旅費というにはいささか多い金額をいただきプロデューサーとしての一歩を踏み出したのですが、私は何から始めれば良いのでしょう?
漠然とスカウトしてこいと言われましても、正直誰にどのように声を掛ければ良いが分かりません。
これはピンチです。
新幹線に乗り込んだ時は期待と不安が半分半分でしたが、今は不安しかありません。
本当にどうしましょう...
スカウトというと道行く人に突然、「アイドルやりませんか?」って声を掛けるんですよね?
ハードル高すぎじゃないでしょうか...
神戸に着いて二時間ぐらい過ぎようとしていますが、まだ一人も声を掛けていません。
平日ということもあって街には奥様ばかりいらっしゃいます。
奥様でもオッケーでしょうか?
いやいやいや、アイドルです!既婚者に声掛けてどうするんですか!
確かに既婚者でも素敵な方はいらっしゃいます。
でも、見習いプロデューサーがいきなり既婚者アイドルなどハードルマシマシです。
ここは無難に学生とかにしましょう。
夕方ぐらいまで時間を潰して下校時間ぐらいに駅前で声を掛ければ一人ぐらい興味を持ってもらえるかもしれません、我ながら安直ですが王道です。
ということで昼間は観光することにしました。
羽を伸ばすってやつです。
ポートアイランドにでも行って千川さんに渡すお土産買っておきましょう。
ポートアイランドに着くと私はあてもなくブラブラ散策をしました。
小一時間ほど歩いて疲れたのでベンチで座って缶コーヒーを飲んでいると目の前を小学生ぐらいの集団が通り過ぎていきました。
遠足でしょうか?引率の先生について鴨の親子のように歩いていきます。
制服だったのでどこかの私立小学校なのでしょう。
小学校がら私立とかお金持ちの子供なのかなとボーっと眺めていると、その視線に気づいたのが引率の先生が疑いの目でこちらを見てきました。
流石にこんな平日の昼間にスーツを着て公園のベンチで座りながら小学生の集団を見つめていたら変な人に見えますよね。
私だってそう思います。
ワザとらしく頭を掻きながらベンチから立ち上がり、お土産屋が売ってそうな店舗で買い物を始めました。
適当に品を物色して、お土産を買い、昼食を済ませたところで再び駅に向かいます。
そろそろ学校を昼からサボって街で遊び始める学生が現れる時間です。
そういった子の方が根性があって意外とアイドル向いているかもしれません。
期待を胸に抱きながら駅前でスカウトというやつを生まれて初めて行いました。
結果はというと全敗です。
基本的には相手にもされず、立ち止まってくれたとしてもアイドルになりませんか?と声を掛けた瞬間、表情を強張らせて立ち去ってしまいます。
場合によっては「警察を呼びますよ!?」と言われたりして...もう泣きそうです。
好奇心旺盛な子などは、そんなことより遊びに行こうとか言ってきたりしましたが、正直そんな気分ではないです。
予想はしてはいましたが、ここまで話を聞いてもらえないとは...
一応スカウト期間は2泊3日いただいてますので、今日がダメなら明日は大阪にでも行ってみようかと考え始めた時、ふと視界に気になる子が入り込みました。
小学生の制服。
それはさっきポートアイランドで見かけた制服と同じ制服でした。
あれから結構時間が経っています。
というかかなり時間が経っていて、もう日も暮れそうです。
こんな小さな子供が出歩くには少し遅いのではないでしょうか?
都会だからこんなもの?
少し気になり、私は声掛けを一度中断してその子供の後を追ってみました。
しばらく遠巻きに見守っていましたが、これは迷子のようです。
さっきから行ったり来たりして、どこか目的地があるようには見えません。
流石に放っておくことはできませんね、声を掛けてみましょう。
「な、何か?わたくしに用がありまして?え?迷っているみたいだから声を掛けた?し、失礼ですわ!迷ってなんかありませんわ!」
いえ、どっからどう見ても迷ってます。
初対面の人間だと思って警戒しているなら、行き交う人に代わりに交番までの道を聞いてあげますから強がらないでください。
「う...申し訳ありません。せっかく心配してくださっていたのに、その気持ちを無下にしようとしてしまって...」
お、意外に素直な子です。
昨日会った子供とは全然違います。
正直昨日の一件があったので、いきなり怒りだすことも覚悟していたのですが、そんな心配は杞憂でした。
話を聞くと、遠足でポートアイランドから帰ってきて駅前で解散したのは良いが迎えがなかなか来ないので少し歩いてみたら道に迷ったとのことです。
「ほ、ほんの少し歩くだけのつもりだったのですが、気付いたら人混みに流されていつしか知らぬ場所に来てしまって...」
確かに夕方の駅周辺の混み具合は大人の私でも押し流されるぐらいです。
こんな小さな子ならなおさらでしょう。
でも、これで解決ですね、駅前までこの子を連れていけば迎えに来た家族が見るかるでしょう。
「ありがとうございます。私みたいに見ず知らずの子供に親切にしていただいて何と感謝を申し上げたら良いか。」
それにしても、かなり礼儀の正しい子供ですね。
もしかして私より言葉遣い丁寧なのでは?
何か凹みます。
「どうかなさいまして?」
おっと、落ち込んでいる場合ではありません。
無事にこの子を駅に連れて行かなければ。
人混みは相変わらずですので、私は彼女へ手を差し伸べます。
「あ、手を...確かにまた人混みに流されるわけにはいけませんわね。」
当然といえば当然ですが、かなり小さな手です。
こんな小さな子が一人で道に迷って、さぞ心細かったでしょう。
もう大丈夫です。
スカウトは下手かもしれませんが、さっき来た道を戻るぐらいは任せて下さい。
駅前にはすぐに着きました。
ご家族がいらっしゃるまで駅前のベンチで座っていましょう。
よく見ると彼女はかなり目立つ容姿をしています。
小学生とは思えない髪の色、整った顔立ち。まさにお人形さんみたいです。
「どうかいたしまして?私の顔に何か付いています?」
いえ、貴女に見とれていました。
などと冗談を言えば、きっと冗談だと分かってもらえずこの子は走り去ってしまいますね。
私はこの子の家族が現れるまで世間話でもすることにしました。
自分がアイドル事務所のプロデューサーである事。
今日神戸へ来てスカウトを始めたがいいが全く相手にされない事。
昨日、小学生と思わしい少女に説教された事。
相手が子供であったせいか、何の気兼ねもなく話が出来た気がします。
「ふふふ、とても変わったお方なのですね。面白いですわ。それにしてもアイドルプロデューサーの方とお会いしたのは初めてですわ。所属事務所にはたくさんのアイドルの方がいらっしゃって、きっと煌びやかなのでしょうね。」
どうやらアイドル事務所に多少は興味があるようである。
やはり女の子であればアイドルというものには誰だって興味があるのでしょうか?
「そうですわね。両親に連れていかれたパーティーで何人かアイドルの方をお見かけしたことがありますが、どなたもとっても華やかでしたわ。」
パーティーとはやはりこの子はご令嬢らしいです。
私もご令嬢とお話したことは今日が初めてです。
「それで、貴方はスカウトに失敗し続けて困っているのですよね?」
あ、はい、そうです。
正直すごく困ってます。
「それでしたらわたしくをスカウトしてみたらいかが?」
はい?
いやいやいや、まだ小学生ですよね、貴女。
あ、でも今の時代は小学生がアイドルしててもおかしくは...
いやいやいや、私に小学生をプロデュースとか無理でしょう!
無理無理!確かにすごく可愛らしいですが荷が重すぎます!
わがままとか言われたら困りますし、第一親御さんを説得出来る自信がありません。
「何か失礼なことを考えていそうに見えますわ。わたくし、こう見えても困っている人は放っておけないタイプですの♪」
放っておけないタイプですの♪じゃないですよ!
さっきまで困っていたのは貴女ですよね!?
いきなり何強気になっているんですか!?
「何をウジウジしているんですの?わたくしのプロデューサーならもっとしっかりしなさい!」
あ、いや、勝手に話を進めないでください。
ドヤ顔で私を自分のプロデューサーにしないでください。
そんな私を尻目に、彼女はベンチから立ち上がり私の正面に立つ。
「自己紹介致しますわ。わたしく櫻井桃華と申します。プロデューサーちゃま、精一杯わたくしをプロデュースしてくださいまし♪」
これは困りました。
この櫻井桃華という女の子はすっかりアイドルになるつもりでいます。
これはどうしたものでしょう。
確かに彼女の容姿、ご令嬢という肩書はとてつもなく強い武器になると思います。
でも、アイドルとして成功するには多少なりと挫折を味わう事になるでしょう。
こんな小さい頃からそんな世界に足を踏み入れてしまって良いのでしょうか...
私が今自分が感じたことを素直に彼女に伝えました。
いざ入ってしまうとなかなか諦めきれない世界です。
それなら最初に辛い事を教えてあげてあげる方が親切だと思います。
でも、そんな私の思惑とは裏腹に彼女はこう答えます。
「それならプロデューサーちゃまが護ってくだされば良いのでは?」
...そんなこと言われて出来ませんと答えれるほど男を捨ててません。
そこまで言うなら分かりました!
やってやりますよ!
でもその前にご両親の許可です!
そこだけは譲れません。
ご両親の都合が良い時に、ご挨拶に向かいます。
住所を教えて下さい。
「それではプロデューサーちゃま。明日お待ちしておりますわ♪」
住所を確認して、名刺を渡すと彼女は歩きはじめたのだ。
あれ?勝手に動くとまた迷子になるのでは?
「もう心配ありませんわ。さっきからあそこの陰でこちらの話が落ち着くまで待っていたようですから。」
そう言われ彼女の歩きはじめた先を見てみると初老の男性が確かにこちらを見ていた。
あぁ本当にご令嬢なんだなぁと改めて感じされられました。
手を振る彼女に手を振り返して、私はホテルへと帰ることにしました。
何やら最近やけに変わった子供に縁があるようです。
翌日、約束通り彼女の家を訪問し、ご両親にご挨拶をしました。
「私の娘に何を吹き込んだ!!」と怒鳴られるのを想像していましたが、終始笑顔で娘がアイドルになることをむしろ喜んでいるようでした。
ご両親曰く「桃華は一度自分で決めたらテコでも動かないんだよ」との事です。
一時間ぐらいしか過ごしてませんが、その辺りは良く分かりました。
そしてご両親の許可をいただいてしまったからには、私も腹を括るしかありません。
昨日の内に千川さんに報告し、私が事務所に戻り次第手続きを始めるとの事です。
「それではプロデューサーちゃま♪改めてよろしくお願い致しますわ♪」
こちらこそよろしくお願いします。
えっと、今どきの小学生はいきなり名前で呼ぶと怒るんでしたっけ?
では櫻井さん?
「あら?苗字呼びだなんて失礼ですわ。わたくしには桃華という愛らしい名前がありましてよ?」
確かに愛らしいですが、自分で言いますか普通。
でもまぁこの自信はアイドルとして必要なことかもしれません。
輝きたい、輝いてみせるという気持ちは強いほうが良いに決まってます。
では、桃華。
改めてよろしくお願いします!
目指せ!トップアイドルです!
ご拝読ありがとうございます。
そして毎回誤字訂正ありがとうございます。
この場を借りて、お礼申し上げます。
さて、やっと担当アイドル持つことができました。
結構無理やりかなと思いましたが、勢いで書いていくスタンスは続くと思いますので付き合って下さる方は引き続きよろしくお願いします。