……そうさ…作者は定期的にギャグ回をぶち込まないと死ぬ病気なのさ……
- AM10:00 熊本 side:雨水 -
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…南阿蘇…
火山活動で出来たいわゆるカルデラ地帯であり、またそれだけに温泉がたくさんあります。特に当館の温泉は量も多く、種類もたくさんあります。お客様は実際満足するでしょう。
この場所は観光名所としても有名で、豊かな自然と様々な伝統芸能や料理、数々のイベントがあり、それらはきっと皆さまを飽きさせることはないでしょう。そして何よりここで素晴らしいのはドライブです。南阿蘇はドライブスポットとしても大変魅力的な場所で、車から見える雄大な景色は、ドライバーを癒すことでしょう。
当館ではそれらを全て十分に満喫できるよう最大限のサービスと努力を行っています。例えば、当館では自分の車でドライブしたいというお客様のために、格安で輸送サービスを行っています。
あなたは悩んだ末に、当館が一番だということに気づくでしょう。
スタッフ一同心よりお待ちしております。
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(ローカライズ版みたいな日本語だな)
電車の中で宿のパンフレットを読んだ時、真っ先にそう感じた。他に突っ込むべきところもあるんだろうけど考えないことにした。だってめんどくさい
「どしたのさ雨水?そんな何とも言えない顔しちゃって?」
「うん…いや、うん……」
「?」
「いや何でもない…土屋は随分はしゃいでるな」
「だって峠だよ!TO☆U☆GE!!学園艦に住んでたらこんなこと滅多にないからね!!本当最高で…うん、すごいし最高だし…ほらヤバイし、最高だよ!」
「よーしわかった。落ち着こう」
そう言って俺は興奮している土屋を向かいの椅子に座らせた。なんで2人揃って突然言葉のレパートリー減ってんの?電車の揺れで酔ったの?
「ほえー、確かに怪しい場所だねー」
隣で中嶋先輩たちとトランプをやってた鈴木先輩が頭をこっちに寄せて俺の持ってるパンフレットを覗いてきた。色々近いし当たってるし柔かい。
「でもよくこんなとこ見つけたよねー。調べるの大変だったっしょ、中嶋?」
「んー?そこ見つけたの私じゃないよ?」
「え?そうなの?あんなに自信満々にパンフ見せびらかしてきたから、てっきりあんたが調べたもんだと…お、ファイブカード」
「ゲェ!?その一手待った!」
「そりゃなしっしょ星野ぉ!」
「待たないしありだよ。じゃ約束通りハーケンダッツね。チョコブラウニーで」
「うう…ゴメンね雨水…余計な出費させちゃって…私マカデミアナッツ」
「次は絶対勝つから期待してて!あと私はレアチーズで」
「え?なんで俺が奢る流れになってんの?」
「ね、ねえみんな、いくら何でも雨水がかわいそうだよ…」
「土屋は何食べたい?」
「バニラ」
「えぇ……」
「ハハハ、災難だな、雨水」
「て、寺田先輩…」
「抹茶で」
「あなたとは趣味が合いそうですね畜生」
そんなこんなで、電車は目的地へと向かって行った
-…2時間後 南阿蘇 -
「はあ~疲れた」
「さすがに数時間座りっぱなしだとくたくたっしょ」
「ええ…消耗しましたね本当に……」
特に財布と精神が…な…
「ご、ゴメンって…まさかホントに払ってくれるとは思ってなくてさ」
「こ、今度なんか奢るから…ね?」
中嶋先輩も鈴木先輩も、さすがに悪いと思ってくれたのか、バツの悪そうな顔をして俺にそう言ってくる。結局俺はあの後5人分のアイスを大盤振る舞いするはめになった。おかげで俺の貯蓄はボドボドだ
「…ほら雨水、これ」
「え?…うわっ…とと」
星野先輩に呼ばれて振り向くと、何かを俺の方に飛ばしてきていた。慌てながら何とか受け取ると、掴んだ手の中には500円玉があった
「先輩、これ…」
「やっぱ返すよ、悪いし」
「でも、釣りが来ますよ?これ」
「細かいのないし、迷惑料込みってことで」
「だけど…」
「いいから。ほら、みんな行っちゃってるし、私も先行くよ」
「あ…」
そう言って、星野先輩はそそくさとみんなの方へ向かって行った
(…ある程度は、歩み寄れたんだろうか?)
彼女とはあの日あの時から、意識的にしろ無意識にしろ、お互い避けるようになっていた。正直、今みたいにまともに話したのも、だいぶ久しぶりかもしれない。まだ壁は感じるけれど
(そうさな…このままってわけにもいかないよな)
この合宿中に、この気まずさはなるべく何とかしよう。そう思いながら、手に持った500円玉を握りしめ、みんなの後を追った
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そうこうしている内に俺たちは旅館に着いた。昔ながらの木造建築で、古き良きという言葉が似合いそうだった。
「へ~ここが…」
「何というか…独特の雰囲気だね…」
「思ったよりおっきいな…」
「そんなことより早く走ろうよはやく!もう車届いてるよ!」
各々が各々の感想を口に出す。いや一人だけ違うか。あのドリフトジャンキーはもう辛抱堪らんといった感じだ。
「落ち着きなって土屋、走るのは夜になってから。まずは部屋に荷物置かなきゃさ」
寺田先輩が旅館の入り口に入り、「すいませーん」と奥の方に呼びかけた。すると、ここの女将さんだろうか?着物を着た、目がぎょろっとした痩せこけたおばあさんが、ふらふらとした足取りで奥の方から出てきた。
「…コれハ、こレ、は。よウ、こそ、いラっシゃいマシた…」
無表情でおばあさんはそう、方言ともカタコトとも違う、いかんとも形容しがたいイントネーションを発しながら、床に三つ指をついてお辞儀した。
「え、ええと…予約してた者なんですけど…」
寺田先輩もそれに違和感を感じたのか、少したじろいでそう答える
「大洗の、方デ…」
「はい、そうです。今日から数日間、お世話になります」
「遠慮せずニ、ごゆっクり…お客様方以外ノ他には、泊まる方ハおりませんノで…」
そう言って、女将さんは寺田先輩に部屋のキーを渡し、その場から離れた。
「なんか、変わった人だね」
「幽霊だったりして」
「こら土屋、失礼」
中嶋先輩にたしなめられながらも、土屋は冗談めいてそんなことを言っていた。幽霊かどうかはさておき、確かに妙な感じだなとは思った。俺たち以外に客がいないっていうのも、夏休みにしては珍しい。
とは言っても、そんなこともあるんだな程度にしか感じていないのだけれども
「そういえば寺田先輩、今回の旅費のこと、俺たち何も聞いてないんですけど。結構立派な旅館だし、今回高くついたんじゃないですか?」
俺のその質問に、寺田先輩はたった一言
「1800円」
と答えた
「「…へ?」」
中嶋先輩と星野先輩の声が重なる。意外だったんだろうか?こっちは正直安く済んだなくらいにしか思わなかったけれど。星野先輩が恐る恐るといった感じで寺田先輩に
「…もしかして、今回の旅費全部で一人1800円ですか?」
と問う
「まさか、違うよ」
その答えに中嶋先輩はそりゃですよねと言う感じの顔をする。
「全部含んで全員で1800円だよ」
「「「…は?」」」
さっきの2人に加えて、今度は鈴木先輩も『何言ってんのこの人』みたいな顔をしている。ちなみに土屋はさっきから走りに思いを馳せているのか、いつもより2割り増しくらい緩んだ笑顔のまま上の空だった。目がヤバイ
え?ていうか、全部で1800円てことは…
「寺田先輩、それつまり一人当たり300円てことですか?」
「まあ、6人だからそうなるね」
「お、やったー」
「いや、やったーじゃないよ!?やったーじゃないよ!?」
俺が両手をあげて喜びを表現した途端、中嶋先輩が俺の肩を掴んでグワングワンと揺らしてきた。痛い痛い
「何なんすか先輩。安く済んだんだからいいじゃないすか」
「いや雨水、よく考えてみて!これで一人300円て、どう考えても安すぎるでしょ!?絶対何かあるよきっと!」
「そうなんすか?寺田先輩」
そう聞くと寺田先輩は露骨に目をそらし、それ以上は微動だにしなかった
「ほらぁー!見てよあの反応!知っちゃいけないこと知ってる人の所作だよあれぇ!」
さっきから中嶋先輩のテンションがすごい。こんな必死にこの人に迫られたの初めてかも。と言うより頼むからグワングワンすんのやめて欲しい。さっきから地味にダメージが直に骨にいっててきつい
「いや別にいいっすよ、それにあっても壁に人埋まってるくらいでしょ?」
「え?何その発想。怖いんだけど…」
「おかしいっしょ…」
中嶋先輩に続き、鈴木先輩までもが今の俺の発言にドン引きしていた。え、何?俺そんな変なこと言った?
「…たく、バカやってないで早く部屋行こうよ。雨水も、そんなことあるわけないだろ?ホラーやサスペンスの見すぎだよ」
「あれ?星野何か足震えてるよ?寒いの」
「は!?べ、別に全っ然ビビってないから!壁にひひ人だなんてそそんなのあるわけないし!?だだだ大体、日本の薄い壁で人が埋まってるなんて物理的にあり得ないってゆーか!?なぁ、土屋!?」
「う、うん…そうだね…」
「(現実に)お帰り土屋」
「?…ただいま?」
首を傾げながらも彼女は笑顔でそう答えた。何か今日は軒並みテンションが高い。まあ旅行だし無理もないか。
数分後、俺たちは泊まる場所である大部屋に着きました。ふすまを開けると部屋中にめっちゃお札が貼られていました。星野先輩が頑なに部屋に入りたがらなかったのが意外でしたまる
- 同時刻 熊本 -
「…ん?鍵が開いてる?」
犬の散歩から帰ってきたら、カギをかけたはずのドアが開いていたのを確認して、異変に気づく。
変だな、今日はお母様は外出なさってるはずだし、みほは確かぬいぐるみのショー(ボコだったか)を見に行ったはずだし…
(菊代さん?いや、この時期はお休みを取ってたはずだけど…)
「泥棒…?まさかこんな昼間から…?」
どうしたものかと思い、試しに家のインターホンを鳴らしてみる。泥棒なら即座に反応があるはず…
待つこと数秒、家の奥からのそっと、よく見覚えのある人が出てきた。それを見て、私の不安は杞憂だと知り、少しほっとした。
「…お父様、お帰りになられてたのですね」
「ああ、まほもおかえり。はやかったね。戦車道は?」
「今日は戦車道はお休みです。ちょっと犬の散歩に行ってまして…と言うより、帰ってくるのなら連絡してください。急に来られたものだから驚きましたよ」
「ごめんごめん、急に連絡がきてね。こっちでやらなきゃいけないことができたんだ」
「お仕事ですか?」
「いや、プライベートさ。友達からの頼みでね…そういえば、家の奥にあるガレージ、使ってもいいかい?」
「奥の?ああ、奥の空きガレージのことですか?多分大丈夫でしょうけど、一応お母様に確認を取ってください」
「うん、わかったよ。ありがとう」
「ご友人の頼みとは、車か何かの整備なのですか?」
「そんなところだね。結構特殊なクルマでね。こういう言い方は何だけど、あんまり僕以外には弄ってほしくない代物なんだ」
お父様がそういうのを聞いて、少し驚いた。確かに昔から、自分が整備した物には人一倍愛着を持つ人ではあったが、「僕以外には弄ってほしくない」なんて言葉は初めて聞いた。この人にそこまで言わせるとは、きっと相当な車なのだろう。
「気に入っているのですね。その車を…」
「いや」
しかし、聞こえてきた言葉は予想とは全く真逆と言っていいものだった。お父様は、先程と全く変わらない笑顔で、全く変わらない口調でこう言い放った
「嫌いだね。なくなってほしいくらいには」