「オペレーター、緊急報告だ。敵は東京支部所内にもう1人いる。至急、全職員を大会議室に集めるようにしてくれ。」
足坂さんは先程とは打って変わって、冷静にオペレーターと会話していた。
ただ、裏切り者が全職員から見つけ出すには無理があるのは足坂さんにも分かることだが、なぜ東京支部所にいる職員を1箇所に集めるのだろうか?なにか考えがあるのに違いないとは思うのだが…
「悪いな、神谷くん達。団体結成日にこんなことになっちゃって。」
「いえ、大丈夫ですよ。ただ、裏切り者が誰か少しは絞られてるんですか?」
「ん?いや、ほぼ絞れてないね。全く分からないし、正直言ってお手上げだよ。」
足坂さんはそう言って、苦笑いした。
「えっ!?じゃあ、なんで大会議室に全職員が集まるように言ったんですか?」
まるでノープランと言わんばかりの足坂さんの言葉に驚いた。
「あー、大体緊急事態が起きた場合は全員招集するんだ。裏切り者が怪しい行動したら、バレやすいし、行動するリスクを考えたら、恐らく集合してる時には行動に移すことはないと思うしな。」
「敵はどうやって見つけるんですか?」
俺と足坂さんの会話に割り込むようにして、誠が焦った様子でそう言った。
「今のところ、安全確保が大事さ。敵が見つかったところで、今の状態じゃ能力がどう抜かれたのか、どうやってあの擬似体に移したのか判断出来ない状態で戦うのも危険だ。」
「なるほど…、そういえば俺達が来るのを知ってる人って結構限られません?学生の団体結成に興味持つ方は少ないと思いますし、こうやって足坂さんと、オペレーターの方くらいしか知らないんじゃ?」
「そんなことも無いよ。団体結成の手続きを取る事が珍しい上に、俺が試験官となったなんて聞いたら職員の殆どが気になると思うね。一応、俺は東京支部所長を務めてるから。」
足坂さんは少し笑いながら、そう言った。
「えっ!?足坂さん、東京支部所長なんですか!」
俺達3人同時に驚きの声を上げた。
世界にある能特の中でも強さのレベルが桁違いに強いのが、ロンドン、パリ、ワシントンD.C.、モスクワ、ベルリン、オタワ、ローマ、そして東京の支部所である。その支部所の長を務めているとなると相当の経験や実戦が問われるため、選ばれた者は最強とさえ謳われる。
その位の人物と今まで気付かずに話している事に驚き、足坂さんの強さの理由が分かったような気もした。
「おいおい、神谷君と木暮君はともかく、鳴都君まで知らなかったのか…、鳴都君なら僕の事はもう調べてるのかと思ってた。この中で1番頭脳派だと思うから。」
足坂さんは俺達が驚いた事に驚きながら、そう言った。
「後の事は、オペレーターと副所長に任せておいて、まだ君たちとやりたい事があるんだけど時間は大丈夫かな?」
俺達3人が頷いたのを見て、足坂さんは
「じゃあ早速行こうか。」
と言って足早に歩き出した。
能特の研究室。東京支部所は特に能力そのものの存在についての研究が世界でも認められる程、発達していて有名である。
そこに足坂さんは俺達を招き入れた。
「足坂さん、研究室でなにか見せたいものでもあるんですか?」
足坂さんは入るなり、研究室ある本棚から1冊の本を持ってきた。
「これだよ。能力がどのような経路で今日まで至ったのか、それについて書いてあるのがこの本だ。しかし、書いた人も分かっていないし、実際最後の方だけしか本当の事だと検証されていない。途中まで能力は否定され続けていたから、伝記に書いてあることが本当かどうか分からなかったんだ。」
「これは能力そのものの歴史ってことですか。高校まできて、こんな本がある事を初めて知りましたよ。」
誠は古い本を早く読みたいのか、目を輝かせながらそう言った。
「それはそうさ。この本の中では確証の得ているものが少ないから、そんなものを子供に教育として読ませるにはいかないからな。だけど、アビリティアの習得には必ずいる知識だから、皆に読んでもらいたくてね。」
足坂さんは悪戯を考えた子供のような表情をこちらに向けながらそう言った。
「えっと…、これって高校生が読んでいいやつなんですか?」
俺は足坂さんのその表情からして、なにかいけない事をこれからするんじゃないかと、少しばかり身構えていた。
「大丈夫。俺が読むって申請しといたから。まぁ、君達が読むとは言ってないけど、俺が落としたのを偶然読んだ体にしておこう。」
「それって、本当は俺達が読んじゃいけないって事じゃないですか!」
俺は足坂さんが規格外だと再認識した瞬間だった。
「まぁ、そんな事よりもアビリティアに必要になるから読もう。嫌なら別にいいんだが、鳴都君はもう読む気満々だぞ。」
そう言って、足坂さんは俺達に半ば強制的にその本を読ませた…。
能力が発生したのは20XX年。
第1次能力時代とでも言うのだろうか。初めての能力が起こったのは、2つの能力で、破壊と創造であった。破壊主としての人間は全てを破壊する無限点、創造主としての人間は全てを作る原点となる。この二つの能力は、2人に起き、受け継がれ、創造と破壊の均衡は保たれる事となる。
しかし、破壊主の暴走が始まる。つまり、それは創造主との争いの始まりであった。
永続的な平和を望む創造主と、全てを破壊の標的とする破壊主の間で均衡が壊れるのは無理もないことであった。創造主としての能力、性格を持つ人間は破壊主としての能力、性格を持つ人間との争いを開始する。これに巻き込まれた、一般の人々が危機的な状況を打破する為に、本能から生まれたものが作為的能力、能力が創造種と破壊種以外に生まれた原因の一つである。皮肉にも能力による争いが新しい能力を生み出したのである。現段階において、創造主と破壊主が争いを再び起こす事は考えられない。
次の時代については、この伝記を受け継いでくれるものへ…。
A.N
20XX年、前ページまでの能力による争いは小規模なもので、2人の能力者がただ争ったに過ぎなかった。なぜなら、彼ら以外には能力者がいなかったからである。しかし、2人の能力者による争いが新しい能力を生み出した事から、これからの時代に何らかの動きがあれば、下手したら能力戦争が始まる可能性がある。
早急に各国政府は能力がある事を認め、対策を取らなくてはいけない。
現在、能力者となった者は他の一般人からはただのオカルト好きとして見られ、胡散臭く見られているのが現状だ。しかし、これからも能力者は増え続ける。
創造主と破壊主は、能力が受け継がれているのかどうかも判断不可である。
元々いた創造主、破壊主は消息不明である。
仮にまた存在を現した場合は即刻、破壊主を止めなくてはならない。創造主の性格から争いを好んではない為、友好的な関係を築くべきであると考える。
次の時代が平和である事を祈る…
T.N
21XX年、恐れていたことが起きる。
遂に能力者による戦争が始まった。しかし、これに至っては東京内部での事件で、明らかに人道に反する事を行なっている側とそれを抑制する側に分かれている。世界各国で、能力による事件が相次ぐ中、政府は未だに対策本部さえも立ち上がる予定はないと考えられる。創造主と破壊主は未だに発見されていない。
しかし、科学技術者達は能力の強さを測るアビリティアナライザーなるものを作り出した。これによって能力の強さが判断出来るそうで、徐々に能力が世間に広まりを見せている事が分かる。
アビリティアナライザーで計測してもレベルが低いのに、強さが異常なものが出始めている。これからどうするのか次の世代のものに是非、書いていただきたい。
O.N
21XX年、アビリティアナライザーは1人の青年によって、ほぼ否定された。
先代の者がその青年を見ずに死んでしまったことが惜しいほどに、素晴らしく強い青年であった。
この時、能力を使用時に目の色が変化する形に能力が変化を遂げていたが、あまり関係性はないので、ここではアビリティアナライザーの事について、書いていく。
アビリティアナライザーは、10段階ある内、青年をレベル2と計測。数字が高い程強いと言われている為、青年ははっきり言って弱い筈であった。しかし、青年の強さはアビリティアナライザーでは測れないものである。なぜなら、レベル2がレベル10に勝ってしまったのだから…。
この事からも、アビリティアナライザーは否定されたと言えるだろう。これからどのような計測をされるのだろうか?
目の色も年数を重ねる毎に、変化はなくなり、能力の進化は著しいものだと考えられる。
次の者にも引き続き、能力そのものについての事に加え、アビリティ計測について書いていただきたい。
S.N
21XX年、能力は最終段階に達したと考えられる。
能力の使える幅があらかた理解され始めている。
能力計測には、アビリティそのものを計測する、つまり強さではなく、どのような能力で効果範囲等詳細を計測できるようになった。
アビリティの本質、アビリティアが研究で分かり、計測可能になったのは有難いことだが、リミッターを解除しアビリティアを操るようになった人間が増えると考えると、とても危険であると考える。
この伝記を読むものがアビリティが如何に危険なものであるか理解した者である事を祈る。
創造主は発見された。しかし、私が会った時には息も絶え絶えであった。そして、彼は私の目の前で亡くなることになるが、彼は不思議な事を言ったため、ここに書き留めておく。
「能力は作られるものではなく、初めからあるものが受け継がれる事で初めて成り立つ。つまり、創造主か破壊主のどちらともが消えてしまった時、能力はこの世界から消えることなる。だから、僕は消えることは無い。次の受け継ぎ手の能力と他にアビリティアの中に僕は生き続ける事になる。それから先は受け継ぎ手にしか分からないことだよ…」
M.N
追記、破壊主は未だに発見されていない。恐らく、そのうち創造主との争いは勃発すると私は考える。
伝記を読み終わった瞬間に、ひょっとして俺の中にいるやつは創造主、それか破壊主のどちらかなのかもしれないとそう思った。
やつの能力はよく知らないが、そんな気がしたのは必然と言えただろう。
「どうだ、神谷君。創造主と破壊主の関係、アビリティが生まれた理由、全てにおいてアビリティアは働いているだろ。」
「はい。最後の彼っていうのは誰なのか分かってるんですか?」
「この人じゃないかなって人はいるよ。ただそれが真実とは限らないから、あまり真に受けては駄目だよ。彼の名前は、神谷疾。君の祖父に当たる人物だ。」
「えっ…!なんで、最初からそれを教えてくれなかったんですか?」
思わず、大きい声を出してしまった。
「これを読んでもらってから、教えた方が理解しやすいだろう。俺だって知った時は驚いたさ。まさか、君のDNAと神谷疾さんのDNAが1部一致するとは思わなかったからね。」
足坂さんは苦笑いをしながらそう言った。
「分かりました。そういう考えなら、俺も同じ行動を取ってたと思いますし…。もう一つ質問なんですが、アビリティアが1部受け継がれる事ってあるんですか?」
「普通にある。というより、君の能力が創造的なものの時点でも断定できる。しかし、創造的な能力はいくらでもあるし、それを今断定する事は不可能だ。アビリティアの計測が出来ても、創造主が君の祖父と決まった訳では無いからね」
それを聞いて、俺は俺の中にもう1人違うやつがいると言いたくなった。だが、言えば完璧に変なやつだと思われるだろうと考え、言うのを抑えた。
「驚いたね、迅。お前の祖父が創造主を受け継ぎ手だった可能性が高いなんてな…。それにしても、なんで迅はあそこまで祖父との関係性を気にしてたんだ?」
誠はあの伝記を読んだ後、足坂さんと別れてから、考えが纏まれば話出し、やっと治まったと思ったら、次は俺に対する質問攻めだ…。
「あぁ、正直祖父にその可能性があるなんて、とても信じられないね。祖父との関係が気になったのは俺の中にもそのアビリティアがあるのだとすれば、創造主の受け継ぎ手ってなるのかなって知りたかっただけだよ。」
俺は笑顔でそう返したもの、祖父との関係については嘘をついていた。いずれ、ナツと誠には話そうと思っている事だが、俺の親がなぜ俺と一緒にいないのかについてだ。それが祖父と俺との関係にも繋がっている。あの事件は俺の中ではまだ終わってないのだから…。
「ねぇ、迅?隠してる事ない?」
ナツは唐突にそう言い出した。
「うん?無いよ。無いけどなんで?」
なんとか、普通の声で普通に取り繕う。
「そっか、ならいいんだ。ただ、何か気になってることとかあるなら言ってね。私でも誠くんでも良いから。」
ナツは笑顔でそう言ってくれた。
「あぁ、その時は言うよ。」
嘘をついたことで、胸が苦しくなるのを表情に出さないようにそう言った。
「それにしてもさ、裏切り者かスパイだかが支部所内にいるって言うのに、随分呑気な姿勢だよな。」
俺は話をいち早く逸らした。
「俺的には足坂さんは敵のボスは隠れてないと見てるんだろう。だから、まだ呑気なんだよ。足坂さん本人は多分呑気な姿勢なんかにはなれてないだろうけど。」
あの、裏切り者が職員の中にいると判明した時の足坂さんの事を思い出したのか、誠はそう言った。
「そうか。足坂さんはこれからどうする気だろうね。」
「裏切り者を見つける!!」
ナツがドヤ顔をしながら、そう言って俺たち2人の顔を見た。
沈黙が続く。
「ナツが話に入ると全く考えられなくなるな。」
誠がポツリと俺に囁く。
「あぁ、ナツはネジ飛んでるから仕方ない。前からだろ。」
俺も誠に囁く。
それをギリギリ聞こえる範囲にいたナツは囁いた内容を聞いて、機嫌を悪くして、どんどん突き進んで行ってしまった。
「あぁ…、ナツが行っちゃった。あいつ、道にすぐ迷うから追うか。」
誠はそう言って走り出そうとした。
「ちょっと待ってくれ。誠が1人の時にしか聞けないことがあったから、丁度いい機会だ。」
俺はそう言いながら、誠の腕を掴んで走り出すのを制止した。
「なんだよ?聞きたい事って?ナツに聞かれちゃまずいのか?」
「ナツにはメールで待ってるようにいったから、多分待ってくれてる。ナツには聞かれたくないし、本当なら俺だって聞きたくないことだ。」
俺は敵が襲来して来てから、ずっと引っかかっている事があった。
「なら、別に聞かなくて良くないか?」
誠はそう言って、いつもの顔をこちらに向ける。
「そうはいかない。俺達がこれからやっていくのに必要な事だ。誠、お前は一体誰なんだ?」
俺は今日敵が襲来した時に、誠の名前が呼ばれていないことにはすぐ気づいた。しかし、誠が裏切り者な訳が無い。別々のところに住んでいるとはいえ、幼馴染みで、いつでも隣にいる奴に俺といる以外に時間を費やしているようには思えなかったからだ。なら、今日いる誠が誠じゃない可能性がほぼ100%と断定した俺は、本物の誠だったら関係が悪くなる事を覚悟で聞いた。
「はっ、何言ってんだよ?今日、いつもと違って、なんかおかしいところでもあったか?」
誠は明らかに機嫌を悪くした様な表情でそう言った。
「あぁ、いつものお前なら足坂さんのことは次の日には知ってただろうな。友好的な関係を築くにはその人の情報からだってお前はいつも俺に言ってた。けど、今日のお前は違う。知らなかった。さらに、敵が襲ってきた時にも、お前の名前だけ呼ばれなかったんだ。」
「それだけの理由で、俺を裏切り者だって言うのか?そうか、ならこんな団体辞めてやるよ!!」
「やっぱり、お前は誠じゃない!誠なら、俺とあいつの関係なら、そんな事は言わないからな。」
「バレてるなら、もう演技する必要も無いか…。後はお前らを殺してあの方へ献上するまでよ。本当は帰り際に後ろから1発楽に殺してやろうと思ってたんだがな。」
誠の顔だったのが、知らない奴の顔に変わる。
ナツが走って戻ってきた。
「やっぱり誠君じゃなかったんだ…。」
ナツには誠(敵)が本を読んでる時に、俺の推測をあらかた話しておいたのだが、初めは冗談だと思っていたらしいが、俺の真面目な表情を見て一瞬で信じると決めたらしい。
「誠はどこにいるんだ。」
「教えるやつがいるかよ。自分の能力でどうにか出来なかったやつが悪いんだ。」
「お前はそこらの化け物とは違うようだな。」
「あれはただの操り人形だからね。俺は人間で能力者。君たちと敵対関係にあるかどうかだけが違いさ。」
「ナツ!!足坂さんに誠を探してもらうように電話してくれ。俺はこいつを止める!」
伝記の部分がこれからのストーリーにも関係する部分があるので、是非読んでいただきたいです。