戦車道は衰退しました   作:アスパラ

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お待たせしました!
妖精さん大暴れです!


外来生物の流入に伴う環境への悪影響に関する記述
ゼクシィさんの、もてもてさくせんです?


 我々がお世話になっている大洗女子学園戦車道は、全国大会初戦を辛くも勝ち抜きました。

 

 クスノキチームの活躍ですか?

 

 ここではあえて簡潔に述べます。

 

 色々あって、サンダースが通信傍受を行っている事をつきとめた我らが隊長さんは、これ対抗し、逆に利用すべく、この世界では誰もが持っている個人携帯用通信端末を利用して指揮を執ったのです。

 

 我々クスノキチーム、誰もそれ持ってませんでした。

 

 そんなわけで見事指揮系統から外れてしまった我々は、敵チームと同じように味方の陽動にはまり、一斉攻撃を受け、過去世界のカーボンのすごさを体感することとなりました。

 

 カーボンさん、ありがとう。

 

 ちなみにですが、隊長さんには試合後とても謝られました。こちらが申し訳なくなるぐらいに。

 

 盗聴犯の方もコッテリ絞られたようで、あまり禍根はありません。

 

 そして今日は試合後最初の練習。といっても整備なんですけどね。ただ、いつもより集合率が悪いように思えましたが。

 

「プチモニにメール受信機能がついてたらよかったんですけどね」

 

「あのねマム。この世界の情報通信網はいくつかの企業によって管理されてるんですよ。私はそんな下賤なものには属していないのでメールは無理です」

 

 クスノキⅣ号(わたしたちの戦車です)の前でわたしとプチモニが試合の反省をしていると、

 

「意外と不便なんですねぇ、スマホって」

 

 隣で一緒に戦車の整備をしていたくせ毛さんがひょい、と顔をのぞかせました。

 

「siri? の機能はすごいのにね」

 

 隊長さんもうなずきます。

 

「……よりによってこんな超初期の人工知能と比較されるなんて」

 

「我慢ですよ。ばれたらいろいろ面倒なんで」

 

 プチモニは、この世界で発売されたばかりだというスマートフォンという通信端末だとごまかしているのです。それを押し通すため、裏面にはちゃんとかじったリンゴのマークも描き入れてあります。

 

「それにしても武部殿、遅いですねえ」

 

 くせ毛さんが首を傾げます。ちなみにYもまだ来ていません。助手さんは自動車部の皆さんをメカニック的なお話をしつつ、エンジン整備の助手をしています。かなり良い筋をしているとかで、入部も誘われているようです。

 

 KさんはあんこうⅣ号(言わずもが、あんこうチームの戦車です)と前でおはなさんと談笑しています。お二人、かなり馬が合うようです。

 

「隊長さんもさっきまで生徒会室にいたんですよね? ご一緒だったのでは?」

 

わたしが尋ねると隊長さんは首を横に振りました。

 

「いいえ。アリサさんと会っていたのは、私と生徒会の方達だけだったので」

 

 アリサさんというのは件の盗聴犯です。どうやら反省会の結果、謝罪行脚を実施する羽目になったらしく、ついさっき、戦車倉庫にも謝りに来られていました。

 

 その時、戦車の上で居眠りをしていたねぼすけさんがひょこっと顔を上げました。

 

「あいつが遅れるなんて珍しい」

 

「麻子さんは前の授業からここで寝てたから」

 

 隊長さんが苦笑して指摘している通り、ねぼすけさんは我々が来る以前から戦車の上でお昼寝していたのです。うらやましい。じゃなかったけしからん。

 

 そんな時、噂のゼクシィさんが何やら手にして戦車倉庫に入ってきました。

 

「遅れてごめんなさーい!」

 

「あ、沙織さん!」

 

「大丈夫ですよ、なぜか生徒会の皆さんもいらしてませんし」

 

「そんなことより見て! これ」

 

 ゼクシィさんがニコニコ笑顔で差し出したのは栄養ドリンクの瓶でした。

 

『モテモテール~あなたもモテモテ・いろんな恋があなたのもとへ!~』

 

 うわぁ~。

 

「なんだこのクソ怪しいドリンクは」

 

 ねぼすけさんがそうこき下ろします。よかった、この世界でも怪しいんだ、これ。

 

「武部殿……。さすがに、その」

 

「沙織さん……」

 

「沙織さん、そんなに追い詰められていたんですね……。お察しできず申し訳ありませんでした」

 

 いつの間にかおはなさんもいます。みな、憐みの視線をゼクシィさんに投げかけていました。

 

「違う!! 私だって別に信じてないもん。ただ自販機で売ってたから気になって」

 

「こんなもんに金を払ったのか? 沙織。なんてもったいない……」

 

「お菓子でいいって書いてたから、キャンディしか払ってないよ」

 

「なんだそれは」

 

「所長さん……。これってもしかして」

 

 そばに来たKさんがわたしに耳打ちします。

 

「たしかにそんな気もしなくもないですし、可能性としては十分考えられる範疇にあると推測されなくもないですが事態を注意深く見守ることが調停官としての務めではないかと考察する次第であります」

 

 本音、働きたくない。

 

 実際この世界には妖精さんセンスとも思えるようなジョークグッズや偽科学的グッズがあふれているので、あれもその一つであるのではないかという希望的観測を抱いているのです。怠慢からだけではありません。

 

「大丈夫だって、私以外にも買ってる人いたし、ホントに効果あったりして」

 

 といいながら、ゼクシィさんはその液体をごくごくと飲み干します。

 

「……まずい」

 

 ゼクシィさんは顔をしかめました。

 

「やだもー、ジョークグッズならもっとおいしくしてほしかったのに~」

 

「どんな味なんだ? 沙織」

 

 ねぼすけさんが一歩近寄りました。

 

「なんか、こう、微妙な感じ……」

 

「そうか、じゃあ私もいただこう」

 

 そういってゼクシィさんの顔に近づきその唇を奪おうとしたところで

 

「ちちちちちょっと麻子ぉっ!?」

 

「その手を離せ、沙織。味わえないだろう?」

 

「味わうって何ィ!?」

 

 ゼクシィさんにがっちり阻まれました。するとあら不思議。他の皆さんも、

 

「冷泉さん、強引な方は嫌われますよ」

 

「そうですよ、冷泉殿。……独り占めなんて」

 

「麻子さん、先に行っちゃうのはいけないと思うなぁ」

 

「ねえみんな? なんでこっち寄ってきてるの? なんで私追い詰められてるの?」

 

「クロじゃないですかねえ?」

 

「クロですね」

 

 あんこうチームのみなさんにじりじり壁際に追いやられているゼクシィさんをしり目に、わたしはため息を吐きました。

 

 どうやら出勤の時間です。

 

「あの~、ゼ、武部さん、そのドリンクはどこで手に入れましたか?」

 

「お、お菓子さあん! 艦橋の真下の自販機!!」

 

「了解です。それはおそらく妖精さんによるいたずらなので、安心してください」

 

「できないよぉっ!!」

 

 気が付けば他のチームの皆さんもゼクシィさん争奪戦に参加しつつあります。

 

 よく見ればゼクシィさん、涙目になって小動物のようにプルプル震えて何ともかわいらしい……。

 

「お菓子さん!?」

 

 おっといけない。わたしまでもが妖精さん効果に魅了されてしまうところでした。

 

「とりあえずこの子と一緒にいれば、命にかかわることはないと思うのでもうしばらく頑張ってください!」

 

 お守りがわりにご同行してもらっていた妖精さんを渡し、ひとまず艦橋下へと向かいます。

 

-------------------------------

 

 確かにそこには、怪しい雰囲気を漂わせる自動販売機が設置されていました。販売している商品は「モテモテ―ル」一つだけ。料金を入れる穴はぽっかりとあけられており、「お菓子でも可」というプレートがかかっています。

 

 わたしは即座に、「故障中・使用禁止」の張り紙を張り、ひとまずの被害拡大を食い止めました。

 

「……妖精さんはわたしが管理している。この世界に、彼らの力を正確に知る者はいない……」

 

 犯人、考えるまでもありませんね。わたしが保管している妖精さんを持ち出せ、同じような手口を使って里に妖精さんグッズをばらまいていた前科者がすぐ近くにいますし。

 

 問題はその不届き者の居場所ですが……。

 

『ああー、もしもーし!』

 

 タイミングよく、なぜか館内放送のスピーカーからYの声が流れてきました。そしてわたしの名を出しこう告げます。

 

『非常事態発生につき至急生徒会室に集合されたし。繰り返す、非常事態発生につき至急』

 

 言わんこっちゃない。

 

 エレベーターを使い生徒会室に向かうとそこには、

 

「あー、すまない」

 

 珍しくすまなそうな顔をしているYと、

 

「お菓子ぢゃん、ごめんごれどうにがじで」

 

「会長! いつまでもついていきますぅ」

 

「杏ちゃーん!!」

 

 会長が自分にべたぼれの広報さんと副会長さんにサンドイッチのごとく挟まれておりました。

 

 魅惑の効果を受けないよう、わたしとYは一度部屋を出ます。

 

「説明してもらいましょうか」

 

「あー、うん。実はこの子にさ……」

 

「たのまれましたー」

「がんばりましたー」

「いつもよりおおくまわしとりますー」

 

 三人の妖精さんが飛びだします。

 

「妖精さん、これは一体?」

 

「もてもてーるのむと、みんなもてもて?」

「よきかんじょー、みなすきすきーってなるです」

「ひとめみたらめろめろ」

 

「そのわりに飲んだ人間は正気を保っているようですが」

 

「こいは、いっぽーつーこーですゆえ」

 

 世知辛いですねぇ。

 

「もとに戻すにはどうしたらいいですか?」

 

「こいのほのお、けします?」

「もえあがるかんじょー、ちんかすべしかと」

「しょせんこいなど、きのまよいですからー」

 

 えらく恋に関して辛辣な妖精さんですが、まあどうすればよいのかなんとなくわかりました。

 

 それをYにも説明します。

 

「……これでいいの? 本当に?」

 

 Yが疑問に思うのももっともですが、

 

「鎮火といえば水でしょう」

 

 解決方法は、物理的に冷や水を浴びせること。

 

 コップ一杯の冷水を浴びた生徒会のお二人はすぐに正気を取り戻し、

 

「申し訳ありませんでしたァァァ!!」

 

「すみません!!!」

 

 錯乱中の記憶が残っているという鬼畜仕様により、顔を真っ赤にしながら謝罪することになりましたとさ。

 

 その後、ゼクシィさんも同じように対処し、(その後の混乱については省略します。少しだけお話するなら、しばらく妙な空気が隊内に漂っていました)事態は無事収束したのです。

 

「で、すべて白状してもらいましょうか」

 

 日もすっかり暮れたころ、風紀委員の取調室をお借りして、Yと会長の訊問が始まりました。

 

 KさんもぴっしりMI6の制服を着て、あまりない威圧感を精いっぱい出しています。わたしと助手さんも同じようにくせ毛さんからお借りした軍服を着用。

 

「いやYちゃんにさようせいさんのちからをみしてほしいっていったらねぇ」

 

「いやあまさかあたしもあんなのができあがるなんてね」

 

「嘘おっしゃい」

 

 乗馬用の鞭を机にたたきつけます。後でお伺いしましたが、このスタイルは「ドゥーチェ」と呼ばれた独裁者のものだそうです。

 

 そしてYに告げます。

 

「あなたが密かに入手した古典同類誌、明日の廃品回収でトイレットペーパーに変えます」

 

「ぬぁっ!?」

 

 そして会長にも、

 

「すでに給養委員と生徒会に話をつけて、学園艦での干し芋無期限販売停止命令布告の準備を進めています。わたしが連絡すれば副会長が会長の代わりに発令してくれるそうです」

 

「ええっ!?」

 

 己の生き恥が会長の悪だくみと知った副会長さんは、快く協力してくれました。

 

 そして止めの一発。

 

「正直に自白しなければ」

 

「この世界に存在する男子専門学校に卸そうとしました」

 

「その売り上げを戦車道の経費に充てるつもりでした」

 

「ギルティです」

 

 どうも二人は上記の目的のため、ひとまず効果を見てみようと自分が飲んだり、校内で販売してみた、という事です。

 

「本件は重大な事案です。一歩間違えれば童話災害に発展しかねない危険な行為だということを自覚してください」

 

 はるか昔に調停理事会で作成された「新人類との接触に関する注意(一般市民用)」の中身を延々垂れ流したのち、二人に刑を宣告します。

 

「……まじで?」

 

「それでいいんだ、ならいいや~」

 

 Yは悲壮に満ちた顔で、会長は楽しそうに刑を受け入れました。

 

------------------------

翌日。

 

『あーの子会いたやあの海越えて~』

 

「いろいろまずいいんじゃないのこれっ!」

 

「お、スジいいねぇ~」

 

「ってかこういうキレッキレの踊り、どっちかっていうとあんたの領分じゃん!?」

 

「それについてはこれ以上言及しないでください」

 

 ピンクのスーツに身を包み、あんこう踊りを踊りながら町内を練り歩くYと会長の姿が目撃されたそうです。

 

 と、色々ありましたが、おそらく世界初の童話事案は収束しました。さて、これからどうなることやら……。

 

 あれ? 何か忘れているような。

 




「モテモテール」
人が他者に向ける感情には、様々なものがあります。これは、尊敬、敬愛、親愛、友情、信頼といったプラスの感情を全て恋心へとチェンジさせてしまう恐ろしい薬なのです。飲んだ人間は正常状態を、維持するので、猛獣の檻に投げ込まれた小動物の気持ちが味わえること間違い無いでしょう。ちなみに、性別、種族、非生物問わず効果が発揮させるとか。
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