銀河英雄伝説異伝   作:はむはむ

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第6話

[クロプシュトックの乱4]

 

その夜。

惑星ロキ上のクロプシュトック勢がようやく一層され、公の自決が確認された、その夜。

ベルリン艦内は、人いきれで満ち満ちていた。

勝手なもので、地獄を現出しておきながら、みな、地獄には辟易とし、早く故郷に錦を

飾りたがっていた。

飽き易い貴族士官はもとより、平民の兵らにも共通する思い出はあった。

皆々、それなりに懐が温まったお蔭もある。

 

「これが戦勝記念式典というものですか」

その日は緩んだ空気もあり、警備を部下に任せ、アンスバッハ大佐とマークスは酒杯を

満たし、空にしつつ話す。

「…どんな事柄であれ終わりのセレモニーは必要さ。これで皆、頭が覚め、切り替えて

平和な日常に戻っていくわけだ」

マークスは若干不愉快を感じた。

「そして加害者は都合良く被害者の事を忘れていく。被害者は決して、永遠に忘れない

でしょうに」

「勝者が歴史を作る。踏みにじられたくなければ、踏みにじれ。強者になれ、帝国の国是

だからな…」

「人の恣意が交じる事柄はやはり苦手です」

 

その輪に近づく人々が居た。

 

「卿も居たか」

親しげな表情を浮かべ、ミッターマイヤーが手を差し出す。

マークスは緊張し、手のひらの汗をぬぐった後、手を差出、強く握り返した。

「今回の件、卿だけではなく兄上の世話にもなった。ありがとう」

アンスバッハ兄弟は、それぞれの仕方で持って、この蜂蜜色の髪の勇将の解放を祝った。

 

「改めて紹介しよう、こちらがミューゼル中将、こちらがキルヒアイス大佐。そして、こちらが…」

「ロイエンタール少将だ。以後お見知りおきを。今回はわが友の為、お力を頂け、感謝している」

私たちは言葉を交わしながら、ふとロイエンタール少将と視線があった。

私ことマークスは恐縮し、視線を逸らす。

何処か、このロイエンタール少将に底知れぬものを感じた。

 

ヘテロクロミア…生物学的に珍しい瞳の両対は、古来より凶兆とされ、凶眼とされてきた。

むろん、私はそんな迷信は信じないが、そういう迷信を背負ってきた人々の生きざまには興味

があった。

それは私の幼少時の記憶、父母が殺された事が脳裏にあるからだ。

父からは、何も聞かせれていないが、兄からは色々と聞いたからだ。

探ってはいけない、遺伝学上のワード。

それを私たち親子、兄弟のものでもあった。

私たちは血が繋がっていない、即ち遺伝学的には全く他人と言う事。

 

それでも私は両親を愛し兄を愛している。

そして、彼らも又、愛しかえしてくれている。

人は遺伝子の呪縛に概念として縛られる唯一の動物だが、同時に又、概念としてその支配を打ち破る

事の出来る生き物だと、私は信じている。

 

「…それで卿は何を学んでいるのだ?」

私が学生と名乗ると、ラインハルトは急に冷めたように、私から視線を外した。

ミッターマイヤーはどこか面白そうに、見つめている。

赤毛の若者は優しげに見守るようであった。

だが、ロイエンタールだけは違った。

一人前の人間として認め、そして同等の位置に降り、話をしていた。

「はい。軍医学技術大学で生物工学の勉強を続けております」

「そうか。それでは卿は俺のヘテロクロミアにも興味があるだろうな」

興味なんて恐れ多い事だが、この人物に対しては、少しずつ興味を持ってきている。

強い人だ、色々な意味で。

「人は遺伝だけでは決定されない。後天的環境、そして与えられた環境で何を為すか、これが重要だと

私は考えております」

兄は慌てたように、俺の口を遮った。

「馬鹿…酔いすぎだ。これは一同、失礼致しました、そろそろ部屋に帰るぞマークス」

「まだ良いでは無いか。学生といえど成人した身。過保護は弟君の為にもならんぞ大佐」

 

その夜の事は忘れない。

強い偉大な人達に出会った、対等に話を交わした。

この事が私たち兄弟の運命をも後に変えていく。

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