聖櫻番長のガールフレンド(仮)だらけな日常 作:クビキリサイクル
六限が始まった頃に保健室で目を覚ました。
右隣のベッドには未だ気を失っている姫島。どうやら俺が先に目を覚ましたらしい。
そして、俺のベッドの縁に正岡先輩が眠りこけていた。
「すぅ……すぅ……」
「…………」
規則正しい寝息を立てる先輩の手は、俺の手を包んでいた(包む、というには先輩の手と俺の手ではあまりにも差があったが)。
神崎先生から聞くと、どうやら椎名と相楽によって運ばれ、佐伯共々後ろ髪引かれながらも授業があるからと三人が去っていた(笹原先輩は佐伯によって先に教室に戻されたそうだ)後、俺が魘されていたから心配でせめて手を繋いであげるだけでもと、自分のことを後回しにしてずっと隣にいてくれていたらしい。そうやって気を遣われていたというのに、魘されていたのに思い当たる原因が夢の中で姫島との格ゲーでハメを受けていたことだけだと思うと、姫島に怒りがこみ上げる(八つ当たり)。
優しさに報いるものがそれだけなのは歯痒いが、正岡先輩を手をそっと解き、ベッドへと運んで布団を掛け、そのまま保健室を出た。
(あの兵器、食った衝撃はとんでもないのに、目覚めたらなんともないんだよな……)
生み出された経緯といい、謎多き代物である。
それとも臨死体験している間の処置が完璧だからだろうか。だとすると今まで目覚めるまでの面倒を見てくれた人には感謝感激だ。
教室に戻ると
知る人ぞ知る笹原先輩の兵器料理、このクラスでは周知の事実である。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
『(真っ白に燃え尽きたジョーのスタンプ)』
『ど、どうかなさったんですか!?』
『いや、帰りのHR終わったから報告をと』
『そうだっだんですか……。てっきりあの後病院に搬送されることになったのかと』
『今のスタンプでそこまで発想が飛ぶか……。まぁ心配すんな。ちょっと子供の頃に死んだ近所のじいちゃんが見えたくらいで、なんともなかったから』
『それは、なんともなくはないような……』
『それよか約束だよ約束。忘れてないよな?』
『あ、はい。その件なのですけど』
『え? なに? バックレ?』
『いえ! そうではなくて』
『じゃあどうした?』
『その、シャーペンの芯が授業中に切れてしまいまして。授業は佐伯さんに一本分けて頂いた物でなんとか。でも、この後の宿題にお付き合いするには、購買で買い足さなければならなくて……』
『あー。遅れることになりそうだから、待っててほしいってことか?』
『はい。申し訳ありません』
『気にすんな。第一教えてもらう立場だし、シャー芯が切れたから待つ程度で怒るような小っちぇ奴のつもりもねぇよ』
『……そう、ですね。新城さんはとても器の大きい方だと思います』
『そういうのはもっと大事の時に…………いや、やっぱ言わなくていいや。んじゃ、図書館の方で待ってるな』
『はい。なるべく早く向かいますね』
『(OKの吹き出しがついたナマケモノのスタンプ)』
『可愛いです!』
というやり取りを椎名とLINEで。
デフォルメされてないナマケモノなのにすぐにこの感想が出てくるって相当だよな……。
図書館へ向かおうと廊下を歩いていると。
「兄貴! お疲れ様です!」
「兄貴! お帰りッスか!?」
後ろから男の声を二種類で掛けられた。
……俺のことを兄貴と呼ぶ奴は、知る限りでは二人しかいない。
若干辟易しながら後ろを振り向く。
「燕に
「聞いたッスよ兄貴! またちょっかい掛けて来やがった奴をぶっ飛ばしてやったんスよね?」
「その話もううんざりなんだよ……。朝っぱらからみーんなその話ばっかしやがってさ」
「失礼したッス!」
「いや、お前に謝られることでもないんだが」
「僕と狼丞くんは、これから兄貴の偉業を広めるために朝の写真を新聞部に提供しにいくところなんです。兄貴はどうしますか?」
「お前は謝って」
やはり円岡燕と、狼丞―――
見た目は対照的とも言える組み合わせである。
燕は男にしては小柄―――150台の低い方だそうだ―――で、顔立ちが童顔なのも相まってしばしば中学生、小学生にさえ間違われることもあるという。付け加えて体格や持ち合わせた雰囲気がショタっぽいというか、どうにも男らしさというのが足りないため、苗字の円をとって『まどか』という女っぽい渾名が付けられていたりする。
対して狼丞は大柄―――この前もう少しで2mの大台に乗るとか言っていた―――、それも顔立ちも体格も男、という出で立ちだ。ただ雰囲気がいわゆるヤンキーで、目つきが良いとは言えず(人のことは言えないが)、生まれ持った金髪をオールバックにしてるのもより一層その雰囲気を際立たせていた。朗らかなのはその表情ばかりである。
で、一見噛み合わなさそうなこの二人が何故仲良く隣り合っているかと言うと――――――
「悪いがこれから椎名と図書館で勉強会するところだ。明日小テストなんで」
「学園のマドンナと図書館デート……! 流石は兄貴です!」
「図書館ということはアレッスか!? あの図書館の華と噂される
「妙な邪推すんな!」
こういうとこだよ。
今じゃ学園中の男子がこんなノリなんだから救いがない。
「そういうことなら邪魔しちゃいけないッスね! 馬に蹴られないように俺等は早々に退散するッス!!」
「兄貴ー! 学園トップクラスの美少女お二人との秘密の勉強会、是非後日感想を聞かせてくださいねー!」
「何の感想を聞くつもりだテメーら!! そんなんじゃねーしなんで村上先輩も参加する前提なんだよ!!!」
俺の叫びが聞こえているのかいないのか、二人は足早に廊下を駆け抜け、俺の視界からその姿を消した。
学園じゃ筆頭舎弟とか呼ばれてる奴等で、最初こそ衝突したものの、俺が仲裁したことによってすっかり(主に俺の)話が合い、今じゃ有名な凸凹コンビである。息が合うこと合うこと。
追いかけて拳骨喰らわすのも考えたが、絶対懲りないだろうし、馬鹿二人に無駄に時間喰って待ち合わせ場所で待つどころか待たせるのも悪いので、図書館へと歩みを進めることにした。
果たして何のために現れたんだろうか、あの二人。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
図書館へ着くとカウンターで村上先輩と
「あの、村上先輩」
「はい。どうかしましたか? ……あ、絵本のことですか?」
「し、しーっ! 誰が聞いているかわからないですから!」
「あ、ご、ごめんなさい……。それで、今日はどういったものを?」
「…………」
「えっと……。今日は、なんていうか……。お話が深い、語り掛けてくるようなものがいいかなって」
「語り掛けてくるもの、ですか?」
「あ、もちろん、何も語り掛けてくるものがない絵本はないと思いますよ? でも、次に描こうと思っているのは、例え悲しくても、それを乗り越えようとする。例えハッピーエンドじゃなくても、ただ悲しいだけじゃない。そんな絵本でして……」
「わぁ……。素敵だと思います、そういうの」
「わかってくれますか? なので、そういうお話を参考にしたいなって。絵本や童話であれば、厚さや作者は問いませんので。何かおすすめはありませんか?」
「そうですね。それでしたら――――――」
「それなら『はちの王子様』とかどうだ?」
「ぴゃっ!」
「あ、新城君」
後ろから声を掛けると加賀美は飛び上がった。
そのツーテールも連動して跳ね上がった。
触覚かなんか?
「俺が知ってんのは第一章までだけど、あれだけでもかなり完成度高かったしな。参考になるかはわからんが、読む価値はあると思うぞ」
「し、新城くん! 後ろから急に声掛けないでよ!!」
「秘密にしたいっつーんなら周りを警戒しとけよ。俺じゃなかったらどうするつもりだったんだ?」
「君は足音が全然しないから気付けないの! 私これでもそういうの敏感な方なんだからね!?」
「まぁ図書館だしな」
足音ズカズカ立てるのも悪いと思って。
「それで、新城君はどういった御用向きでしょうか? 何かお探しの本でも?」
「いや、今日はちょっと勉強会をしようと思って。席空いてます?」
「ええ、空いてますよ。
「ああ、そっか。明日小テストだっけ?」
「まぁそれもあるんだが。そういや加賀美は宿題終わってんのか?」
「うん。随分前に出されたものだしね。そういう新城くんは?」
「質問した意図を察して頂きたい所存」
「何その喋り方……。そっか、終わってないんだね」
「加賀美が終わってんなら写させてもらう方が楽だったが、生憎内容が小テストに出るって話だしな……」
「小テストに出なかったら写させてもらうつもりだったの……?」
呆れて言う加賀美だが、こう言いながらも頼んだら写させてくれるんだから良い奴である。
正直違うクラスの椎名の前に宿題の手伝いを頼もうかと考えていたくらいだ。
今日がテニス部の練習の曜日じゃなければな!
「『はちの王子様』か……。見たことないなぁ。先輩は?」
「私も覚えがありませんね……」
「あ、マジですか? じゃあこの図書館には無いのかもな」
「い、いえ! 探してみたらあるかもしれませんし。あらすじを教えて頂けたら、思い出せるかもしれません」
「そうですか? 結構印象深い話でしたし、村上先輩がパッと思い出せないんなら無いと思いますけど……」
ここの図書館は一応パソコンで書籍管理をしていたりはするが、ハッキリ言って村上先輩に聞いた方が頼りになったりする。データが膨大な分曖昧な検索を許さない機械類より、図書館の書籍を読み尽し、置き場所から内容まで粗方頭に入っている村上先輩の方が目当ての物を早く見つけられることの方が多いからだ。
ただ、先輩も人間であり、何から何までずっと覚えていられるわけではない。基本的にジャンルを問わない村上先輩であるが、新しく入荷された本をまだ読んでないということも充分に有り得る。
それを差し引いても『はちの王子様』を村上先輩が知らないのであれば、やはりここの図書館には無いと思う。
話が印象深いのは言った通りだが、初見であってもあの絵本には手を取るだけの価値はあると見れるだろう。
思った通りと言うべきか、実際に内容をネタバレにならない程度に掻い摘んで話してみても二人から思い当たるような反応は見られなかった。
「……やっぱり、心当たりがありませんね」
「そうですか……」
「お力になれず、申し訳ありません……」
「でも、あらすじだけでもすごく面白いって思えちゃうな。君が印象深いって言うのも納得」
「つっても図書館にないみたいだしなぁ……。あ、なんなら明日にでも持ってくるか?」
「ほんと!?」
「近い近い」
ずいっと乗り出してきた加賀美の顔を右手でぐいーと押して引き離す。
ちっちぇなこいつの顔。
俺の手がデカいだけか?
「結構最近読んだ本だから奥底に仕舞われてることはないだろうしな」
「じゃあ、お願いしてもいいかな?」
「おう。お前もそろそろ部活の時間だろ?」
「……あ! 本当だ、もうこんな時間」
「明日の朝にでも渡すから、今日の所は部活に精を出せよー」
「ありがと! じゃ、私行くから!」
「俺が忘れてなければな!」
「忘れないでね!」
そうして加賀美はすたこらさっさと図書館を後にしていった。
「……さて、俺も勉強会の準備をするとしますか。しばらく話し込むかもなんで、先に謝っておきます」
「構いませんよ。……それにしても、なんだか意外ですね」
「? 何がですか?」
「新城君は、加賀美さんの童話好きについて知っている数少ない人なのは知っていましたけど、あなた自身も読むんだなって」
「とてもそんな風には見えない、ですか?」
「い、いえ。そんなことは」
「いいですよ、気にすることじゃないですし」
かといって大っぴらに語りたいわけでもないが。
「まぁ絵本にも手ぇ出すようになったのは完全にあいつの影響ですけどね。自分で買った絵本ってないんですよ」
「え? でも『はちの王子様』は……」
「どっかの古本屋で母親が取り寄せてきたって言ってました」
「母が、ですか?」
「あの人、自分が名作だと思ったらジャンルを問わず持ってくるんですよ。漫画でも小説でも、それこそ絵本でも」
「……なんだかすごい方なんですね」
「ええ」
昨日なんか良作だとか言ってエロ漫画を持ってきて息子の俺にひけからしたくらいだからな。
村上先輩の言う「すごい」と、俺があの人に思う「すごい」じゃかなり意味合いが異なるだろうが、言及する気も起きない。
「すみませーん。ちょっといいですか?」
「あ、はいっ。……すみません、呼ばれているようですので」
「いいっすよ。むしろ俺こそ立ち話に付き合わしてすいません」
「謝らないでください。また、お話したいです」
そう言って、村上先輩は綻んだような笑顔を残して、呼ばれた方へと駆けていった。
……さて。名残惜しいが俺も席を確保しないとな。
聖櫻学園の図書館は二階建て構造になっているが、生徒の主な利用は二階に集中している。というのも、一階の本棚に並べられているのは専門書ばかりだからだ。都心の大学の図書館でも、あそこまで並べられているかは疑わしい(それでも少ないながら利用者がいるのがうちの学園だ)。
反面、二階の本棚に並べられているのは小説、ライトノベル、漫画や絵本、雑誌類といった、一般的な高校生でも手の出しやすいものだ。かと言って二階が俗っぽいかと言えばそうでもなく、今でもスペースを多く占めているのは分厚い本だったりする。付け加えて言うと、二階ではテーブルスペースがある。本棚を超えるほどではないが、二階のスペースはそれに次いでテーブルに占められていると言っていい。本を読むだけでなく勉強、歓談、作業をするなどでここが使われることも多い。
「おや。新城さん、ですか」
テーブルスペースに先客がいた。
ミス・モノクロームだった。
「モノクロか。何してんだ?」
「読書、です。作品に触れることは、心を知る事にも、繋がると、お聞きしました」
「読書ねぇ。その厚さと大きさを見るに、漫画か?」
「はい。これは良作だと、つい昨日、薦めて頂いた、方から」
熱心に読んでいる様子。
ブックカバーを掛けられているので表紙は窺えないが、ラノベにしては大きいし、小説にしては薄いといった感じなので予想をつけたが、どうやら当たりのようだ。
漫画でも読書というのかと言われるだろうが、逆に他に何と言うかを聞いてみたい。
「新城さんは、何か、お探しですか?」
「いや、今日はここで椎名に勉強教えてもらう予定だ。明日小テストあるのは知ってるだろ?」
「勉強、ですか。言ってくだされば、私が、力になります、のに」
「お前の教え方は機械的過ぎて逆に要領を得ないんだよ。勉強が出来ても教え方が悪いの典型的例だったぞ」
この前なんか国語の宿題中に「何故、メロスは、自分が処刑される前に、妹の結婚式を、祝いに行きたいと、願ったのでしょう、か?」とか言って問題にない問い掛けをしやがるし。
「気持ちだけ受け取っとくわ。サンキュ」
「教え方が、悪い、ですか。対処せねば、なりませんね」
頭を軽く撫でると、モノクロのツインテールがぴこぴこ動いた。
尻尾かな?
「そういえば、ですが」
「あん?」
「今読んでいる、本の事で、少々、お聞きしたい、事が」
「聞きたいこと?」
「はい。これ、なのですが」
モノクロは持っていた本の内容が見えるように、こちらに向――――――
男女が絡み合う卑猥な絵が広がっていた。
というかガッツリエロ漫画だった。
「オラァッ!!」
本だけ蹴り上げた。
「ああ。なんてことを」
「なんてことを。じゃねーよ!! お前こそ学校の図書館でなんてものを読んでんだよ!!」
「……? 何か、問題が?」
「しかもなんか見覚えのある絵柄だったんだけど!? なにあれ!? お前にこれ薦めた人ってどんな人!?」
「あなたの、母親と、名乗っていました」
「あんの馬鹿親がぁぁぁああああ!!!!」
「『これで得た知識を是非うちの息子で活かしてあげてね♥』と、言っていました」
「素直に応じようとすんな!! お前のそういうところ良い所だけど悪い所でもあるからね!!?」
どーりで昨日「あなたって可愛らしいお友達がたくさんいるのね」とか話してたわけだよ! 家にほとんどいないお袋が俺の友達事情を知ってたわけだよ!! 俺の好みの女の子についていつも以上に食い下がってきたわけだよ!!!
「没収だ没収! これは俺が責任を持ってあの母親に叩き返す!!」
「そんな、殺生な」
「何も殺生じゃねーよ!」
「ならば、せめて、教えてください。それに載っていた、『でぃーぷすろーと』とは、一体、どういうことでしょうか?」
「淫語について問い質そうとすんなぁぁぁ!!」
「あの、図書館ではお静かに……」
いつの間にかやってきていた椎名に注意され、(しっかり誤解を解いた後に)勉強会が始まった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「――――――はい。これで左辺も右辺も整理出来ましたね」
「じー」
「んで、この二つが全く同じわけだから」
「じー」
「この等式は成り立つ。証明完了です」
「じー」
「おお。出来た出来た」
「じー」
「はい。ではこれで、数学の宿題は終わりましたね」
「じー」
「…………」
「じー」
「…………」
「じー」
「…………」
「じー」
「……あの、モノクロームさん?」
視線に耐え切れなくなったのか、椎名が前方に居座っているモノクロに声を掛ける。
居座っているというかなんというか。俺達が並んで座っている席とはテーブルを挟んで対面にある位置から、顔と指先だけを出してずっと俺達の様子を見守っていた。
「はい。どうか、しましたか?」
こっちの台詞だよ。
「いえ。その……先程から随分と熱心に見ていらっしゃいますから、どうしたのかと」
「お気になさらず。ただの、研究、ですので」
「研究、ですか?」
「はい。新城さんは、私は、勉強が出来ても、教え方が、要領を得ない。そう、仰いました」
「気にしてたよ……」
モノクロの場合は根に持つタイプとかではなく、ただ忘れず素直に受け止めているだけなんだが。
なんか俺が悪者っぽい。
「なので、教えるとは、どのようにすればよいのかと、椎名さんを見て、研究、です」
「どのようにすればよいか、ですか。そうですね……」
少し考える素振りを見せた椎名だが、やがてそれに答える。
「私個人の意見になりますが、自分が分かってることを言うだけではないのだと思います」
「言うだけではない……」
「教える人が、どこでわからないのか。どうしてわからないのか。どう言えば分かってくださるのか。教えられる人の視点に立って考えるべきなのではないでしょうか?」
「成程。教えられる側の、視点に立つ……」
「そうしたら、きっとモノクロームさんも立派な先生になれる筈ですよ」
「先生……。それは、立派なこと、ですね」
へぇ。
教える側って逐一そういうこと考えてんのな。
「わかりました。では、それを踏まえて、観察を続けます。どうか、お気になさらず」
「見てることを微妙に口に出してるから聴覚的にも気になるんだがな……。次は歴史か。『遣唐使の廃止は何年の出来事であるか?』」
「年号の問題ですね。えっと、これは……あれ? いつだったでしょうか?」
「なんだったっけなー……。先生が年号語呂合わせで何か言ってた気はするんだが」
「これは、894年のことですね」
「わ!」
「あ、村上先輩」
「語呂合わせは確か、『白紙に戻す遣唐使』だったかと思います。『894』を『はくし』と読んでいるんですよ」
椎名と俺の間の背面から、村上先輩が覗き込んでいた。
ぷち飛び上がる椎名。
「あ……、ごめんなさい。お困りのようでしたから、つい口を……」
「い、いえ! こちらこそ、驚いてしまってすみません」
「いえ、それは急に私が声を掛けたからで」
「いえ、私の方こそ不用意に大きな声を」
「いえ、ですからそれは」
「いえ、私が」
「そんぐらいにして」
謝り合うと止まらねーなこの二人は。
「村上先輩。呼ばれてた事情は終わったんですか?」
「え? ええ、はい。本を探していたそうなので、案内しました」
894年と記入欄を見ずに書き込みながら、村上先輩に問い掛ける。
「委員のお仕事も簡単なものがいくつかあっただけなので……。そちらを済ませた後に、こちらの様子はどうかな、と思いまして……」
「ご心配をお掛けしたようで……。見ての通り、椎名のお陰で順調ですよ」
「ふふ、光栄です。でも、新城さんも飲み込みが早くて、こちらとしても教え甲斐があります」
「本当に飲み込みが早いんならこんなに溜まったりしてないんだよなぁ……」
「……あの。良ければ、私もお手伝いしましょうか?」
「え?」
村上先輩からの望外の提案。
……村上先輩からも教えてもらえると?
もちろん、三学年でも成績上位に位置する先輩に教えてもらえるなら願ったり叶ったりではあるけど。
「私の方が一つ先輩ですから、お力になれるかもと思ったので……」
「俺としては有難いけど……椎名は?」
ただ、俺は今椎名に教わっている最中なのである。
それでありながら新しく教授をお願いするなど、そのつもりがなくとも椎名の力が足りないと言ってるようなものだ。
そう思って、椎名に意見を伺ったが。
「もちろん喜んで!」
椎名は笑顔さえ浮かべてそれを受けた。
「先程のように私も分からないことがあったら、是非教えて頂きたいです」
「……ふふふ。ええ、わかりました。その代わりと言ってはなんですけど、私にも復習、させてくださいね?」
そう言って、先輩は俺を挟んで椎名とは逆の、俺の右隣の席に座った。
マジか。
学園トップクラスの美少女かつ才女である二人から教えてもらえるとは。
燕と狼丞の邪推じゃないが、かなり恵まれた状況じゃ――――――
ふにょん
「……………………」
柔らかい感触が俺の脳髄を襲った。
発生源は、俺の右隣に座った村上先輩からでも、左隣の勉強道具を三人の真ん中に集中させた椎名でもない。
背中からである。
「…………あの。モノクロームさん?」
敬語になってしまった。
割とパニック状態の俺。
「はい。なんでしょう?」
モノクロはいつもと変わらない平坦な声で応える。
「いや、何やってんの?」
「教えられる側の、視点、です」
「は?」
「椎名さんは、教えられる側の視点に、立つべきだと。そう、仰いました」
「仰いましたねええそうですねそれが?」
「なので、現在教えられている、新城さんの視点から、観察をするべきだと、判断しました」
「視点っつーか、隣に這い寄る混沌みたいなんですけど」
というかお胸が当たってるんですけど。
程良い膨らみが俺の背中いっぱいに広がっているんですけど。
服とかブラとかその内側にある柔らかなものとかの感触が伝わってくるんですけどぉぉお!?
「成程。これが、新城さんの視点、ですか」
「俺の視点じゃねーよそれ! 俺の肩に顎乗せてるお前の視点でしかねーよそれ!」
「モ、モノクロームさん。私が言っていたのはそういうことではなくて」
「……えっと。こういう時、なんて言ったらいいのか……」
「お二人も、この視点から見れば、より、教えられる人の、気持ちが、理解できるかと、思われます」
「「え?」」
「……は?」
え、ちょっと。
なんで二人の肩をガシッと掴んでるのこの子?
いやまさかいくらモノクロームさんといえどそこまでのことをやらかしたりはしな――――――
「では、どうぞ」
ぐにょん、もにょんと。
椎名と村上先輩の体でサンドイッチされた。
(あぶぁぁぁああああああああ!!!!)
いやぁああああああ!!! 三方向から六つの膨らみがぁぁぁああああああ!!!!
後門にモノクロ! 右門に村上先輩! 左門に椎名ってなにこの布陣!? 前門はテーブルで四神包囲されてるし! 上にも下にも逃げようにもモノクロのホールドが固すぎるのと引っ掛かってる物体の感触が凶悪過ぎて身動きさえ取れない状況だしぃ!! こんなところでアンドロイドぱぅわー発揮してんじゃねぇよぉ!!!
「これで、効率が上昇するかと、思われますが」
「放してェェェ!!! 今すぐこの拘束を解いてェェェェ!!! これもう効率云々以前の問題だからァ!! 当たってるとかってレベル超えてるからァ!!」
「はて? 当たっている、ですか?」
「も、モノクロームさん!」
「そうだ! 言ったれ椎名!!」
「これじゃあ勉強が出来ません!!」
「そこじゃねーだろォォォ!!!」
勉強が出来ませんじゃねぇぇぇ!! 今そんなん気にしてどうするぅぅぅ!!
「も、モノクロームさん……! これは、その、問題があると言いますか……!」
「ですよね村上先輩! 問題ありますよね!」
「問題……? なにが、でしょうか?」
「それは、その……」
「はい?」
「か、顔が……近いというか……」
「そこは問題ですけど! 他が大問題だらけです!!!」
なんで二人共自分の胸が形を変えて俺の体に押し付けられていることに関して何も言わねーんだよ!!?
自分の身体のエロさに自覚がないから!?
それとも俺の理性がこの煩悩に耐え得る氷山の如きだと信頼してるから!? 違うよ! 氷山だとしたらあなた達はマグマだよ! 氷の大地を溶かす熱量を持ってるの! 溶けようものならゴジラさんこんにちはだよ!!
「ふむ。顔が近い、だけであれば、問題はないかと――――――」
パシャリ
「おや?」
前方からフラッシュが焚かれた。
……え? なに?
「ぐふふ……♪
「も、望月さん……?」
「はぁ~い。望月エレナでぇす」
その手にカメラを携えた望月先輩が、テーブルを挟んで前方にいつの間にやら現れていた。
「新城くんってばぁ、こぉんなに可愛い女の子達とくんずほぐれつしてるなんてぇ、羨ましいったらないわぁ」
「だったら今すぐ代わ――――――いややっぱいいです」
「なぁにぃ? 独占欲湧いちゃったぁ?」
「あなたが今俺に成り代わったら洒落にならんことになるからです」
ぶっちゃけ今も洒落にならんけど。
つーか何時までホールドしてるつもりだよモノクロ。
「まぁそれはさておきぃ、モノクロームちゃん? そんなにぎゅうぎゅう詰めにされたら、勉強できるものも出来なくなっちゃうわよぉ?」
「……成程。これでは、動きが制限されると。申し訳、ありません」
そうして解かれるホールド。
六つの膨らみもそれに合わせて離れていった。
椎名も村上先輩も真っ赤になって俯いてしまったが、まぁ男と体を寄せ合わせてたらこの二人ならこうなるよね。
それにしても、助かった……。
望月先輩がいたことといい、この人にホールド続行宣言されなかったことといい、色々想定外の救援だったが、あのままだったらどうなっていたやら――――――
「あぁ、モノクロームちゃんはさっきのポジションねぇ」
「はい」
ふにょん、と。
再び背中に押し付けられるモノクロームの膨らみ。
「……………………」
「うん!! いいわぁ! そのこてんって新城くんの肩から顔を覗かせてる感じ! この構図すごく絵になるわぁ~♥」
前言撤回。やっぱ助けられるならこの人じゃない方が良かったわ。
「砂夜ちゃんから頼まれてた新城くんのレアな表情もついでに撮れたしぃ、今日はツイてるわぁ~♪」
「ほんっと、マジ勘弁してください……」
その後、なんとか宿題を終わらせることは出来たが、背中の感触と右半身・左半身に残った感触、加えて写真を撮ろうと屈んだ望月先輩の谷間に意識を持っていかれて肝心の内容が全く頭に入らず。
翌日の小テストは散々な結果となった。
番長も男の子だからね。仕方ないね。
というわけでプロローグ的なものは終わりです。
これからは過去編を間に挟みつつ、ガール達との日常を描いていきたいと思います。
みなさんが見たいと思うお話があれば、メッセージなどでお送りください。(ぶっちゃけ日常でのネタがからっきしなんで、助けてください(本音))
他校メンバーが登場するストーリーは、過去編と日常話をしばらく書いてからになると思います。