「あ~また一番乗り逃しちゃった」
国道51号を水戸方面からプラウダの戦車隊を連れて大洗に入ったカチューシャは悔しがっていた。
大学選抜チームと大洗学園の試合で各学園の皆で助太刀に行った時にカチューシャは一番乗りをしようとしていたが黒森峰やサンダースに先を越されてしまっていた。
今度こそ一番乗りで大洗へ行こうとカチューシャは心に決めていた。
「黒森峰やサンダースは飛行機ですから仕方ないですよ」
「ん~もう!」
輸送機で大洗に乗り込む黒森峰とサンダース・聖グロリアーナに追い越されてしまった。
それを仕方ないとノンナが言うもののカチューシャの悔しさは晴れず戦車の中で地団駄を踏んだ。
「大洗の皆さん!知波単の鉄獅子が推参であります!」
国道51号を鉾田方面から西絹代が引き連れて来た知波単学園の戦車が大洗に入った。
「プラウダに知波単も!大学選抜を思い出しますねえ」
次々と来る増援に優花里は興奮状態だった。
大学選抜との試合では黒森峰やサンダース・プラウダなどの学園の皆が大洗学園へ短期転入生として助太刀に来ていた。
辻は急な選手と戦車の増員にカンカンに怒っていたが対戦相手である大学選抜チームの隊長である島田愛里寿が「どんな相手でも受けて立つ」と大洗の増員を認めて試合をしてくれた。
その時の事を優花里もみほも思い出していた。
「お~い、継続高校がこっちに来たよ」
無線でアンチョビがみほへ言った。
継続高校のミカは自分が乗るBT-42突撃戦車だけではなく継続高校が持つKV-1重戦車・Ⅲ号突撃砲も連れて来ていた。
だが大洗ではなくアンツィオが展開するひたちなか市に来ていた。
「ねえミカ、大洗じゃなくていいの?」
BT-42の車内でアキが尋ねる。
「みんなが行くから行けばいいとは限らない」
ミカはいつもの煙に巻く言い方で返す。
「またそう言う」
アキはミカのいつもの返事に呆れる。
ミカの判断は戦車が続々と集まる大洗ではなくアンツィオしかいない、ひたちなか市に行く合理的な判断と見える。
だが実際は気まぐれなミカの性格のせいであった。
「これが友情と言うものか。若いとはいいものだな」
次々と集まる各校の戦車道の戦車と選手に三宅は羨ましそうに見ていた。
だが一方で大変なのは蝶野であった。
現場の戦車の運用は彼女に任されていたからだ。アンツィオをひたちなか市に置き大洗学園を大洗市街に配置する最初の計画が次々と助けに来た各校の戦車により崩れた。
「応援に来た各校のみんな、配置を伝えます。黒森峰は大洗水族館へ、サンダースは大洗公園に、聖グロは国道磯前神社前の国道108号へ、知波単は大洗サンビーチへ、プラウダは港中央へ。さあ配置に就いて」
蝶野は大洗の地図を見て大急ぎで考えた配置を早口気味に無線で伝えた。
すぐに「了解」「分かった」と返事が来てそれぞれの戦車が茨城県警の誘導を受けながら配置へ向かう。
「それと各校をまとめる隊長に西住みほさんにお願いするわ。西住みほさんを大隊長とします」
蝶野が続けてそう指示を下す。
「分かりました。大隊長を引き受けます」
みほはすぐに大隊長の役目を引き受けた。
また大学選抜の試合でやった各校の皆をまとめる大隊長になるとは思わなかったが気心知れた者同士だから不安はなかった。
「あ~これはこれは家元」
東京で泉はレクサスの車内で携帯電話でしほと話をしていた。
「文科省の辻を納得させましたか。さすが家元」
しほは辻と電話で話してアメリカが加担しているとはいえ黒森峰が無断で東京から大洗へ応援に行った事を納得させた。
それを聴いて泉は愉快と言う口調になった。
「泉さん。自衛隊出動の件どうにかなりますか?」
一方のしほは険しい顔のままだ。TV電話で会話をしていたら泉はしほの機嫌を取ろうと躍起になるほどの険しさだ。
「家元の皆さんが色んな方達と話してくれたおかげで政府内も自衛隊出動をしようと言う雰囲気作りはできました。ありがとうございます」
しほや千代は人脈を使い政界へ影響力のある者達と面会をして巨大不明生物もといゴジラの駆除に自衛隊を出動させるように働きかけて欲しいと求めて回った。
その甲斐あって政府内ではゴジラ駆除に自衛隊を出動させるべきでは?と言う意見が出るようになっていた。
「ではすぐに」
「すみません。すぐには無理です」
泉がそう答えるとしほからのため息が電波に乗って聞こえた。
「まだ政府内では戦車道によってゴジラが倒せると思っているのです。戦車道によってゴジラが倒されれば丸く収まる。その考えが根強いのです」
「やはりそうですか」
泉の説明にしほは納得した。
まだゴジラは銃弾も砲弾の射撃を受けていない。みほ達により撃退できる可能性がある。だから政府内は自衛隊が出るまでもないと言う楽観論が強かった。
「しかし最悪に備えるのが政治家の務めです。これから官邸に向かい総理や閣僚へ自衛隊の出動を強く訴えます」
「分かりました泉さん。お願いします」
しほは泉が自衛隊出動に向けた仕上げをしようとしていると分かった。
「任せて下さい。家元達のおかげで私の戦いも勝てそうです」
泉は冗談のつもりで言った。
しほはその意味は分かっていたが無言で微笑んだ。
「自衛隊より報告!ゴジラがひたちなか市より5kmの海域まで接近中です」
茨城県警本部にゴジラの追尾をしていた海自からの報告が入る。
「戦車隊の配置は完了したか?」
三宅が尋ねると蝶野から「完了しました」と返事が来た。
「今度こそ倒すぞ」
迫る戦いに三宅は緊張する。
ただ気味の悪い化け物を駆除する。害虫や害獣を倒すのと変わらない。
だが三宅は見た事の無い巨大生物に自然と畏怖を感じていた。
「本部長、戦車隊の西住隊長からです」
三宅と連絡を取るのはみほだった。
「応援が来ましたので作戦について打ち合わせをお願いします」
みほの要請に三宅は「うむ。変更があるか?」
高校生にしては丁寧な口調で接するみほに対して三宅は努めてくだけて接しているがみほの態度は変わらない。
「海上のゴジラへ射撃を行う最初の案は変わりません。ですが海上での迎撃で食い止められず上陸を許した場合は市街での戦闘を認めて欲しいのです」
蝶野を通じて茨城県警に渡されたゴジラ迎撃作戦はひたちなか市または大洗を太平洋側から侵攻するゴジラを海上で迎撃するのを基本にしていた。
海上ならば射撃を全力でできるしゴジラの巨体を倒しても二次被害は無い。
だが海上での迎撃に失敗して上陸を許してしまった場合は市街地での駆除作戦続行を計画に盛り込んでいた。
県警は市街地での駆除作戦に難色を示し三宅は「極力海上への射撃で駆除するようにてくれ」と蝶野やみほへ伝えていた。
だが、みほは万が一を感じて市街地での作戦続行を三宅に求めた。
「あくまで海上迎撃での駆除に全力を尽くしてくれ。市街地での作戦続行は住民避難の状況と合わせて判断する」
「分かりました。海上での駆除に全力を挙げます」
みほは市街地での作戦続行が難しいのは分かっていた。
避難の状況は沿岸地域こそ完了していたが内陸の住民の避難は続いている。三宅がゴジラを海に居る間に駆除したいと拘るのは理解できていた。
だがみほはあのゴジラが戦車で簡単に倒せるようには思えなかった。
「ゴジラが浮上!ひたちなか市まであと3km!」
海面のすぐ下を潜って泳いでいたゴジラはひたちなか市を前にして起き上がった。
「あれがゴジラなのか…」
「すげえデケー」
ひたちなか市にあるアンツィオの面々は初めて直に見るゴジラの姿に息を呑んだ。
いつもの陽気さが消える程に。
「前より大きくなっているぞ」
「河嶋もそう見えるか」
「それに二本足で立ってる」
ヘッツアーから上半身を出してカメさんチームがゴジラを見て驚嘆した。
以前上陸した50mの身長よりも大きくなっていた。また歩行も地を這うようなものではなく堂々と二本足で立ち海面を掻き分けるように進んでいる。
「大隊長より各車戦闘用意!」
みほはゴジラの巨大化に一瞬呆けそうになったが気を持ち直して指示を下す。
「県警より戦車隊へ。射撃のタイミングは任せる。いつでも射撃して構わない」
三宅からも戦闘許可の無線連絡が入る。
「大隊長より連絡。黒森峰のティーガーⅠとヤークトティーガーが射程に入り次第射撃して下さい。大洗のレオポンさんチームとプラウダのスターリン重戦車も同じです」
みほは射程の長い砲を持つ戦車にまず射撃を指示する。
とにかく海の上でゴジラを倒す。
ならば引き付ける必要はない。射程に入り次第撃ちゴジラにダメージを与えるのだ。
「私とヤークトティーガーでまず射撃する」
まほは自分の乗るティーガーⅠとヤークトティーガーをゴジラに向けて撃てる位置に移動させる。
「ノンナ任せたわよ!」
「分かりました」
カチューシャの激励を受けながらノンナは乗っているスターリン重戦車と呼ばれるIS‐2重戦車を那珂川にかかる海門橋に向かわせる。
「ゴジラがひたちなか市まであと2km」
「大隊長より各車へ。射撃用意良しか?」
ゴジラとの距離の報告を聴いて射撃準備が整ったかみほは尋ねる。
「完了した。いつでもいいぞ」
「こちらレオポン準備良し」
「いつでもどうぞ」
まほにレオポンチームのナカジマにノンナが完了したと答える。
みほはひと呼吸をしてから指示を出す。
「大隊長より各車へ射撃開始!」