すとあながち間違ってないのが悲しいところだ。

 

 

「見に行くんだろ?」

 

「……ま、まぁそうだな。子猫の飼い主がどんな人物になるか、気になるところではある……」

 

 

 昼になっても俺と目を合わせようとしない不知火。

 というか、席に着いたところで何故かそわそわし出してる。

 トイレか? なんて聞いたら雷が落ちるのは幼馴染で身に染みているので、多分違うと考える。男と二人で飯食ってるからってのは……どうだろう。不知火が俺相手に? と思うが。

 不知火の昼飯は漆塗りの重箱。こいつの胃袋に収まるのかと疑う容量だが、中身のメニューは大きさに比べて重くないものばかりなので、不知火一人でも食い切れるそうだ。

 

 

「お前が素直に心配だなんだって言うのは珍しいよな。どんだけ過保護なんだか」

 

 

 重箱にはてらてらに光る黒豆があった。

 ひょい、ぱく。

 

 

「拾った訳でもないのに気に掛けているきみに言われたくはないが……っておぉい! 私の黒豆を勝手に食うんじゃない!!」

 

「あれだな。子供が出来たらべったりな母親になるタイプだなお前は」

 

「ぶはっ!!」

 

 

 吹き出す不知火。

 

 

「あ、あほか―――――っ!!? 異性相手に子供だなんだと軽々しく口にするな―――っ!!」

 

「そんなオーバーリアクションせんでも」

 

 

 ひょい、ぱく。

 

 

「だから私の黒豆を勝手に食うなーっ!」

 

「いいじゃん、減るもんでもないし」

 

「減ったわ! きっちり豆二つ分!」

 

「ケチケチするなよ不知火。お前にはたくさんのおかずがあるじゃないか」

 

「ケチとはなんだ! きさまがその気なら私もこうだ!!」

 

「ああっ! 楽しみにとっておいた一本しかないエビフライが!?」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 まぁそんな感じで戯れながら昼飯を終え、不知火と放送室前へ。

 

 

「ちょうど五人だねー」

 

 

 子猫達を抱える櫻井と押井の対面には、言葉通り五人が並んでいた。

 

 我等が2-Cクラス委員長、八束由紀恵(やつかゆきえ)

 リスのような髪型をした路上パフォーマー、相楽エミ。

 ファッションモデルをこなす眠り姫、見吉奈央(みよしなお)

 左右非対称の髪色を持つ美容師、新垣雛菜(にいがきひな)

 柔道女子、熊田一葉(くまだかずは)

 

 

「……なんかあたしだけ雑な紹介された気がする!」

 

 

 女の第六感って、標準装備なのだろうか。

 

 

「あ、ダーリ~ン」

 

 

 こちらに気付いた見吉が、たったっと両腕を広げて駆け寄ってくる。

 それを前に、俺は隣の不知火を持ち上げて、間に立たせた。

 

 

「不知火バリアー」

 

「は?」

 

 

 呆ける不知火に委細構わず突撃してきた見吉。

 

 

「ぬぼぁ!?」

 

 

 不知火が抱擁の餌食となる。

 身長差の関係で不知火の頭が見吉の胸辺り。その豊満な果実に頭が埋もれさせられる形になった。

 狙っていた標的ではないにしても抱き心地がいいのか、不知火の後頭部をよしよしする見吉。息が出来ないのか手足をバタつかせる不知火。その組み合わせの頭上越しに、俺は残る四人に語り掛ける。

 

 

「子猫を飼いたい五人、でいいんだよな?」

 

「うん、そうだよ」

 

「やっぱり、飼ってみてもいいかなって。……不知火さんのそれは大丈夫なの?」

 

「猫、飼ってみたかったんだよねー」

 

「私も~。猫ちゃんコスで撮影した事があってー」

 

 

 それと猫を飼うことにどんな関係が……。

 

 

「それ、猫を飼う理由にはなってないわよ……」

 

 

 委員長も同じことを思ったらしく、呆れた声。

 満足したのか抱擁から解放された不知火は、咳き込んでから涙目でこっちを睨んできた。

 

 

「……おい」

 

「まー、この面子なら心配ないか。一部ちゃんと世話できるか分からんが」

 

「ねぇ、なんでこっち見るの? あたし信用ない?」

 

「おいきさま」

 

「聞くけど、猫の飼い方とか分ってるか?」

 

「いや、それは……調べればいいかなって」

 

「そんなとこだよな。基本はそれでいいとして、困ったことがあったら俺からいとこに聞いとくから」

 

「せいっ!」

 

 

 脚を蹴られた。

 蹴った方の不知火が悶絶した。

 馬鹿め。わざわざ弁慶の泣き所で脚の一番固いところを蹴るからそうなるんだ。

 

 

「……弄ばれてる」

 

「失礼なことを言うな。これは俺なりの愛で方だ」

 

「だとしたら随分意地の悪い愛で方だけど……」

 

 

 勿論俺とて人は選ぶ。誰彼構わずこうする訳じゃない。

 不知火は特別なのだ。

 まぁ不知火だけにこうするという訳でもないんだが。

 なんだか俺の知られざる(?)嗜虐性が発露されているようだが、今はそんなこといいだろう。

 

 

「で、誰がどいつを引き取るんだ?」

 

「そうねぇ―――」

 

「ちょっと待ちなさい!」

 

 

 その時。

 普段にない機敏さで月白先生が現れ、制止してきた。

 

 

「せ、先生?」

 

「あなた達、ご家族の方に許可は取ったの?」

 

「「「「「あっ」」」」」

 

 

 口元を覆う五人。

 どうやら全員取っていなかったらしい。

 

 

「子猫といえど、一つの命です。無責任に飼うことは許しません。まずはご家族と話をつけて、それからです」

 

「そうだぞ。子猫に何かあっていとこのあいつに怒られるのは俺なんだからな」

 

「新城くんはどっちの味方なのさー」

 

「今この時は猫の味方だ」

 

 

 あと不知火、と。

 未だ悶絶する少女を横目で見ながら、心の中だけで呟いた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 翌日。

 

 

「今度の中間テストで平均点以上を取ってこい、か……」

 

 

 昨日に引き続き、昼飯を不知火と向かい合って食べる。

 俺は日替わり定食だが、今日の不知火は割とありふれた弁当箱。昨日の重箱は祖母の手作りらしく、今日は母の手作り弁当らしい。

 茶色成分多めな辺り、いかにも主婦っぽいメニューだった。

 

 

「二、三人くらいはそう上手くいかないだろうなとは思っていたが……」

 

「まさか五人とも条件つきとはねぇ」

 

 

 昨日よりも量が減ったにも関わらず、不知火の食事は遅々として進まない。先行きが不安だと食にも影響するのだろう。

 三日後に控えた中間テスト。

 子猫を飼う条件として委員長除く四人に言い渡されたのは、その全科目の点数が平均を上回ることだった。

 まるで示し合わせたかのように同じ条件を言い渡されるとは、流石に予想だにしなかった。

 ちなみに元から成績上位の委員長はOKを貰ったが、一匹のみという条件。

 

 

「……実際どうなんだ? 君から見て、あの五人の成績は」

 

「新垣なら同じクラスのお前の方が詳しいだろ?」

 

「ふむ……。彼女は良くも悪くも普通、といった所だったと思う。平均の少し下ぐらいだったか? 頑張れば届かないということもないだろう」

 

「そっか。じゃあ心配なのはあの三人か。相楽はあの通りアホの子だし、熊田も見吉も、いいんちょの言葉を借りて言えば『底辺、どん底、最下層!』と来たもんだ」

 

 

 最下位はどこぞの寄生獣がキープしてるものの、どんぐりの背比べだろう。科目が悉く平均に届かない俺が偉そうなこと言えた立場でもないが。

 く、悔しくないし? 卒業後の進路は決まってるようなもんだから、勉強なんか出来なくても全然困らないし?

 ……なんて言ったら方々で雷が落ちるので言わないけど。

 

 

「昼休みになったら放送室に向かったみたいだから、頑張って勉強しようって気になったんだろうけど。念の為に俺の方でも別の奴に当たってみるかね」

 

「……なぁ、新城」

 

「ん?」

 

 

 食事中だが、箸を一度置いて不知火は言う。

 

 

「この学園で貰い手が見つからなくても、君のいとこに預ければ安心だと言うなら、私はそれでいいと思ってる」

 

「?」

 

「私が子猫の顔を見たいと思うエゴを、君が慮って通そうとしてくれるのは……その、嬉しいとは思う」

 

「いつになく素直だな、不知火にしては珍しい」

 

「茶化すな! ……しかし、元はと言えば私が拾った子猫達で、飼うにしても探すにしても私が責任を取るべきなんだ。……それなのに、飼うことも探すことも、私は他人に任せきりだ」

 

「…………」

 

 

 つまんないことで悩んでいたようなので、食事を再開することにした。

 本当、こいつと来たら。

 

 

「そんな私のエゴで猫達の先行きを不安にさせるのは、忍びないというか……」

 

 

 俯きながら語る不知火に、俺は。

 

 

「アホ」

 

 

 切って捨てた。

 

 

「な、あ、アホとはなんだ!? 私はこれでも真剣に」

 

「そんなアホなことを真剣に考えるからアホだってんだよ。学年一桁の成績が全く活かされてないな」

 

「なぁっ!? お、おま」

 

 

 憤慨して抗議しようとする不知火。

 その口に。

 

 

「まぐっ!?」

 

 

 不知火の弁当にあったカボチャ煮を突っ込んだ。

 

 

「まぐっ、ぐむぅ……」

 

「お前が猫を拾ったことに責任があるなら、貰い手を探すって言い出した櫻井にも、探し出す責任がある。お節介を焼くって決めた俺にもな」

 

 

 ちゅぽん、と不知火の口から箸を抜き出す。

 頬杖をついて、人の口に箸を差し込んで、行儀の悪い俺である。

 

 

「頼まれてもいないのにやったこと。それなのに罪悪感持たれたら、櫻井ならこう思うだろうな。『余計なお世話だったかな』って」

 

「…………」

 

「俺は『それでもいいや』って割り切ってる方だけどな」

 

「余計なお世話なんて、そんなことはないぞ」

 

「なら、持つのは感謝の念にしてくれ」

 

「…………うむ、そうだな」

 

 

 不知火は微笑んで、言う。

 

 

「感謝するぞ、新城」

 

「ちゃんと貰い手が見つかってから言ってくれそういうの」

 

 

 食事を再開して白米を―――不知火に箸を強奪された。

 俺でも目を見張る程のスピードで箸が拭かれた。

 

 

 

 

 

 




アニメ4話準拠。
なんかもう一方の主人公の影響を受けてるような気もしますが、一応この二人は別人です。喋り方とか色々似てる気がしますが、別人なんです。

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