戦車道は衰退しました   作:アスパラ

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書きため分を消化してしまったので少し更新が遅れてしまいました。金曜日までには続きを上げたいと思っています。

エルヴィンとカエサルの書き分け難しい……。


妖精さんの、たのしいれきし

 二回戦はアンツィオ高校との試合でした。デコイを使った奇策を展開したアンツィオでしたが、大洗は二両撃破されただけで勝利することができました。

 

 わたしたち? 撃破された車両の一つですよ。

 

 言い訳も兼ねて状況を説明させていただきます。

 

 試合自体は極めて順調に推移し、我々も敵車両(セヴェモンテというらしいです)を一両撃破できました。問題はその後です。

 

 試合最終局面において、大洗もアンツィオもほぼすべての車両が一堂に会しておりました。我々も、ほかの皆さんとともに崖の上にいたのですが、

 

「姐さん! すみません、無線機の調子が悪いみたいで」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()今にして思えば、彼一人に仕事を押し付けすぎたかもしれません。

 

 助手さんが無線機に気を取られてしまった一瞬のすきに、我々の戦車は崖底に転落。アンツィオの方々が転がっていた丁度そのあたりに落下し、見事撃破判定を食らってしまったのでした。別に被弾したわけじゃないのに……。

 

 幸い、誰一人けがもなかったので、これで良しとしましょう。無問題ばんざーい…………。

 

 

 

 

 

 

 とはなりませんって。

 

 目算でも数メートルは落下したんですよ、我々。にもかかわらず誰一人、傷一つないなんて(軽いうち身や擦り傷はありましたが)1F状態としか思えない奇跡。

 

 しかしわたしは、戦車に妖精さんは載せていません。砲撃音に彼らは耐えられませんから。

 

 この大変危険な競技が、安全なスポーツとして成立している理由。調停官の勘が彼らの気配を告げています。

 

 わたしはひそかに調査を始めました。

 

――――――――――――

 

 エルヴィンさんが座卓に分厚い本をうずたかく積み上げました。ふと里の事務所の資料室を思い出してしまうほどでした。

 

「あいにく、民俗学専門はいないから、資料も少なくてな。せっかく訪ねてきてもらったのに申し訳ない」

 

 これが少ないというならこの方々の感覚を疑います。座っているわたしの視界が本の壁で遮られているレベルなのに。

 

「わ、わざわざありがとうございます」

 

「それにしても、この時代の妖精伝説を調べたいとは……。未来の妖精さんとはだいぶ違うと思うが」

 

「いいえ、とても参考になると思います」

 

休日の今日、わたしはかばさんチームの皆さんのお宅にお邪魔していました。

 

 バレー部の一件以来、わたしが立てている仮説の調査のためです。

 

 それは「この世界でもすでに人間から妖精への移り変わりが進んでいるのではないか」というもの。

 

 以前、人類の記録をダイジェストで見ていったことがあります。西暦2000年代初頭の妖精さんは、まだまだ頼りないですが、いくらか「ヒト」としての形を形成しつつある頃でした。

 

 もしかしたら、非常に考えづらいかもしれませんが、彼らのうちいくらかは、完全にヒトの姿を得ることができたのではないか、と思ったのです。そしてこれから数千年の時をかけて、ゆっくりと自らも気づかぬうちに入れ替わっていくのではないか、と。

 

 もしそうなら、私たちの世界にもあった「取り換え子」の伝承や、妖精にまつわるお話の中に何か手がかりがあるかもしれない。

 

 そう思いたっての調査でした。

 

―――――――――――

 

 そう思いたっての調査でしたが。

 

「……これといった手掛かりはありませんねぇ」

 

 時刻はすでに夕方。私の苦労をあざ笑うようにカラスが鳴いています。

 

「はははっ。まあ仕方がない。よくあることだ」

 

 カエサルさんが麦茶を持ってきてくれました。カサカサになったわたしの心を潤します。

 

「まあ、我々の時代では失われた資料も多かったので、有意義ではありましたよ」

 

 この徒労がせめても我が知識の糧となったことを強調します。何の成果もなかったなんて言いたくないので。ですが、

 

「な、なにっ!?」

 

「失われただとぉ!?」

 

「れ、歴史がか!」

 

「信じがたいぜよ……」

 

 歴女さんたちの反応は激烈でした。

 

「は、はい。大断絶という情報と技術の断絶を数回経験していまして、まともに残っているのは電子情報がメインになる以前のものぐらいしか」

 

 四人に詰め寄られてたじたじになりながら答えると、一転彼女たちの顔には深い悲しみが浮かびます。そう、まるで、長年連れ添った相棒を亡くしたような顔です。

 

「ゲッペルズによる情報操作か……」

 

「いや、家康の大阪城再建だろう」

 

「廃仏毀釈ぜよ」

 

「いや、アレクサンドリア図書館の喪失ではないか?」

 

「「「それだっ!!!」」」

 

 どれですか。

 

 とまあ、えらくショックを受けている? 歴女さんたちを慰めようと、あれこれ手を尽くします。いやだって、気まずいじゃないですか。

 

「で、でもうらやましいですね。この時代では断絶もありませんでしたし、情報収集がはかどりそうです」

 

「それは違うぞ、お菓子さん!」

 

 カエサルさんが身を乗り出しました。

 

「2000年前の古代ローマは、まだ多くの古文書や史跡が残されていたおかげで多くのことがわかっているが、文字を持たなかったインカやアステカはわずか600年前のことであっても不明なことの方が多い!」

 

「時の為政者によって都合の良いように歴史がゆがめられることもある! 徳川が行った豊臣大阪城の改造など、その一例ではないか!!」

 

 左衛門佐さんも拳を握って力説。さっきおっしゃっていたあれですね。

 

「単に文字を持たなかったり、いまだ解読されていない古代文明は不明なことも多いな。インダス文明などはどこの誰がどうやって文明を築いたのかすらわかっていない」

 

「古代史の謎ならやはりシュメールぜよ。世界最初の文明にして、現代まで続く人類の基礎を築いたにもかかわらず、彼らが何者かまったくわかっていない」

 

 エルヴィンさんとおりょうさんもそれぞれ解説してくれます。みなさん歴史談義を行ったおかげか、すこし落ち着いてくれました。

 

「けっして断絶がなかった、というわけではないんですね」

 

「その隠された歴史を探求するのも、歴女の楽しみぜよ」

 

 わたしが仕事で駆り出されるきわめて面倒な作業(歴史情報復元)を趣味でやっているなんてまったく頭が下がります。

 

 さて、そろそろ夕刻も過ぎてきたので、お暇しようと立ち上がりました。

 

「ご協力ありがってうわっぁ!?」

 

 何かを踏んづけすってんころりん。

 

 木造二階建ての家屋にドーンという音と振動が響きます。

 

「お、お菓子さん!?」

 

 エルヴィンさんが駆け寄ってくれますが、わたしは臀部に走る痛みと心を刺す羞恥で顔を上げられません。

 

「だ、だいじょう、ぶ……です」

 

 自分でもまったく大丈夫そうでないと分かる声でした。

 

「左衛門佐! あそこは普段お前が座っているところぜよ! 整理ぐらいしておけ!」

 

「わしは知らんぞ! 昨日整理したばっかだ! おりょう、お前じゃないか!?」

 

「何ゆえ私が疑われるがじゃ!?」

 

「お前の後に風呂に入るといつも散らかったままなんだ!」

 

「それは今関係ないぜよっ!!」

 

 ああ。わたしのせいでルームシェアにありがちな些細な生活習慣の違いに起因する喧嘩が勃発しようとしています。

 

「まあ落ち着け。おりょう、冷蔵庫から保冷剤を。お菓子さん、けがは?」

 

 カエサルさんが手を差し伸べてくれました。おかげで喧嘩も一時休戦。

 

「まったく、なんだこれは」

 

 その間に、わたしをこんな目に合わせた忌々しい代物をエルヴィンさんが見聞します。

 

 それは30センチ四方の、たたまれたポスターのようでした。古書の革表紙をもした柄の上に、金色の文字で書いてあったのは

 

『よい子のれきし学習すごろく~十万字~』

 

「なんだこれは? 誰のだ?」

 

 エルヴィンさんがすごろくを皆さんに回します。

 

「いや、知らんな」

 

「初見だ」

 

「私のではないぜよ」

 

 全員の手に触れた瞬間、

 

『最低プレイヤー5名を確認しました。リンクスタート』

 

 待ってそれダメな感じの掛け声。なんて言う暇もなく、まばゆいばかりの光が部屋を覆いました。

 

 




『よい子のれきし学習すごろく~十万字~』
歴史を体験しながら学べる妖精さん製のすごろくです。すごろくとは言いますが、5人ひとまとめで各時代を移動する形式なので厳密には違いますが。
登場する歴史上の人物は身近な人に置き換えられるそうです。
なお、名前の由来は「十万字に及ぶ歴史書の内容も、これさえあれば一発!」というものであり、それ以外にはありません。
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