戦車道は衰退しました 作:アスパラ
あまりに一瞬の出来事でした。
まず、助手さんは森を出る寸前で超信地回転。戦車はドリフトしながら急旋回しました。
しかし、敵の砲手は私たちが一瞬車体を横に向けたわたしたちを見逃してはくれませんでした。
その一瞬のすきをついて発砲。砲弾は転輪に直撃し吹き飛びました。
衝撃でバランスを崩したわれわれはそのまま横転してしまったのです。
「イタタ……みなさん、無事ですか?」
「はい」
「なんとか」
「大丈夫です」
「機能に問題はありません」
よかった。ひとまず胸をなでおろします。これだけの事故でけが人もいないというのはなかなかの奇跡です。とりあえず、次からはシートベルトをつけるようにしましょう。
なんてことを考えていると、外側からコンコンとたたく音がしました。
「出てきてください」
少女の声でした。
「完全に包囲されてるんだからねっ!」
「もう逃げ場はありませんよ!」
「もしかしたら誰もいないかもしれませんね。ひとりでに動いてたりして」
「い、五十鈴さん!? なぜそんな恐ろしいことを」
がやがやと声がしますが、それはみんな少女のものでした。
「ふぅ。仕方ありませんね」
わたしはキューポラからよっこらせと這い出ました。
「お騒がせして、申し訳ありませんでした」
ぽかんとした顔が私たちに向けられていました。
見たところ、10代後半といった年頃でしょうか? みな制服のようなものに身を包んでいます。
われわれ4人と1機が戦車の前に並ぶころには、彼女たちの仲間と思しき少女達も次々合流してきました。
「まず、あなたがたは?」
隊長と思しき、ショートヘアの方が尋ねます。
わたしは悩みます。恐らくこれは、妖精さんがらみの何かしら。何者かを問いたいのかはこちらも同じです。
……ひとまず、ここは無難に挨拶をしておきましょう。
「ええと、わたしたちは国連調停官事務所のものです」
世界のどこであっても、国連の名を知らないものはいません。この時代における絶対的権威、圧倒的信頼、それが国連です。
ところが、
「は?」
「こくれん?」
「ちょーてーかん?」
あれー? 絶対的権威のはずなんですけどね、国連。なのに変人を見るような目で見られてますよ、我々。
「ええと、その、練習中にちょっと迷い込んでしまって。クスノキの里のものなんですけど」
「練習中に迷い込むぅ〜?」
いよいよ不審者を見るような目つきで見られました。
すると、人混みをかき分けて、小柄なツインテールの少女が現れ、告げました。
「……かーしま、連行」
「はい」
こうして、わたしたちは捕虜として連れていかれることになりましたとさ。
――――――
連行されている間、わたしは自分の認識が甘いことを思い知らされました。せいぜい、ワープみたいなものだと思っていたんです。妖精さんの力で、別の場所に飛ばされたのだろう、と。
しかし、そこは大量消費文明真っ盛りの、人類がまだまだバリバリの現役で、これからいよいよ興隆を高めていこうとしている時代の街並みが広がっていました。
それが船の上に。
驚いたことに、わたしたちが立っているこの大地が、超巨大な船の上なのです。
信じられませんでした。リーリウムも巨大な建造物でしたが、それ以上の大きさがあるように思えます。
「これはいよいよ、タイムスリップとか?」
Yが声を潜めます。
「……それは考えにくいですね。妖精さんといえど、時間跳躍は難しいみたいですので」
「でもこんな里は聞いたこと無い。それに、この文明は21世紀初頭レベル。それ以外に何があるっていうのさ」
「……妖精さんの夢世界では? 少なくとも21世紀の初めに巨大海上居住船があったなんて話、聞きませんし」
「それこそ考えにくいんじゃない? 彼らならもっと冗談みたい感じにすると思うけど。大断絶挟んでるから、建造物じゃ判断しにくいっしょ」
「十分冗談みたいですけどね、この状況は」
そんなことを話してると、
「キビキビ歩けぇ!」
モノクルの少女に急き立てられるのでした。
なお本記録では、個人情報保護の観点と、会話情報における正確さを鑑みて同一人物であっても会話部分と、本官の所見部分との表記が異なっている場合がある。下に例示すると、
冷泉麻子……ねぼすけさん
武部沙織……ゼクシィさん
なお例示はあくまで例示であり、実際の関係者とは無関係であるので注意されたし。
【クスノキの里調停官事務所主任調停官による四月期報告書より抜粋】