ゴジラ・ウォー!   作:葛城マサカズ

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第30話 終局です。

 「血液凝固剤の投与量が75%を突破、投与すべき最低量を超えました」

 安田が矢口に報告する。

 矢口は黙って頷き安田に聞いたと応える。

 その矢口の目は血液凝固剤入りの砲弾を撃ち続ける戦車群にあった。

 陸自と女子高生戦車道の合同チーム

 ゴジラと言う災厄に立ち向かう面々を矢口は直に見下ろす。

 「あともう少し頑張ってくれ」

 矢口は血液凝固剤の投与量が90%を越えた安田から聞くとそう独り言ではるが、戦車の皆へ言った。

 

 「なんだかゴジラに白い物が増えたような」

 華がゴジラに照準を合わせながら変化に気づく。

 血液凝固剤によってゴジラの皮膚で氷結が始まったのだ。

 「みんな、ゴジラに血液凝固剤が効いている。もう少しよ」

 蝶野が戦車道の戦車へ呼びかける。

 誰もがあともう少しと撃ち続ける。

 「この様子ならゴジラはもうダメだな」

 ムラカミが自衛隊のカメラで撮影されているゴジラの様子をモニターで見ながら言った。

 サメさんチームは自衛隊が学園艦を操艦する為に設置した機器を使っていた。その中には外部の様子を見る為のモニターが幾つもある。

 「安心するのは早いぞムラカミ、手負いの獣は危ないと言うじゃないか。獣を手負いにした事はないけどね」

 お銀は油断できないと言った。

 そのゴジラは学園艦を前に棒立ちのようになり、静かになった。

 「やったか?」

 矢口は動かないゴジラに勝ちを見出そうとした。

 だが、ゴジラは大口を開けて咆哮すると学園艦へ飛びかかった。

 「あんこうから全車へ、退避!下がって!」

 みほは咄嗟に指示を下す。

 陸自の戦車も命令を受けて下がる。

 ゴジラはまさに血液凝固剤で身体の機能を止められる前に力を振り絞って飛んだ。その跳躍は学園艦の艦首に上半身を乗せた。

 さすがの矢口や安田・杏ら学園艦に乗る皆が言葉が出でない程に戦慄させた。

 「これがゴジラ…」

 みほは違った。

 目の前にあるゴジラの頭

 Ⅳ号に乗る優花里や華・麻子・沙織は眼前のゴジラに身体が硬直する。

 しかしみほは違った。

 「あんこうから皆さん。射撃を再開してください」

 みはは無線で呼びかける。ゴジラと向かい合いながら。

 「あともう少し、もうひと押しなんです。勝ちましょう」

 みほの低い声は決意の固さを感じさせた。

 「了解した。射撃を再開する」

 まず応えたのは姉のまほだった。

 「この好機は逃せないわね」

 ダージリンが続く。

 「一気にケリをつけるわ」

 カチューシャが威勢よく言う。

 「ラストスパート、ガンガン行くよ!」

 ケイも景気よく応える。

 「撃て!」

 みほが命じると戦車道の全車が撃つ。

 「遅れを取るな!一気に凍結させろ!」

 丹波は陸自の戦車隊に射撃再開を命じた。

 学園艦にのしかかるゴジラはみほを睨むように見つめる。そんなゴジラの口には次々と血液凝固剤入りの砲弾が命中する。

 「投与量100%!臨界点を越えました!」

 安田が急いて報告する。

 矢口は黙って報告を聞きながらゴジラと戦車群を見つめる。

 途端、ゴジラが再び吠えた。

 「あんこうから各車、退避!散開!」

 みほは吠えるゴジラに危険を感じて退避を命じる。どれは陸自の戦車も同じだ。

 けれどもゴジラは吠えたと思ったら力が抜けたように学園艦から滑り落ちる。

 「胸部中心部の温度がマイナス196度に低下、ゴジラは凍結されたものと推測します」

 ゴジラをモニターしていた根岸がゴジラの凍結を報せる。

 全身が白く凍ったゴジラは学園艦から落ちると太平洋に呑まれるように沈んだ。

 「ゴジラに捕まらないように離れるよ」

 お銀はゴジラが復活した場合を考えて学園艦を後進させて沈み行くゴジラの位置から離れる。

 「ゴジラは?」

 矢口は誰ともなく尋ねる。

 「潜水艦と哨戒機の報告では沈降が続き動きが無いようです」

 丹波が報告する。

 「体温が回復している様子はありません」

 根岸が報せる。

 「ゴジラは沈黙したものと思われます」

 安田が結論を出す。

 「目標の沈黙を確認、現時刻でヤシオリ作戦を終了する」

 丹波が作戦終了を全部隊に告げる。

 「あんこう、大隊長車から各車へ。作戦終了です。みんなありがとう」

 みほは丹波から作戦終了を聞くと戦車道の皆へ感謝を伝えた。

 第二の故郷を守る事が出来た。それが親しい皆によって実現できたからだ。

 

 

 数カ月後

 年を越した四月に聖グロリアーナ、黒森峰、サンダース大学附属・知波単、プラウダの学園艦が大洗港に来ていた。

 修復が完了した大洗女子学園学園艦の再開を祝う為である。

 そこより外洋では、海自の護衛艦二隻が海底で凍りながら眠るゴジラを監視している。

 大洗女子学園の入学式と合わせて学園艦再会式典が午前中に行われ、午後には学園艦再開のエキシビジョンマッチが大洗の学園艦で行われた。

 「間に合ったようだね」

 杏はエキシビジョンマッチの会場に到着すると安堵した。

 杏はこの春に大洗女子学園を卒業して大学に進学していた。

 「これも黒森峰のおかげだね」

 「そうだな。手配した後輩たちに感謝だ」

 柚子と桃がしみじみと言う。

 杏と桃・柚子の三人は同じ大学に進学していた。同じ日に開催されていた大学の入学式が終わると、新しい大洗女子の生徒会が手配した黒森峰のヘリで大洗の学園艦に来る事が出来た。

 「ご進学おめでとうございます」

 杏達の前に五十鈴華が挨拶に来た。

 「出迎えご苦労、ヘリの手配ありがとうね生徒会長」

 杏は華の挨拶に応える。

 「どうもまだ会長と呼ばれるのは慣れませんね」

 華は照れた様子である。五十鈴華を生徒会長にあんこうチームの面々で大洗女子学園の生徒会は新しい世代に交代していた。

 「その内慣れるよ」

 杏は華の背中を叩いて励ます。

 「では、試合がありますので行きます。後で皆を連れて改めて挨拶に伺います」

 華はこれから始まるエキシビジョンマッチにあんこうチームの一員で参加する為に杏達の前から去る。

 「ん?あれは」

 桃が訝しい顔で誰かを見つけた。

 「あれは文科省の・・・」

 柚子も警戒するような顔でその誰かを見る。

 「辻さんじゃないですか。お久しぶりです」

 杏はあえて辻に近づいて話しかける。

 「角谷さんですか。お久しぶりです」

 辻は変わらず固い態度で接した。

 「私の母校のお祝いに来てくれたんですね?」

 「そうだが、正確にはあそこにおられる大臣の仕事として付いて来たのだよ」

 辻はその先生を指し示す。矢口だった。

 「矢口大臣ですか」

 矢口はこの年のはじめに、ゴジラによる被害を受けた大洗町やひたちなか市を復興させる巨大不明生物災害復興大臣に就任していた。

 辻はそんな矢口の秘書として働いていた。これには泉の紹介があったからだ。

 「安心しました。文科省を辞めたと聞きましたから」

 思わぬ心配に辻は思わずたじろぐ。恨まれていると思っていたからだ。

 「これも泉先生のおかげです。では仕事に戻りますので」

 辻は名士達との歓談を終えた矢口のところへ戻った。

 「大洗女子学園再開記念エキシビジョンマッチ、開始まであと10分になりました。観覧の皆さまは今少しお待ちください」

 会場の放送が試合開始がもうすぐだと告げる。

 「私達も行こうか」

 杏達は観覧席へ向かう。

 そのエキシビジョンマッチは大洗と黒森峰の連合チームに聖グロ・プラウダ・知波単の連合チームが戦う組み合わせになっていた。

 「逸見さん」

 「なに?」

 みほが黒森峰の隊長であるエリカに無線で話しかける。

 「前生徒会の皆さんが会場に到着できました。ヘリを貸してくれてありがとうございます」

 沙織から杏達の到着を聞いてみほはエリカに感謝を伝える。

 「いいのよこれぐらい。OBのお世話も戦車道よ」

 エリカはあっさりとした、どこか前隊長のまほを彷彿とする答えをする。華からの要請でヘリを貸したのはエリカだった。

 「時間になりました。試合開始!」

 戦車道連盟の運営本部から無線で報せが入り、試合開始を告げる花火が打ち上げられた。

 「さて、大隊長さん。御命令を」

 エリカがみほに促す。

 「そうですね。行きましょうか」

 エリカの尖った口調はみほにとっては心地よい。

 姉である黒森峰のまほをはじめ、聖グロのダージリンにサンダースのケイやプラウダのカチューシャ、ライバルの誰もが卒業してそれぞれのチームは新しい隊長に代わっている。

 それだけにエリカと話せる事は、みほにとって心が落ち着くのだ。

 「大隊長車から各車へ、パンツァーフォー!」

 復興半ばの大洗町、新しい生徒会長が発足し再開した大洗女子学園

 そこでみほは三年生に進級し、戦車道の隊長として新しい春を迎えたのだった。

 

(終)




 これにて、「ゴジラウォー!」は終わりになります。
 2016年から思いつきで書いた本作を読んでくれた皆さま、ありがとうございます。

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