聖櫻番長のガールフレンド(仮)だらけな日常 作:クビキリサイクル
今日は身体測定。
全校生徒が体操服を着て保健室にて身体のデータを取る日である。
まぁそうは言っても、男子の身体測定など特に描写することもないので、さっさと終わらせてきた。
保健医である神崎先生が心拍測定の際、「結構見てきたけど、やっぱり貴方は違うのね…………筋肉の質が」とか言って何やらぺたぺた触ってきたのは気になったが。
しかし、女性教職員に対して男の半裸を晒さなきゃいけないって、人によっては軽く拷問だよな……。
日頃から鍛えている俺も胸元(オブラートに包まず言うなら、乳首)まで晒すのは気が引けたくらいだし、そうじゃない奴は精神がやばそう。
「ふむ」
うちに男職員が理事長しかいないのもあれだが、こういうのって外部の医者を呼んでくるものじゃないんだろうかと思いながら、測定データを見る。
正直言って、あまり注意深く見る気は起きなかった。
我が家では身体測定など月1、場合によっては2くらいの頻度で結構詳細に調べていくので、自分の身体のことは学校で調べるよりも深く知っているのだ。
なので見るとしたら、去年のデータとどれぐらいの差が出たか、ぐらいである。
「結構差が出るもんだな……。180超えても」
成長期における成長速度に若干の感銘を受けながら歩いていると、前方に小柄な男子を発見した。
「はぁ……」
「お。…………」
背中から哀愁漂う円岡燕だった。
「……よぅ、燕」
「あ、兄貴……」
声を掛けるとちゃんと振り向いたが、しかしその顔は浮かない。
燕の特徴であるアホ毛もしょんぼりと項垂れているようである。
このアホ毛は燕の半身と(心の中で俺に)呼ばれ、燕の心理状態を見るにあたって分かりやすい指標だ。
「兄貴は、身体測定。どうでしたか……?」
「そんな顔してる奴にあまり言いたくないんだけど……、そうだな。背は4センチ伸びてて、体重は3キロ増えてた。去年よか筋肉量が増えたしな」
「……やっぱりすごいなぁ。それに比べて……」
「あー……」
察するに、背が伸びなかったのね。
燕は周りの男子と比べて小柄なことを気にしている。
昔はそれと気弱な性格が災いしていじめを受けていたと聞いているし、そうでなくとも成長期に成長しないというのは、男子には心に来るものなのだ。
2m近くある狼丞は元より、俺も180台と高身長に分類される体格を持っているのもあって、周りとの比較が加速しているのだろう。
顔を俯かせている燕に、俺は上から声を掛ける。
「燕」
「は、はい」
「知ってるだろ? 身体が小さかろうが、喧嘩が弱かろうが、かっこいい奴はかっこいいもんだってよ」
「……そ、そうですけど」
「小さいのが嫌なら、背を丸めて小さく見せんな」
「う」
「シャキッとしろよシャキッと。お前は、俺が名前で呼ぶ男子の数少ない一人なんだぜ?」
「…………兄貴が男を名前で呼ぶのは、兄貴が認めた男だけ。は、はい!」
「誰が何と言おうが、お前はかっこいい男だ。な?」
「はい! ありがとうございます、兄貴!」
顔に気合が入る燕。
よしよし。元気づけられたか。
ほぼほぼ過去に言ったことの反芻だったけど、暗い顔されんのは気分が悪―――
「あ! 兄貴! 聞いてくださいよ! 俺、ついに今回2m超えたッス!!」
「……………………」
「……………………」
「いやー。今までずっとギリギリ届かない感じだったもんで、この大台に乗ると気分がいいッスね!」
「……………………」
「……………………」
「お! 燕もいたのか! お前は結果どうだったよ!?」
「……………………」
「……………………ろ」
「ろ?」
「狼丞くんなんか嫌いだぁぁぁああああああああああ!!!!!!」
絶叫とも取れる声を上げながら、燕は廊下を駆け抜けていってしまった。
「…………? どうしたんスかね燕の奴。ねぇ兄貴?」
「とりあえずお前は俺に謝れ」
「え!? す、すいやせんッス!!」
折角の俺のフォローが台無しだよちきしょう。
「ったく。デリケートな少年心に軽々しくナイフを突きたてやがって」
「はぁ……あの、何があったんスか?」
「向こうから来るまでお前は関与せずにしばらく放っておいてやれ。身長の事も話題に出さないこと」
「り、了解ッス」
「で、話は2mで終わり?」
「あ、いえ。それと、向こうにいる奴等から、兄貴に頼みがあるって」
「頼み?」
狼丞が目線を寄越した方を見ると、そこには同学年であろう男子が数名。期待の眼差しを俺達に向けていた。
ふむ。俺に頼みか。
わざわざ狼丞に伝言を頼むとは、どんな事情なのやら。
「あいつらはなんて?」
「ええ。そのまま伝えると」
ゴホン、と咳払いしてから狼丞は言った。
「『番長のお知り合いの女子達の身体測定事情! 聞いてきてほしいです!』とかなんとか」
「断固拒否!!!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ダーリ~ン♥」
「ぐはぁっ」
教室に入って数歩歩いたら抱き付かれた。
「褒めて褒めて~。私すごいんだよ~」
「だーもう! おいこら見吉! 何かある度抱き付くなって何度も言ってるだろーが!」
「えへ~♥ ダーリンは抱き心地いいな~」
「はーなーせって!」
身体全部を密着させて、俺の身体に顔を埋める見吉をベリッと引っぺがす。
「うきゃぅ。もぉ~、ダーリンは恥ずかしんぼなんだからぁ」
「躱さないだけ甘やかしてるわ!! だだ甘だわ!」
つーか体操服なんて生地のうっすい服で抱き付いてくるんじゃねぇよ!!
しかも女子の身体測定はパッドとかの不正を防ぐためにノーブラなんだろ!?
そんなんで密着されたら大変なことになるの!!
主に俺が!!!
「そうだねぇ~。私、ダーリンのそういうとこ大好きだよぉ」
「ったくもー……。で? 何を褒めろって?」
「あ、そうだそうだ。ダーリンに、喜んでもらえるかな~って思って~」
「俺が? 何故?」
「うん。今日、データを見て分かったんだけどね~?」
「うんうん。データを見て?」
「去年よりおっぱいが、2カップ大きくなってたの~」
「そっかそっか見吉は順調に成長してて俺は嬉しいなーってアホかぁーーーっ!!」
周りを気にせず叫びツッコミ。
「スリーサイズは日頃から計ってるからあまり気にしてなかったんだけどね~? 学校のデータ見てみたら、前よりすっごく成長してたんだ~」
「心に留めておけよそういうの!! なんでわざわざ自己申告するの!?」
「男の人って、そういうの好きかな~って」
「教室でそれを聞かされる俺の身にもなれや! 今日の保健室の気恥ずかしさを軽く凌駕するからなこの状況!」
「ん~。二人きりならいいのぉ?」
「…………駄目!」
悩んだけどやっぱり駄目!
むしろ俺の理性が
ジグザグになりそう!!
「勘弁してくんない!? そういうの心臓に悪いの! いつまでも自分を信じてられないの!」
「うーーー。ふぁああ~~~…………。ちょっと眠くなってきちゃったかな~……。だ~り~ん、だっこだっこ~」
「だぁあかぁあらぁあああ!!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
(……見吉さん、やっぱりすごいなぁ)
教室の後ろではしゃいでる二人を見て、私―――白鳥詩織は思う。
新城くんは見吉さんにお説教してるのに夢中で、見吉さんは新城くんに夢中で、自分の席からじーっと見てる私に気付く様子は無い。
私はおろか、クラスの大多数の人に注目されているけど、それを気にしてる風じゃなかった。
いわゆる、二人の空間。
甘酸っぱい空気とは、ちょっと違う気がするけど。
(ああいう風に、人前でも新城くんに甘えたり、好きって言えることもそうだけど……)
2カップ。
胸が2カップ成長した。
……去年でも、見吉さんはスタイルの良い人だったのに。あれから2カップも成長したなんて。
やっぱり……恋をしたから、なのかな?
(それに比べて私は……)
手元にある身体測定のデータを見る。
身長:156cm
体重:45kg
B(バスト) :72cm
W(ウエスト):55cm
H(ヒップ) :75cm
(去年から1cm大きくなっただけじゃなぁ……)
成長しなかった時期があったことを考えたら、成長するだけマシかもしれないけど。
背もちょこっとしか伸びなかったし……。
(や、やっぱり男の人って、大きい方がいいのかな……?)
新城くんは、優しい人だ。
見吉さんだけじゃなくて、同級生。後輩の子。先輩にも。みんなに、私にも、優しくしてくれる。
言葉が強かったり、お説教したり、たまに軽く小突いたりするけど、それも新城くんなりの優しさだと思う。
でも、それとこれとは話が別で。
優しくするのと好きになるのは、また別であって……。
(見吉さんは勿論、
それに、新城くんの周りには可愛い女の子も綺麗な人もいっぱいいるし……。
自信を持てない私は、机で一人頭を抱えるしかなかった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「すやぁ……むにゃむにゃ……」
俺への報告で満足したのか、自分の席にもつかないまま眠ってしまった見吉。
ほっとくわけにもいかないのでご要望通り(お姫様)だっこで運び、見吉の席へと着席させた。
実に幸せそうな寝顔で、怒る気力も霧散してしまうものだ。
口元に垂れていた髪を払ってやり、自分の席へと戻りに行く。
「……また騒がしかったわね」
「む」
道中、じっとりとした声を掛けられた。
ジト目でメガネの端を持ち上げる
「原因が見吉さんにあるとはいえ、大声出し過ぎじゃない?」
「まぁそう言ってやるな。あいつもあいつでふざけるつもりも悪気があったりもしないんだからよ」
「私は今あなたの話をしているんだけど」
「やめろ。男子高校生の純情が弄ばれたことを穿り返すんじゃない」
「…………純情、ねぇ」
「その『ぬかしおるでこやつ』みたいな顔もやめーや」
「だったらあなたも私が変な口調喋る人みたいに扱うのもやめなさいよ」
けど、それはいいわ。と言って、遠山は手元の身体測定データの紙を持ち上げる。
もちろん俺には見えないように。
自分のデータを異性に見られたくないのは当然なんだろうが、こいつの場合同性にも見せようとはしない。
「あなた、視力は?」
「あん?」
「視力よ。し・りょ・く。測ってきたんでしょう?」
「視力? 聞いても面白くねーだろうけど?」
「聞いてるのは私よ。どうだったの?」
「2.0以上だったけど」
「ふーん……」
聞いといてその面白くなさそうな反応はなんなんだ……?
「そういうお前はどうだったんだ?」
「女性に身体測定のデータを聞くのはセクハラよ」
「「お前視力いくつだったー?」でセクハラが成り立つならこの世は性犯罪者だらけだよ」
「…………0.2。裸眼でね」
「0.2」
「眼鏡ありでも0.8が限界だったし、年々衰えてきてるわ……」
「とか言われてもなー。数値のデータじゃどれぐらい見えてるかなんて、聞いたところでわかんねーし」
「かなり厳しいわよ? 例えば、眼鏡を外してどこまで見えるかって言うと」
遠山は眼鏡を取り、適当な方向へと指差して―――
「はぁ……」
「? 溜息なんかついて、どうしたの霧生さん」
「あ。八束さん……。いえ、ちょっと…………」
「ちょっとって顔じゃないわよ? 話してみてくれない?」
「…………」
「勿論、無理にとは言わないわ。話したくなければ―――」
「……ってたの」
「え?」
「…………大きく、なってたの」
「あら。よかったじゃない」
「よかった!? なにが!?」
「え? だ、だって、女の子でも大きくなった方がいいものでしょ?」
「よくない! 私はちっともよくない! むしろこれ以上なんかいらないわよ!」
「ええ!? ちょ、そんな! 霧生さんってそういう主義だったの!?」
「ええそうよ! 女の子なら誰だって小さい方がいいものでしょ!?」
「それはかなり少数派だと思うわよ!?」
「八束さんには分からない悩みよどーせ!」
「むしろ分かち合える仲間だと思ってた! 大きくなりたいと思ってるものだと思ってたわ!」
「むしろ小さくなりたいぐらいよ! そんなに言うなら分けてあげたいくらいよ!!」
「失礼だけど分ける程ないじゃないの!」
「何言ってるの節穴なのその目は!」
「誰が見てもそう見えるわよ絶対!」
差した先で真面目女子筆頭コンビがアンジャッシュしてた。
「……………………」
「……………………」
「…………教室の何かを目印に出来ないくらいは見えなくなるわ」
「…………そうか」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「2.0以上…………」
遠山さんと新城くんのやり取りを私―――
2.0以上。
それだけでも一般人ならあまり見かけられない視力なのだろうけど、もっと詳細に測れるならば彼は更に上の数値が出るだろうな。
「背もどんどん伸びてるみたいだし、身体能力も申し分なさすぎるくらいなんだけど…………」
「一美。まーた新城のスカウト考えてるの?」
隣にいた
「うん。でも、彼は部活や委員会には入らないっていう主義みたいだしね」
「あれだけ運動できるのに、勿体無いよねー」
前の席から話しかけてくるのは
英子と違ってサッカー部ではないけれども、新城くんの運動神経がスポーツで活かされないのが残念でならないのは、バスケ部とて同じなのだ。
勿論、彼とて才能の無駄遣いをしているわけではない。
彼には彼の道があって、それがスポーツでないだけ。
「でもさ。助っ人くらいだったら受け入れてくれるんだからいいんじゃない?」
「そうは言うけど、サッカーだってチームプレイなんだから一人だけ突出して上手くてもね。普段から合わせられるように一緒に練習してほしいんだけど……」
「新城だったら、むしろ男子達が必死になって合わせてくれるようになるんだし。試合の数日前とかでも」
「ううん。やっぱりもう一回勧誘してみる」
「「あっ! ちょっと一美!!」」
立ち上がって新城くんの元に歩き出す。
二人の制止も聞かず、私は何度目になるか分からないスカウトをした。
撃沈だったけど。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ふぅ……」
川淵にまたも勧誘され、遠山との会話は横槍で終わる形になった。
あいつも聞きたいことは終わったようだし、あれ以上会話を続けるのが難しそうなのを考えればいいタイミングだったのだろうが、話題が話題だからな……。
流石の俺も良心だけで部活に入るほどお人好しではない。
「ねーねー」
「あん?」
またも席に戻る道中に声を掛けられる。
「新城くんって、星座はなんだっけー?」
「
古谷からは出て来そうにない話題が振られて何事かと思ったが、周りでは
あーね。この二人がいるならこの話題も納得だわ。
しかし身体測定全然関係なくなってるな。
「獅子座だな」
「獅子座ねー。獅子座獅子座……どう?」
「『今日の獅子座の方は、身近な人との仲が深まるでしょう』だそうです」
南田が答える。
「えーっと。『ただし、張り合い過ぎると周りに迷惑が掛かるので、程々に抑えましょう』とのことで」
「張り合い?」
「あはは。新城くんと何を張り合うんだろうねー?」
「新城さんはそういうことしないと思いますけど、一応気を付けてくださいね?」
「いや、桐山。俺も占いもそこまで信用されてもだよ」
確かにそうそう危ないことしようとは思わんけどさ。
心配されるようなことがこれから起こるとも思えない。
「どうでしょうね~? この雑誌、よく当たると評判なので」
「えー? 当たんのか? そういうの」
「この前水瓶座の人が食べ物に気を付けてという占いが出て、その日お腹を下したそうです」
「ダブルで当たってる!?」
「実はこれ予言の書だったりしてー!」
「おぉ! 宇宙の星を観測した予言者が生み出した書の源泉を巡って、ライトセイバーをその手に達人達が!!」
「この雑誌でそこまで壮大な物語に至ります!?」
「最強の達人役に、是非新城さんを!」
「お前が撮るんかい!!」
「ラスボスは古代兵器で決まりだね!」
「神話に由来した兵器だと、より一層深みが増すかとー」
「話題脱線しスギィ!!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ちょいとデータ見ーしてー」
「見ーしてーってお前、ボク達のデータ強奪しといて頼み事みたいに言うなよ」
ボク―――
ボクだけではなく、姫島と掛井のデータまでその手に収められている。
別に女に見られたぐらいでどうってことはないし、他二人もそこまで反応してないけど、なんか腹立つ。
「ふむふむ……。あ、これなら今までのもちょっと調整すれば入るかな? おっけありがと!」
「掛井の。こいつあたし達を馬鹿にしてるぞよ」
「そうですな姫島の。自分のスタイルがいいからと見下しておいでですな」
「おい掛井。お前どっちかというと微妙に向こう側だろ」
ていうかコスプレのデータ集めかよ。
「あーいやいや。別にそういう意図はないんだよ? でもみんな用に用意してたコスプレが入らなくなったら、私としても大損だしー」
「なんでボク達が着る前提なんだよ……?」
まぁ、この学園のイベントで着せられるんだろうけどさ。
ぶっちゃけサボりたいけど、出なきゃいけないのばっかだし。
こいつの場合はイベント関係なく着せようとするんだけど。
「でもさー。そんなに拘るものかな? 大きさだけが胸の価値ではないとトムトムは思うのですが」
「それは持つ者の意見だろ。持たざる者の気持ちを考えたことあるのか?」
「いや、別にいらんけどなわしは」
「あっさり裏切るなよ」
確かにお前は貧乳はステータスだとか言い張る奴―――でもないな。
こいつは本当にどうでもいい派だ。
「いやいや東雲殿。女の価値が胸の大小でないのは、私も同じ気持ちですぞ? むしろ小さいからこそ萌えられるものがあるというもの」
「お前が言っても何の説得力もないなー」
「そんなことはないぞー。枕はこう、少し硬めの方が」
「ボクの胸に頭を預けて言ってんじゃねーよ!」
胸に飛び込んできた姫島の頭を拳骨で挟んでぐりぐりしてやった。
呻き声が聞こえてくるけど無視。
「やっぱり譲れないな。胸は柔らかく、そしてでかくだ」
「自分で言ってて悲しギャーーーッ! 強めるな強めるな!!」
「むぅ……。そんなことないと思うけどねん」
「そこまで言うなら証明してみろよ」
「うーーーん……あ、そうだ! おーい! カズくんちょっち来て―!」
「うん?」
なんでここで新城?
意図を察せないのは新城も同じようだったけど、新城は疑問顔のままSF好き三人と離れ、こちらに来る。
「どうしたんだよ戸村」
「ちょっとね。レイきゅんはカズくんの前に立ってね」
「はぁ……これでいいのか?」
「うんうん。それでー」
「? 何するん―――」
「ほい」
新城の胸板に顔を押し付けられた。
「!」
「?」
「どやぁ?」
「…………もうちょいこのまま」
「おい」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「新城さん」
なんかホワッとしてる東雲を引っぺがすと、モノクロが話しかけてきた。
「ん。どした?」
「勝負、です」
「は?」
「勝負? なんの?」
「ああ。私が説明するね」
唐突過ぎる宣戦布告に戸村共々疑問符を浮かべていると、
その後ろで、
……なんだなんだ?
「今、暇な時間を腕相撲大会して潰してたの」
「腕相撲?」
「そ。男子女子混合でね。それで、今のところ一番勝ち進んでるモノクロームさんが、シード枠の新城君に挑戦してるってわけ」
「いつの間にそんなことに……」
「かつての組み手では、あなたに、手も足も出ない、有様、でした」
「組手っつーかいきなり襲ってきたのを抑えただけだろ」
「そもそもあなたは、相手が、アンドロイドである、私であっても、女性には、暴力を振るわない方、です。しかし、この腕相撲という、競技であれば、問題なく、力比べが、出来るであろうと、判断、しました」
「いや、腕相撲であっても怪我するときはするもんよ……?」
腕相撲なら女子相手でも全力出せるかと言えば、全然そんなことはないし。
手加減して負ける気も起きないけど。
「私も、かるたで鍛えた初動の速さで勝つつもりだったけど……やっぱり力の強い人には敵わないね」
「あー……。ちなみに、他の人はどうなってるの? 男の子は?」
「熊田さんと
「…………」
熊田はともかく、春宮相手に全滅させられる2-C男子達の不甲斐無さよ……。
「加賀美さんはまだ帰ってきてないみたいだけど……」
「いやいや。加賀美殿も運動部ではありますが、さすがにこの頂上決戦に参加できる方では……」
「だよねー……。あ、私達もパスね。全然だし」
「了解。じゃ、二人はこっちね」
「……んー?」
俺、やるって言ったっけっかなぁ?
伊勢崎は構わず手を引いてるし、空気的にもうやる雰囲気なんですが。
「おお! ついに番長がおいでなすったぞ!」
「新城ー! わたしの仇をとってー! モノクロームちゃんに勝っちゃってー!」
「モノクロームさんのアンドロイドパワーが上か! 番長の漢パワーが上か! ついに決まるのか!?」
「
「お! 実況必要そう? じゃあやっちゃおうかな!」
「番長! これで勝てば名実共に学園で一番力持ちになれますよ!」
「モノクロームちゃん! その無表情フェイスからどれだけのパワーが溢れ出てくるんだい!?」
熊田から仇討ちを頼まれて、春宮は櫻井を呼んで、男子達がいつも通り騒ぎ出した。なんなんだろうか、このクラスの結束力。
熊田が倒れていた机に誘導され、それを挟んで対面に立つモノクロ。
近くに櫻井が立つ。
「レディィィイイス、アァァァン、ジェントルメェェェン!!」
「「「イェアー!!」」」
「さあ遂に! 遂にやってまいりました! このクラス、いやさ学園で一番の力持ちを決める戦い! 腕相撲大会の決勝戦です!」
すごいマイクパフォーマンスだ。マイク無いのに。
「赤コーナー! あまねく悪をその手で制圧してきた男の中の男! 言わずと知れた、だが言わずにはいられない! 学園最強! 聖櫻学園番長・新城一也選手!」
「うおぉぉぉ! 番長ー!」
「一回でいい! 番長に思いっきり殴られてみたい!」
「右手に番長! 左手に番長! 合体!! これぞ!!! 究・極・番・長!!!!!」
訳が分からないよ。
「しかしぃ! 彼女の力もまた未知数!! 奇跡が生み出した人工美少女!! 喧嘩は負けても力は負けないぞ!! 青コーナー! 謎多きアンドロイド・ミス・モノクローム選手!」
「モノクロームたんキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」
「モノちゃんこっち向いてェー!!」
「モノクロームちゃーん! 俺だーッ! 結婚してくれーッ!!」
これもうアイドル人気じゃね?
「ふむ。みなさん、熱狂、していらっしゃいますね」
「熱狂っつか、もう発狂だよこれ……」
意味違わないかもしんないけど。
言いながらお互い肘を机に置き、右手を握り合う。引っ張りの力を加えるため、左手はお互いの机の左端を掴む。
握る力を込め始めたお互いの右手に、そっと手が添えられ、抑えられる。
春宮の手だった。
「じゃ、二人共。準備は良い?」
「はい。いつでも」
「万端だぜ」
「「「「「ゴクリ……」」」」」
机にいる三人以外から唾を飲み込む音が聞こえる。
春宮が手に力を込め始めた。
「レディィィ……」
二人の手に緊張が走る。
「ゴー!!」
手が離れたと同時に、始まった。
「さぁ始まりました決勝戦! お互いに一歩も譲らないスタート! 瞬殺劇はなかったようです!!」
力を込めたタイミングも、込められた力も互角。
どちらの腕も傾くことはなかった。
「これは、拮抗しているのか!? 新城選手とモノクローム選手! 組手は新城選手の完全勝利とのことでしたが、腕力は互角だと言うのか!?」
「ば、番長パワーとアンドロイドパワーが互角だって!?」
「これはどうだ!? 番長と張り合う人間の文明がすごいと言うべきか!? 人間の文明と張り合う番長がすごいと言うべきか!?」
「まどろっこしい! どっちもすげぇでいいだろ!!」
「すごいね! 白熱した闘いだよ!」
「でも、組手だとモノクロームさんは手も足も出なかったんでしょ? 腕力が互角なのに、そんなことあるの?」
「あるよ。新城の闘いは、元々ある力に人間の武闘技術を込めたものなんだ。如何にモノクロームちゃんの力が強くても、闘いが上手いわけじゃない。逆に言えば、そこを考えなければ互角でもおかしくないんだよ」
(熊田が解説役とか珍しいこと起きてるけど)
でもこれ、別に全力じゃないんだよなぁ。
モノクロを馬鹿にしてるわけじゃない。
ただ、もし俺が全力を出して、モノクロがそれに耐えられず瞬殺となれば、彼女の腕が折れることだって有り得るのだ。そうなってもモノクロはパーツを変えれば済むとか言うだろうが、そういう問題ではないので。俺の心が罪悪感で押し潰されるので。
だから、適度に。
始まりは倒すのではなく、倒されないように腕に力を込めるのだ。
結果、お互いの腕は開始位置から動くことなく、瞬殺劇は無くなった。
後はここから、徐々に力を強めて、ゆっくり倒していく―――
「おぉ!? 動き出したぞぉ!? 新城選手! 押しています! 少しずつ、しかし確実に! モノクローム選手の腕を倒していきます!!」
「き、来た来た! やっちゃえ新城! そのままいっちゃえ!」
「うわわ。ど、どっちを応援しよ?」
「頑張れモノクロームさん! まだ試合は終わってないよ!」
「番長ぅぅぅ! 遂に番長が文明に完全勝利を果たすところに立ち会えるんですねぇぇぇ!!」
「ま、まだだ! モノちゃんは負けてない! ああでも、番長にも負けてほしくない!」
「大丈夫だよモノクロームちゃん!! 腕相撲に負けたって君は可愛いよ!!」
ギャラリーがすごい邪魔。集中させてほしい。力加減間違えないように。
「ふむ。中々、やりますね」
いつぞやで言ったセリフを、モノクロームが言う。
しかし、いつぞやと同じく俺が優勢になっていき、腕がもう少しで倒れる位置へと―――
「では、本気で、いきます」
「……は?」
「おっとぉ!? 今にも負けるかと思われた刹那! モノクローム選手からまさかの本気宣言! 今までは手加減をしていたというのかぁ!!?」
「わ、わたし達にまで手加減したまま勝ったってこと!?」
「本気のモノクロームさん……。一体どれだけの力が」
騒ぎ出す周りだけど、ちょっと待って。
モノクロの本気って、もしかして
「リミッター、解除、です」
カチ、と言う音が響いたと同時に。
腕の位置が逆転した。
「うおぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!??」
あぶねぇぇぇえええええええええええ!!!!! ギリギリ間に合ったぁぁぁ!!!!
もうちょっと力込めるの遅かったら机に打ちつけられてたぁぁぁ!!
つーか急に力がすごいことになったんだけど! リミッター解除ってなに!? 腕相撲でそんなんホイホイ解除しちゃっていいの!?
「春宮さん、熊田さん、その他のみなさんには、危険が及ぶ可能性を考慮し、使わないでいたのですが」
俺の目を見て口角を上げるモノクロ。
「あなたには、使っても問題ないと、判断、致しました」
「そりゃ光栄だけど! 認められて嬉しいんだけど!」
一般人には危険が及ぶような隠し玉をここで使っちゃいます!?
「なんと! モノクローム選手、本当の本気を隠していたとのこと!! しかしどうだ新城選手! これにも耐える!!」
一気に負け寸前まで持っていかれたが、しかし屈する俺ではない。
急激な変化に驚いてここまで倒されているが、持ち直せない程ではないのだから。
事実、お互いの腕が震えながらも、さっきと同じ速度で位置が開始の時点に戻されていく。
中心に持ち直し、また拮抗が始まった。
今度はさっき程余裕はないが、ちゃんと力加減を間違えないでいられる。
「新城選手! あそこから持ち直したぞぉ!」
「これで一回ずつ寸前まで! 恐らく次に倒し始めた方が勝ちだよ!」
「番長ー! モノクロ―ムちゃーん! どっちも頑張ってくれー!」
「すごい熱気だね! 私も負けないぞー!」
「いっけぇー! そこだー! 倒してしまえー!」
「おやぁ。なんだかすごいことになっていますねー」
南田までギャラリーに混じってきた。
ん? 南田?
あれ? なんか忘れてるような―――
バキィッ!!
破壊音が俺達の腕の下で響き。
机が真っ二つに割れた。
「「あ」」
二人の間抜けな声。
お互いの左手には、それぞれ机の片割れが。
「「「「「あ」」」」」
ギャラリー達まで間抜けな声を上げていた。
「……………………」
―――俺達が力を込めていたのは、握り合った腕だけではない。
力を加えるために、反対の腕で台座を掴み、引っ張る。
そうして引っ張り合った、リミッターを解除したモノクロと、それと並ぶ俺の力。
薄い鉄と木で出来た机が、耐えられる筈がなかった。
「……………………」
「……………………」
「「「「「……………………」」」」」
そういえば。
さっき南田に占い雑誌で、張り合い過ぎるのは駄目って言われてたなぁ。
桐山にも忠告されたけど、まさかこんな形で張り合うなんて思ってなかったし……。
「な、何があったんですかこれ……」
戻ってきていた加賀美が尋ねてくる。
「……モノクロ」
「はい。なんで、しょうか?」
「今回の事で得られた教訓は、何だと思う?」
「教訓、ですか?」
「人は失敗しないなんてできないものだ。だが、失敗したあと、次に失敗しないように気を付けることは出来る。教訓として記憶に刻むことでな」
「ふむ。記憶に刻む、と」
「俺は失敗した。だから、教訓を記憶に刻む」
「成程。それは、一体、どういったものでしょう?」
「『遊びは真剣でも程々に』だ」
「わかりました。私も、それを教訓と、しましょう」
「では、記憶に刻むための作業をしましょうか」
「あ、月白先生」
この後滅茶苦茶説教された。
クラス全員を出すという誓いを立てた結果である。