ゴジラ・ウォー!   作:葛城マサカズ

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第22話「学園艦の底にも生徒はいます!」

 みほ達大洗の戦車道の面々は久しぶりに学園艦に戻って来た。

 母校に戻れたが誰もが浮かない顔をしている。

 もうすぐこの学園はゴジラへの攻撃に使われる。最期の時が近いからだ。

 戦車は文科省の指示で知波単学園が預かっていた。

 沈むかもしれない艦に置けないと言う理由とみほ達が戦車を使って学園艦で実力行使をするのを防ぐためだ。

 「また荷造りをするなんてね」

 自分の住む部屋で荷造りするみほは二度目の廃校の通告を受けた後での荷造りを思い出した。

 あの時も大洗の学園艦が無くなる悲しさ心がいっぱいになりながら荷造りをしていた。

 だがサンダースが大洗の戦車を預かり輸送機でまた運んでくれたり、生徒会長の杏が文科省や戦車道連盟を回り廃校を撤回できる試合をセッティングして希望が開けた。

 だが今度は国家の危機だ。

 みほや大洗の生徒達ができるレベルを超えていた。

 「仕方ないか・・・」

 そう自分に言い聞かせて理不尽を飲み込もうとする。

 だが心の底には自分の戦車であのゴジラを倒して学園艦を守りたいと言う気持ちがくすぶる。

 人知を越えた化け物だが戦う術を知るみほにとっては「どうにかならないか」と言うもどかしさがあった。

 

 一方で川嶋桃は学園艦を下へ下へと下る。

 学園艦の内部は艦を動かす船舶科や艦内で魚を育てる水産科の生徒達が活動している。

 しかし艦の底へ近づくにつれて雰囲気はガラリと変わる。

 大洗のヨハネスブルクと称される無法地帯に様変わりする。

 そこには生徒が居るのだが無法地帯だけあり柄が悪い。知らない者や見回りに来る風紀委員が来るとからかうのが挨拶代わりで敵意をむき出しにする者ばかりだ。

 しかし桃が来ると違った。

 誰もからかう事はしない。むしろ「桃先輩こんちわッス!」とこの無法地帯にしては丁寧な挨拶をする。

 そんな桃はバーのような趣の「Donzoko」と言う部屋に入る。

 そこには5人の生徒達が居た。

 その一人が演台で独自の振り付けをしながら歌う声がBGMになっている。

 「これは桃先輩」

 天然パーマの頭をしたラムが慇懃に出迎えた。

 「桃先輩お久しぶりです」

 桃が入ると奥の席に居たお銀が席を立って迎えた。

 ここDonzokoに居る生徒達は退学処分にされそうなところを桃が庇った事で大洗の学園艦に残れた者達だった。

 桃への恩義を感じて態度は丁寧なのだ。

 「何か話があるんでしょう?ここへ」

 お銀は桃をカウンターの席へ誘う。

 「桃先輩何にします?」

 カウンターでコップを磨いているバーのマスターのような出で立ちをしているカトラスが何か飲み物が要るか尋ねる。

 「ジンジャエールを頼む」

 桃の注文にカトラスはすぐ応えてジンジャエールを注いだコップを置いた。

 お銀はスコッチ風麦茶なるものをカトラスに所望した。実は普通の麦茶なのだが。

 ドリンクが揃うとお銀が話しかける。

 「陸の方で苦労されたようで。ご苦労様です」

 お銀はゴジラと戦った事について桃をねぎらう。

 「ありがとう。だが倒せなかったんだ」

 桃は顔を俯かせる。

 「あんなデカイ化け物じゃ白鯨でも連れてこないと勝てませんよ。白鯨なんて居るか知らないけど」

 いつものお銀の様子に桃は少し微笑む。

 「お銀、そしてみんな聞いてくれ」

 ジンジャエールを一気に飲んでから桃は切り出す。

 Donzokoに居るお銀にラム・カトラス・フリント・ムラカミが桃の傍へ寄る。

 「政府はあの怪獣、ゴジラを倒すためにこの学園艦を使うと決めた。学園艦から全員の退艦も決まった。すまない」

 桃は言い終えると涙ぐむ。

 「桃先輩のせいじゃないですよ」

 お銀が桃の肩に手を乗せ気遣う。

 「しかしお前達の居場所がなくなってしまう。私達がゴジラを倒せなかったばかりに」

 にじみ出た涙を振り散らしながら桃は言う。

 「桃先輩、海賊は新しい船を探すだけです。どこに新しい船があるかは知らないけど先輩にいつまで甘える訳にはいかない」

 「またお前はそう言う!もうどうにもならないんだぞ!」

 桃は感情を爆発させた。

 泣きながら喚く桃にカトラスもラムもフリントもムラカミも戸惑う。

 「カトラス。ホットワインを桃先輩へ」

 お銀が注文するとカトラスはカップに注いだ暖かい飲み物を桃の前へ置く。

 「桃先輩まあ飲んで」

 まだ何かを喚く桃へお銀が勧める。

 「でも・・・あー頂こう」

 まだ収まらない桃だったか目の前に置かれたカップに手を伸ばし一口飲む。

 「なんだワインじゃなくてレモンティーじゃないか」

 「そこは気分とノリですよ」

 お銀がホットワインと言ったのは紅茶のレモンティーだった。

 暖かい紅茶にレモンの甘酸っぱさが身体に染みると桃も心が落ち着いてきた。

 「すまない。取り乱してしまった」

 桃は恥入るように謝る。

 「今度ばかりは前みたいに退艦する事を知らなかったとか、気がつかなかったと言うのは無しだぞ」

 桃はお銀に釘を刺すとお銀は苦笑いをする。

 二度目の廃校通告で学園艦から皆が退艦し学園艦が大洗の港から出港した時にお銀達は学園艦に残っていた。

 廃校のショックや退艦する為の色々な作業に風紀委員も生徒会も艦底に居るお銀などの生徒達を半ば忘れていた。

 風紀委員のそど子だけは1度だけ学園艦の底へ降りてお銀や他の生徒達へ退艦の通知をした。だがいつもからかわれるそど子のせいか誰もまともに聞かない。

 そど子が渡した退艦に関する説明文の紙はすぐに丸められ捨てられるかバッティングごっこの玉となる始末だ。

 一方で桃は戦車をサンダースへ預ける準備に追われ、自分達の退艦もあってお銀達が退艦したのか確認する暇が無かった。

 お銀や艦底の面々はそど子の通知を忘れて変わらぬ日常を送っていた。

 誰も咎めないまま日々は過ぎ大学選抜チームに勝って廃校を撤回させ学園艦が大洗女子学園に戻る間も何事もなく暮らしていた。

 桃が艦底の事を思い出し学園艦に戻ると急いでお銀達へ会いに行った。するとお銀達は「え?そんな事があったんですか?」と驚いた顔をして桃を呆れさせた。

 「分かってますよ先輩。海賊は沈む船と運命は共にしないですから」

 桃はその返事に少し心配になりながらレモンティーを飲む。

 

 「え!?ゴジラへ対して熱核攻撃!」

 みほは思考が一時真っ白になるようなショックを受けた。

 生徒会の部屋でみほや戦車道のメンバーが呼ばれて多国籍軍によるゴジラへの核攻撃が決まったと蝶野が告げた。

 「大洗で使うんですか!?」

 優花里が驚きながら尋ねる。

 ゴジラが居るのは大洗だからだ。

 「選択肢としてはありだが選ぶとはな」

 麻子も信じられないと言う態度を示す。

 それは誰もが同じで蝶野へ思い思いの事をぶつける。

 そんな時にみほの携帯電話が鳴る。

 サンダースのケイだ。

 「もしもし、ケイさん」

 「ハローみほ、ゴジラに核攻撃をするって聞いた?」

 「はい。蝶野さんから今聞きました」

 「学園艦を使う自衛隊の作戦が失敗したらアメリカは核兵器を使うと知り合いから聞いたわ」

 ケイの言う知り合いがカヨコだとみほはすぐに分かった。

 「もう学園艦が助かる事は無い・・・」

 ゴジラとの作戦が失敗してかろうじて学園艦が残る道は核攻撃に移る事で閉ざされたとみほは思った。

 「みほ、これはどうなるか分からないけど」

 ケイはそう前置きした。

 「知り合いはアメリカに三度目の核攻撃を日本ではさせないと言っていたわ。もしかすると何か希望はあると思う。落ち込んでいたらラッキーは逃げるよ」

 「ありがとうケイさん」


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