「H℮yカヨコ!もうアメリカかな?」
ケイはカヨコからの電話を受けた。
「まだ日本にいるわ。まだやる事があるから」
「そのやる事はゴジラをやっつける作戦かな?」
「貴方知っているの?」
「そりゃー大洗の事だしね」
カヨコは「なるほど」とほほ笑む。
「その作戦にアメリカは協力するわ。むしろ軍の将兵達が沢山志願しているけどね」
「それは心強い。頼みにしているわ」
ケイの口調に少しケイコは疑問が出て来た。
「ちょっとケイ、まさか」
「そのまさかよ。今から大洗へ行くわ」
ケイは携帯電話で話しながらC-5輸送機へ乗り込む。
「一度戦ったからって危険な事に変わりないわ」
カヨコはさすがに止めに入る。
「でも友人が戦っているのに見ているだけはできないわ」
ケイの答えにカヨコは止めるのを諦めた。
大洗の学園艦では大洗女子学園の校庭に自衛隊員とみほら大洗の生徒達に化学メーカーの民間人が一同に並んで集まっていた。
みほ達は戦車道の試合で使うパンツァージャケットを着ている。
「みんな来てくれましたね」
優花里は大洗の戦車道履修者の全てが参加した事を言った。
誰もが自分の母校を守れるならと自ら志願して来た。
「結局みんなを巻き込んでしまった」
みほはそこを悔やむ。だが誰もの真剣な思いを断る事も出来なかった。
「でも西住殿一人で戦わせてしまうのはみんな嫌なんです。戦うなら皆で、困難は皆で乗り越えたいんですよ」
優花里の言葉にみほは「ありがとう」と呟くように言った。
並ぶ面々の前に矢口が立つ。
「今回のヤシオリ作戦遂行に際し、放射線流の直撃や急性被曝の危険性があります。ここにいる者の生命の保証は出来ません。だが、どうか実行してほしい!
この作戦は自衛隊のみならず大洗女子学園の生徒達も戦車に乗り、血液凝固剤を製造した民間企業の皆さんも作戦を支援する為に参加してくれました。
この場に居る皆さんが最後の砦です!日本の未来を、君たちに託します。以上です」
矢口の訓示が終わると皆は解散して学園艦での作戦準備の仕上げにかかる。
作戦実行は翌日だ。
「では私はこれで」
矢口の訓示が終わると辻は学園艦を去ろうとする。
「これからなのに降りるんですか?」
蝶野が問う。
「作戦変更に私が協力していたのがバレましてね。本日付で学園艦総局長の役職を更迭されました。明日からは官房長付きになって処分待ちですよ」
「ようやく一緒にやれたのに残念です」
蝶野は辻と分かり合える気がしていただけに辻が去るのを悔やむ。
「ありがとう」
作戦準備に慌ただしい中を辻は退艦すべく歩く。
「あれはサンダースの輸送機と黒森峰の飛行船」
学園艦の上空に現れた機体に辻は気づいた。
「サンダースと黒森峰が助けに来たのか。これなら後は大丈夫ですね。では後を頼みます」
蝶野はその辻の背中を敬礼して見送った。
対ゴジラ作戦いわゆる「ヤシオリ作戦」実行の日が来た。
作戦実行を取り仕切る矢口は前日から大洗に留まっていた。
矢口はヤシオリ作戦を指揮する指揮所へ向かう。
格好は真っ白のタイベックと呼ばれる防護服を着ている。
ゴジラからの放射線を幾らか体内の侵入を防ぐためだ。
空母の艦橋のような構造物の屋上に指揮所は置かれている。ここなら全体がよく見えるからだ。
「東京じゃ作戦変更の全容はもう知られている。だが俺に任せろ!作戦の邪魔はさせない」
泉からの電話で矢口は背中を守ってくれる相棒に感謝した。
泉は東京に残り政府や与党を抑える。
「学園艦は予定の位置に着きました。大洗の方からも作戦準備完了の報告が入りました」
自衛隊の作戦部隊を統括指揮する大洗戦闘団の隊長である丹波一等陸佐が報告する。
「米軍から連絡、各部隊予定位置に着きました」
「現在、北東の風2メートル、ゴジラからの放射線は内陸部や東京湾へ流れるのは最小限に留まると思われます」
次々と入る報告を矢口は聞き入る。
「茨城県からの住民避難完了の報告がまだです」
ヤシオリ作戦実行の日は広報していたが住民避難は間に合わなかったのだ。
「いえ。この機は逃せません。決行します。自治体に屋内待機を徹底して下さい。丹波一佐、お願いします」
矢口は決断する。この決断を即座にする為に矢口は大洗の学園艦に乗っているのだ。
「分かりました。関東地区の各自治体に連絡。以降、50時間の一切の外出自粛と全住民の屋内待機を要請」
「了解。常澄より連絡。無人車両全車切り離し完了。ゼロポイントを通過」
「では、ヤシオリ作戦を開始する。第1段階、陽動始め!」
矢口の決断と丹波の号令によってヤシオリ作戦は始まった。