今回は継続高校が舞台、本編に絡みますが、実質ちょっとした番外編みたいな感じです。
あと、ここで書くのもなんですが、番外編のリクエストは現在も受け付けております。
もし、こういう話を書いてほしいというのがあれば、活動報告内にコメントして頂ければと思います
- PM10:30 継続高校学園艦 side:九十九 -
「…よし、こんなところか」
現在、ちょっとした諸事情で継続高校に来ている。諸事情とは言ってもそんな大げさなものじゃない。雇い主の娘さん、つまりは愛里寿お嬢様が高校進学を控えているから、ピックアップした学園艦を一通り、余裕があったらそれ以外……先日行った大洗なんかがそうだろう……それも調べてくれとのことだ。
(とは言っても、ほぼ私情で行ったようなものだけどな…)
奥様に大洗に行った理由を聞かれたら、何と答えれば良いものか…
そんな風に頭を悩ませながら、宿への道を辿る。建物が見当たらない、街灯もほとんどない、ヘッドライトと月明りだけが頼りの、雄大な景色だ。
一通り調べてみたけど、結構いい高校だと思う。この自然もそうだし、何より戦車道がかなり盛んに行われている。お嬢様も、ここなら存分にその実力を発揮できるだろう。
…まあ、生徒があまりに自由すぎるのと、予算が少なすぎるのは、タマにキズだが……
あと個人的に、ラリーのイベントが良く行われているのが興味があった。見学の途中でデルタS4を見たときはびっくりしたな…トイヴォネンだっけか、ふと昔の有名なラリー選手を思い出した。
今日のことを漠然と考えながら、単調な道を走る。
何となしにバックミラーを見てみると、少しだけ黄色がかった白い光が、やや遠くにいるのを見つけた。後続車がいたのか。少し呆けていたからか、気づかなかった…
そう思う間にも、その後続車はグングンと此方に近づいてくる。どうやら結構な速度で走っているようだ。こんなに見晴らしがよくて、車の少ない道なら、無理もないかもしれないが…
もうだいぶ近づいて、すぐ後ろ位の位置にきた。
(…どこかで聞いたようなエンジン音、直6か…)
少しだけ左により、追い越しをするように促す。あちらも察してくれたようだ。ウインカーを出し、右によってカレラを追い越した。その時に、そのクルマを見た。
「……!」
まるで日本刀のような、シャープなシルエット
それをさらに鋭く見せる追加のノーズが付いたクルマ
(コイツは…いや、なんでもっと早く気が付かなかったんだ……)
鳴り響く、渇いたL型の音…
この音を、俺は知っていたはずなのに……
錆び付いたマルーンの、240…Z……
「島…田……?」
それからの行動は早かった。
さっきの長距離クルーズ用の運転じゃない
アクセルを深く踏んだ
加速
回転率が上がる
オーバーレブ直前
ギアチェンジ
さらに加速
Zに追いつく。ナンバープレートの数字が、はっきりと見えた。
…多摩002、『す』の1958-11……
見覚えのあるナンバー…決まりだな…
なんで…こんなところに……
甦ったのか…?あんな状態から…あんな惨事から……
(…いや、そんなことよりも……)
一体、誰が乗ってるんだ…?
- side:??? -
「何だろ、あのクルマ?」
後ろから追いかけてくるクルマを見て、そんなことを呟いた。よくわかんないクルマだ…追い越させたのかと思ったら、途端、血相変えたみたいに追っかけてきたし、何がしたいんだろ?
(…あのクルマは……)
改めて後ろのクルマを見てみると、どこかで見たような形をしていた。確か…ああ、そうだ。今日学校にいたポルシェじゃないか。この辺じゃあんな高級車はなかなか見ないから、結構目立ってたっけ。
どこの偉い人が乗ってるのかと思ったら…
(…なかなかどうして…ぶっ飛んだ人が乗ってるみたいだ…)
どうしようか。つまりこれ、ロックオンされてるってことだよな…
時計を確認すると、10時後半。ありゃ、もう随分遅刻してるや。いい加減うちのリーダーが空腹で立腹してる頃だな。またあのカンテレを弾きながら、詩人みたいな口調で俺に嫌味を言ってくるに違いない。
(…まあ、いいか…)
どっちみち飛ばさなきゃいけないし、それにこんな機会めったにないしね
「それじゃあ」
ちょっとだけ、遊ぼうか、Z
- side:九十九 -
!……Zの走り方が変わった…
Zが急加速して、再びカレラから離れる
負けじと、俺もアクセルをより強く踏んだ
250km/h
ギアチェンジ、5速
再加速
車体の接地感が薄れる
300km/h
またZが近づく
彼も300km/h強で走っているみたいだ
ほぼ並び、ランデブー走行へと移る
…嘘みたいだ…
またあのZと、こうやって走ることができるだなんて……
いつ振りだろうか、こんな気持ちで走れるのは
ただただ、楽しい
まるで、初めて走った時みたいに
月が、2つのクルマを照らす
蒼い光が、全部を曖昧に見せかける
現実感が、俺の頭から剥がれてゆく
これは夢なのかもしれない
そう思うくらい
- side:??? -
…へえ、やっぱり速いな。しかもそれだけじゃないや…
良い雰囲気で走るなあ、あのクルマ……
嬉しいねえ…こんな風に、速い人と公道で走れるだなんて、ひょっとして初めてじゃないかな…?うちの高校もクルマ好きは多いけど、大体がラリーだからなあ……
「…おっと、そろそろかな」
もうちょい続けていたかったけれど、そうもいかないみたいだ。いい加減にしないと、罰として飯抜き、なんてことも有り得る。それは嫌だ。
でも惜しいなあ…こんな機会多分もう二度とないかもなのに…
「…あ、そうだ」
- side:九十九 -
まるで水の中にいるような、そんな感覚。出来れば、もう少しこのまま続けていたかったが、どうやらそういうわけにもいかないみたいだ。
前にいるZが、カレラの左によって、ブレーキランプを点灯させる。
もう終わりだなと思い、Zに続いて減速して、通常の巡行にもどる。
(ん?…あれは……)
だがどうやら、Zのドライバーはまだ俺に用があるみたいだった。
運転席の窓が開き、そこから腕が出てきたとおもったら、俺に手招きをしてきた。どうやらついて来いと言っているらしい。
先の道に、分かれ道が見える。一方は宿のある小さい街に、もう一方の方には森林地帯に続いている。Zは森林の方に向かうようだ。
Zに従い、俺も森林方向に進路をとる。特に断る理由もなかったし、何よりあのZに乗っているのが誰なのか気になったので、素直に後をついていくことにした。
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Zについていき、森林の中に入ると、さっきまでの整備された道路とは違い、舗装がない、土が露出している道になっていた。ダートと言った方がわかりやすいかもしれない。所々に轍があるのが、ライトの陰影で見て取れる。結構荒い感じの跡だ。普段はラリーの練習場所なんだろうか。
その中に、ひときわ大きな轍を見つけた。跡も深く、クルマではないだろう。もっと重いものだ。
(これは…キャタピラか?)
ショベルカーでも通ったのだろうか。それにしては大きすぎる。
(…もしかして、戦車?)
そういえば、島田家で戦車道をしていた時に見た、戦車のキャタピラがこれくらいだった気がする。
なるほど戦車か…でもなんでこんなところに?
そこからさらに進むと、少し開けた場所に出た。少し見渡してみると、オレンジ色の明かりのようなものが端に見えた。焚火だろう。そしてその横には大きい鉄塊、そう戦車が鎮座していた。件のキャタピラ跡の当事者だろう。
Zが端によってから停車し、ライトが消えた。エンジンを切ったみたいだ。どうやらここが目的地らしい。それに倣うように、カレラを停めた。
ドアを開け、外に出てみる。ライトは全て消したが、月明りと焚火の明かりが、周りを照らしていた。
「へーえ、思ったより若い人だ」
「!…」
だからだろうか、彼の姿は結構はっきりと見えた。
高校生くらいだろうか。若い人には珍しいくらい、白髪の多い髪をした男性だった。長髪というわけではなかったが、目が髪に隠れている。その見た目も相まってか、どこか掴みどころのない雰囲気を持った子だと思った。
「…うん、でも、オレよりは年上かなあ…初めまして、ポルシェのおにーさん」
「……君が、あのZの…?」
「うん、そうだよ。はやかったでしょ?」
……そうか…彼が…
「…気に入ってるみたいだね……」
「まーね。かっこいいし…ああ、そうだ。まだ名乗ってなかったよね?オレは…」
「ナツ!」
「げ…」
彼が自分の名前を口にしようとしたその時、先程の焚火のあたりから声が聞こえた。見てみると、女の子が2人、彼に向って来ている。声をあげたのはクリーム色の髪を両サイドにまとめた、小柄な子だった。
「もー遅いよ!一体何時間かかってるのさ!」
「悪かったよ、アキ…思ったよりも入れ食いでさ、辞め時がわかんなかったんだ」
「へーえ、じゃあ遅れた分の見返りは期待していいわけだ?」
もう1人の方、赤毛の髪の、これまた小柄な子が彼に向ってそう言う。
「ああ、見てくれよミッコ。大漁だ」
そう言うと、彼はZのトランクを開け、中に入っているクーラーボックスを取り出した。釣りの帰りだったらしい。彼が箱の中身を開けて見せると、中には言う通り、あふれんばかりの魚介類が入っていた。それを見て、ミッコと呼ばれた子が「お~」とシンプルに感嘆する。アキと言う子は怒りが収まってないのか、まだ少し頬を膨らませている。
「…学園艦で、釣りができるのかい?」
「ん?ああ、ほかのところは知らないけれど、うちの学園艦、穴場があるんだよ。まあ、行くにはちょっと裏技が必要だけど…良かったら教える?」
「いや、遠慮するよ…ところで…」
「ああ、ゴメン。話が脱線しちゃったね…さっき聞いた通り、オレはナツって言うんだ。おにーさんは?」
「九十九だ。よろしく」
名を名乗り、改めてどうして俺をここに連れてきたのか聞こうとしたが、その前にアキと呼ばれた子が、彼に話しかけた。
「…ねえナツ、この人は?」
「今言ってただろ?九十九さん」
「いやそうじゃなくて、知り合い?」
「今知り合った」
「えぇ…」
その返答に呆れたのか困惑したのか…とにかくそんな顔をしていた。まあ無理もない。俺もまだ状況が飲み込みきれてないのだから。
「お、あれポルシェじゃん、スゲー!あれおにーさんの?」
「う、うん…まあね…」
ミッコさん…だっけか?その子はその子でキラキラした目で俺のカレラを見てはしゃいでいた。このままでは埒が明かない。そろそろ本題に入らせてほしいのだが…
「~~♪」
(…何だ?…楽器?)
不意に聞こえた、弦楽器のような音。Zの方向からだ。ナツ君がなにやら「げ…」というような顔をしている。
何かと思いそちらを振り返ってみると、そこには、チューリップハットをかぶった女の子が、Zのボンネットに腰かけ、小さい琴のようなものを弾いていた。落ち着いた微笑を浮かべたその顔は、長い髪も相まってか、とても大人びて見える。
他の3人も、Zに座っているその子の方を向いた。すると、彼女は楽器を弾きながら、口を開いた。
「こんなに長い釣りをすることに、何か意味はあったかい?ナツ」
「…あーミカ。あのあれだよ…風がオレにそうしてと囁いたんだよ、うん」
「風は囁くことはないよ。何かを乗せることしかできない」
「そっか。じゃ囁いたのは風じゃなくてガイアだ。悪かったよ。だからミカ、ボンネットに乗るのはやめて欲しいな。その子、結構デリケートなんだよ」
「誰かさんのおかげで、今の私はすごく軽くなれてるからね。この子も受け入れてくれるさ。お腹いっぱいにならない限りは、私がどく意味はないんじゃないかな?」
「はーいはい、わーかってるよ…今からごはん作るから…」
「そうだね、それが今一番大切なことだと思うよ…ところで、その人は?」
「あ…ごめんおにーさん。だいぶ待たせちゃったね…」
今、完全に忘れられてたな……
「ああ、いや…と言いたいところだが、そうだな…もうそろそろ本題に入ってくれると助かるよ…」
「うん、そうだね…と言っても、大したことじゃないんだ。ただ九十九のおにーさんとお知り合いになりたかったってだけ」
「俺と…?」
「そうだよ。うちの高校、クルマ好きは多いけど、みんなラリーでさ、オレみたいな公道好きは肩身が狭いんだよね。だからちょうど、おにーさんみたいな相手が欲しかったんだ」
「だってラリーの方が面白いじゃん」
「ちょっと静かにしててよ、ミッコ」
そう言われると、ミッコさんは「ちぇっ」と言い、少し放っておこうとアキさんに言われ、一緒に焚火の場所へと戻って行った。チューリップハットの彼女はまだZのボンネットだが…
「…で、俺がそういう人間だと?」
「あんな走りを見せてもらったら、さすがにわかるさ……」
「…それもそうか」
まあ、さすがにあんなふうに走る一般車などいないだろう。言い逃れようがない。
でも、何だろうな…彼と話してると、どことなくアイツのことを思い出す…
顔立ちや立ち振る舞いじゃない、ただ嬉しそうに俺と話す彼が、俺のよく知っていた奴と重なって見えた。
「でも、ここに呼んだ理由はそれだけじゃないんだ」
「…と言うと?」
「おにーさんさあ…」
「気が狂ったみたいに速いクルマの話。知らない?」
「!……」
きっと、あのクルマのことを言っているのだろう。きっと、あの化物のことを言っているのだろう。
SX…
「なんで、その話を…?」
「Zを引き取った時に聞いたんだよ。何でも、そのクルマを庇って大事故起こしたんだとか…何のクルマかまではわからないんだけど、おにーさん何か知ってる?」
「…知って、どうするつもりだい?」
「…知ってるんだね?」
「……」
教えられない。教えられるわけがない。なんでかはわからない。だけど、あのZとSXは、もう二度と、会わせてはいけない気がする。
会せたら、また同じことが起こる
そんな気がしてならなかった
でももし、もし偶然会ってしまったら?万一偶然会って、何も知らず、共に走ってしまったら?
そうなるくらいなら、いっそ存在だけ教えて、手を出さないように警告した方がいいんじゃないか?
「…おにーさん?」
「…ああ、そうだな…聞いたことはあるよ…」
「!…じゃあ……」
「ああ、そのクルマは……」
ポロンッと、あの楽器の音が静かに響いた。それと共に、あのチューリップハットの彼女が、彼の名を呼んだ
「ナツ、いい加減君は、ご飯を作るべきだと思わないかな?」
「ちょっと待ってよミカ。今…」
「ナツ?」
「…ああ、わかったよ、ごめんおにーさん、もうちょっとだけ待っててよ、ご飯ご馳走するから」
「あ、ああ…わかった」
そう言って彼は、クーラーボックスをもって焚火の方へ足を運んだ。アキさんとミッコさんも相当待ったのだろう。彼を怒っているのがここからでも見えた。
「…ねえ、旅人さん」
チューリップハットの彼女…ミカさんが、再び口を開く、旅人さんとは、恐らく俺のことだろう。
「なんだい?」
「ナツを…彼を無意味なことに巻き込まないでくれないかな?」
「……」
そう言った彼女は、静かな、しかし確かな敵意をもった目で、俺を見つめる。
勘のいい子だ…恐らく、理屈か直感か、彼女はわかったのだろう。彼のやろうとしたことを…
……そしてそれが、どんな結果を招くことになるかを……
「…大丈夫、そのつもりだよ……」
俺がそう言うと、彼女は何も言わず、ただ黙って、再び楽器を弾き始めた。
どこか、哀しい曲だった
結局、俺は宿に帰ってやらなきゃいけないことがあると言ってなんとか誤魔化し、ナツ君に名刺だけ渡して、その場を後にした
そうさ…もう繰り返させはしない……
…もう二度と、Zを殺させやしない……
…雨水君、やっぱりだめだ……
SXは、在っちゃいけない
今はまだ、準備が要る…
だが、次会った時は…
潰す
その最高速の中で
ナツ
本名不詳。男性。中学時代ミッコとクルマ好き同士ということで仲良くなり、高校になってミッコに誘われる形で戦車道の見習い整備士になり、その関係でアキ、ミカとも仲良くなり、現在に至る。釣りが趣味、学園艦から海で釣りをするための裏技を知っているらしい。ミカが突っ込み役になるくらい掴みどころのない性格をしている。
ちなみにミカさんが劇中弾いた曲は、サブタイトルと同じ名前の曲です。いろんなバージョンがありますが基本同じ曲なので、興味があったらググってみてください。
次回からまた大洗に戻ります。継続編難しいけど書いてて面白かったなあ…また近いうち書いてみたいと思います。