「式典参加、ご苦労様でした・・・まさか、あの基地へ深海棲艦が大群でやって来るとは思いもしなかったね。」
「ソロモン海域が解放されて10年。確かに深海棲艦の出現数はかなり少なかったけど、いない訳じゃない。数日前から数は少なくても出現数が増えてた、って聞いた。警備体制の甘さやぬるま湯に浸かりすぎた結果。人的被害が少なかったのは幸い。」
「そうですね・・・報告ありがとうございました。橘少佐もご苦労様。原点の艦娘を指揮下に入れ、そして式典急襲で戦果をあげる・・・素晴らしいですね。ヘンダーソン基地の司令官もお礼の通信がずっと来てたよ。あっちの哨戒に行くとき、顔を出してあげると喜ぶよ。」
「いえ、自身ができる事をやったまでです。それに戦果をあげたのは私の所属艦娘です。賛美は彼女たちに贈られるべきです。」
「その戦果をあげることができたのは君の采配である、と言うことは忘れてはいけないよ。さっきも言ったけど、ヘンダーソン基地の司令官は艦娘だけでなく『君』にも感謝していると言っていた・・・誇っていい、それだけの事をしたんだよ。」
「・・・ありがとうございます。あちらへの任務の際には足を運ばせていただきます。」
「それでいいよ。じゃあ、報告は以上かな?2人は2日ほど『ここ』で待機してもらって、次の任務についてもらうよ・・・ありがとう、お疲れ様。」
「失礼します。」
「橘優、失礼します。」
ヘンダーソン基地の式典から数日、トラック泊地まで帰ってきました。
なな・・・さとみ少佐(名字ではなく名前で呼んでほしいと言われた為)と一緒に大石大佐の元に赴き、ヘンダーソン基地での報告をした。
原典の艦娘『クインシー』や深海棲艦急襲の報告を行ったが、あの『戦艦水鬼』については報告をしなかった。
本来であれば、強力な個体である『彼女』を上官に報告しない、という選択はあり得ないのだが、さとみ少佐が言っていた、
『トラック泊地総司令官代理、大石暁彦大佐には気を付けて。』
『しっかり見えたわけではないから、確信があるわけではないけど・・・あいつの心の中は漆黒の闇だったよ。思わず目を背けてしまうくらいに。』
あのときの言葉がどうしても頭を過り、報告するのを躊躇ってしまった。
ある意味『突然来た僕』を優しく迎えてくれた『彼』の事を疑うのは、酷いことだし、申し訳ないと思う。
だけど、あの優しい顔の裏で何を考えているかは僕にはわからない。
いや、誰にもわからないだろう。
だから表層とはいえ、思っていることを読めるという彼女の言うことに耳を傾けてみよう。
報告は後でもいい。
『彼』の考えが理解できた後でもいいんだ。
軍の中では問題なのだろうけど、さとみ少佐や天草副司令が報告はしないと言うのなら、しばらく様子を見てからでもいいだろう。
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2人の少佐が退出した部屋で、部屋の主である大石とその秘書艦であるビスマルクが会話をしていた。
「ん~七瀬くんに何か言われたような感じだね。まあ、彼女の下に送ったのは私だから仕方ないんだけどね。」
「問題はないだろう。ある意味『考える頭はある』という事がわかった。覚醒は進んでいる。あとは『我々の計画の邪魔になる』かどうかだ。」
「計画の最大の障害になりうるからね。『彼』には足掻いてもらうよ。これからも、ね。」