「さーて、これから私達は白鯨に挑んだエイハブ船長とピークォド号の皆と同じ勇気が要るよ」
お銀は傍に居るカトラスやフリント・ムラカミ・ラムに向けて言う。
誰もが真剣な顔で聞き入る。
「行くぞ!覚悟は良いか?」
お銀の呼びかけに「おおお!」と誰もが気勢を上げながら学園艦はゴジラへ接近する。
「間もなく自衛隊戦車の射程内に入ります」
「攪乱射撃をせよ。無人機第7波も攻撃開始!」
丹波はゴジラを攪乱する目的で海自の護衛艦や米軍の艦艇・無人機に攻撃を命じる。
ミサイル攻撃を受けてゴジラの身体に爆発の閃光が幾つも瞬く。
「タイガーの射程内に入りました」
「より攪乱と牽制をする。サンダー射撃開始」
丹波はゴジラが陸自戦車の射程に入るとわかると203ミリ自走榴弾砲M110と99式155ミリ自走榴弾砲の増強特科大隊へ射撃を命じた。
海と空からのミサイル攻撃に苛立ちを募らせていたゴジラが口を開け叫ぶ。
「タイガーへ注入作戦開始せよ」
ゴジラが頑なに閉じてた口が開くと丹波は陸自戦車への射撃を命じた。
各部隊から集められた射撃の腕が立つ乗員が乗る10式戦車をはじめ90式戦車・74式戦車がゴジラの口めがけて血液凝固剤入りの砲弾が発射される。
タイミング悪くゴジラの口が閉じて口内に入れられなかった砲弾もあるがどの砲弾もゴジラの口へ命中している。
「あんこうの一部の戦車が射程に入ります」
「あんこうへ任意に射撃開始を伝えろ」
丹波はあんこうもとい戦車道の戦車が種類が多く射程が違うのを知ってそう命じた。
「あんこうへ任意に射撃開始」
「あんこう了解!」
みほは命令を受けるとまずは射程の長い重戦車であるティーガーⅠやM26・IS2へ射撃を命じた。
「続けてファイヤフライ射撃開始!」
みほの指示を受けるがファイヤフライの射手であるナオミは撃たない。
彼女の目は何かを待つように微動だにしない。
そして何かを見るやナオミは76ミリ砲の引き金を引く。
ナオミの撃った砲弾はゴジラの喉奥へと命中した。
それを確認したナオミがニヤリと微笑むと同時にゴジラは喉奥の痛みにより大口を開けて鳴き叫んだ。
「今です!撃て!」
みほは好機とばかりに他の戦車への集中射を促す。
それは陸自の戦車も同じだった。
砲弾の雨を見舞うようにゴジラの口へ撃ち込まれる。
この間、ゴジラからは熱線が放たれなかった。それを見て米空母「ロナルド・レーガン」から発艦して空中待機していたFA-18Eスーパーホーネットの編隊が攻撃に加わる。
スーパーホーネットは装備した空対艦や空対地ミサイルをゴジラへ向けて発射する。
更に護衛艦「はたかぜ」と米軍駆逐艦「マスティン」が主砲による攻撃を行おうとゴジラへ近づく。
「いいぞ~いいぞ~」
桃が熱線を放てず攻撃を受け続けるゴジラを眺めて気分が大きくなったように言う。
「計算上ですがですが投与量30パーセントを突破」
血液凝固剤入りの砲弾が幾ら消費されたかリアルタイムで分かるネットワークシステムを事前に構築し安田の持つ端末に繋がっていた。
「華さん狙い難い?」
みほがⅣ号戦車の砲手である華に尋ねる。
「首を振られると難しいですね。でも少しパターンが読めて来ました」
ゴジラの口を開けさせるためにミサイルや砲弾による攻撃が続いている。攻撃自体は効かなくてもゴジラを苛立たせて叫ばせれば良いのだ。
怒りによる叫びをした時に砲弾が撃ち込まれる。
華などの砲手はその瞬間を狙って撃つのだ。
だが戦車とは違いゴジラの気まぐれで上下左右に降られる頭部にある口を狙うのである。
いきなり狙いが外れてしまう事もあるから難しくもある。
だからどんどん撃ち込むと言う風にはできない。上手く狙いを定めて少しづつ撃つのだ。
「航空攻撃は続くか?」
丹波は尋ねる。
「無人機第9派と共に三沢と米空母にグアムから出撃した部隊が来ます」
情報幕僚が答える。
熱線を出さないゴジラへ自衛隊と米軍の航空部隊が攻撃を続けている。
三沢からは空自のF-2と米空軍のF-16が出撃し空母「ロナルド・レーガン」から新たに出撃したスーパーホーネットが攻撃を引き継ぎ、グアムからはB-52が巡航ミサイルを搭載して出撃しゴジラ攻撃に向かっている。
「このまま押すぞ」
丹波はゴジラへの攻撃が続き圧倒できていると見ていた。
このまま血液凝固剤を飲み続けてくれと願った。
矢口もこのまま作戦が進む事を願う。
だがゴジラに異変が起きる。
背びれが紫色に怪しく光り始めた。
「あの光は!?」
背びれの光に気がついた途端にゴジラは尻尾の先と口から細い光線を放つ。
光線を放出する尻尾を振り回し頭上を飛び回る米軍の無人機や迫るミサイルを撃墜する。
「Oh my God!ゴジラが回復した!?」
ケイが思わずM4の車内で叫ぶ。
「あんこう!陣地を変えて回避すべきだ!」
まほがみほへ提案する。
「了解です。全車一旦砲撃を中止して陣地移動の用意を」
みほはまほの意見を採用する。
陸自の戦車も砲撃を止めゴジラの様子を伺っているようだ。
「こっちを睨んでる・・・」
熱線が復活したゴジラがこちらを向いてさすがのカチューシャも怯む。
「どうもゴジラの動きが少し鈍いように見える」
大学選抜チームのルミがゴジラを観察して気づく。
「やはりそう見える?」
アズミも同感だと言う。
「血液凝固剤が効いているようね」
メグミは希望を見いだした。
復活したように見えるゴジラだが確実にダメージを与えている。
「無人機以外の航空攻撃は一時中止!潜水艦に攻撃せよと伝えろ!」
丹波は復活したゴジラへ新たな攻撃を命じる。
ゴジラ攻撃に海自の潜水艦「ずいりゅう」・「こくりゅう」・「せいりゅう」が学園艦の近くに潜水して待機していた。
この3隻の潜水艦が魚雷を一斉に発射する。
合わせて18本の魚雷はゴジラの右足に命中した。
不意の足への攻撃にゴジラは姿勢を崩す。
それでもゴジラは学園艦へと近づく。
「下がるよゴジラと距離を開けるんだ」
お銀は学園艦を後進させてゴジラに捕まらないようにする。
ゴジラは二度目の魚雷攻撃を受けてよろめく。
それでもゴジラは学園艦に迫る。
「どうしてこっちに近づく?潜水艦は無視か?」
エルヴィンはゴジラの動きを不思議に思った。
自分の足を突く潜水艦を無視して戦車の攻撃が止んだ学園艦に近づくのは何故か?
「離れても来る・・・」
学園艦を追いかけるゴジラをみほは忌々しいとばかりに睨む。