艦上OVERDOSE   作:生カス

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カーアクションと銘打たれた映画を借りてみた
パッケージに映ってるクルマほとんど走らなかった
冗談じゃねえ…



17 Don't stop believin'

- PM4:30 自動車部ガレージ side:雨水 -

 

「ジャジャーン!」

 

今、俺の目の前には、颯爽とソアラから降りるや否や、集まった部員の前に立ち、ソアラを満面のドヤ顔で見せびらかしている中嶋先輩がいた。どのくらいドヤ顔かというと、もし擬音が現実に聞こえるなら『ドッヤアァァァァァ』という音が聞こえるであろうと予想できるくらいの顔だ。少しはしゃいでんのかしら?ちなみにほかの3人の方々はポカンとしている。中嶋先輩ソアラのこと話してなかったんだろうか…。

 

まあ何にせよ、機嫌は良くなってるみたいで安心した。星野先輩に続いて中嶋先輩とまで気まずくなったら、俺は余計部活に出づらくなる。

そうなったら最後、俺はきっと部活から消えるのがDestiny……

 

「雨水?」

 

「ん?」

 

考え事をしてると、土屋が話しかけてきた。

 

「雨水が言ってた用事って、これ?」

 

「ああ、ちょっとな」

 

「…ふーん、だから今日サボったの?」

 

心なしか、俺にそう聞いた時の土屋は、ほんの少しつまらなそうにしている感じがしている。

 

「俺がそんな殊勝だと思う?」

 

「全然」

 

即答された。それはそれでガーンだな…。

 

「…まあ、多分土屋の予想通りだと思うよ。朝にちょっと中嶋先輩に捕まっちゃってさ、そこからはまあ、流れで」

 

「それからずっとソアラの修理?」

 

「ああ、ぶっ続けでな…勘弁してほしいよ」

 

「あ、でもそれは…ちょっと羨ましいかも……」

 

え?マジで?やっぱクルマ好きならそのくらい普通なの?それともやっぱり俺の体力がゴミカスなだけなの?

 

「でも、嫌だったんなら断ればいいのに」

 

「いや、まあ、嫌ってわけではなかったんだよ。」

 

これは本当だ。あのソアラには俺もすごく興味がある。

…始めてみたときに聞こえた、声を聞いたような不思議な感覚。それがあのソアラにはあった。それが根拠ってわけではないけれど、このソアラにはSXと同じような何かがあるんじゃないかと、そんな気がしてならないのだ。

まあ、理由はもうひとつあるけれど

 

「まあ、中嶋先輩の頼みなら、ちょっと断れないしな」

 

断ったら後が怖いしなあ、あの人の場合……

 

「…そうなんだ……」

 

「え?う、うん…」

 

何だろう、なんで土屋はこんなにしょぼくれてんだろうか。まるで叱られてしゅんとしてる犬のようだ。あれ?俺また何かやらかした?

 

「いやー…しっかしまたすごいモン掘り出してきたねぇ…」

 

鈴木先輩がソアラを見てそう呟く。

 

「そうでしょ!最初見たときは私もびっくりしたよー。放棄されてたわりにはすごい綺麗な状態で残っててさー」

 

中嶋先輩が嬉しそうに話す。綺麗でしたね。足回り以外は…

 

「…」

 

「?」

 

少し物思いに更けていると、星野先輩が此方を見ていることに気づいた。けれど俺が彼女の方を向いた途端、目をそらされてしまう。

 

(…やっぱ、昨日のことまだ怒ってんだろうなあ……)

 

昨日の一件があるから、会ったら気まずいだろうなとは思っていたけど…

やっぱりこう、実際に避けられてしまうと、少しへこんでしまうものがあるな…まあ、身から出た錆と言われればそれまでなんだけども

 

「ほら、ぼさーっとしてる暇ないよ」

 

うなだれていると、中嶋先輩が俺の肩を叩いてきた。俺がそれに従い、顔を向けたのを確認すると、彼女は話を続けた。

 

「それじゃ、遅くなったけど、これからテスト走行を始めたいと思いまーす!」

 

「おー!」という鈴木先輩の掛け声のあと、まばらに拍手の音がガレージに響く、俺もそれに倣い、パチパチと軽い拍手をする。

 

「それで?今日はどんな感じでやるの?…まあ大体は予想ついてるけど」

 

星野先輩がそう問いかけると、ナカジマ先輩は待ってましたと言わんばかりにこう答えた。

 

「うん、多分星野が考えている通りだよ。今日、主に見るのは2台。1台目はもちろんこのソアラ。そして2台目は、180sx。そしてこの2台の走りを見るために、私がFCにカメラを搭載して、後追いするっていう感じだよ。これでいい?」

 

「あれ?ソアラは中嶋が運転するんじゃないの?」

 

首を傾げながらそう聞く土屋。

 

「うん、今回はちょっと、乗ってみてほしい人がいるんだ」

 

「へぇ~、誰々?」

 

「土屋」

 

 

 

 

「…え、私?」

 

 

 

 

 

 

- PM5:00 旧産業道路 side:土屋 -

 

「今回は現状どんなもんか見るだけだから、短いスプリントで行くよ。どっちもほとんど組んだだけだから、雨水も土屋も無理はしないでね」

 

そろそろあたりが暗くなってきたころ、私たちは普段からレースに使っている旧産業道路に来ていた。この辺りは閉鎖されているわけではないものの、車通りが極端に少ないし、出口から入り口まで1本道だから、見張りもしやすい。レイアウトも、まあ…テストとかで軽く走るにはいい塩梅なので、こういう時には丁度良い。

 

「よし、じゃあそろそろ始めるよー!」

 

中嶋の号令のもと、私と雨水はスタートラインにつく。今日走るのは私と雨水。中嶋は車載カメラを付けて私たちの後ろを走って、後でどんな走りだったか見るためのビデオ撮影を担当。見張りは鈴木と星野が担当。そんな感じ。クルマは雨水が180sx、そして…

…私がソアラ……

 

(…なーんか不思議なんだよね、この子…)

 

普段クルマに乗っているときとはなんか違う感覚…なんというか…そう、馴染む感じがする。まるで、自分の体の一部みたいに、いや、私が部品の一部になったみたいに、すごくしっくりとくるような、そんな風に思った。

 

「土屋ー!雨水ー!準備いいー?」

 

…と、そろそろスタートか

 

「あ、いいよー!」

 

「こっちもダイジョブでーす」

 

「よーし、じゃあカウントダウン始めるよー!」

 

中嶋がカウントダウンを始める。隣のワンエイティが、エンジンから甲高い音を響かせ始める。追うように、私もサイドはそのまま、アクセルを踏んで回転数を上げる。

 

「5!4!3!…」

 

オーバーレブ一歩手前で、ギリギリのところを狙う。回転したリアホイールが熱を帯び始める

 

「2!1!…」

 

目の前の道に全神経を向ける。

 

そうすると

 

 

 

 

ほんの一瞬だけ、何も聞こえなくなる

 

 

 

「GO!!」

 

サイドを外す

アクセルを踏み潰す

体が、後ろからすごい力で押される

結構なドッカンターボだなこれ…でも嫌いじゃないかな…

 

スタートダッシュは良好

ワンエイティは…まだ隣…

ここからだ

ギアを3速に

100km/h

110…120…130…

140

4速に上げる

 

すぐにコーナー

タイミングは…3秒…2…1…

ここ

 

サイドを引く

ドリフト

ガードレールに近づく

オーバーテイク

ノーズとガードレールが紙一重

 

コーナーを出る

もう少し

よし、ここ

カウンター

車体を真っ直ぐに

3速

抜けた!

 

かなり理想のラインだった

今のでワンエイティを離した

…何だろう、今日はすごく調子が良い

なんていえばいいんだろう

まるで、自分の体そのものみたいな…

 

よし、このまま…

120…130…140…

4速

150…160…170…180…190…

5速!

 

加速も最高だ

トルクが大きいのか、グングンと前へ出れる

200…210…220…230…240…

すごい…!

まだまだ余裕がある…

まだ加速できる

まだいける

どこまでもいける

 

まだ…まだ…

 

まだ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

目の前に、カーブ

 

 

 

 

「!しまっ…!」

 

急ブレーキをかけて、どうにかドリフトに移行する

でも、ミスを許してくれるほど、それは甘くはなかった

後輪は滑った、確かに

でも、コントロールを失ったそれは、ソアラを明後日の方向に持っていった

雨水の、ワンエイティに向かって

 

 

 

だめ、ブレーキ…だめだ間に合わない

 

…ぶつかる

 

 

 

 

 

- side:雨水 -

 

何だ!?ソアラがこっちに来る

コントロール失ったのか?

クソ!どうする?

 

ブレーキ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-

 

--

 

----

 

 

『いいか、スピードの恐怖を忘れるな、そして拒絶するな…しっかり受け止めてやるんだ……』『受け止め、なおアクセルを踏み続ける…』

 

 

----

 

--

 

-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

違う!止まるな!踏め(アクセル)!!

 

 

 

 

 

 

- side:中嶋 -

 

…今、何が起こったの……?

 

今、確かに土屋がスピンを起こして、ワンエイティの方に突っ込んでいった。

正直、私も絶対にぶつかると思った。どうか、頼むからどっちも無事でいてと、柄にもなく祈った。

 

…でもぶつからなかった

 

普通こういう時は、ブレーキを踏んで、衝撃を最小限に抑えようとする。少なくとも私はそうだ。

でも雨水は、ワンエイティはそれをしなかった

 

 

 

 

あいつは、加速した

よりアクセルを踏み込んだ

 

 

 

結果的に、紙一重で避けることができたけど…

 

 

 

 

 

雨水は、あんな走り方をする奴じゃない

少なくとも、私が出会った数か月前は…

…それに…

ぶつかる寸前、ワンエイティが

いや違う、ワンエイティの方じゃない、雨水だ

ウインドウ越しに見えたアイツは…

…まるで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

化物みたいだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




番外編のリクエストを受け付けました。ありがとうございます。

近いうちに番外編を投稿したいと思います。
お付き合いして頂ければ嬉しいです。
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