難易度ハードな人理修復   作:村正 ブレード

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医務室にて

特異点Fの修復から半日経った頃。

 

「はい、これで検査は終了。お疲れ様、()()くん」

「ありがとうございました、ロマンさん」

 

彼はそう言って頭を下げて医務室から出て行く。それを手を振って見届けた後、レオナルドを呼び出しつつパソコンに向き直る。

レオナルドが来るまでに現在のカルデアの状況を整理しておこう。

現在カルデアは元顧問、レフ・ライノール・()()()()()の破壊工作によりその機能の6割を停止しており、元所長のオルガマリー・アニムスフィアはその爆発の中心点にいたために死亡している。またレイシフトの為コフィンで待機していたマスター達を重症或いは死亡に追い込み、マイルームにいた一般選抜のマスターに限っては()()()()()()()()消し飛ばされていた程だ。

更に厄介なことに、守護英霊召喚システム・フェイトが破壊されていた。原型こそ保っているため修復は可能だが、恐らく本来の性能を発揮する事は出来ないだろう。精々、召喚の補助ができる程度だ。

とはいえ、食料や電力に関しては問題ない程度の損失だったのが不幸中の幸いだろうか。

 

情報を整理していると、後ろのドアが開き、馴染みの声が聞こえてくる。

 

「やぁロマ二。私を呼び出すなんて一体何の用だい?」

 

そう言いながらこちらに近づいてくる彼女?ーーーレオナルド・ダ・ヴィンチーーーに対し、真剣な表情で答える。

 

「これを君に見せておきたくてね」

「これは?」

 

彼女の視線の先には二つの写真があった。

 

 

「こっちが白野くんがカルデアに来た時の魔術回路の写真、でこっちがさっき撮ったばかりの彼の魔術回路の写真だ」

「魔術回路の写真? わざわざ私に見せるものかい……!?」

「気付いたかい?」

「………これは、魔術回路が増幅している、のか? いや、それだけじゃない、なんだこれはーーー!」

 

元々白野くんの魔術回路は、他の一般選抜のマスターと同様カルデアの魔術礼装の補助なしでは魔術をまったく起動できない程度の数しかなかった。しかし、特異点から帰った彼の魔術回路の数は、()()()と、考えられない程に増幅している。

それだけじゃない。その72本の魔術回路、その全てが()()()()()()()()()()()()

突然増えた魔術回路もそうだが、魔術回路が右腕に集中しているなんて事は、僕の知っている限りではーーー否、魔術の歴史においてもあり得ない事だ。

 

「……これを、彼は知っているのかい?」

「いや、まだ伝えていない」

「賢明だね。こんなことを伝えたら、彼でなくとも混乱するよ。現に私がそうだからね。

しかし、なんだってこんなことに。まさか、レイシフトの影響で?」

「それはないよ。彼のレイシフト適正は高いと言っても異常なほどじゃないし、何より稼働実験でこんなことは起こったことがない」

「ふむ……」

「個人的には、特異点での通信途絶中に何かあったんじゃないかと思ってるんだけど、どう思う?」

「……そうかもしれない。後、彼の名前が喪失していることにも関係しているのかも」

 

彼の今の名前、岸波白野というのは実質的な人類最後のマスターである彼が自身に付けた偽名であり、彼の本当の名前は彼がレイシフトした瞬間に喪失しているのだ。

正しくは、彼自身は名前を覚えているものの、それ以外の誰もがーーー登録したカルデアにさえーーー彼の名前を知らないし、聞くことが出来ない。

 

「それは違うよ」

「む?」

「彼の名前が喪失したのと、この事は関係ない」

 

そうだ。彼の名前が喪失した事にはきちんと理由がある。尤も、それも想定外の事態に変わりはないのだが。

 

「彼の名前が喪失したのは、コフィン無しでのレイシフトが原因だ」

「コフィン無しでのレイシフト自体にそんな欠陥は無かったはずだけれど?」

「うん。だから、それも異常事態なんだ。本来コフィン無しでのレイシフトは、成功率を格段に下げるとはいえ、こんなことにはならない筈なんだ」

「だが、結果として彼は誰かに名前を呼んでもらえなくなってしまった」

「………うん」

 

もし、あの時彼を行かせていなければ。

もし、彼の他にマスターが居たならば。

もし、人理焼却(こんなこと)なんて起こらなければ。

そんな事が頭の中で浮かび続ける。

 

「……ロマニ。今は、目先の問題に目を向けるべきだ」

「レオナルド」

「気にするなと言ってるんじゃない。でも、いくら悩んだってしょうがない事だろう。それに、このことに関して君に責任は無いんだぜ?」

「…………」

 

……そう、なのかな。

 

「……ありがとう、レオナルド」

「なに、感謝されるほどのことでもないだろう? 私は問題を棚上げしただけさ」

 

僕にとっては、そうなのさ。

 

その時、背後のドアが開いた。真剣な表情を浮かべた彼が入ってくる。

少し、背筋が冷えた気がした。

 

「ロマンさん」

「な、なにかな?」

「システム・フェイトの使用許可を、貰いに来ました」

 

そう言った彼の手には、黄金の杯が握られていた。


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