まぁよかったら読んでってください。
人里に向かう間俺は霊夢にいろんなことを教えてもらった。
ここは幻想郷という場所だということ。
幻想郷でのルールのこと。
幻想郷でのパワーバランスのこと。
その他にもいろいろ教えてもらった。
……が何一つピンと来なかった。これはマジで記憶喪失で間違いなさそうだ。
「そろそろ人間の里に着くわよ」
そう言いながら霊夢が指差す方に目を向けると木々の間からいくつもの民家らしきものなどが見えた。
それから数分程歩いたのち俺たちは人間の里の入口についた。
人間の里と聞いた時は人間以外のやつらはいないのかと思ったが、九尾の狐みたいなのもいるしそういうわけでもなさそうだ。
「あれ? 霊夢じゃないか。その横にいる男はどうした?」
俺の視線に気が付いたかのかはわからないが九尾の狐がこちらに声を掛けてきた。
「藍じゃない。こいつは夢幻。ルーミアに近づこうとしてたところを通りがかったから説教してやろうと思ったのだけれど記憶喪失になってるみたいでね。このままほっとくと危ないから永琳に診てもらおうと思って」
「ふむ、なるほどな。永遠亭に行くなら藤原妹紅に案内を頼むんだろ? 藤原妹紅ならさっき寺子屋で見かけたぞ」
「あらほんと? ありがと。行ってみるわ」
九尾の狐は藍さんと言うようだ。霊夢ともかなり親しいことが今の会話からよくわかる。
ついでに藍さんは俺たちが知りたかった情報を知っていたようだ。
案内人は藤原妹紅という名前なのか。寺子屋にいたと言うことは教師でもやっているのだろうか?
しかしもし妹紅さんが教師ならこんな真昼間から道案内を頼むことも出来ないだろうな。どうするんだろうか。
と、俺なりに必死に考えていたところに藍さんが微笑みながら俺に近づいて来た。
「君は……夢幻君と言ったかな?」
「あ、はい」
近くで見ると顔がすごく整っていることがわかった。
スタイルもいいしモテるんだろうな。
そんな少し邪な考えを頭に浮かべていると藍さんの手が俺の肩にポンと置いた。
「私たちは君の正体がわからなくとも君を歓迎しよう。だが問題を起こせば容赦はしない。それは覚えておいてくれ」
「は、はい」
藍さんが俺の耳元でそう囁いた。
その時の顔は先ほどの笑顔がすっと消えておりすごい気迫と恐怖を感じた。
しかしもう一度藍さんの顔を見ると元の人を安心させるような笑顔に戻っていた。
なんだったんだ…?
藍さんは笑顔なのに俺はその笑顔に未だ恐怖を感じていた。
「それじゃあな。また会う時まで」
そう言うと藍さんはこちらを振り向くことなくどこかへ歩いて行ってしまった。
藍さんの姿が見えなくなるまで二人でずっと立っていたのだが、藍さんの姿が見えなくなると霊夢が俺の耳に口を近づけて小さな声で質問をしてきた。
「藍に何て言われたの?」
「いや、なんか歓迎はするが問題を起こしたら容赦はしない。って言われた」
正直に答えると霊夢は俺の耳元から口を話して少しなにかを考えるような仕草をしながら返事をした。
「ふーん?藍がそういうことを言うなんて珍しいわね」
「そうなのか?……なぁ霊夢、俺って問題起こしそうに見える?」
「いや?別に思わないけど。まぁ藍は幻想郷の管理人みたいなやつの式神だし主に代わって忠告しただけじゃないの?あんまり気にしなくていいと思うわよ」
「そうなのか。それならいいんだけど」
あまり気にしなくていいと言われてもあの気迫と恐怖を忘れることはしばらく出来ないだろう。
そして俺は藍さんの言葉に一つの違和感をあったことに気が付いた。
「正体がわからなくとも……?」
俺は確かに記憶喪失で何者なのかはわからないが、正体は人間だろう。
普通なら素性が知れないなどと言うのではないだろうか?
なにを思って藍さんはそう言ったのだろうか。藍さんと親しい様子の霊夢なら少しはわかるかもしれないと思い霊夢に聞こうと思ったが、その前に霊夢の言葉に遮られてしまい聞くことは叶わなかった。
「それじゃ寺子屋に行きましょうか」
「……え? なんで?」
「……はぁ。医者がいるところへ案内してくれる妹紅ってやつが寺子屋にいるらしいからよ」
藍さんの気迫に圧倒されそのことがすっかり頭から抜けてしまっていた。元々それがここに来た本来の目的だった。
「あぁそうだったな」
「あぁって……あんたのことなんだからもう少し興味持ちなさいよ……」
霊夢がジト目でこちらを向きながらそう言ってきた。
霊夢はわざわざ俺のために付き合ってくれてるんだし俺がしっかりしないとな。
そう思い俺は霊夢に謝罪を述べた。
「ところで妹紅さんは寺子屋にいるってことは先生なのか?」
「妹紅は先生じゃないわよ。寺子屋で先生をしてる慧音ってやつと仲が良くてよく遊びに行ってるってだけよ」
なるほど、妹紅さんは先生じゃなかったのか。
まぁそれならこの時間に道案内を頼んでも大丈夫だろう。先生じゃない人がこの時間に寺子屋に自由に出入りしてるのはどうかと思うが。
「んじゃまぁとりあえず行きますか」
「そうね」
「寺子屋ってどの辺にあるの?」
「ここから歩いて30分くらいかしらね」
……30分?
丁度先ほど霊夢に助けてもらってからこの人間の里に来るまでがその程度だったはずだ。しかしその時はゆっくり歩いていたが相当な距離だったはずだ。
もう既に人間の里に入っているというのにまた30分も歩くというのは少し変な気がする。
そこまで考えた俺は一つの結論に辿り着き答え合わせをするために霊夢に聞こえる程度の声で呟いた。
「寺子屋って人間の里の中にある訳じゃないのか……」
すると俺の目論見通り反応してくれた。
しかし答えは俺の考えた結論とは真逆だった。
「人間の里の中にあるわよ?」
「なのに歩いて30分もかかるの?」
「ああ、人間の里には幻想郷の中のお店とかがほとんど集まってるからめちゃくちゃ広いのよ」
「あ、そうなんだ」
人間の里をなめすぎていたようだ。人間の里ってそんなに大きかったのか……
そろそろ足痛くなってきてるんだが…まぁ霊夢は俺のために着いてきてくれてるんだし我儘は言えないな。
そう思い少しずつ悲鳴を上げ始めている自分の足に鞭を打ちまた歩き始めた。
その後霊夢の言うとおり30分程度歩くと寺子屋に着いた。
そしてここに来るまでの間に気が付いたことが一つあった。
霊夢は俺が思っている以上に有名人だったようだ。
さっきのチルノたちと変わらない程の身長の子供から立派な髭を蓄えたご老人までが霊夢を見かけると挨拶をしてきたりしていた。
あながち幻想郷一有名というのも間違いなさそうだ。
「妹紅いるー?」
そう言いながら霊夢が寺子屋の中へ遠慮なく入って行った。
一応寺子屋なのだし誰か出てくるまで外で待っといた方がいいんじゃないかと思いつつ俺も後に続いた。
外から見た感じはその辺の民家より一回り大きいなくらいの感想しか抱かなかったが、中は思ったよりもずっと綺麗だった。
それにしても子供の声が聞こえないな。今は子供たちはいないのかな?
などと考えているとふすまが一つ開いた。
「霊夢? 私ならここにいるけど、どうしたの? 珍しいじゃん」
そのふすまから白い髪の女の子が顔を出してそう答えた。
この人が妹紅さんか。
見た目的に思ったよりも幼い印象を受けた。霊夢とあまり変わらないのではないだろうか?
「ああ、妹紅。ちょっとこいつが記憶喪失みたいで永琳に診てもらうために永遠亭に行きたいんだけど案内お願いできない?」
妹紅さんがこちらを確認するように見てきたので軽く頭を下げた。
「なるほどねー。ちょっと待っててね」
そういうと妹紅さんは部屋の中に引っ込んでいった。
その部屋の中から妹紅さんとは別の人の声も聞こえた。
「ああ、やっぱり慧音と話してたのね」
ということはこの聞こえてくる妹紅さんとは違う方の声の持ち主が慧音さんか。
慧音さんの声からは大人びたような印象を受けた。まぁ先生をしているくらいだししっかりしてるんだろうな。
「お待たせ」
冷静で的確な俺の推理を遮るように中から妹紅さんが出てきた。
推理じゃないって?うるせぇよ。
「慧音と話してたのに悪いわね」
「別にいいよ。いつもみたいにただ単に世間話してただけだし」
ところで、霊夢と妹紅さんが話してるところを眺めていて気付いた。
こうして見ると二人とも服装がかなり奇抜なのだ。
今更だが霊夢は腋が出てる巫女服に大きなリボンつけてるし、妹紅さんなんか霊夢と同じような大きさのリボンに加えて毛先に小さなリボンがいくつもついてる。しかも袴をサスペンダーで釣ってるし……
しかし俺が服装のことを考えている間に二人の会話は終わったようで妹紅さんがこちらに話しかけてきた。
「君が記憶喪失になってるって子?」
「あ、はいそうです。妹紅さんですよね?急で申し訳ないのですが道案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「道案内の件については霊夢からさっき聞いたところだし別にいいんだけどさ、ちょっと堅すぎない? さん付けで呼ばれるのなんて久しぶりすぎてなんか変な感じだし、妹紅でいいよ?」
と妹紅さん――いや妹紅が苦笑いで言った。
お世話になるのだし礼儀正しくしなければと思いあんな挨拶をしたが俺自身敬語なんて使い慣れてないしそもそも基本的にはタメ口で喋る人間なのだ。
妹紅の方からそう言ってくれるなんて、思ってもない申し立てだ。
「あ、そう? じゃぁ妹紅で。んじゃ道案内頼む」
「タメ口でいいなんか言ってなくない?」
……確かに言ってはいないが、下の名前で呼び捨てで呼んでいいってことはタメ口でいいってこととほとんど意味は変わらないと思うのだが。
だがまぁ、不快にさせてしまったようなので謝らなければならないだろう。
「不快にさせてしまい申し訳ございませんでした」
「あはは、冗談だって。名前呼び捨てなのに敬語とか余計変な感じじゃん。君面白いね。ところで君の名前まだ聞いてないんだけど教えてくれない?」
俺は妹紅がどんな奴なのかが今のやり取りで大体わかった気がした。
ところで妹紅、お前見た目的に明らか俺より年下だろ!
年下に揶揄われたことに少し不快感を覚えた俺が軽く注意することにした。
「お前年上をからかうなよ!いつか痛い目見るぞ!俺の名前は黒露夢幻!夢幻って呼べ!」
「夢幻が年上?まっさかぁ~」
夢幻呼びに移行するスピードがだいぶ速く妹紅の反射神経に少し驚かされつつも、またもや揶揄われていることにだいぶイラッときた。
「わたしこう見えても千年以上生きてるんだよ?」
そしてその上にこの嘘だ。
こいつの目にはどれだけ俺が馬鹿に見えているのだろうか。
大人をコケにするのもいい加減にしてほしい。
「いくらなんでもそんな嘘に騙されるかぁ!」
「いやほんとほんと」
説教とかしたことがないせいであまり怒っているように聞こえないだろうがこれでもそれなりに怒っているのだ。
嘘を嘘で上塗りしていくやつは嫌いだ。
妹紅の嘘を暴くためになにかないかと考えている俺があたりを見回していると一つの案が思いついた。
霊夢に協力してもらえばいいじゃないか。
「霊夢~。霊夢からもなんとか言ってやってよ~」
そう言いながら俺が目を輝かせながら霊夢のほうを向くと霊夢と目が合った。
しかし霊夢はその直後、俺のキラキラした目の受け入れを拒むようにそっぽを向き小さく溜息を吐いた後こう言った。
「本当よ」
俺が思いついた妙案はまさかの失敗で終わった。
三人で悪ノリをするような仲でもないのだから霊夢は一般人の俺の味方をしてくれるだろうと踏んでいたのだがそれは間違いだったようだ。
「いやいやどう見ても俺よりあいつ年下だろ!」
「不老不死なのよ」
俺は心の中で苦笑してしまった。
不老不死などとふざけた単語が霊夢の口から出てくるなどと思わなかったからだ。
まだ妹紅のほうが信憑性のある嘘をついていた。
「そんな都合のいいものあってたまるか!」
「あるんだからしょうがない」
「じゃぁ証拠見せてみろよぉ!」
「死ぬのも結構痛いんだよ?」
「ちなみに幻想郷には妹紅を含めて不老不死が三人いるわよ?」
三人?そんな微妙な線をついてきたんだ。
どうせなら幻想郷の人たち全員不老不死とか言ってくれたら笑って済ませれたのに。
しかし俺はここでまた一つ仮説を思いついてしまった。
この仮説が正解なら不老不死というのも納得が出来る。
「おかしいだろ!……あ、もしかして妹紅って人間じゃなく妖怪なのか?」
「私は人間だよ?」
俺の仮説はバッサリと切られた。
そして霊夢の口から驚きの一言が出てきた。
「あと妖怪でも死ぬわよ?」
そんなのさっき教えてくれなかっただろ。
しかし、妖怪でも死ぬのならやはりこの幻想郷に不老不死の奴は誰一人としていないはずだ。そうでなければおかしい。
「じゃぁおかしいだろ!なんで不老不死になってんだよ!」
「蓬莱の薬っての飲んじゃってね」
「御伽話かよ!」
自分が言ったその言葉で俺は偶然にも自分を納得させられた。
なるほどこいつはなにかの御伽噺を読んでその影響を受けたのだろう。
そうして自分を納得させられたところをまた妹紅が煽って来た。
「まぁ今から永遠亭行くんだし、その時には証明できるんじゃないかな?」
「ふーん?言ったぞ?取り消すなら今だぞ?」
「取り消さないよ。じゃあ嘘だったらなんでも言うこと一つ聞いてあげるよ」
なんでも言うことを聞くという言葉に俺は少し危機感を覚えた。
俺は紳士だから良いものの女の子がそんなことを言ったらナニをされるかわかったもんじゃないからだ。
俺は妹紅のために注意をしようと口を開いたがその口から出てきた言葉は俺の発したかった言葉とは違った。
「言ったからな?もう取り消せないからな!」
……俺もまたそちら側の人間だったのだろうか。
霊夢が俺のほうを嫌悪の目で見てきており、俺はその視線に心を折られかけたが、俺の心が折れる寸前のところで霊夢は何かを思い出したかのような表情を一瞬した後に哀れむような目に変わった。
よくわからないがまぁ俺の心が折れなくてよかった。
「いいよ。その代わり本当だったら夢幻が言うこと一つ聞いてね?」
「ああいいよやってやろうじゃねぇかよ!」
負ける可能性がない賭けなんて乗るしかねぇもんなぁ?
「あーあ……」
霊夢が溜息をつきながらこっちを見ている。が俺はそんなの気にしない。永遠亭とやらに行くのが楽しみになってきたぜ!
藍と妹紅初登場です。
藍は結構キャラの扱いムズイです。