ゴジラ・ウォー!   作:葛城マサカズ

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第20話 ゴジラは止まりました

 大洗は炎上した。

 ゴジラは口から光線を吐き次いで炎を口から放った。

 身体の中にあるエネルギーを全て吐き尽くしたゴジラは大洗駅の構内で動きを止めた。

 まるで岩のように固く動かなくなったゴジラは立ったまま沈黙している。しかしゴジラへの恐れは消えない。

 どんなに静かになってもいつゴジラがいつ動き出すか誰もが不安だった。

 その不安を顔に隠しきれない少女が居た。

 西住みほだ。

 みほは大洗から戦車で皆と脱出した後で蝶野が手配した自衛隊のヘリと合流できた。

 しかしUH-60が2機だけでは全員は乗れない。

 みほは戦車を大洗に置いて来た人をヘリに乗せて待避させた。

 その中にはティーガーⅠを大洗に置いたみほの姉である西住まほも居た。

 「また戻ってくる」と妹へ言い残しまほはUH-60に乗り込んだ。

 残るみほ達は燃料が僅かな戦車と共に大洗運動公園で次のヘリか車輛を待つ事にした。

 だが次の何かはやって来ない。

 「ごめんなさい。次のヘリをいつ出せるか分からないの」

 みほと合流した蝶野も困った顔で言った。

 ゴジラの動きが止まったとは言え大洗とひたちなか市からの避難は続いていた。

 ゴジラから出る放射線によって水戸市にも避難指示が出ていた。

 この避難を支援する為に自衛隊のヘリが出動していた。

 「この辺りは放射線の危険は無いようですね。それで市民の避難が優先されているののでしょう」

 優花里はスマホで政府がweb上で挙げている放射線の分布や濃度についての情報を見て言った。

 「でも放ったらかしは酷いよ」

 沙織がぼやく。

 「危険が無いならいいじゃないか。私は寝る」

 麻子は操縦席に座ったまま寝始めた。

 「せめて燃料があれば移動できるけど」

 みほは周りを見渡していた。

 サンダースや知波単に聖グロなどの面々が残っている。

 彼女たちは戦闘の疲れでぐったりとしゃがんでいたり、戦車の上や中で寝込んでいるのが多い。

 「お茶と菓子を差し上げられればいいのですが・・・」

 華が心配そうに言う。

 ゴジラと戦い数時間、誰もが疲れていた。

 華はそんな彼女達に何か手を差し伸べたかった。

 だが手持ちのお茶も菓子も少ししかない。

 「お~い戦車のみんな!」

 そこへ大声で呼びかける声がした。

 声の主は軽トラックでやって来た。ゴジラの惨禍を受けても元気な初老の男だった。

 「腹が減ってるだろう?飯を届けに来たぞ」

 ビニールシートを被せた荷台にはオニギリやサンドイッチにペットボトルや魔法瓶に入ったお茶や味噌汁があった。

 「ありがとうございます!」

 みほは戦車から降りて初老の男へ礼を言う。

 「さあさあ、どうぞどうぞ」

 軽トラックの荷台を解放して食事を提供し始める。

 他の皆は初老の男へ礼を言うとオニギリやサンドイッチに飲み物を取り食事を始める。

 「助かります。さすが旅館ですね。どれも美味しい」

 杏は初老の男へ礼を言う。

 この初老の男は大洗で旅館を営んでいた。

大洗での聖グロとの親善試合に聖グロ・プラウダ・知波単を呼んで行われたエキシビジョンマッチで2度自身の旅館は戦車の突入を受け全壊もしたがその都度大きな公的支援を受けての修復や改築または新築をする事ができた。

彼からすれば何か戦車道の女子高生達へ礼がしたいと考えていた。それを今果たしているのだ。

 「良いって事よ。町を守る為に戦ってくれたんだ。これぐらい当り前さ」

 「でも町は守れなかった…」

 「あんな化け物相手によくやった!十分やったんだ胸を張りなよ」

 大洗を守れなかった事を悔やむみほを初老の男は肩を叩き労う。

 みほはその声に目尻を潤ませた。

 

「以上が牧悟郎の経歴になります」

 ゴジラが大洗で活動を止めてから二日後に文部科学省の会議室で大臣出席の会議が開かれていた。

 議題はゴジラ問題で文科省が関わる案件についてである。

 その会議に学園艦総局の局長でありゴジラに対する戦車道の害獣駆除作戦の監督をしている辻も末席に居た。

 辻は渡された牧教授についての資料をふと見る。

 資料には牧が亡くなる前に乗ったプレジャーボートに残っていた遺留品も資料として載っていた。

 その中のA4用紙が入るサイズの封筒に入っていた紙の画像が辻の目に入った。

 「私も好きにした。君たちも好きにしろ」

 何かのメッセージのようだ。

 (お前は好きにできたからいいかもしれないが・・・)

 辻は牧が無責任な放言を書いたとしか思えなかった。

 (好きにできるなら苦労はないよ)

 牧の好きにした事で自分に苦労が降りかかったと感じて牧への怒りすら辻には沸いた。

 会議ではまず牧教授に関しての対処が議題となった。

 一般には広まっていないが政府など関係筋には牧教授がゴジラ出現の原因だと断定されている。

 アメリカの研究機関に所属しているとは言え日本人で日本の大学で教鞭を執っていた教授となれば無視はできない。

 「大臣、マスコミから質問があった場合はいかがしますか?」

 牧は故人となっているが何かの処断が必要だと意見が出る。

 「日本の大学で教えていたのは素直に認める。ただしゴジラを牧が作っていた事は何も知らない。これでいいだろう」

 文科省大臣である関口は面倒だと言う口調で答える。

 「次に対ゴジラ作戦に文科省が協力する件についてです。配布資料の【巨大不明生物の活動を抑制する作戦】をご覧ください」

 進行役の言うままに辻はその資料のページをめくる。

 (これは!)

 作戦の概要に目を通して辻は驚いた。

 「配布資料にある通り、ゴジラを大洗女子学園の学園艦を使い封じ込める作戦を行います。文科省としては学園艦を作戦に提供する事になりました」

 進行役はスラスラと概要を述べる。

 だが辻はこんな事は知らない。いつの間にか学園艦を使う事が決まり困惑している。

 「学園艦総局長は知らなくて困惑しているだろう」

 文科省次官が辻へ話しかける。

 「この作戦は国家の機密事項だ。君にも教えていなかった」

 辻は内心で憮然としながらも「はい」と返事をする。

 「大洗の学園艦は今も学生とその家族が住んでいる。総局長には住民の退艦と作戦の準備を同時進行で進めるんだ」

 「はい」

 辻は無表情で淡々と応じる。

 「これでようやく大洗の学園艦を廃艦にできる。因縁の学園艦とおさらばできるな」

 関口は辻へからかうように言った。

 これまで二度も廃艦の決定を覆された辻

 その都度、文科省内で風当たりが強くなり肩身が狭い思いをした。

 だが今度ばかりは廃艦の決定を試合の勝敗で撤回はできない。廃艦は確実にできる。

 辻は「これは役人として喜ぶべきだろうがなあ」と感傷と言える気分になる


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