艦上OVERDOSE   作:生カス

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前回申し上げたように、今回は会話シーンオンリーです。
キャラが再現できていないかもしれません。あらかじめご了承ください。


5 Flim

- 深夜 学園艦 工業区域 -

 

「…コーヒー、どっちにします?」

 

「んー、じゃあこっち」

 

「どうぞ」

 

「ありがと」

 

事故を起こしてから早数十分。レッカー移動ができるかどうか携帯で調べていたところ。

中嶋さんが

 

「良かったらうちでやるよ?まだ部活の備品のレッカー車動かせると思うし」

 

といってくれたので、お言葉に甘えさせてもらった。

 

「その代わりというわけじゃないけど…良かったらコーヒーか何かおごってくれない?」

 

というわけで、俺はその辺にあった自販機からエメラルドなマウンテンとジョージアなオリジナルを買い中嶋さんにエメラルドなほうを渡して、現在に至る

 

「甘いの好きなの?」

 

「気分によりますよ。大体オリジナルかブラックのどっちかです。」

 

「また両極端だねぇ…」

 

「言われてみりゃ、そうですね…」

 

レッカー車が来るまでの間、そんな何でもないような話をしていたけど、

正直何も頭に入ってこなかった。

あるのは、ただ後悔だった。本当は気づいていたはずなんだ

だけど俺は、それを受け入れられなかった

sxの内にあるダメージを省みようともせず、俺の意思を押し付けた

 

「……大丈夫だよ」

 

「大丈夫?」

 

「うん、雨水くんのあのワンエイティ、ちょっと見てみたけど、見た目ほどダメージはないよ、ボディの重要な部分に歪みはないし、内部機関も無事。板金と、パーツ交換で済む。まだまだ走れるよ」

 

「…そうですか」

 

「次からあんな運転しなければ、の話だけど」

 

中嶋さんが諭すような声でその先を続ける

 

「傍目からみても危なっかしかったよ。自殺行為にしか見えなかった。

ちゃんとセッティングも見直さずに、簡単なメンテナンスだけで走らせたでしょ?」

 

「……はい…」

 

「普通に乗るだけならそれで十分だと思うよ。でも、ああやって本気で走るんなら、そうも言ってらんないでしょ…。正直さ、走らせ方を見たとき、クルマを大事にしない人だなぁ、て思ったよ。やだなぁって…」

 

「……」

 

何も言い返せない、言い返せるはずがない。この人の言う通りだ。未熟とか、それ以前の問題だ。

sxを知れば知るほど、不安が膨らんでいった。クルマにこんな感情を抱くのは変かもしれない、

でも、

 

本当に俺でいいのか?コイツは別の誰かを欲していたんじゃないか?俺を拒絶するんじゃないか?

 

そう思えて仕方なかった

 

 

 

いやちがう

 

 

 

本当は、あの空き地で、最初にsxを見つけたときから、

あの声を聞いたときから何となく気づいていた。

 

コイツは俺を拒絶している

 

でも俺は、気づかないふりをした

少しでもそれを自覚してしまったら、見捨てられるような気がして、だから無理矢理にでも全部ねじ伏せようとしたんだ。…まるでわがままな子供じゃないか。

何が拒絶だ。拒んだのは俺じゃないか。sxの内側にあるものに目を背け、悲鳴を上げるまでアイツに鞭を打ちつづけた。その結果がこれだ。俺はもう少しでsxを殺してしまうところだった。

そして何より、ここまでのことをしておいてまだ、あのsxに受け入れられたい、という願望を持っている自分に吐き気がした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…まあ、でもこうやって話してみると、そうでもないって分かって、良かったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……へぇ?」

 

 

 

何だ今の声……

不意打ちで中嶋さんにそんなことを言われたものだから、妙な声しか出なかった。

 

「あ、いや、すいません……。ど、どういうことです?」

 

「ん?だって、事故った自分のクルマ見るたびに分かりやすくしょげてるんだもの。あんな運転してたとは思えないくらい。」

 

「え?そんなに分かりやすかったっすか?」

 

「うんすごく」

 

まじかぁ…自分ではそこそこポーカーフェイスだと思ってたんだけどなぁ…

 

「まあ、理由はそれだけじゃないけどね」

 

「と、いうと?」

 

中嶋さんがそうだねえ、と言って続ける

 

「なんで、あの時レッカー車を呼ぼうとしたの?見た感じ自走でも行けそうだけど?」

 

「ああ、それは……確かに最初は自走しようとも思いました。…でも、なんでかsxが、酷く弱っているように見えて、今無理に自走させたら、二度と走れないくらいに壊れそうな、いやな予感がして…」

 

「そういうとこだよ」

 

「?」

 

「そういう、クルマを本気で心配しているとこ。恋人みたいに大事なんじゃない?

あのワンエイティが」

 

「は、はあ…」

 

いきなりの恋人認定に少しむず痒さを覚えながらも、尚も中嶋さんの話に耳を傾ける。

 

「…恋人みたいに大事だから、自分の理想をつい押し付けて、暴走しちゃったのかもね……」

 

「……」

 

まあ、恋人いたことないからわからないけど。中嶋さんは笑いながらそう付け加えた。

言われてみればそうかもしれない。理想を押し付けて、結局自分自身がその理想に押し潰されて、

何も見えなくなって暴走して、結果こうなるまで、何も気づけなかったんだ。

 

自責の念も後悔も消えることはなかったけれど、中嶋さんの話のおかげで、不安の理由が分かった気がした。

 

「そうだねぇ…だから君はクルマを粗末にする人じゃなくて…」

 

中嶋さんは少し考えてから、「うん、これだ!」と、手をポンとたたいた

 

「あのワンエイティにフラれてこじらせちゃった人だ!」

 

「はい?」

 

何その苦い例え?この人の中ではさっきのよりはランクアップしてるのかしら?

ある意味さっきのよりもダメージあるんだけどその称号

 

「こじらせてる?」

 

「そう!雨水くん多分、レースして離されかけたとき、こんな風に思ったんじゃない?『俺のワンエイティが一番だ。負けるはずがない。』って」

 

「それは……」

 

「それとも、クルマが悪いから、離されたんだって思った?」

 

「…いいえ、それはないですよ。クルマは最高なんです、ホントに。性能というより、うまく言えないけど、それ以外の何かがある気がして」

 

「そっか…うん、いいね、ホントに好きなんだ。やっぱりいい感じにこじらせてる」

 

こじらせるのにもいい感じっていうのはあるんだろうか?

 

「…ちなみに、その何かっていうのが、どうしてあると思うのかな?」

 

「え?いや、別にそんな確信みたいなのはないですよ。ホントただ何となくで…」

 

「本当に?その何となくであそこまで暴走できる人には見えないけどなー」

 

「…そう…ですね……」

 

あの感覚を何とか言葉にしようとするが、足りないボキャブラリーでは稚拙にしか紡げない

 

「何というか…生きているんじゃないかって思うことがあるんです。」

 

「生きている?あのワンエイティが?」

 

「はい。その…たまになんですけど、熱…みたいなものが伝わるんですよ。機械が発するのとは違う、もっと静かな、何ていうか…焚火か、埋火の火みたいな、といえばいいのか…」

 

「……」

 

「それに、エンジンの音か排気音かはわからないんですけど、どうしても生き物の声にしか聞こえない時があるんです。そういうのもあってか、時々あのsxそのものに意思があるんじゃないかって思う時があって…あ、いや、ホント、そんな気がする、てだけなんですけど…」

 

「……うん…」

 

「あ、いや、すいません…わけわかんないこと言って…気にしないでください……」

 

「……」

 

「………あの…中嶋さ…先輩……?」

 

「……」

 

急に黙り込んでしまった。やはり、俺が行ったことの馬鹿さ加減に呆れてしまったんだろうか?それもそうだろう、俺自身、何を言っているのかよくわからないのだから。

 

「…かな……」

 

「?」

 

落ち込んでいると、中嶋さんがsxを見ながら何かぶつぶつ小声で言っているのが聞こえた。

 

「…音ってことはインマニかエキマニかなそれともマフラー?さっきちらっと見たときチューニングはされてはいたけどどこにでもあるようなパーツでしか構成されていなかったし組み立ても結構雑だしインマニもエキマニもよくある形状と配置だしじゃあマフラーかって言われるとあれも見た感じ純正だしそんないい音が出るとは思えないじゃあ雨水くんの気のせい?いやいや仮にそうだとしてもあの加速は説明できないそもそもあんな老朽化したsrでしかもあのパーツと組み立てであんな加速が出るわけがないそれに大したボディ補強もされている感じじゃなかったのにどうしてあの速度であんなに安定してたんだろう?不思議だなぁ不思議すぎるなぁ隅々まで見てみたいなぁ乗ってみたいなぁでも雨水くんあの感じじゃそんなに長い間貸してくれそうにもないし…そうだ修理を自動車部ですることにしてそのまま流れでワンエイティを人質にして…それで雨水くんを入部させてワンエイティを部の備品ってことにすればゆっくりじっくり…いやうまくいけば一回全バラもさせてもらえるかも…よしじゃあ……」

 

よしじゃあじゃねえよ

びっくりした。何?この人こんなキャラだったの?

何だか真剣な顔でそら恐ろしいことをぶつぶつ言っていると思っていたら、自動車部のレッカー車が来た。

 

「中嶋ー!」

 

「おぉ、星野!ありがと!」

 

「ふわぁ…勘弁してよ。やっと整備終わって仮眠取ってたのに…あのクルマ?」

 

「そーそれ!リフト下げて…あ!ごめーん!やっぱりちょっと待って!」

 

そういうと、中嶋さんは俺のほうにとてとてとよってきて、満面の笑みで俺を見つめてくる

 

「ねえ雨水くぅん。」

 

「な、なんすか…?」

 

 

 

「自動車部って興味ない?」

 

 

怖い目論見しか感じないその台詞を、顔を上げて俺を見ながら発する彼女に、俺は苦笑いしか返せなかった。

 

 




自動車部の人達って個人的に強キャラ感が半端ない気がします。
特にナカジマは押しが結構強いと思う(勝手な妄想)
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