今回の3人目『夕立』は、ゲームで言う所謂『ドロップ艦』だった。
戦闘後にたまに仲間になる、その海域のランクによってもドロップ艦が変わる『ゲームの仕様』。
この世界でも、その仕様に変わりはなく、航海中に仲間になったり、その司令官が所属する基地にひょっこりいるらしい。
深海棲艦は海に沈んだ『かつての艦たち』が怨念を持って人類に戦いを挑んでいる。
その怨念が浄化されればどうなるか?
『かつては人と共に戦った艦』である。
となれば話は簡単だ。
戦って倒した深海棲艦の一部が大きな光に包まれ、艦娘の姿に移り変わっていく。
これは、実際に『観測され』『確認されている』事象なのだ。
なれば、『艦娘=深海棲艦』という図式ができるのか。
それは否定されている。
『全ての深海棲艦が艦娘になることはなく』『艦娘が深海棲艦に成った事実』はないからだ。
あくまでも『近い』存在だが『別物』である、と結論付けられている。
深海棲艦から艦娘に『なった』少女たちは、自身が深海棲艦『だった』ことを『ほぼ』覚えていない。
深い海の底『視界も意識も暗闇な場所にいた』という記憶と『1つの思いを持っていた』ということは覚えているらしい。
それは艦娘それぞれ違うのだが『港に帰りたい』『誰かを守りたかった』『救いたかった』と思いはそれぞれあるのだ。
いずれにしても、艦娘がいなければ、深海棲艦と戦うことも出来ない。
共通の敵であり、手を取り合って戦わなければならないのだ。
それは変わらない事実だ。
まあ、深海棲艦の目的とか艦娘たちが何なのか、なんて専門の研究機関が研究すればいい。
僕は『頭に覆い被さっている』少女の行動をどうすればいいか悩んでいた。
少女の名は『夕立』、僕の3人目の艦娘である。
昨日、初の実践のあと、夕立と挨拶するとそのまま「また来るね~!」と出ていってしまいアーガスが慌てて後を追いかけていた。
僕も疲れていたこともあって執務室から動くことができず、戦闘処理と通常業務を行い、その日は寝てしまった。
次の日、お昼に赴任地の護衛艦が来ることもあり朝食を早めにとって、その準備を響ちゃんと執務室でやっていると、昨日と同じく勢いよくドアを開け放ち夕立はやって来たのだ。
響ちゃんは「ノック・・・ドア・・・」と哀しみを帯びた目をしながら呟いていた。
・・・蝶番、壊れないかな?
「昨日の宣言通り来たっぽい?」
「ああ、うん・・・いらっしゃい?どうしたの?今日は訓練ないから、自由時間だけど、ここに来ても何もないよ?」
今日は昼から護衛艦との合流もあるから、訓練は夕方までお休みである。
響ちゃんは横で書類仕事を一緒にやっている。
アーガスは多分、自分の艤装のチェックとかしてるんじゃないかな?
特に指示してる訳じゃないし、好きに動いている、と思う。
「用事がないと来ちゃダメっぽい?」
「ん~?全然構わないよ?ここには娯楽設備がないし、面白くないんじゃないかなぁ、って思って。」
人懐っこい笑みを浮かべながら、首をかしげて、頭からハテナマークが出ている感じだ。
子犬っぽい感じだよね、この子。
「提督さん、っていう娯楽設備があるんだよ~♪」
そう言いながらトテトテと僕の後ろにやって来て、僕の頭に抱きついてきた。
乗ってきた、と言ってもいい。
首折れますがな。
僕は人形とかぬいぐるみ的なものですか?
「夕立さん、司令官の邪魔をするのは止めてください。ただでさえ書類捌くの遅いんですから、判子も押し間違えますし、計算間違えてる箇所が増えたら他の部署に迷惑がかかります。」
無表情でこの威圧である。
おい、止めてください。
僕のメンタルは杏仁豆腐くらい柔らかいぞ?
できる妹とダメな兄な、わかりやすい構図なのである。
「提督さん、癒してあげないとダメっぽい?これなら私も癒されて提督さんも癒されお仕事捗る、一石二鳥だよ?だって・・・」
『昨日も今も辛そうな顔してるよ?』
空間にヒビが入る、空気が凍る、とはこういうことを言うんだろうか。
顔には出ていなかったと思う。
元々『この体』は実戦経験もあり、相応の訓練を行ってきた『橘優』のものだ。
『艦娘のいない世界の橘優』ではない。
響ちゃんは久々の実戦で感覚的に抜けきってないんだろう、という認識でいたんだと思う。
『これ』は僕の問題で、彼女たちにはわからないものなのだ。
いつまでかかるか分からない問題だし、いつまで続くか分からない。
・・・できるだけ気が付かれないように、は無理な話か。
「・・・久々の実戦だったでしょうし、覚えていただきたい事は最低限覚えていただきました・・・トラック泊地の司令艦と合流時間まで休息にしましょう。」
「そっか・・・実戦の疲労が抜けてなかったみたい。ごめんね、響ちゃん。夕立ちゃんもありがとう。」
「ぽいぽいぽい♪」
「休息した分はあとでしっかり働いてもらいますから。」
仕事は残ってるからね。
そりゃそうです。
響ちゃんは書類を整頓し立ち上がると「飲み物をとってきます。」と言って部屋から出ていった。
残された僕と夕立ちゃんだが、とりあえず、僕はやることがないのでそのまま待っていることにしよう。
・・・夕立ちゃん、首が悲鳴をあげてるので頭に乗るのやめて?
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「・・・ちゃんと指揮していたので勘違いしていました・・・急いではダメでした・・・」
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