前の君と今の君   作:おもちゃん

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 この話にて一章は終わりとなります。


第十六話 悲しい別れ

「はぁ……」

 

 俺は妹紅と共に竹林を抜けて博麗神社へと続く道を歩いていた。

 

「夢幻さっきから溜息多くない?」

「だってこれからのことを考えると……」

 

 妹紅や永琳に怒られるのはまだ良い。だが霊夢の怒ったときのあの目は耐えられる自信がない。

 しかしここで謝らないと後々めんどくさいことになるのはわかっているので結局は今謝りに行くしかないのだ。

 

「まぁ怒った霊夢は怖いからねぇ。夢幻の気持ちはわからないでもないよ」

 

 俺がビビったりしているのを妹紅が慰めるというような会話を繰り返していると石段が見えてきた。

 

「妹紅、これだよな?」

「うんそうだよ」

 

 もう周りには森しか無いし道を間違えたりしていない限りここが博麗神社なのだろうと言うのはわかっていた。だがそれでも聞いたのは自分の気持ちを整理するためだ。

 もしかしたらここは博麗神社ではないのかもしれないと思いながらこの石段を登り霊夢に会っても覚悟を決めることも出来ずぐだぐだになってしまうだろう。だからもうここで覚悟を決めておかねばならないのだ。

 そして妹紅の肯定の言葉によって俺の逃げ道は無くなった。これでいいのだ。

 覚悟を決めた俺は最後に喝を入れるために自分の頬を強く叩いた。

 

「うっし行くか!」

 

 俺は目の前の石段を駆け上り始めた。

 

「この石段結構長いからそんなスピードで行くとバテるよー?」

 

 スピードを落として一歩一歩踏みしめながら行くことにした。

 後ろで妹紅がクスクス笑っているのがわかるが反応したら負けだ。後ろを振り向いて妹紅に一発入れたい気持ちを抑えながら石段を上がっていく。

 石段は妹紅の言うように中々に長かった。そしてその石段を上がった先には目的の人物がほうきで境内を掃いていた。

 そしてその人物――霊夢は俺たちの姿を見ると手に持っていたほうきを縁側に立て掛けに行って後に俺らのところへと向かって来た。

 

「……なんの用かしら?」

 

 口調は少しキツめだったが顔を見るとそこまで怒っているようには見えなかった。

 

「その、昨日のことを謝りたいんだけど」

「別にそんなの良いわよ」

 

 なんなのだろう。なぜか調子が狂う。恐らく理由は俺と霊夢との温度差だ。

 俺はしっかりと誠心誠意込めて謝ろうとしているのだが、霊夢は多分本当にそこまで怒っていないような気がする。

 だが今日は謝るために来たのだ。霊夢が怒っているのかはわからないがとりあえず謝ろう。

 

「まぁとりあえず謝らせてくれ。昨日はお前の気持ちも考えず軽率な発言をして悪かった。許してくれ」

 

 深く頭を下げながら俺はそう言った。しかしなんの反応もない。

 頭を下げているため霊夢の足しか見えないが、霊夢はただ呼吸をしてそこに立っているだけだ。呆れるでもなく笑うでもなくただ立っている。

 俺がその予想外の霊夢の行動に困惑し、どうすればいいのかを考えていた所で霊夢がようやく口を開いた。

 

「顔上げなさいよ」

 

 言われた通りに顔を上げ霊夢の目を見つめる。その目には呆れの感情が見えるが顔は小さく笑っていた。

 

「あんたはほんと話を聞かないわね」

「と言うと?」

「別に私怒ってないってば」

 

 霊夢が大きく息を吐きながら笑った。その笑顔には見る者を癒す力があるように思える。

 しかし本当に怒っていないとなると一つ疑問が残る。

 

「じゃあなんで昨日帰ったんだ?」

「え……」

 

 俺の質問を聞くと霊夢は小さく声を発した後、顔を背けてしまった。

 

「なんで昨日帰ったの~?」

 

 妹紅が俺の発言を反復するように口に出した。俺と違うのはその言葉に揶揄いの意図があるということだ。

 

「妹紅、謝りに来たってことは昨日のこと理解したんだと思ってたんだけど違うの?」

「夢幻なりには頑張ったんじゃない?一歩届かなかったけど」

「まぁ、そうねぇ……」

 

 二人がよくわからない会話をし始めた。

 一歩届かなかったとは何のことだろう。それを聞こうとしたのだがその前に霊夢が振り向き俺に質問をしてきた。

 

「で?記憶喪失の件はどうだったの?」

「あーそれな。結局なにもわからなかった」

「え?そうなの?」

「ああ、脳のどこにも異常は見られないどころか体全体にも強く打った跡はなかったらしい」

「へぇ」

 

 霊夢が意外そうな顔をしながら頷いた。恐らく霊夢も永琳の医者としての腕をよく知っていたのだ。だからその永琳でもわからなかったのが意外だったのだろう。

 

「これからどうするつもりなの?」

「夢幻は永遠亭の奴らにめちゃくちゃ好かれて、これからは永遠亭で生活していくそうだよ」

 

 なぜか俺でなく妹紅が答えた。だがまぁそれはいい。問題は霊夢の反応だ。

 これまでの経験からして理由はわからないが霊夢は怒ったり素っ気無くしたりしてくるだろうと思っていた。

 しかし今回の霊夢は怒るでもなく素っ気無くなるでもなく喜ぶでもなく俺の方をただじっと見ていた。

 

「ど、どうかしたか?」

「なんで夢幻が永遠亭の奴らに好かれたのかがわからないんじゃないの?」

「それは俺にもわからんのだが……」

 

 妹紅が割と筋の通ってる説を唱えてきたので納得した。しかし霊夢は未だに微妙な顔をしている。

 

「霊夢?」

「いえ、妹紅の言ったことも間違ってはないわ。それも気になってる。でもそんなことよりももっとマズイことが起こってるわ」

 

 そう霊夢が言った。すると横に居た妹紅が

 

「あーやっぱり?気のせいかと思ったんだけどやっぱりそうだったんだ」

 

 二人の間では話が完結したようだ。しかし俺には全くわからないし心当たりもない。

 

「霊夢?なにが起こってるんだ?」

「あんた……呪いがかかってるわよ」

「へ?」

 

 呪いをかけられていることに一番慌てるべきなのだろうが、俺的にはそんなことよりも信じたくないことがある。

 

「一つ聞くぞ。昨日霊夢と別れる以前にはかかっていなかったのか?」

「ええ」

 

 その返事だけでその信じたくないことを信じえざるをえない環境に一気に追い込まれてしまった。

 

「呪いはかけられるもので、自然にかかったりすることはないよな?」

「そうよ。呪いは人為的なことでしかかからないわ」

 

 この時点で既に俺の希望はほぼ潰えていた。なぜなら俺が霊夢と別れてから接触した奴らは今では良い信頼関係を築けているやつしかいないからだ。

 妹紅、永琳、てゐ、輝夜、鈴仙、ナナ、李衣菜、みく、夏樹。こいつらが俺に呪いをかけたとは考えられないし考えたくない。永遠亭での夜以外ではずっと一緒に居た妹紅ならなにかわかるかもしれない。聞いてみよう。

 

「なぁ妹紅?」

「なんかやけに落ち着いてるね。どうしたの?」

「その呪いをかけたやつってのはお前か永琳か輝夜か鈴仙かナナか李衣菜かみくか夏樹の誰かかの可能性が高いんだよな?」

 

 落ち着いてなどいるものか。心臓が締め付けられるような思いだ。信頼している人物を疑うなんて。

 

「……多分今名前が挙がった中には居ないと思う」

「なんでだ? 俺はこいつら以外には誰とも接触してないぞ? なにか根拠があるのか?」

 

 妹紅のその言葉に俺は希望を感じた。だがそれが妹紅からの慰めの言葉なら何の意味もない。しっかりと根拠を示してほしいのだ。

 

「じゃあ一人一人説明していくね。まず永琳、永琳には呪いをかけることは多分出来ないと思う。永琳は薬とかの知識なら誰にも負けないけど呪術には疎かったはず。次に輝夜。輝夜には絶対に出来ない。なぜなら輝夜は永琳以上に何も出来ないから」

「なかなかきっぱり言うんだな」

「まぁね」

 

 正直永琳も輝夜も100%ないとは言い切れなさそうだ。だが可能性は低そうだ。一応今のところは安心していいレベルまでは信じることが出来る。

 

「というか永琳にも輝夜にもてゐにも鈴仙にも多分出来ない。なぜなら呪術の練習には生物の体が必要だから。そして妖怪と妖精には呪術は効かない。となるとこの幻想郷で使えるのは人間。もしくはあの付近にいる兎。そのどっちかになる」

「人間が使えるのなら人間を使えばいいんじゃないか?」

「人間の里で行方不明になった人間は確かにいるけどその行方不明になった人間だけじゃ数が全く足りない」

「じゃあ兎は?」

「兎のボスはてゐなんだよ。てゐはそんな仲間を実験に使うことなんて絶対に許さない」

 

 そうだったのか。てゐが協力していれば永遠亭の誰にでも出来るだろうが話を聞いている限りその可能性も低そうだ。これでとりあえず永遠亭の奴らの証明は出来た。

 

「じゃあアスタリスクwithなつななのやつらはどうなんだ」

「あの子たちはもっと簡単だよ。あの子達と接触したしていた時はわたしもずっといたじゃん?」

「ということはあいつらにかけられていたらお前が気づいてたってことか」

「そういうこと」

 

 恐らく永遠亭の奴らよりも信じられるだろう。だがもう一人だけ証明が出来ていないやつがいる。

 

「じゃあ、妹紅。お前自身はどうなんだ?」

「んー正直疑われてる本人が言っても信じられないと思うんだけど夢幻に呪いがかかってるかもと思ったのは今日の朝永遠亭に迎えに行ったときなんだよね」

「じゃあ夜の間にかけられた可能性が高いってことか」

「あっさり信じてくれるんだね。まぁつまりはそういうこと」

 

 確かにさっき妹紅が言ったことは嘘で俺に呪いをかけたのは妹紅ってこともあるかもしれない。だが妹紅自身が違うと言っているのだから信じたいのだ。この二日で築いてきた信頼を疑いたくないのだ。

 

「となると結局犯人はわからないのか」

「うん、そうだね。ただ夜の内にかけられたって可能性が高いってことしかわかってないし」

「うーん……まぁいいや」

「いいの!?」

 

 妹紅が信じられないと言ったような顔をしている。馬鹿を見るような顔に近いかもしれない。

 だが今のところ体に異常は起きてないし自分の意思もしっかりしている。呪いの効果を感じていないのでそこまで危機感を持てないのだ。

 

「ところで今俺にかけられてる呪いってどんなもんなのかわかるか?」

「いえ、見たことない呪いね。全くわからないわ」

 

 霊夢が悔しそうな顔をしている。それは巫女としてのプライドからか、それとも目の前にいる人を助けられないという自分の無力さに対してなのか。それは霊夢にしかわからない。

 

「ちなみに解除したりすることはできない?」

「本当に悪いんだけどできないわね。呪いが複雑すぎるわ」

 

 呪いが複雑すぎる。その言葉を聞き俺にもとうとう危機感が芽生えてきた。

 恐らく霊夢の言い方からして普通の呪いなら解除できるのだろう。つまり逆に言えば今俺にかかっている呪いは普通じゃないということだ。

 

「とりあえず気をつけなさいね」

「うんありがとう」

 

 霊夢から有難い忠告を貰いこれからどうしようかと考える。

 とりあえず永遠亭に戻ることになるが呪いに関しての情報を集めたい。今思いつく頼りになりそうな人は慧音先生と藍さん。だが藍さんはどこにいるのかがわからないため慧音先生くらいしか頼れないだろう。

 

「妹紅、慧音先生のとこ行っていいか?」

「え?うん」

 

 呪いに関して幻想郷でトップレベルに詳しい霊夢でも解除できないなら、人間ではないとはいえあくまで寺子屋の先生である慧音先生に解除することはできないだろう。だが先生だ。なにか情報は持っているかもしれない。なにもわからない今は情報が大事なのだ。

 そう考えた俺は寺子屋へと向かうことを決意する。

 

「じゃあそろそろ行くわ。またな」

「ええ」

 

 霊夢に別れを告げそのまま石段のほうへと向かう。

 その瞬間なにか異質な雰囲気を感じ取った。そしてそれと同時に霊夢が叫んだ。

 

「夢幻!避けなさい!」

 

 その言葉に驚き霊夢のほうを向こうとした瞬間に自分の胸の辺りに違和感を感じた。

 恐る恐る自分の胸を見ると――真っ赤な槍が貫通していた。

 

「は?」

 

 今の状況が理解出来ず小さく声を発すると同時に俺の体から力が抜けその場に崩れ落ちた。

 霊夢と妹紅が俺のところへと駆け寄ってくるのが見える。しかし体は既に力がほとんど入らなくなっている。

 

「夢幻!しっかりして!」

「夢幻!しっかりしなさい!死んじゃダメ!」

 

 俺は現在の状況をようやく理解した。そしてこの後のことも。俺は殺されたのだ。今はまだ辛うじて意識はあるがそう遠くない内に意識も消え俺は死ぬだろう。

 そしてそこまで理解した途端霊夢の言葉が急に面白く思えた。俺だって死にたくないがもう体も動かないのに死んじゃダメっていうのはキツイ。体の感覚だってもうほとんどない。あとは死ぬのを待つしかないのだ。

 そう思ったとき少しだけ体に力が戻った。神様が最期に時間をくれたのだろうか。

 その神様のプレゼントを受け取ると両腕をそれぞれ霊夢と妹紅の頭に乗っける。そして弱弱しい声でかすれながらも声を出す。

 

「お前ら……ごめんな……迷惑ばっかりかけて……」

 

 喋るたびに口から血があふれ出てくる。だがここで言いたいことは全て言っておかなければならない。だってもうこの先こいつらと会ったり喋ったりすることは出来なくなるのだから。

 

「こんな俺に……優しくしてくれてありがとう……その優しさが気持ちよかった……」

「そんなのどうでもいいから!死ぬなって言ってるじゃん!」

 

 俺の最期の言葉をどうでもいいと言いきられたことに少し笑ってしまった。

 

「ごめん……もう無理そうだわ……この二日間……本当にありがとう……俺のことは……忘れて……これから楽しく……過ごしていってくれ……」

 

 そう言い終わると同時にまた体から力が抜けていく。腕から力が抜ける前に二人の頭を撫でてやる。

 

「馬鹿……そんなこと……出来るわけないじゃない!」

「そうだよ!夢幻はもうわたしたちの大事な人なんだよ!だから……死なないでよ……」

 

 二人が大粒の涙をこぼしながらそう言ってくる。俺の目からも涙が溢れ出してきた。

 そして腕からも力が抜けていく。腕が二人の頭から滑り落ちて地面につくと同時に俺の体にはまったく力が入らなくなり瞼も閉じていった。

 黒露夢幻は――死んだ。




 やっと夢幻が死んだ……!
 疾走感が凄すぎて読者を置いてけぼりにする始末……申し訳ございません。
 さぁ夢幻がようやく死にましたが新たな歴史の道しるべの物語はまだ始まったばかりというかようやく始まるというか。
 夢幻に呪いをかけたのは誰なのか?夢幻を槍で殺したのは誰なのか?それがわかるのはこの物語が終わりを迎えるころになりますがもしよろしければそれまでお付き合いお願いいたします!
 これにて一章終了です!
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