聖櫻番長のガールフレンド(仮)だらけな日常   作:クビキリサイクル

3 / 21
聖櫻番長が死にかける昼時

「つまり、サラダ記念日というのは恋人との小さな幸せを思い出の日としたことが始まりで……」

 

(そろそろ時間か)

 

 

 聖櫻学園では、校舎は三つに分けられる。

 生徒が教室として扱う教室棟、職員室や保健室などの特殊教室を扱う職員棟、各部活が部室として使用する部活棟だ。部活棟といっても全ての教室がそうというわけではなく、 特殊教室を扱う棟に収まりきらなかった特殊教室があったり、空き教室や倉庫として扱われてる部屋もあったりするが、まぁそれは些細なことだ。

 これに図書館、体育館、食堂、各運動部が扱うグラウンドやコート。そして体育倉庫などを含めて、高等部の全容になる。

 近くに初等部や中等部などの校舎がまた別に存在してはいるが、互いに干渉することは滅多にない。

 これだけ大規模な学校になるまでにどれだけの費用がかかったか想像もできないが、つまり俺が言いたいことは何かというと。

 食堂棟の二階にある購買に行くまでは、一度この教室棟から出なければならないということだ。

 

 

「……あ、そろそろ終了のチャイムが鳴る頃ですね」

 

 

 四限の授業、国語を担当する橘響子(たちばなきょうこ)先生(見た目はうちの生徒と大差ないが、先生である)が黒板に向かっていた体を、クラスの方へ向き直す。

 クラスの席は最初こそ名簿順で並ぶが、今はくじ引き席替えの影響でバラバラにバラけていた。

 俺は教室を上から見て一番左下、つまり窓側一番奥のスペースを確保。右横の席に櫻井(昼の放送でのネタをまとめてた)、前の席に戸村(コスプレのデザインをノートに描いてた)、斜め右前に姫島(ひめじま)(一狩りしてた)という位置になっている。

 時計の針がもうすぐ昼のチャイムが鳴るのを指し示すのを見ながら、俺はすぐそこにある窓を静かに開けた。

 クラス大半の意識がこちらに集中するのがわかる。

 俺が授業終了直前でこういった動作をするのは、ある前触れだとわかっているからだ。委員長や霧生(きりゅう)辺りは「またか……」という感じで俺を見ていたが、引き止めようとしないのは、まぁ慣れたからだろう。

 

 

「それではこれで、授業を終わりにしたいと思います。わからないことがあれば、先生に質問しに来てくださいね」

 

 

 秒針が11を指す。

 5。4。3。

 2。

 1。

 窓枠を掴む。

 

 

「では、きりーってあああぁぁぁ!!」

 

 

 飛び出した。

 掴んだ左腕で全身を引っ張り上げ、腰を直角に折り、俺の全身ほどには及ばない大きさの窓から外へと。いわば窓枠で手をつく爆転のような姿勢で外へと身を投げ出す。

 窓枠を基点に270度回転。

 校舎の壁を蹴って、飛ぶ。

 すぐ斜め下の位置にちょうどいい高さと太さの木があり、横に伸びた幹を両手で掴む。

 勢いをそのまま、今度は幹を基点に一回転した。

 戻ってきたところから更に勢いをつけ、手を放して斜め上へと飛び立つ。

 身体を畳んで縦回転しながら最高点へと達し、そこから自由落下する俺。

 前述した通り、俺達二年生の階数は三階だ。そこから飛び出したならば、足からなら骨折、頭から落ちれば命さえ危ういとされている。

 関係ないが。

 

 

「ほっ」

 

 

 足から着地。

 衝撃を最小限に抑える五点着地というのも出来はするが、今回は地面から足に伝わった衝撃を全身で流し、また足から地面へと返した。

 中国武術で伝わる発剄の応用だ。

 良い子のみんなは真似しないでね。

 

 

「おおぉー! また番長の高所落下が見られたぜ!!」

 

「ああくそ!! 俺廊下側だから間に合わねぇ! 飛び出すところの格好良さしか見られてねえ!」

 

「今回は飛び出してそのまま垂直落下じゃないんだな! サービス精神旺盛! 流石番長!」

 

 

 背中に俺の飛び出す姿を眺めていたクラスメイトの声を感じる。

 いや、近くのクラスの奴等もこの時間になると外を見て俺が飛び出すのを待ってんだよな。チラッと後ろを見ると、窓際に集まってるのがうちのクラスだけじゃないのが見て取れた。

 

 

「こ、こらー! 新城くーん!!」

 

 

 橘先生の声を背中に感じながら、俺は駆け出す。

 

 

「せめて号令が終わってからにしなさーい!!」

 

 

 三階の窓から飛び出した生徒への注意がそれでいいのだろうか。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

『え、心実(ここみ)ちゃん? 授業終わったらすぐ出て行っちゃったけど』

 

 

 

(って相楽(さがら)は言ってたけど)

 

 

 用事を済ませてすぐにB組に行ってみたはいいのだが、生憎椎名(しいな)は不在。

 心当たりを探ってみようかと中庭に来てみたところで。

 

 

「はぁ……」

 

(もう見つけた)

 

 

 三つの校舎に囲まれた中庭の中心に聳え立つ大木、その下にあるベンチに座っていた。

 しょんぼりとした様子で。

 椎名心実と言えば、この学園で知らない奴はいないだろう。

 俺が聖櫻学園男子の顔役だとすれば、椎名は聖櫻学園女子の顔役。

 部活動として優秀な成績を収める聖櫻学園の中でも、現世代で最たる成績を獲得している新体操部期待のホープである。

 勉学にも秀でている上に、その美貌から毎年秋に開催されるミスコンでも上位に位置する、非の打ちどころがない美少女。それが椎名心美だ。

 とまぁ、テンプレの紹介を並べたところで。

 

 

「よ、椎名」

 

 

 後ろから声を掛けた。

 

 

「はい? ふにゃ!?」

 

 

 振り返った拍子に突き出してた人差し指が頬に埋もれ、妙な擬音が椎名の口から零れた。

 おお。やっぱ柔らかいな。

 余分な脂肪がついてるわけでもないのに、俺の頬とはダンチだ。

 

 

「なーに背中丸めてんだよ。蟻でも愛でてんのか?」

 

「し、新城さんでしたか。いえ、そういうわけでは」

 

 

 後ろから現れた俺から距離を離すように、椎名はパッとベンチの端の方に飛び移る。

 俺がつついた方の頬をさすりながら続ける。

 

 

「大したことでは無いのですけど、少しだけ落ち込むことがありまして……」

 

「ふーん」

 

 

 なにも拭かんでもいいだろ。

 

 

「購買で、三日間限定販売の『ふわふわかめさんメロンパン』ってありましたよね?」

 

「あの原寸大サイズのだろ?」

 

「そうなんです! 亀さんは元々好きなんですけど、前にあった『ふわふわメロンパン』のデザインが亀さんになるんですよ! 甲羅の色遣いが本物そっくりなんです!」

 

「うんうん」

 

 

 語る言葉に熱が籠ってきた。

 非の打ちどころのない美少女、ではあるんだが。

 椎名はちょっと変わった感性の持ち主だった。

 亀って、デフォルメされたのとかだと確かにぬいぐるみ的な可愛い部類に入るんだろうけど、リアルって凄い爬虫類してるよな。

 うちの学校単位で考えたらたかが好きな動物くらいなんだが、こればっかりは語りに共感を覚えられない。

 

 

「ポスターで事前告知をされていたのを見て、これは是非買わないと! ……と、思っていたのですけれど」

 

「買えなかった、と」

 

「はい……。授業が終わって急いで購買に向かったのですが、ちょうど私の前の人で売り切れてしまいました……」

 

「ギリギリ終わっちまったのか……」

 

「頑張ってはみましたが、人気の品ってすぐに売り切れてしまうんですね……」

 

 

 その人気は大半ふわふわメロンパンの味の方に集中しているんだろうが、まぁそれは言わないでおこう。

 別に嫌味を言いたくて探してたわけじゃないのだ。

 

 

「デザインの要望アンケートを投稿して選ばれたのもあってすごく嬉しかったのですが、こんなことが起きてしまうなんて思ってもみませんでした」

 

「お前考案かよ」

 

「それで落ち込んでいたのと、お昼をどうしようかと悩んでいたところでして……」

 

「そうかい。ところで椎名。お前のデザインって忠実に再現されたのか、これ?」

 

「あ、はい。確かにこんな風にってええ!?」

 

 

 超驚かれた。

 

 

「ど、どうして!? どうして『ふわふわかめさんメロンパン』がここに!? 私は夢でも見ているんでしょうか!?」

 

「夢に見るほどこいつを楽しみにしてたのか……」

 

 

 そこまでいくとちょっとついてけないんだけど。

 そう。俺が授業終了直後に三階から飛び降りまでして購買に最短距離で向かったのは、これを買うためだったのだ。

 別に廊下から普通に購買に向かっても他の誰より早く着く自信はあったが、途中で教頭先生に遭遇して廊下を走るなとお説教を受ければ話は別だ。万難を排して俺だけのルートを取ったというわけだ。

 その甲斐あって、購買ががらんどうの内に見事かめパン(フルネーム無駄に長い)をゲットしたのである。

 

 

「そ、そういえば新城さんが飛び降りしたと窓際の人が言ってたような……。新城さんも全力で最短距離を選ぶほど『ふわふわかめさんメロンパン』を狙っていたんですね……」

 

「いや、お前にやるために買ってきたんだが」

 

「でも新城さんがそんなにも頑張ってくれた上で食べてくださるなら、きっと亀さんも本望でしょうってええ!? 私のためにですか!?」

 

「いちいち遅ェなお前!!」

 

 

 反応まで亀さんか!

 

 

「で、でもでも! せっかく新城さんがちゃんと自分の手で買った物なのに……!」

 

「お前のためっつったろ。遠慮しないで受け取れ受け取れ」

 

「あ、うぅ」

 

 

 押し付けるように手渡し、椎名は恐る恐る受け取る。

 こういう時のこいつはちょい強引にいった方が話が手早く進む。

 

 

「でも、その……あ、そうです。お金は」

 

「いらん」

 

「そんな! せめて代金ぐらい、いえ! 限定だったのですから倍額は」

 

「その代わりと言っちゃなんだが」

 

「え?」

 

「……宿題、手伝ってくんね?」

 

「え?」

 

 

 驚き仰天、といった様子。

 ……まぁパンの代わりが宿題とか、訳わからんよな。

 

 

「明日提出の課題が溜まってんだが、全然手ぇ付けてなくてなー。問題も解き方とか教科書見直してもわからんし。かといって今回の宿題は小テストに出るって言うし」

 

「あ、明日まで、ですか?」

 

「ああ。んで、椎名に教えてもらえれば、宿題はなんとか終わるし、小テストもいい線いけるかもなーって思って話を持ち掛けたんだが」

 

「あの……でもそれでしたら、私じゃなくても上条さんなどにお願いすれば」

 

「上条は……ちょっとな。頼めば引き受けてくれるだろうけど、今は後ろめたいとこあるし」

 

「?」

 

 

 ちなみに俺とるいの幼馴染関係は二年に進級して間もなく明らかになったが、未だ学校では苗字呼びだったりする。

 一年それで通してきたので慣れてしまったというのもあるが、本人が関係がバレたからといって呼び方まで変えると意識してると思われると言うので、それに従っているのだ。

 そうやって徹底している方が意識してるんじゃないかと思われるのではと思いもしたが、慣れてる方が気兼ねしないで済むと判断したので言わないでおいた。

 

 

「それに、椎名の教え方は分かりやすいからな」

 

「……そう言って頂けるのは、とても嬉しいですけれど」

 

「いやこれマジな話な。正直先生よかスッと入ってくる時もあるし」

 

 

 宿題が溜まってることといい小テストにピンチを覚えてることといいで察せられるだろうが、俺は正直頭の出来が悪い。

 特定分野に関しては、駄弁ってる時になんでそんなの知ってるのって目で見られることがしばしばあるが、言ってしまえばマイナー分野。学校の勉強にはまるで役に立たない。加えて授業には意欲を持って取り組んでるとも言えない。先生に指されたらちゃんと応えるし、問題を解く時間ならばちゃんと解こうとするが、それだけだ。

 予習復習を普段からやっているなど、俺からしたら尊敬に値する。

 

 

「…………わかりました」

 

 

 椎名は少し考える素振りをしたが、やがてそう言って微笑んでくれた。

 

 

「今日は新体操の練習もありませんし、私でよければお教えしますね」

 

「サンキュ。あ、そうそう」

 

「はい? どうかしましたか?」

 

「相楽と佐伯が、お前に会ったら屋上に来てって伝えてほしいってよ。何回かLINEで送信したけど既読つかないからとかなんとか」

 

「相楽さんと佐伯さんが、ですか? ……あ、本当でした」

 

 

 スマホを取り出して画面の通知を確認する椎名。

 ちらっと見えちまったが、通知の数『30』って無かったか……?

 こんだけ催促するのもどうかと思うが、こんだけ鳴ってて通知に気付かない方もどうなんだろう。どんだけかめパンに意識を注いでたんだ?

 

 

「昼飯一緒に食べたいからだとさ。んじゃ、また」

 

「あ、あの!」

 

 

 ん? と背を向けようとした身体を止める。

 

 

「どした? 宿題ならまた放課後に連絡しようかと思ってたけど」

 

「それはわかりましたけれど、そうじゃなくて……。良ければ、お昼ご一緒しませんか?」

 

「え? 俺?」

 

「他に誰もいませんよ?」

 

 

 いや、それは分かってるけど。

 ちょっと驚きだ。てっきり仲良し三人組でキャッキャウフフしてくる流れだと思ってたが。

 

 

「まぁ向こうも嫌とは言わんだろうし、おっけおっけ。じゃ、屋上行くか」

 

「え? 理由、聞かないんですか?」

 

「いちいち聞かんでもいいだろ。それよか結構時間食っちまったし、早く行こうぜ」

 

「は、はい! 『ふわふわかめさんメロンパン』の御恩に報いるためにも、しっかり栄養補給しないといけませんよね」

 

「…………」

 

「? どうかしましたか?」

 

「いや……」

 

 

 別に引き受けてくれなくてもかめパンはくれてやるつもりだったんだけどな。

 だって、さぁ?

 あんな熱心にポスターを見つめてる姿を見たら、ねぇ。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 屋上に来るとジャグリングによるパフォーマンスが行われていた。

 ……いや、間違ってはいない。

 待ち合わせの片割れである相楽エミが、ボール10個を宙に放っては受け取り、宙に放っては受け取りを繰り返していたのだ。ボール群が描く放物線が繋がって見えるように、なるべく綺麗に同じ放物線を辿っていくようにボールの軌道を調整していた。

 観客役なのか、正面で佐伯が女の子座りしている。

 

 

「あ! 来たね心実ちゃん! それに新城くんもってわわわぁ!!」

 

 

 軌道が途端に崩れて、いくつかのボールが相楽に降り注ぐ。

 俺達の姿を見つけて集中が途切れたようだ。

 ボールは頭でぽてんと跳ね、既に先客がいる手でボール同士がぶつかり、上着ポケットにも一個侵入し。

 そして。

 胸の谷間に乗った。

 

 

「…………」

 

「ああ、相楽さん。手元から目を離しては駄目と言ったのに。……? 新城さん、顔が赤いですよ?」

 

「ごめん。ほっといて」

 

「はあ……?」

 

 

 そういえば最近たわわチャレンジなるものが流行っているそうですね。

 スマホを女の子の胸、つまりおっぱいに乗せる挑戦。乗せられるのはかなり巨乳でないと不可能だと言われているそうだが。

 でもあれって、スマホはそっと置くし、基本寄せ上げて固定するよね?

 落下してきた物、しかもスマホよりずっと不安定なボールが、固定するものが服しかないのに、乗るってさ……。乗るってさ……。

 

 

「心実ちゃんは呼んでたけど、新城くんも来たんだ?」

 

 

 慌ててボールを拾いにかかる相楽(しゃがんでも落ちない)と一緒にボールを拾う佐伯。

 

 

「私がお誘いしたのですけど、ごめんなさい。断りなく呼んでしまって」

 

「いいよいいよ。むしろ、新城くんが空いてたことが意外。待ち合わせか何かが昼休みのすぐにあるから、あんなに急いで購買行ってたのかと」

 

「そんな急ぎの待ち合わせなら朝の時点で買っとるわ……」

 

「それは、新城さんが『ふわふわかめさんメロンパン』を買うためだったんです。限定販売でしたので」

 

「あ、成程あれか。もしかして、心実ちゃんにあげるため?」

 

「……まぁな」

 

「ふーん……」

 

 

 そう言われるとちょっと照れくさい。

 お人好しは自覚しているが、他人に言われてもなんともない程冷めきってるわけでもないのだ。『ほんと、君っていい人だね~』とでも言いたげな佐伯の視線から顔を逸らす。

 佐伯はボールを拾い終えて相楽に手渡すと、椎名の隣に歩み寄って耳打ちするように言った。

 

 

「良かったね、心実ちゃん」

 

「――――――っ! さ、佐伯さんっ」

 

「聞こえてんぞー」

 

「はっ! だ、だめ! 新城さんは聞いちゃだめです!」

 

 

 椎名、真っ赤になってぶんぶん。

 ったく、何を照れてんだか。

 かめパンをどんだけ欲しがってたなんて、俺にゃもう筒抜けなんだから今更だろうに。

 

 

「うーん、やっぱりこの数は難しいなー。もう一回!」

 

「もうええわ」

 

 

 またジャグリングを始めようとする相楽にストップを掛ける。

 

 

「エミちゃん。心実ちゃんが来るまでって話だったでしょ?」

 

「てへへ……。でも、もうちょっとで感覚掴めそうだったし、あと一回ぐらい。ね?」

 

「この前それでどんだけ粘ってたか、もう忘れたか?」

 

「むーん……」

 

「相楽さん。食べ終わったら私達も相楽さんに付き合いますから、今はお昼にしましょう。ね?」

 

「……まぁ、心実ちゃんがそう言うなら」

 

 

 いつの間にか俺まで付き合うことになっているが、まぁいいだろう。食い終わって何かするわけでもないし。

 各々食べる物を取り出し、一塊になって座ろうと――――――

 

 

「あれ? みんなもここでお食事?」

 

「んお?」

 

「さ、笹原(ささはら)先輩!?」

 

「心実ちゃん。それに新城くん、エミちゃんに鞠香(まりか)ちゃんまで」

 

 

 屋上ドアから新客が現れた。

 その手に購買の弁当を携えた笹原先輩だった。

 

 

「こんにちはー! 先輩、お一人ですか?」

 

「うん。砂夜(さや)ちゃんも誘ったんだけど、『次号の特集に集中したいから』って断られちゃった」

 

「朝に聞いた特集でもうそこまで取り掛かってるのか……」

 

 

 俺の割とプライベートが白日の下に晒される日はそう遠くないようだ。

 

 

「そうそう! 砂夜ちゃんから聞いたよ? また大活躍だったんだってね」

 

「またその話ですか……。俺の蒔いた種が芽生えてきただけの話なんですけどね」

 

「それも新城くんがみんなの事、いっぱい助けてくれたからだもの。でも、危ないことしちゃだめなんだからね?」

 

 

 めっ! と言って座っている俺の頭にペチンと一発。

 そしてそのままなでなでに移行。

 

 

「えらいえらい」

 

「…………」

 

 

 この人は俺の事を弟か我が子だと思ってるんじゃなかろうか。

 今はこの面子だからいいけど、実際に年上ではあるけれど、186cmの男が20cm以上も下の女性に頭を撫でられてるって相当シュールな光景だぞ。

 しかしそこは俺。黙って撫でられるのみである。

 恥ずかしいけど、悪い気はしないし。

 

 

「はわわわわ」

 

「ほら、心実ちゃん! 憧れの笹原先輩とお近づきになれるチャンスだよ?」

 

「む、無理です! 何を話したらいいのか、何も出てきません!」

 

「そこはほら! その限定販売のメロンパンを取り出してから話題を広げるとか!」

 

「それはその、笹原先輩に新城さんからの贈り物を自慢してるようで……」

 

 

 また椎名と佐伯が筒抜けの内緒話をしていた。

 俺程耳が良くない笹原先輩は二人を見て首を傾げていたが、どうやら笹原先輩へのアプローチを決めあぐねているらしい。

 笹原先輩と椎名とのこういう関係は、椎名が中等部にいた頃からだと聞いている。

 中等部、高等部などの交流がほとんど無いのは先にも述べた通りだが、しかし全く無いというわけでもないのも確かだ。

 例えば、学校見学。

 中等部からエスカレーター式でも、自分の通うことになる高校がどういうものなのかを見ておきたいという生徒はいる。椎名もその一人で、そうして見学している時に出会ったのが笹原先輩なのだそうだ。

 ほとんど一目惚れのように憧れを抱き、また先輩も椎名を妹のように可愛がっている(仲のいい年下の子には大概そんな感じだが、椎名は一際だと思っていい)ので、関係は良好だと言える。

 言える、が。

 椎名の憧れは日増しに強くなる一方なので、未だに不意打ちだとこうやってキョドる。

 

 

「良かったら、先輩も一緒に食べませんか?」

 

 

 そんな想いは露知らず、相楽があっさりと誘いに行ってしまう。

 

 

「いいの?」

 

「せっかく屋上に集まったんですから、みんなで食べなきゃですよ。みんなもいいよね?」

 

「もちろんだよ」

 

「は、はい! 私もご一緒したいです!」

 

「ま、俺も誘われた側ですしね」

 

「じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかしら」

 

 

 満面の笑みを浮かべる笹原先輩。

 そうして、仲良し三人組と俺、笹原先輩による五人の昼の時間が流れ始める。

 俺と笹原先輩は購買の弁当。と言っても種類どころかサイズも違う。

 俺がガッツリサイズのチキン南蛮弁当ならば、笹原先輩はお手軽サイズの幕の内弁当。

 椎名はさっきのかめパンを取り出し(一個だけだが、これが割とボリュームがある)、相楽と佐伯はそれぞれ親が作ってくれたであろう弁当箱(冷凍食品っぽい相楽の弁当に対して、佐伯はバランスガチガチのレパートリーだった)を取り出した。

 各々手を合わせていただきます。食事を始める。

 

 

「新城くんって、よく食べるよね。そんなに大きいお弁当も食べちゃうんだもの」

 

「男にゃこれが一般的ですよ。むしろ、そっちのがよくそれで足りるなって思いますが、女の子ってみんなそんなもんですか?」

 

「うん。私、小食ってほどでもないけど、そんなに食べる方でもないかな」

 

「私はちょっと小食気味、かな? お店で出されるのも小さいのばかり選ぶし」

 

「私は、新体操もするのでお腹も空くのですけど……、我慢です。この『ふわふわかめさんメロンパン』がある間はどうしてもだめでしょうけど、贅沢は厳禁です」

 

「それ一個を昼飯にしたくらいで贅沢なのか……」

 

「私も女の子にしては食べる方かなって思うけど、心実ちゃんほど気にしてないかなー。ボールに乗ったりしてるおかげか、栄養がお腹にはいきにくいんだよね」

 

「持ち上げるな。胸を。男の前で」

 

 

 正直眼福もんだけどさ。

 笹原先輩も大概だが、こいつもこいつで男の煩悩に鈍感だから困りものだ。

 佐伯に小突かれて「てへっ」て感じで舌をペロリと出しやがったが、普通に可愛いんだから更にだ。

 

 

「心実ちゃんのそれって、今日限定販売してたのだよね?」

 

「は、はい。とっても美味しいですよ」

 

 

 椎名はまだ(頭から)かぶりついたばかりだが、味はやはり好評のようだった。

 じぃっとかめパンを見つめる笹原先輩。

 

 

「……あの、なにか?」

 

「良かったら、私にもちょっと分けてくれない?」

 

「ええっ!?」

 

 

 仰天。

 

 

「私もそれ買おうかなって思ってたんだけど、買いそびれちゃって。ちょっと気になってたから、心実ちゃんが良ければって思ったんだけど……」

 

「か、構いませんよ! …………構いません、よね?」

 

「いや、俺に聞かれても。お前の物なんだからお前が決めな」

 

「で、では」

 

「あ、足の部分をちょっとでいいから」

 

「あ、は、はいっ」

 

 

 ぷちっと千切られる足一本。

 そのままそれを手渡そうと、椎名は腕を伸ば―――――

 

 

「あー」

 

 

 目を閉じて口を大きく開く笹原先輩。

 

 

「…………え?」

 

 

 椎名フリーズ。

 ……これはあれか。

 俗にいう、『あーん』を椎名にしろという、無言のメッセージか。

 傍から見たら微笑ましい光景だが、しかし笹原先輩め。中々ハードなことをさせようとしている。

 

 

「え、ええと……?」

 

 

 フリーズが溶け、困ったように周りを見回す椎名。

 

 

「「「…………」」」

 

 

 じー。

 

 

「はうぅ……」

 

 

 しかし止める者は誰一人いなかった。

 佐伯や相楽は心なしか頑張れって感じのエールを送っているようだし、俺にしても諦観入り混じった感じのサインしか送れない。

 そりゃあ、恥ずかしいのはわかるけど。

 でもそれ以外に問題が見当たらないし、二人共嫌がるとは思えないから、止めようにも止められない。

 

 

「うぅ……。では、その、行きます」

 

 

 意を決してかめパンを膝の上に乗せ、片手をぐっと握り、一度引っ込めかけた腕をもう一度伸ばす。

 

 

「あ、あーん……」

 

「ぁーーんっ」

 

 

 ぱくんちょ。

 椎名の指ごと咥えたりしないように、かめパンだけがその口に含まれる。

 接触はしていない、していたとしてもわずかだろうに、かめパンが手放されたことを確認すると、椎名はすぐに手を引っ込めた。胸のあたりでその手をぎゅっと抱きしめ、鼓動と呼吸を抑えるかのように落ち着かせている。

 どこまでも乙女的だった。

 

 

「もぐもぐ……。うん! やっぱりとっても美味しいわ!」

 

「そう、でしたか…………」

 

「頑張ったね、心実ちゃん!」

 

「やったね心実ちゃん! 確実に距離が縮まったよ!」

 

 

 なんでこう、笹原先輩に対して何かできた時の椎名に寄り添う二人に、有栖川(ありすがわ)先輩がダブって見えるんだろうか。

 二人に同性愛とかそんな気はちっとも無い筈なんだが。え? 無いよね?

 

 

「…………そういや、ですけど」

 

 

 このままの空気もなんだか食いづらいので、話題転換。

 

 

「このサイズの弁当は食べれない的なこと言ってましたけど、チキン南蛮って見かけるのだとこれくらいじゃないですか?」

 

「そうね。だから実は、チキン南蛮って食べた記憶無いの」

 

「マジっすか。家族が食べてるのを分けてもらったりとかも無いんです?」

 

「うちは私の一人っ子だし、おじいちゃんも歳が歳だから油物が駄目みたいなの。両親も、お母さんは私と一緒でそんなに食べられないし、お父さんもお弁当にするときはこういうの頼まないかな?」

 

「家族全体が油物駄目なんですねぇ……。うちはすぐに消化しちゃうから油物が大好物でも問題ないんですけどね」

 

「大好物なの?」

 

「天ぷらとかのが好きですけどね、俺は」

 

「そうなんだ。ね? どんな味がするかちょっと興味あるから、分けてもらえるかな?」

 

「ん。いいですよ。この一切れでいいですか?」

 

「うん。それじゃ、あーーー」

 

「…………ん?」

 

 

 なんで目を閉じて口を開けて待ってるんだろうか。

 ……なんでいつの間にか今度は俺が『あーん』する流れになってるんだ?

 え? 冗談でしょ?

 椎名と同じ感覚でそんなの出来るはずないよね?

 

 

「ぁーーーーー」

 

 

 しかし、笹原先輩は雛鳥のように口を開けて俺からチキン南蛮が運ばれるのを今か今かと待ち望んでいる。

 待って。これはハードとかマニアとかってレベルじゃない。最高難易度アンノウンの試練なんだけれど!

 助け舟を求めて、周りを見渡した。

 

 

「「「…………」」」

 

 

 じーっ。

 

 

「…………」

 

 

 しかし止める者は誰一人としていなかった。

 佐伯や相楽、椎名までもが、エールを送るでもなく非難するでもなく、ただただ成り行きを見守っていた。

 おかしいよ! なんでお前等無反応なんだよ!

 向こうも嫌がってないし、俺も嫌ってわけじゃないけど、これは色々問題あるだろ!

 

 

「ぬぐぐ……」

 

 

 とはいえここで俺がこの行為を止めるわけにもいかない。

 何故なら、俺がさっき止めなかったから。

 他人にはやらせておいて自分は出来ませんなんて、俺の男としてのプライドが許さない。

 プライドか一時の恥か。捨てるならばと考えた結果――――――

 

 

「…………あ、あーん」

 

 

 チキン南蛮を一切れ摘み、笹原先輩の大きく開いてもまだ小さい口へと運んだ。

 

 

「ぁーーーんっ」

 

「あ、ちょ」

 

「もぐもぐ……へぇ、こんな味がするのね。美味しいけど、やっぱりそんなに食べ切れないかな?」

 

「……そう、ですか」

 

 

 くっそ! 顔から火が出そうだ!

 つーかなんで端の方掴んで差し出したのに、割り箸ごと口に含んでんだよ! 俺はこれからこの箸で残りの弁当食べなきゃいけないんですけど!? 素手か! 素手で食えってか!? 美食の神は素手だとでも言いたいのか!!

 

 

「笹原先輩、すごいですね……」

 

「だね……。割と淡白な時が多い新城くんが、ここまで赤くなるって結構なレアだよ」

 

「でもちょっと意外かなー? 新城くんだったら『そういうことしちゃいけません』って注意するかと思った」

 

 

 うるせいやい!

 

 

「ありがとう、二人共。なんだかすごく得しちゃった気分」

 

「それなら良かったです。ね? 新城さん」

 

「……そーっすね」

 

「ほら、拗ねない拗ねない」

 

 

 相楽にぺちぺちと頬を叩かれ、なんだか馬鹿らしくなってきた。

 なんていうか、いちいち気にした方が負けって感じだ。

 ちょっと大きめに咳払い。

 

 

「まぁ、好みの味ならあげた甲斐があるってもんですよ」

 

「うん、ありがとうね? そうだ! 私からもお返ししないとね」

 

「え! いえ、そんな! お返ししてもらう程では……」

 

「お返しって、そんなお手軽サイズからおかず貰う程食い意地張ってませんよ」

 

「大丈夫よ。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 ――――――――――――空気が凍った。

 

 

 

 

 

 彼女以外の全員の表情から呼吸までがまるで時ごとピタリと止まったかのように動かなくなり、世界全体の色が反転したかのような錯覚を覚える。

 しかしその中、俺の顎から滴り落ちた汗だけは、鋭敏に感じ取れた――――――今。

 なんて言った、この人……?

 

 

「か、かぼちゃ、煮……?」

 

「うん。昨日作ってみたんだけど、夕食の時間には間に合わなかったし、朝もこれを食べる時間が無かったから、タッパーに入れて持ってきたの」

 

 

 そう言って笹原先輩は、購買の弁当を入れていた袋から、蓋が閉められたタッパーを取り出す。

 そこには確かにかぼちゃ煮が詰められていた。

 

 

「二人には、これをお礼に。ね?」

 

「「「「…………」」」」

 

 

 張り付いた笑顔が引きつく俺達。

 ここで、笹原野乃花(ののか)先輩について少し語ろう。

 彼女は俺や椎名のように他校にその名を轟かせるとまではいかないが、学園に数多いる有名人の一人だ。

 その人気は、偏に彼女の人柄とその容姿によるものだと言っていい。

 ふんわりとした、いわば癒し系と呼ばれる雰囲気を持ち合わせ、更にそのスタイルも男の煩悩を多いに刺激するものだ。それに加え、彼女自身慈悲深い女神のような心優しさを備え、何事にも挑戦的な面は先生方にも人気を博している。あの神楽坂先輩と下の名前で呼び合う間柄であることからも分かる通り、異性からは勿論同性からも好かれやすい人だと言えよう。椎名もそういう先輩に惹かれた一人だ。

 しかし、そんな彼女にも欠点がある。

 不器用なのだ。

 陶芸部に所属していながら不器用だとはおかしな話だが、ほどんどが彼女ならと笑って済ませられる事柄である。

 笑って済ませられないのが、これだ。

 目の前にあるかぼちゃ煮だけではない。料理全般だ。何故かコーヒーだけはプロかと見間違うほどの腕を持っているが、それ以外が不器用なんてもんじゃない。

 すごく辛い。すごくすっぱい。すごく苦い。

 そんなのあまっちょろい。

 笹原野乃花。彼女の料理は――――――兵器だ。

 それも、大砲だとか戦艦だとかじゃない。例えるなら、そう。核兵器。

 その料理を口にして、無事で済んだ者はいない。

 

 

「それじゃ、食べてみて?」

 

 

 輝かんばかりの笑顔で、タッパーを開く笹原先輩。

 この人のタチの悪い所は、失敗する要因について自覚がないことだ。

 何度目の前で人が倒れようとも失敗してしまったとは思うが、何故失敗したかをまるで考えていない。

 だから何度も同じ失敗をしようと、何度も同じように料理という名の兵器を持ってくる。

 不味いのだと、直接伝えたこともあった。

 本人にも食べてもらって思い知らせたこともあった。

 あなたはもう料理をしなくていいと、諭したこともあった。

 それら全てが無意味だった。

 何故なら彼女は、諦めないから。

 どれだけ失敗を積み重ねようと、次は上手く行く筈だと、何度だって挑戦するから。

 見上げた精神だと思うし、椎名もきっとそういうところにも惹かれたのだと思うが、この場合は負のスパイラルでしかない。

 

 

「あ、あはは、あはははははは、はははは……」

 

 

 椎名が狂ったように笑い、汗が滝のように流れ落ちている。

 無理もない。

 ここにいる全員、笹原先輩の料理の威力を間近で見た、もしくはその身を以って知った者達なのだ。

 傍から見ているだけで矛先が向けられることはない相楽と佐伯の二人でさえ、震えを抑えられないでいる。

 そして俺も、鼓動が32ビートを刻んで寿命が大分削れている真っ最中だった。

 見た目は少し煮崩れしているだけの普通のかぼちゃ煮だが、油断してはならない。

 悪魔は、いつでもその身を表に曝け出しているとは限らないのだから。

 

 

(…………もし)

 

 

 かぼちゃ煮というのは、かぼちゃを切って、煮て、そして味付けするもんだ。

 もし、だ。

 笹原先輩がかぼちゃ煮に対して調理を施した際、味付けがされていたならば。

 その味付けが決定的なゲシュタルト崩壊を引き起こし、口にした瞬間超新星爆発のような衝撃が巻き起こるという、避けられない運命が待ち受けているだろう。

 だが、もし、だ。

 その味付けが、()()()()()()()()ならば――――――!

 勿論味付けが無い分かぼちゃの素材の味しか味わえないだろう。

 しかし、彼女の料理による犠牲者は出ないということに――――――

 

 

「このリア充が」

 

「っ!?」

 

 

 突然死角からの声。

 驚いて振り向くと、そこには姫島が立っていた。

 い、いつの間にいたんだ? 笹原先輩の料理に気を取られて気付かなかった。

 

 

「ひ、姫島? お前いたのか?」

 

「おー。昼休みになってそこのベンチで寝っ転がってきのこの森を食べてたら、いつの間にか寝てたみたいでな。ベンチからも転げ落ちてた」

 

 

 そう言って姫島が指差したベンチだが、はて。あそこなら俺の視界にも入った筈だがな。

 転げ落ちた後、ベンチの死角に入り込んでいたのだろうか。

 

 

「それよりお前等、さっきからリア充力場を全開にしよって。細胞単位で拒絶されてたぞあたし」

 

「知らない単語をポンポン出すんじゃねーよ」

 

「? リア充力場?」

 

「知らんでいいです」

 

「さっき急に途切れたから来てみたら、まーたリア充してるし。どこまでフラグメーカーなんだお前は」

 

「リア充リア充うるせーわ。つか、お前こそどうしたんだよ。目覚めたら集まってたから声掛けたなんてタイプだったか?」

 

「いやなに。若干ムカついたし、小腹が空いたからちょいともらおうかと思ってな」

 

 

 そう言ってひょいっと笹原先輩の手元のタッパーからかぼちゃ煮を指で摘まみ取る姫島。

 

 

「「「「あ」」」」

 

 

 制止も間に合わないままそれを口に放り込み――――――

 

 

 

 

 

「げふぅうううううう!!!!!」

 

 

 

 

 

 背面へと頭から落ちた。

 

 

「「「「……………………」」」」

 

 

 屋上の床に頭を打ち付けた姫島は、その身体を痙攣させるばかりで、意識を感じられない。

 一縷の望みが絶たれ、俺の精神はますます絶望色に染まっていく。

 間違いない……。こいつは本物だ……!

 

 

「ど、どうしたの姫島ちゃん!?」

 

 

 一人大慌ての笹原先輩だが、先輩。これはあなたの犯行です。

 

 

「……わ、わー。大変だー。姫島さんが頭を強打しちゃったー」

 

 

 ぐったりと倒れている姫島を見て、佐伯は突然超棒読みでそう言う。

 

 

「すぐに保健室に連れて行かなくちゃー。笹原先輩、そっちを持ってくれますか?」

 

「え? う、うん。わかったわ」

 

 

 そうして佐伯と笹原先輩は、白目を剥いた姫島を担ぎ、屋上のドアから退出していった。

 取り残される俺と椎名と相楽。そして諸悪の根源たるかぼちゃ煮。

 姫島は犠牲になったのだ……。犠牲の犠牲にな。

 

 

「えっと……どうしよっか。これ」

 

「どうしようかと言われましても……。折角笹原先輩が作ってきてくださったものを捨てるわけにもいきませんし」

 

 

 正直形振り構わず捨ててしまいたいが、捨てた場所で何が発生するのかが恐ろしすぎてそれにも踏み込めない。

 今や兵器であることが確定したかぼちゃ煮。

 ……俺は高校生でありながら、何度も死線をくぐってきたことがある。

 死線。

 それを予感させるものには、いつも死の気配を幻覚するのだ。

 何をしたらかぼちゃ煮にその気配を感じられるようになってしまうのだろうか。

 しかし、それでも。

 どうするかなんて、決まっていた。

 

 

「……俺が行く」

 

「し、新城くん!?」

 

「だ、駄目です! 元々は私が原因なのですから私が!」

 

「お前が俺を呼んでようが呼んでまいが、ここに来たらどーせ俺には見て見ぬ振りなんか出来ねーよ」

 

 

 兵器が詰まったタッパーを持ち上げる。

 

 

「お前等と違って俺は重くてしょーがねーだろうけど、頼むわ」

 

 

 手の震えは止まらなかったが、構わず一気に掻っ込んだ。

 あっという間に空になるタッパー。

 口いっぱいに詰まった兵器を、飲み込めるように噛んでいく。

 ……あれ?

 意外と食えるんじゃないか――――――

 

 

 

 

 

「ごぱぁっ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

「新城さぁぁああああああん!!!!!」

 

「新城くぅぅううううううん!!!!!」

 

 

 広くて綺麗な花畑で、姫島と寝っ転がってゲームをする夢を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最強無敵の番長、第三話で生死の境を彷徨う。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。