聖櫻番長のガールフレンド(仮)だらけな日常 作:クビキリサイクル
ある日、聖櫻学園生徒会長・
「役職、変えてみたいわねぇ~」
なんでもない日のことだった。
大なり小なり、善なり悪なりイベントが盛り沢山の聖櫻学園で、その皺寄せを引き受ける生徒会はほとんど日常的に仕事に追われている。
とはいえ、それにも波はある。
学校行事直前の準備、直後の後始末。そういった特に忙しい日に比べれば、今日はなんでもない平和な時間だと言えるだろう。仕事も、普段に比べれば片付けられている方だ。
かといって無い訳ではなく、いつものように積まれた書類を生徒会の二人が片付けている最中のことであった。
生徒会には現在三人の役員が部屋にいるが、他二人の仕事ぶりを前に残り一人が仕事をしているなどと認められる人間はいないだろう。
何せ、給仕係のように紅茶を振る舞っているだけなのだ。
その一人が生徒会長なのだから笑えない。
ちなみに生徒会にはもう一人、
「はい?」
誰にも向けたわけでもないかなたの言葉に、副会長である
書類に判子を押しながら。
本来なら積まれた書類の大半は会長の仕事であるが、その会長がご覧の有様なので代わりを務めているのだ。
良くも悪くも面倒見が良い性分である。
下手に任せて逆に始末に負えなくなるのが恐ろしいのもあるが。
「役職、ですか?」
「私達って、今期に入ってからずっと役職変わらないでしょう?」
「役職はそういうものですし、今期だってまだ始まったばかりじゃないですか」
呆れ交じりで応えるのは書記の
彼女もまた積まれた書類と格闘している現状だが、一年である彼女もまた生徒会に入ったばかり。
それを成すのも彼女の生まれ持った真面目さ故なのか。生徒会と交流がある者は口々によくやると言うものだ。
「そうねぇ~。でも、たまには新鮮さも必要だとは思わない?」
「思いません」
「思いません」
にべもない二人だが、それで折れるかなたではなかった。
「だからね~。一度、役職を変えてみたいと思うのよ~」
「そんな暇があるなら仕事してください」
「そう言わずに~、ね?」
「私達も暇なわけではないので……」
「ねぇ~、お願いりさちゃん♪」
「…………」
「ね~え~」
「……わかりました」
「副会長!?」
あっさり折れるりさ。
驚きの声を上げる睦ではあるが、仕方がないのだ。
かなたの『お願い』と小動物のような瞳を前に折れない者など、少なくともこの学園には存在しないのだから。
「睦ちゃん。役職変更なんて言っても、本当に変わるわけじゃないし。今日だけのちょっとしたお遊びみたいなもの。ですよね? 会長」
「もちろんよ~♪」
「言い出したらやるまで言うでしょうし、付き合ってあげましょ」
「は、はぁ……」
何故私の方が説得される側なのでしょうか、と思う睦だったが、民主主義は時に残酷なものである。
結局、生徒会役員による一日限りの役職変更が行われる運びとなった。
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会長 かなた→睦
副会長 りさ→かなた
書記 睦→りさ
「……はい。では副会、じゃなくて篠宮先輩。これをお願いします」
「わかったわ、じゃなかった。わかりました会長。代わりにこれにサインを」
「はい、確かに。……あ、この書類記入漏れがありますね」
「あら~、そうなの睦ちゃん? それじゃあ、直してあげないと~」
「ですが会ちょ……副会長。この書類ですと、生徒の方のやり直しでないと受け取れませんので」
「今すぐには無理ね……ですね。後程処理するものとして、他の書類をまとめましょう」
「そうなのね~。あ、りさちゃん睦ちゃん。紅茶はいかがかしら~?」
「あ、ではいただきます会、副会長」
「ありがとうございます会ちょ…………副会長」
「どうぞ~」
「「…………ふぅ」」
アールグレイを一口飲んで、ほっと一息吐いて。
二人は思った。
((やることなんにも変わらないなぁ……))
とりあえず席と腕章を替えて、呼び名とある程度の上下関係も変えてみたが、やることは結局仕事だった。
会長の権限は一時的に睦へと移ったので、会長を通さなければならない仕事はかなたを通さずに済むようになったが、それだけだ。
ちなみにサインの筆跡は睦でも、名義はかなたのものである。
「う~ん…………」
肝心のかなたも眉を寄せた表情だった。
「なんだか、いまいちね~」
「そもそもとして会長が副会長になっても、やることは変わらず紅茶を淹れることですからね……」
「役職が変わったところで仕事内容が大幅に変わるわけでもないですし……」
「あ、でも。会長席に着いたら、睦ちゃんちょっと嬉しそうだったわね~」
「う、嬉しがってなんていませんよ! ちょっと、ほんのちょっと誇らしい気持ちになっただけですから!」
「それは嬉しがってたでいいと思うわよ……」
「でもそうねぇ~。せめて生徒会とは違うお仕事してる人が一人でもいてくれたらな~」
「遊びとはいえ、流石に他の人を巻き込む気にはなれませんよ」
「それに、他の人を呼びに行くわけにもいきませんよ。そんなに時間掛けたくないですから」
「う~ん。どうしようかしら~」
悩む三人。
発案者であるかなたはともかく、りさと睦の二人まで真剣に悩んでいるのは、真面目に生まれた彼女らの性だ。乗せられる時はとことん乗せられるものである。
しばらく悩み続けていると、生徒会の扉が開かれる。
「こんちゃー」
「あ、新城先輩」
「ああ、新城君」
「あら~。いらっしゃ~い♪」
言わずと知れた喧嘩番長・新城一也である。
生徒会の三人がぱたぱたと近付いていく。
「どうかしたの? 生徒会に何か用?」
「ちょうどよかったです。この書類なんですけど」
「今日はアールグレイを淹れてみたの~。新城くんも飲む?」
「待て待て。聖徳太子強要しないで」
一斉放射に制止を掛けて、改めて切り出す一也。
「まず篠宮から」
「あ、えっと。生徒会に何か用?」
「霧生に頼んでた書類運びだけど、俺が代わりにやっといたから報告」
「そうなの? ありがとう。霧生さんは?」
「望月先輩をお説教中」
「ああ、そう……」
「はい鴫野」
「先輩。この書類なんですけど」
「ん? ああ、うちのクラスの書類だな。それが?」
「記入漏れがありますよ。ほらここ」
「んー? ……あー、これか。八束に渡しとけばいい?」
「いえ。生徒会による書き加えは駄目ですけど、これくらいなら2-Cの先輩が書いてくだされば」
「八束の字と比べて俺の字汚ぇからなー……ま、いいか。で、会長ですね」
「えっと~。私は~」
「紅茶なら頂きます」
「は~い。ちょっと待っててね~」
「言葉先回りするんですね……」
「ま、目的の八割は紅茶だったし」
「報告ついで!?」
で、と一也は言う。
ずっと気になってたんだが、とも。
「お前等、なんで腕章が変わってんだ?」
「「あー…………」」
「いいでしょう~? 私、今日は副会長なのよ~」
「役職ランクダウンしてますがそれは……」
「あ、そうだわ!」
「ん?」
「新城くんにも参加してもらいましょ~♪」
「「「……はい?」」」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
会長 睦→りさ
副会長 かなた→一也
書記 りさ→かなた
番長 一也→睦
「いや、何これ?」
「役職変更、だそうよ」
「番長って役職だっけ!? 称号でしか無かったよね番長!」
「生徒会で番長っていう役職を作るのも、いいかもしれないわね~」
「継ぐの!? 継承性になるの番長!? 模範になるべき生徒会の役職に不良の象徴である番長が君臨してていいの!?」
「大体なんで私が番長なんですか!? くじ引きとはいえあまりにも似合いませんよ私には!」
「それ言ったらこの生徒会似合う人一人もいないけど!?」
こうは言いながらその腕にはしっかりと副会長の腕章が着けられていた。
暴において最強の一也と言えど、かなたのお願いには勝てた試しがない。
「でも、いいと思うわ~♪ とっても可愛らしい番長さんが出来ちゃったもの~♥」
「か、からかわないでください!」
「あー…………。なに? さっきまでこんなことして遊んでたのか?」
「始めたのもさっきなんだけどね……。三人だけじゃ腕章諸々が変わっただけだったからどうしようかってなってたの」
「俺が言うのもあれだが仕事しろよ」
「してたわよ。でも、似合ってるじゃないその腕章。来年になったら本当にそれを着けることになるのもいいかもね」
「生徒会なんざ手伝いだけで一杯一杯だっつーの。鴫野もショック受けた顔しない」
「でも、イマイチ実感が湧かないかもしれないわね~……」
番長の腕章(即席紙製)を着けた睦を抱き寄せながら、かなたは言う。
「実感、ですか?」
「腕章を交換したのはいいけど、お仕事してる時ってそんなに役職って意識しないのよね~」
「それは、会長が仕事を、しないから、でしょう……!」
「そうかしら~?」
「会、かなたさん。睦ちゃんが抱き締められすぎて余裕なさそうですよ」
「つーか、番長の仕事ってなんですか? 「
「「「?」」」
「ネタが通じない……」
残念ながら生徒会の三人はとあるライトノベルを読み漁る人種では無かった。
これはボケた一也の落ち度である。
と。
そこで唐突に何かを思いついたかなた。
「あ、そうだわ~!」
「? どうしました?」
「名乗りを上げるのはどうかしら~?」
「……はい?」
「な、名乗り、ですか?」
「そうそう。「私は聖櫻学園生徒会書記、天都かなたで~す」。っていう風に、ね?」
「あぁ。そういう感じで」
某塾長が頭に浮かんだ一也は、早速取り掛かる。
「俺が聖櫻学園生徒会副会長! 新城一也だ!!」
「わぁ~♪」
ぱちぱちぱち、と拍手を送るかなた。
結構ノリがいい彼は「以上!」で締めようかと思ったが、後に続くであろう二人に合わなそうなのでやめておいた。
「ほれ、次」
「え!? わ、私!?」
「どーせ会長に言われたら渋々やることになるんだし、さっさとやっちまった方がいいだろ」
「そ、そう言われても……」
「ねぇ~、りさちゃん?」
「ほれほれ。篠宮会長の名乗り上げをご所望だぞ」
「うぅ~……」
意を決し、りさも立ち上がった。
「わ、私が聖櫻学園生徒会長! 篠宮りさよ!!」
「わぁ~♪」
「おぉー」
ぱちぱちぱち、と二人で拍手を送る。
赤く染まった顔で現部下二人を睨みつけるが、迫力は0だった。
ストン、と元の席に座り直し、他二人と共に視線を最後の一人へと送る。
「……な、なんで見ているんですか?」
「だって~。みんなやったわけだから、ね~?」
「そうね。睦ちゃん、いえ。睦番長。是非名乗りを上げて頂戴」
「い、嫌ですよ! なんで私が!」
「篠宮だって恥を忍んでやったのになー」
「うっ……」
見え見えの挑発を放つ一也だったが、睦には大ダメージだった。
繰り返し言うが、鴫野睦は真面目である。
こんな見え透いた挑発であろうと、流すことが出来ないのだ。
「うぐぅ…………」
しばらく歯噛みしていた睦だが、三人の視線に耐え切れず、立ち上がり――――――はしなかった。
「わ……私が、聖櫻学園、番長。鴫野睦、です……」
「「「……………………」」」
「な、なんですかその冷ややかな目は!?」
「手緩い」
「え?」
「これはあれだな。思い切りが足りんからだな」
「な。お、思い切りって」
「よし鴫野。ここは立ち上がって決めポーズもつけよう」
「決めポーズ!? ここでですか!?」
「それとあれだ。俺達が見てるってこと意識しないよう、まずは後ろ向いて、そこから半回転でビシッと決めよう」
「それ余計に恥ずかしくないですか!? 回って決めポーズって、魔法少女じゃないんですから!」
「面白そうね~。お願い睦ちゃん♪」
「そこの広いスペースの方がいいわね」
「会長!? 副会長!?」
再び民主主義の残酷さに翻弄され、生徒会室の広がったスペースへ移動させられる睦。
「うぅ~……。こ、こんなのこれっきりですからね! もう絶対やりませんからね!!」
「わかったわかった。じゃ、いいぞー」
「くぅ…………」
先程よりも歯噛みの時間は長くなったが、やがて両手をぐっと握った。
三人に背を向けた体を、半回転。
両足をクロスさせ、右手を左前の腰の高さ。左手を顎に添えて。
高らかに名乗り上げた。
「私が聖櫻学園番長!! 鴫野睦です!!」
「はい。オッケーでーす」
ピピっと電子音を鳴らす一也のスマホ。
「…………え?」
「いやー。テイク4ぐらいはやるつもりだったけど、流石鴫野だなー。一発で決めてくれるとは」
「な、なにを、しているんですか……?」
「なにって録画だけど」
一瞬にして顔が真っ赤に茹で上がる睦。
「け、消してください!! 何考えてるんですか先輩!!」
「だって二度とやらないって言うからこの貴重な一回を永久保存しておこうと思って」
「そういうのは脳内に留めてくださいよ!! いや、脳内でも駄目です!! 動画を消して記憶からも消してください!!」
「あ、新城君。私にも後で送っておいてね?」
「私にもお願いね~♪」
「りょーかいです」
「了解しないでくださいってばぁぁぁああああ!!!」
その後しばらく睦は食い下がり、一也が動画を消去する画面を見せながら消したところで、ようやく元の役職に戻って仕事を再開した。
一也が動画をコピーし、二つ用意して一つを消し、残り一つは三人に共有されたことを、睦は知らない。
むっちゃんが弄ばれるのは運命です
いや、普通にデレるのもいいんですけどね?