聖櫻番長のガールフレンド(仮)だらけな日常   作:クビキリサイクル

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時間を空けると、自分のノリが分からなくなって、書くのに苦労するんですよね。(自業自得)






不知火五十鈴と猫と勉強と虹と(後編)

 ああは言ったものの、中間テストが近付いて余裕がないのは俺も同じだ。

 将来的に成績が必要な訳ではない。

 親が成績至上主義な訳でもない。

 ただ、幼馴染がうるさいのだ。

 

 

「はい、これ今回のテスト範囲ね」

 

「「…………」」

 

 

 俺の部屋にずかずか上がり込んできたしめじもとい姫島と、その後ろからやってきていた件の幼馴染ことるい。後者が持ってきた紙の束を見て、前者と共に遠い目をする。

 俺と一緒にゲームをする気満々だったしめじは完全に絶句していた。ここに来た時点で予想出来ただろうに、学習しない奴だ。

 俺は予想出来たので心構えはしてたし、ショックも少なめだ。傷は浅めだ。いや、予想はしてたけど間違いであってほしいなーとか思ってなかった訳ではなかったけど。

 現実は非情である。

 

 

「だっ!」

 

 

 擬音を発しながら逃走を計るしめじ。

 当然扉側に立っていたるいがそんなのを許す筈がなく、流れるような動きで関節を決めつつ床に押し倒してしまった。子供の頃から俺の幼馴染をやってたまに護身術を学んでいた影響か、一般人でも底辺の底辺であるしめじに抗う術などない。

 

 

「どうして逃げるんですか」

 

「いやじゃ~! なんでわしが勉強なんてせねばならんのじゃー!?」

 

 

 往生際悪くじたばたと暴れるしめじだが、その動きにもびくともしないるい。

 俺には窓からの逃走ルートがあるが、逃げても無駄なので逃げない。逃げられないのではなく、逃げたところで帰ってきた時には同じ量、いや更に増やされて待ち構えているのだから。

 テスト勉強から逃げる為なんて理由で泊めてくれる友達にも心当たりが無い。

 例外もあるにはあるが、そこに泊まると追ってくる。

 

 

「……じゃあしめじまさん、逆に聞きますけど」

 

「その呼び方やめーや」

 

「なんで中間テスト前なのにゲームなんて持ち込んで一也君の部屋に上がり込んでるんですか?」

 

「テスト前であろうとなんだろうと、何時如何なる時でもゲームに人生を捧げる! そして普通に赤点を取る! それがあたし、姫島木乃子だからさ!!」

 

「……………………」

 

 

 るいの目はそれはもう、とても可哀想な物を見る目だった。

 

 

「……もういいです」

 

「そうか。じゃああたしは」

 

「言い訳は聞きません。ここで勉強していってください」

 

「なんでじゃ!?」

 

「なんでもです。一也君も、ちょっと成績下がったら補習受ける事になるギリギリな所にいるんだから、これからきっちり勉強するの」

 

「毎度ご迷惑をお掛けしますね……」

 

 

 そう。それが俺が逃げられないもう一つの理由。

 他所は知らんが、この学校では赤点を取った成績下位者に補習を受けさせる制度があるのだ。

 一科目でも取ればその科目で課題が、二つ以上の科目で取ればその数だけ倍増。それもサボったら更に倍。サボった日数でどんどん倍になっていく恐ろしいシステムである。

 このしめじは常習犯なので最早慣れっこかもしれないが、そんなアホを間近で見ているので「こうはなりたくないな……」という気持ちが俺の中にはある。

 一年の頃は俺もちょくちょく赤点になってちょくちょく受けていたが、これが本当に辛い。どれだけ辛いかって、一科目で俺が全速で逃げ出したくなるくらいだ。ていうか逃げた。次の日に淡々と倍に増やされたので最初の一回で終わったけど。

 それに比べれば我が幼馴染様のなんとお優しいことか。

 テーブルの上に勉強道具を広げ、勉強する体勢に入る。勉強は辛い所業だが、あの補習の日々を思えば幾分は楽なものなのだ。

 

 

「それじゃあ、始めるわよ。しめじまさんも用意して……って道具がないだろうからこれ使って」

 

「あーやだやだ。補習で幼馴染との貴重な時間が奪われるのが嫌だからって、あたしを巻き込むなよなー。そもそも補習なんぞあってもなくても、このすけこましはふらふらどっか行ってどっかでフラグ立ててくるに決まってるだろーに」

 

「は、はぁ!!? そ、そそそそんなんじゃないですから!! そんなんじゃないから!! 勘違いしないでよ!!?」

 

「そうだな。こいつは後で俺に泣きつかれるのが嫌だから、前もって勉強させてるだけだぞ」

 

「その言い草もなんなの!?」

 

「はいはい。鈍感ボケごちでーす」

 

 

 そんな感じで俺達のテスト前の勉強が始まる。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「……で、なんだって?」

 

「えーと……」

 

 

 翌日。

 教室で猫を飼いたい組の進捗の方を聞いて、聞き間違いかと思って再度聞き直す俺に、櫻井は言葉を濁す。

 代わりに答えたのは委員長。

 

 

「昨日図書室で中間テストに向けて勉強会を開催したところ、熊田さんは部活の後輩に指導。相楽さんは路上パフォーマンス。見吉さんは撮影。新田さんは家の理容店のお手伝いで欠席ですって」

 

「何やってんだあのアホ共は……」

 

 

 机に突っ伏す。

 ほとほと呆れるとはこの事か。

 昨日の決意表明はなんだったのか。

 

 

「俺でさえ、このお・れでさえ、三日前のこの時期は試験勉強させらてる(してる)ってのに、あいつらと来たら」

 

「今どんな読み方してた? ……でも確かに、元々成績が振るわない人達なのに、勉強会までボイコットされたら望みが薄いわ。どうしたものかしら……」

 

「でも、諸々事情があるのはしょうがないし……」

 

「そういうんじゃないと思うけど」

 

 

 断ることが出来たとしても引き受けたのは、やはりテスト勉強の優先順位を下げてしまったからだろう。

 人間、やらなければいけないとわかっていても、やりたくないことは後回しにしがちだ。それで大体やらないまま、しっぺ返しを食らう羽目になる。

 

 

「今回ばっかりは力になれそうにないし、いいんちょにどーにかこーにかしてもらうしかねーなーって他力本願だったわけだが」

 

「安心して。勉強面であなたを頼りにすることはないから」

 

「あら辛辣」

 

 

 まぁ俺でも俺を頼りにはすまい。

 頭の良い知り合いに頼むにせよ、テスト前に他人の面倒を見てとは中々言えないし。

 かく言う俺は幼馴染頼り。

 プライドの欠片もない。

 

 

「今日明日はちゃんと参加してくれるといいのだけれど……」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 猫の行方が気掛かりなのは確かだが、俺も他人の事を心配していられる立場ではない。

 俺もまた、中間テストに向けて勉強しなければならないアホなのだ。

 赤点を取って補習を受けるのはご勘弁だからな。言うなれば、これまで勉強してこなかったツケを払っているところだ。

 ……まぁ、そんな真面目ちゃんだったら補習が嫌で勉強することもないんだろーが。

 

 

「ほんと、地頭は悪くはないのよね」

 

「そらどうも」

 

「良くもないけど」

 

「そらすまんね」

 

 

 俺の解いた問題集を赤ペンで採点したるいは、そのように結論する。

 ペケの方が割合多めだが、そこはご愛嬌ということにしておこう。しておきたい。

 ちなみにるいるいの方は言うまでもなく日常的にお勉強をしている真面目ちゃんなので、こうして俺の勉強を手伝って頂いても何ら差し支えないようだ。

 

 

「ところで、今更だけどしめじさんは?」

 

「当たり前だけど逃げた」

 

「当たり前だけどって……」

 

 

 どうやら今回も自分の生き様を貫くと決めたようだ。

 るいの指導を受けていれば万が一にも補習回避は出来たかもしれないのに、それでも逃げるか。生き様そのものはともかく、そのひたむきさは見習う所も……やっぱりないな。あいつから何かを学ぼうとしたら、駄目人間が感染(うつ)ってしまう気がする。

 

 

「……まぁ、あたしもその方がいいけどさ」

 

「そうだな。俺もあいつがブー垂れてるのを聞きながらは集中欠ける」

 

「ああもう! なんで鈍い癖に耳聡いの君は!?」

 

 

 耳が良いことを怒られた。

 理不尽だろ? これ俺達の平常運転。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 さて、俺もるいの尽力のお陰で赤点、ひいては補習回避を免れるだろうという所まで来ている。きっとあいつらも先の愚行を反省し、委員長にしごかれていることだろう。

 そう思って櫻井に聞いてみたが―――

 

 

「ダメでした」

 

「なんでや」

 

 

 関西弁になった。

 詳しく聞くと、どうやら一昨日の事情がグレートアップして奴等に襲い掛かってきたとのこと。

 グレートアップする方もあれだが、学習して断るつもりもないのかあいつらは。

 

 

「不知火にはほんっとに悪いけど、これじゃあもううちのいとこに預けた方がいいんじゃ……」

 

「私もそんな気がしてきたわ……」

 

「あ、諦めちゃだめだよ! テストは明日! まだ一日あるんだから!」

 

「参加するかしら?」

 

「…………」

 

「黙っちゃったよ」

 

 

 こらもうダメかもしらんね。

 

 

「こうなったら……」

 

 

 なんて弱音を吐くわけにもいかないのだろう。委員長的に。

 座っていた席から立ち上がり、気合を入れるように宣言する。

 

 

「一夜漬け大会よ!」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 その夜。

 

 

「終わった―――!」

 

 

 自室で諸手を挙げて喝采する俺がいた。

 そう。終わったのだ。

 復習も含めたるいのドリルが!

 

 

「長く、辛い戦いだった……。何度背を向けて逃げ出したくなったかも覚えてないが……俺は、やり遂げたんだ……!」

 

「本番は明日からだけどね」

 

 

 仰向けに倒れた。

 

 

「背を向けて逃げ出してしまいたい……」

 

「なんで勉強に関してはそんなに弱気なの……」

 

 

 事件にはすぐに首を突っ込む癖に、もう……。と呟く彼女。

 そんなもの、人間には向き不向きがあるというだけだ。俺の人間パラメータは、およそ学生として優秀には割り振られていない。

 早々に逃げ出した菌類は遊びに極振りし過ぎだ。

 低スコアは嫌なのでゲーム力に極振りしたいと思います、ってか。俺の場合は、弱いのは嫌なので戦闘力に極振りしたいと思います、になるか?

 思考が脱線した。

 何にせよテスト前の勉強はこれで終わりだ。

 

 

「もう一生勉強なんてしたくない」

 

「それ、毎回言ってる」

 

「まぁ結局するんだけどな……」

 

 

 内申点欲しさはないが、補習嫌さはある。あと菌類と一緒にされたくないという気持ちも。

 るいは俺のドリルを精査し終え、テーブルの上に整理し、言う。

 

 

「……うん。これで赤点は取らないでしょ。平均点は微妙、ってところだけど」

 

「平均点といや、あっちはどうなってるかねぇ」

 

「……気になる?」

 

「そりゃあな」

 

 

 るいには例の猫ズについての詳細を知られている。

 より正確には、俺が勉強中に挙動不審だった所を見咎められ、ペラペラ喋った(隠すようなことでもないし)。

 彼女も彼女で猫をどうにかしてやりたいという思いもあるようだが、飼うのはもちろん、飼う組の勉強を見ることについても力にはなれないそうだ。主に俺の指導に集中したいという理由で。

 

 

「でも、向こうは委員長さんが頑張ってくれてるでしょう? きっと。心配するあまり君が補習になったら、それこそ怒られちゃうじゃない」

 

「俺も俺で、頑張るしかあるまいな。明日から」

 

 

 座りっぱなしで固まった筋肉を、軽くストレッチしてほぐす。

 

 

「さて、と。一段落着いたし」

 

「?」

 

「風呂にでも行くか」

 

「ほぁっ!?」

 

 

 ババっと身体を抱いて後退るるい。

 

 

「バッ、ババッ、バババババババッカじゃないの!!? バッッッカじゃないの!!? 子供の頃は一緒に入ったとかそんなのいつまで言ってるつもりなの私達もう大人なんだからそんな恥ずかしい真似出来るわけないでしょ一也君は私に対して羞恥心が薄過ぎるのよそれに私今あんまり可愛い下着じゃないしそもそも」

 

「うん、銭湯に行こうかって話だから」

 

「――――――――――――――――」

 

「あと一緒に入ろうとも言ってないぞ」

 

 

 机にあった教科書ノート文房具を手当たり次第投げられた。

 今回俺に非はないので全部キャッチ。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 俺に非はないのに拗ねられたので、一人で行くことに。

 解せぬ。

 今日は夜通し雨なので、傘を持って外に出る。

 ま、道中に不知火家が近くにあった筈だから、帰り際に様子でも見に行くか。

 そう思って芙来田(ふきた)が番台の銭湯にやってたんだが……。

 

 

「……なんでいるし」

 

「聞かないで……」

 

 

 悲壮感と羞恥を漂わせる顔で、銭湯で貸し出している湯浴み着に身を包んだ委員長は俯く。

 その後ろには、同じく湯浴み着の猫飼いたい組+不知火+櫻井+キノコ。

 今は夜。深夜とは言わないまでも、遅い時間なのは間違いない。一夜漬けをすると意気込んでいた連中が来る時間だろうか?

 

 

「あれか? 俺と同じで一段落したから来た的な」

 

「違うのよ……勉強前の準備の筈だったのよ……」

 

 

 三角座りを始めてしまった委員長から聞いたところ(聞かないでと言っていたのに自分から語りだした)、最初は合コンのような自己紹介(今更)に始まり、夕飯の支度に全員が取り掛かり始め、コンビニに買い出しに行ったかと思えばそこで30分を潰して、帰り際雨に遭遇し、濡れた服を乾燥機に突っ込み、冷えた体を温める為、今に至るとのこと。

 うーん。典型的な何かと口実をつけて勉強やりたくない症候群。

 やはりこの数相手の教師兼監督役を一人にさせるのは酷だったか。

 

 

「気持ちは分かるからあんま強く言えんけどさぁ、お前らさぁ、ほんとにさぁ」

 

「あぁ、だーりんが呆れてものも言えないって顔してるよぉ」

 

「だ、大丈夫だから! これからお風呂入ってリラックスしたらちゃんと一夜漬けするから!」

 

「リラックスが必要なほど疲れたのか……?」

 

 

 重ねて言うが気持ちは分かるけど。

 

 

「ま、何のかんの言っても俺が力になれることはないし、頑張れとしか言えないんだけどな」

 

 

 俺はリラックス必要だから、ちゃっちゃか入ってしまうか。

 じゃ、と俺はクールに男湯へと去っていこうと歩く。

 後ろについてくる見吉とキノコ。

 

 

「待ちなさい」

 

 

 三角座りから立ち上がり、ガッシと二人の肩を掴む委員長。

 俺がツッコミを入れるよりも早い、迅速過ぎる動きだった。

 

 

「あなた達、何をしているの?」

 

「え~? だーりんの背中を流してあげようかなーって~」

 

「あたしはこいつに髪でも洗わせようかと」

 

「はい、じゃあ櫻井さんはそっち持ってー」

 

「はーい」

 

「不知火さんはそっちで」

 

「うむ」

 

「「あ~~~」」

 

 

 三人に引き摺られていく二人を見て、なんとなく、ドナドナの曲が頭に流れてきた。

 

 

「……サラダバー」

 

 

 女湯の暖簾をくぐっていく女子達を見送り、俺も男湯に入っていった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 銭湯に入ってる間のことなど、特に描写することもないので(女湯の姦しい声が聞こえてきたことも、描写する必要なんかない。セクハラになるので)、割愛する。

 どーせるいるいはまだぷりぷり怒ってるだろうし、夜遅い時間なのでテスト勉強ズを不知火の家まで送っていくことにした。

 銭湯でビニール傘を何本か買って、二人一組に分かれて相合傘で向かう。

 俺の隣には見吉がいた。

 というか腕に引っ付いていた。

 

 

「にゅふふ~。充電充電~」

 

「何を貯めてんだ何を……」

 

 

 最初はキノコを脇に抱えて運んでいこうかと思ったが、委員長が「甘やかし過ぎ」というので、歩きとなった。

 そしてキノコは委員長とペアでキリキリ歩かされて、見吉は本人の強い希望で俺とペア。

 これはこれで甘やかしている気がする。

 

 

「ダーリンと触れ合って~、パワー充電して~、わたしの活動時間は少しずつ回復されていくのでーす」

 

「そんな電池みたいなシステムなんだ……」

 

「いや、そんな構造で出来てる訳ないでしょ。モノクロームさんじゃあるまいし」

 

「へー、新城くんパワー……」

 

「相楽さんや。そんな不思議パワーが万人共通だと思ってないよな?」

 

 

 興味あり気な相楽に釘を刺しておく。

 これ以上引っ付かれても、傘のスペース的にはみ出て結局濡れるし。

 あと心臓に悪い。ただでさえモデル体型で、出る所がしっかり出てる見吉がくっついてるのに。いや、平坦ならバッチ来いって訳でもないが。豊満だと当たる面積多いだけで、どっちにしても感触があると意識せざるを得ないので。

 

 

「ところで、新城君は勉強進んでるの?」

 

「んー? まぁとりあえずここまではやろうぜってノルマは達成したかな。明日に響くし、帰ったらそのまま寝るつもり」

 

「そう……私達はこれから寝ずに勉強する予定だけれどね……」

 

「なんかもう、帰ってそのまま勉強って雰囲気じゃないけど……」

 

 

 別にこのまま勉強せずとも委員長や不知火は問題なく高順位になれるだろうが、残りの面子はそうじゃないだろう。

 今から勉強始めたとしても、明日からのテストは絶望的。

 これじゃあさっさとあいつに連絡して、猫達を引き取ってもらうのがいいのかもな……。

 不知火にああ言った手前、こんな格好つかない結果に終わると気分は良くないが―――。

 

 

「そんな顔をするな、新城」

 

「ん?」

 

 

 そう言ったのは、意外にも不知火。

 

 

「まだテストまでには時間があり、始まってすらいない。終わるまではちゃんと面倒を見るさ」

 

「……へー」

 

「な、なんだ?」

 

「いや、なんでも」

 

 

 不知火からそんな言葉が聞けるとは、思っていなかっただけ。

 まぁ、諦めたらそこで試合終了というしな。

 当事者でないと言えど、始まってすらいない試合で投げちまうのも格好悪いか。

 

 

「ここはあれだ。目標達成したら新城がご褒美ってのはどうだ? モチベーション的に」

 

「おい菌類。余計な提案をするんじゃない」

 

「あ、じゃあわたし、ダーリンとデートしたーい♡」

 

「じゃああたし、新城と試合! 本気の!」

 

「え、いいの? じゃあわたし、今度大道芸でアシやってほしいんだけど」

 

「じゃあ私、君の次のカットを予約させてもらおうかな。私好みに」

 

「それじゃあ私はー……」

 

「ご褒美前提で話を進めんなや!」

 

「そもそもあなた達のご褒美は別にあるでしょーが!」

 

 

 そんなバカ騒ぎをしてる内に、不知火家に到着し。

 部屋は空いているから泊まっていくか? という不知火の提案を丁重にお断って、俺は帰路に着いた。

 いや、今晩帰ってくる親父が、鍵持って行ってないのよね。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 そして、遂に迎えたテスト期間。

 初日の朝は、虹がかかっていた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「ふふふ……」

 

 

 テスト期間が終わり、成績発表から一夜明け、私こと不知火五十鈴は上機嫌に中庭を歩いていた。

 猫達―――桔梗。アザミ。エリカ。ナデシコ。ダリアの五匹―――は、恙なくあの五人に引き取ってもらえた。

 あの夜の一夜漬けの甲斐あって、全員が平均点を超えることが出来た……とはいかなかったが、成績の向上は確かに見られたので、猫を飼う許可が出たそうだ。

 普段勉強しない人間が勉強をすると効果が目に見えるとは言うが、これで一安心となったのだ。

 私が拾ったあの五つの命が、飼いたいと言ってくれる者に飼われて、本当に良かった。

 

 

(これも、あの四人の親御達を説得してくれた月白先生のお陰だな。それと……新城も)

 

 

 四人も揃ってあんな条件を出されていた事に違和感を覚えたが、本当は四家揃って動物を飼うことに反対していたのだそうだ。

 それを、子供達が飼ってもいいかを聞くのに先回りして、月白先生が電話でどうにかこうにか説得していたと。

 その条件として、四人が学年の平均点以上を取る―――という名目で、成績を向上させる事。

 親達も目に余っていた学業で頑張りを見せられるならば、と。なんとか折れてくれたのだそうだ。

 四つもの家に電話で説得してみせるなど、生半可な事ではなかったろうに。月白先生も猫の事を案じてくれたのだな。

 

 何故私がそれを知っているかと言えば、動物病院に預けていた猫達を先生から手渡された時に、本人の口から聞かされたからだ。

 そういう手柄みたいな事は口に出さないタイプだと思っていたので、不思議に思ってその辺りを聞いてみると。

 

 

 

 

 

『……電話口でご両親を説得したのは私だけれど、私一人で説得した訳じゃないから。根気良く頼み込むくらいしかしてなかった所で、横で新城君が何か条件をつけるのはどうかってアドバイスしてくれたの。どこもテストの点数が上がったらってなったら、冷や汗かいてたけど』

 

『新城が……』

 

『そういう気遣いを当たり前にする子だから、あなただけでも知っておいた方がいいと思ったのよ』

 

 

 

 

 

(あの男もあの男で、猫の為に動いていて、私の相談にも乗ってくれて。そういうのをおくびにも出さんで)

 

 

 本当に、ズルい奴だ。

 もし彼女等が失敗しても、彼の親戚とやらに託す道もちゃんと用意していて。楽な道であろうその選択を、私の為と言って皆を信じ、選ばなかったのだ。

 まぁその信じる気持ちも揺らいでいたのは確かのようだが……、投げ出す事はしなかった。

 そのお陰で、こうして最良の結果を得られたのだから、あいつにも感謝せねばなるまい。

 

 

(とは言っても、あの男の事だ。感謝を形にしても、素直には受け取らんだろうし……)

 

「難しい所だな……む?」

 

 

 考え事をしながら歩いていると、噂をすれば影。新城がベンチで横になって寝ているのを見つけた。

 そして、その横に膝立ちになって顔を覗き込んでいる女生徒の姿も。

 

 

(誰だ? ……リボンの色からして、後輩のようだが)

 

「……さん。寝てる?」

 

 

 ううむ。この距離では何を言っているのか詳しく聴き取れんな……。

 向こうはこちらに気付いていないようなので、とりあえず木陰に隠れて様子を窺う。

 ……いや、何をしている私。

 普通に声を掛けるなり、通り過ぎるなりすればいいだろうに。

 

 

「ふふ。テストとそのお勉強で疲れちゃった? 苦手な事するとしんどいもんねぇ」

 

 

 一年にしては二年の新城相手に敬語も無しで、随分と親しいようだ。

 新城は変わらずぐうぐうと眠っている。後輩の方はその寝顔を見て、にこにこと笑っている。

 まるでお気に入りのペットが日向ぼっこしているのを眺めている飼い主のようなその構図が、十数秒程続くと。

 後輩の方から動きがあった。

 

 

 

「頑張ったご褒美♪」

 

 

 

 

 

 と言って。

 眠りこける新城の頬に。

 口付けを落としたのだ。

 

 

 

 

 

(――――――なん……だと…………!?)

 

 

 あまりの出来事に、口をあんぐりとさせ、思考と身体が固まる私。

 件の後輩は顔を離しても起きる様子の無い新城を確認して、満足気な顔をすると、そのまま鼻歌を口ずさんで去って行った。

 残されたのは、固まった私と、呑気に寝息を立てる新城。

 

 

(……ご、ご褒美? ご褒美と言ったのか?)

 

 

 あの後輩と新城がどういう関係かは知らんが、今時はテスト勉強のご褒美に、その……ほ、頬にキスするのが、当たり前なのか……?

 いや、流石にそれは有り得んだろ!? いくら私が友達少ないからって、それくらい分かるからな!? ……誰がぼっちだ!

 いやでも、しかし……。じゅ、重要なのはそこではなくて……いや、それもそれで重要ではあるんだが……。

 

 

「……き、きみでも……やっぱり、ああいうのが、嬉しい……のか?」

 

 

 ちょこちょことベンチに近付きながら、問いかける。

 聞こえる位置と声で言ったつもりだが、やはり返答は無く、何事も無かったように眠っている。

 ぐっすりだ。いっそ憎たらしいぐらいに。

 あの後輩が言っていたように、苦手な勉強で疲れたのだろう。

 横にしゃがんで、寝顔を近くで見てみる。

 彼の寝顔は、子供のようなあどけなさがあるようにも、大人の色気を漂わせているようにも映り、そのどちらもを感じさせる不思議な感じだった。

 

 

(……成程。眺めたくなる気持ちも、分からんでもない、が……)

 

 

 ……いや、だからと言って、口付けたくなるか?

 だが、あの後輩は割と当たり前のようにしていたし……。

 ここは、今回世話になった私も、猫の為に奔走してくれたお礼とご褒美としてするべき、なのか?

 いやいや。お礼と言えど、そういうのを軽々とやるのは淑女としてどうかと思うが、しかし……ううむむむむ……。

 

 

「……か、勘違いするんじゃないぞ? これはあくまで、君の頑張りを讃えるものであって、私がしたいからとかじゃ……ないからな」

 

 

 ……唇は以ての外として、頬にするのも、なんだか癪だ。

 となると、と考え、彼の頭を撫でるように、前髪をどかせる。

 そして。

 ………………………………………。

 まぁ、一分とかそこら掛かって。

 

 

 

 新城のおでこに、軽く唇を触れさせた。

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!??????/////////////////」

 

 

 なんというか、色々限界を迎えて、バッと顔を離して、衝動のまま手刀を繰り出した。

 手首を掴まれて、受け止められた。

 

 

「なぁっ!!??」

 

「ん……?」

 

「お、おお、おおおおおお、お前! お前お前お前! お前お前お前お前お前! まさか、ずっと起き―――」

 

「? よう、不知火。どうした、真っ赤っかになって」

 

「な、何を白々しく! 意地の悪い奴だとは思ってたが、まさかここまでとは!」

 

「??? いや、マジで状況掴めないんだけど。熱でもある―――」

 

「い、今私に近付くなぁああああああああ!!!!」

 

 

 すっとぼけた顔で私の顔を覗き込もうとする新城から、全力疾走で逃げ出した。

 

 

 

 

 

 ―――後になって落ち着いて考えれば。

 彼は寝ていようと攻撃に対しては鋭敏に察知して反応するのだから、手刀を止められた事が起きていた事の証左にはならないのだが。

 私がもう一度新城と面と向かって話せるようになったのは、それから一週間後の事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




一応言っておきますが、動物にめちゃんこ好かれる番長の従妹とは、新規で現れ、今回のオチにも採用されたあのガール。
では、ありません。
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