気が付くと僕は、憧れていたはずの先輩に向けて、拳を向けていた。
先輩をぶっ倒して、僕がマウントして、一発、思い切って顔を殴ろうとした。だけど、そのゲンコツを彼の目前で寸止めしたところで、僕ははっと我に返った。
「どうした?」
感情的にならず、話し合いで解決しようと計画したのに、その計画はあっさり破られた。あふれる怒りを拳に変えてしまった。
その時点で僕の負けだ。
「殴れよ。殴ってスッキリしちまえばいいじゃねぇか。」
挑発的な言葉に、つい奥歯を噛みしめる。返す言葉がなかなか出てこない。
とてつもなく悔しかった。胸の奥をぐちゃぐちゃにされる感覚。僕は叫ぶ。自分の出せる精一杯の音量で叫ぶ。
そして僕は、彼に怒りをぶつけた。
思えば、僕の受験はとてつもなく苦労が絶えなかった。
中学受験も高校受験ももちろん大学受験も、すんなりと思い通りに合格したことなんてなかった。受験と言うものに縁がないのだろうか、と悲しみにくれながら、滑り止めの大学に入学を決意してから早1か月弱。ようやく入学式の日を迎えることができた。
もう入学式で緊張する年齢ではない。はるか昔には学校生活への期待と友達が作れるかという不安に胸を躍らせていたものだが、今ではただの通過儀礼だ。
式が終わると早速サークルの勧誘が待ち受けていた。
「バスケやろうぜ!!」
「声がいいね。合唱やろうよ!」
「君、自転車乗れる?」
「民族楽器に弾きませんか?」
「ぜんっぜんあやしくない宗教サークルでーす」
運動系、文化系などが列をなしてビラを配っていた。これは早く抜けないと大変だな……と、断りながらすりぬけていく。
しかし質の悪い勧誘だ。「自転車乗れる?」ってみんな乗れるだろ。民族楽器なんて弾けないよ。だいたい最後のはなんだ。自分で怪しくないっていうサークルがどこにいる。などと心の中でツッコミを入れつつ、人ごみの中を抜けていった。
そしてそのまま僕は広いキャンパスをサークルの勧誘に出会わないように歩いた。とにかく話しかけてほしくないというオーラを放ちながら歩き回った。
新しい場所に来たとき、探索をするのが僕は好きだ。
これから過ごす場所をなるべく知りたいという気持ちに駆られる。そしてこの探索はなるべく邪魔をしてほしくなかった。
歩いていると、どうやらサークル棟らしき場所に着いた。いや、着いてしまった。どうやら文化系サークルの拠点となっているらしい。
結構歩いたなぁ。疲労感を感じた僕は、サークル棟の一階に生協運営のコンビニが入っていたのを見つけ、そこで一休みすることにした。
「いらっしゃいませー」
いちごミルクのペットボトルを手に取ってすぐ購入した。店先のごみ箱付近で渇いたのどを潤す。甘ったるさがちょうどいい。
ちらと店の外の周囲に目をやると、道路を挟んだ向かい側でアカペラサークルが春らしい曲を奏でていた。
その向こうには、演劇サークルだろうか、台本を片手に演技の練習をしているのも見えた。
いや、ああいうのは僕には向いていないだろう。人前で立って何かをするというのは。
逆方向に目をやると、来るときは気が付かなかったのだが、なにやら長机が置いてあった。その上に数冊の雑誌が縦積みで置かれていて、見張りの番がパイプ椅子に少し気だるげに座っていた。文芸サークルかと最初は思った。
僕はそれに不思議と興味を持った。
そもそも僕は文芸サークルに入ろうとしていたのだ。子供のころから本を読むことが好きで、唯一国語だけは何も勉強しなくとも点が取れていた。自分で文章を書いたこともあった。当時は作品のためにいろいろなことを吸収したかった。
だから、探索することも好きだった。小説家は散歩をしながらネタを考えるという。歩くことで僕も小説家になれる気がした。
しかし大学の広さをなめていた。ウォーキングに疲れた僕は、自らそれを中断して、雑誌が積まれた長机の前に立った。
「こんにちは」
「いらっしゃい」
「これ、読んでもいいですか?」
「……あー、どうぞどうぞ」
見張りの人はどうやらゲームに夢中だった。態度悪いなぁと思いながらその本に目をやる。タイトルを読んで僕は頭の中に疑問符が浮かんだ。そして思わずそのタイトルを声に出してしまった。
「ゲーム改革?」
それが、僕とこのサークルの出会いだった。
初投稿です。よろしくお願いします。
見やすさを意識するのは大変ですね。