現想の交差点にて   作:d.nob

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すごく久しぶりの投稿です。よろしくお願いします。


10話-EX1

「さて、それでは手短にしましょうか」

 

 康輝はそう言って地図を机の上に広げら、咲夜の対面の椅子に座りなおす。その地図には幻想郷の全体図と様々な色調の印がつけられている。自信満々といった表情の康輝に咲夜はため息をつきたくなる。普段は気のいい同僚だが、こうなると長いのだ。時間がない身としては無視して異変解決に向かうべきかと思案し、未だに激しく吹きすさぶ吹雪を映す窓を覗く。咲夜の視線の先から思惑が伝わったのか、少し焦ったような表情で説明を始める。

 

「あのほんとに直ぐなんで、聞いて下さい」

 

 広げられた地図を指差し印の解説を始める。

 

 

 

 

 

 康輝はまず赤い地図上に示された赤い印を指差す。印は地図上に散見され、里に近いほど多く離れるほどに少なくなっていく。またその横には狼、猪、熊等の名前が添えられている。配置や名前に規則性の様ななものはなく、強いてあげれば里の近くほど多いという事くらいだ。

 

 赤い印は妖怪に遭遇した概略の場所で、里から離れるほど赤が少なくなるのは遠くには人が殆どいかない事と、里の遠くで妖怪にあった者が無事に帰る事が殆ど無い為だ。どこで出会ったのかなど無事に帰った人からしか聞くことはできない。

 

「まあ、これは関係ないと思います」

 

 そのことは咲夜にも予想がついていた。冬を終わらせなくするあるいは春が来ないようにする異変が、動物の姿しか取れない程度の木っ端妖怪に起こせるはずもないのだから。咲夜はそれに頷くと地図を見ていた視線を上げ、康輝に続きを促す。

 

「それで、他のはどうなの」

 

 その言葉には言外に「有益なことはあるのか」という意味を含んでいた。地図上に他にあるものといえば里から北北西に伸びる青と桜の判だ。青色は里から紡錘型に北北西に伸び、桜は人里付近では青色に重なり北北西に広がる森に向けて広がっていく。偶然一致したと言うには出来すぎなほどである。

 

 青は今年の晩冬から現れだした、色素の抜けた白髪に二刀を携えた朧げな雰囲気を纏った少女の目撃箇所だ。件の少女は目撃した場合でも決して人を殺したりせず、余りに浮かれていたり、未だ来ない春の様に陽気な頭の者等だけを誅している。誅されたものは外傷は負っていないものの意識はなく、人里の北門までいつの間にか運ばれ、目覚めたときにはちゃらんぽらんであった心が冷え、まともさを取り戻すらしい。そんなことから、浮足立った阿呆を斬る「阿呆斬り」と畏敬や親しみを込めて呼ばれることもある。阿呆を斬るのか阿呆が斬るのかわからない大変不名誉なあだ名だ。

 

 里から離れるほど印が少なくなっているのは赤の印と同様に、単純に遠くに向かう者がいないためだろう。

 

 こうなるとわからないのは桜色の印だ。これは地図上に示されている判の中で最も多く、そして遠くまで印が付けられている。里から離れるほど疎らになるわけでもなくむしろ多くなっている。どの様な意味をもって記されたのかは見当が付かない。これまでの傾向から言えば、目撃ないし確認の箇所という事になるのだが、それでは離れた場所にも多くある桜の説明がつかない。咲夜はしばし頭を捻り逡巡するが、時間惜しさに思考を切り上げる。

 

「これは一体どういった印で」

 

 咲夜の疑問を受け取ると康輝は余裕綽々といった表情を崩し、重くなった口をゆっくりと開く。

 

「春が、奪われた場所だそうです」

 

 咲夜は返る答えに唖然とする。春が奪われるという事の意味は何となく推察できる、その方法までは分からないが。思考が空白になった原因はそれの持つ意味だ。これは答えなのだ、今回の異変の。

 

 地図を見返せば里の近くに桜色と青が北北西へと広がりその先に首謀者の本拠があるであろうことを教える。妨害が無く、すぐにバレない所、そういった場所は各勢力の圏外を指す。霧の湖、妖怪の山、太陽の畑、そして人里、これらの中には印は無くある場所はどこの勢力からも圏外となる箇所だ。

 

 奪うという作業は現場と本拠を往復し、何かをそこから取り去る作業であり、自己勢力の総本山の裾野こそ楽に行え、隠匿しやすい。そのことを鑑みれば敵の本丸は里から北北西にある筈だ。これが偽装や陽動である可能性もあるが、異変は妖怪の強大な力を示すためのものであり、完全犯罪を行う必要はないためまずないだろう。むしろ知られていなければならないものなのだから。

 

 阿呆斬りの少女も異変の関係者、大穴でその敵対者といったところだろう咲夜はそうあたりを付ける。

 

 呆気なくでた答えは咲夜にとって余り納得できるものでは無い。まるで推理小説の調査や証拠集めの一切が省略されて、事件の直後に解決しているようなもので味気なく充足感も無い。このまま異変を解決しても自分が満足できそうもない、そんな気がする程。

 

 だがそれだけの意味を持つ春が奪われた場所、一体誰が知っていて誰が康輝に伝えたのだろうか。

 

 思い返せばあの時もだ。ぱそこんなる機械の表計算そふと、それを使い店の出納帳を作成していた。炎を用いない熱を生み出す炉。そして、博麗の巫女と白黒の魔法使いが出立したことを知っていた事。考え出したらきりがない、露骨すぎる妖しさはいつでも並んでいた。咲夜にため込まれていた疑問は不信という形になって噴出する。

 

「最後に一つ確認したいのですが、これはのようにして知ったのですか」

 

 咲夜によって放たれた言葉は静かに重く、抜き身の刃の鋭利な瞳、受け手となったの康輝を射すくめる。康輝は咲夜の敵意の篭った視線をしっかりと見つめ返し、明瞭な言葉を返す。

 

「企業秘密です」

 

「私もここの従業員では」

 

「あっ……」

 

 正面に送ったストレートは見事に打ち返され、放った本人へ康輝へと返る。咲夜の思わぬカウンターに同輩はよろめき、強い意志の篭っていた瞳は宙へと泳ぎ出す。先程までの毅然とした態度は鳴りを潜め、咳払いを一つして何とか誤魔化そうとする。

 

「と、とにかく、教えることはできないんです」

 

 咲夜は誤魔化す同輩に溜息の一つしそうになる。どうにも締まりがない。ここでいまいち二枚目なりきれない同輩を締めあげて情報提供者を吐かせるべきか、そんな考えが脳裏によぎるがそんな必要もないだ寄ろうとちらついたものを頭の片隅にしまう。

 

 咲夜にとってはこの情報が誰からもたらされていようが関係ない。例え首謀者からの罠だとしても関係ない、異変解決の障害となるものは全てなぎ倒せばいいからだ。仮に全くこの情報が役に立たなかった場合は、ぶっ飛ばす奴がもう一人増える。何かを感じ取ったのか康輝は暖房の効いているはずの室内で身震いをする。

 

「まあいいわ、そのことについては私が異変を解決した後にきっちり聞くわ」

 

 情報の無いまま暗中模索するよりは随分な短縮につながるだろうと、感謝を告げ咲夜は席を立つ。開始してから思ったほどの時間は経過しておらず、時計の長針は半周もしていない、本当に手短にした同僚に、心の中でだけ賛辞を贈る。

 

 康輝は最後にと小さめの二つの箱、円筒と扁平な四角を渡す。どちらもかさばる物では無い為携行するに不満は無いが不要なものも持つつもりはない。

 

「生姜湯と携行食です。異変が解決した後に説明します。どうかお気を付けて」

 

 康輝に見送られ店を後にする。多少の時間短縮にはつながるだろうが、遅れたことには変わりないと気を緩めることなく、北北西へ向かう。立春はとうに過ぎたはずの幻想郷の空気は真冬と同等以上に張り詰め、飛翔する咲夜の肌を震えさせた。

 

 

 

 

 

 北北西の長い森を抜けると異界であった。

 

 雪降り止まぬ厳冬の寒空に大きく空いた昏い穴、その前には三体の妖怪の影。

 

 情報の精度に嬉しいような悔しいような気持ちを咲夜は抱く。なるほどやつはいい働きをしたようだ、ならば私もやるべきことを果たす。

 

 異変を解決する。それが紅魔の従者としての嗜みだ。

 

 

 

 

 




もうちょっとしたら2話-EX、10話-EX2、11話いづれかを投稿する予定です。
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