遂に私も担当のアイドルを持つこととなりました。
櫻井桃華。
彼女をこれからプロデュースしていくわけですが、まだ12歳ということもあって暫くは学校が休みの土日のみの活動ということにしています。
活動といっても事務所内でレッスンが基本的な活動です。
桃華は今のところはアイドル候補生として事務所に所属という形をとっています。
本人は不服そうでしたが、最初にある程度アイドルとしての心構えを持ってもらうことは大事だと思います。
また、仲間との出会い、一緒にレッスンをさせることによって切磋琢磨してほしいという狙いもあるのです。全部千川さんの受け売りですが...
先ほど土日と述べたように、桃華と一緒に活動(レッスンを見学)しない平日は基本的に他のアイドルのレッスンなどを見学させてもらい勉強することとなりました。
アシスタントのアシスタントしていた時よりかなり時間に余裕ができたのでお昼は部屋ではなく食堂で摂ることも可能になりました。
今日もお昼に食堂で定食を食べ、昼休みに広場のベンチでのんびりとした昼休みを過ごしていたら珍しく私に声を掛けてくる子がいました。
「あ...あの...」
ここへ来て仕事以外で話しかけられたことがなかった私は最初自分が話しかけられてとは気付かず見事にスルーしてしまいました。
「む、無視することはないじゃありませんか!」
そこまで言われてやっと自分に話し掛けていることに気付き、急いで振り向いたらそこにはいつぞやの少女が立っていました。
えっと、名前は何て言ったでしょうか...
確か...ありすちゃんです。
「橘です!」
あ、そうでした。
この子は名前で呼ばれるのが嫌いな子でした。
せっかく可愛らしい名前がもったいない。
「最近よく見かけますが、お仕事はないのですか?」
いきなりすごいことを言ってるように一瞬思いましたが、おそらく純粋に私が暇そうに見えたのでしょう。
確かにここのプロデューサーは皆さん忙しそうで、昼休みに昼休みらしくしているのは私だけかもしれません。
「あ、いえ、お休み中にお邪魔ならすみませんでした。戻ります。」
あらあら、こんな小さい子に気を遣わせてしましました。
そんなことはないと私は少しスペースを空けて彼女に座るように促しました。
彼女は少し戸惑っていましたが、空いたスペースにちょこんと座って俯いてしまいました。
あれ?何か話があったんじゃないのでしょうか?
私は俯いたまま口を開かない彼女の顔を覗き込もうかと顔を近づけたら
「か、顔が近いです!もう少し離れて下さい!べ、別に隣に座って恥ずかしいわけじゃないですから!」
あ、恥ずかしかったんですか。
生意気な子供だと思っていましたが、意外と可愛いところがあるではないですか。
「な、なにニヤニヤしているんですか?わ、私はお昼休みに一人で寂しそうにしているのを見かけたので話し相手になってあげようかと思っただけで...」
なるほど、そんなに私が寂しそうに見えたのですが。
確かにここにいるのは私一人で、周りから見たらさぞ寂しそうに見えたんでしょう。
「そ、それでですね。貴方は見習いさんでしたよね?」
いえ、橘さん。
実は私、正式にプロデューサーになったのです!
しかも既に担当をスカウトするという僥倖を行ったのですよ!
私は自分でスカウトしたわけでもないのに、あたかもスカウトしたように話しました。
「そ、そうなんですか。おめでとうございます。ではもう見習いさんじゃないんですね...」
あれ?何やら少し元気がなくなった気がしましたが気のせいでしょうか?
「調子に乗らないでください。一人前というのなら真面目に働いてください」とか言われるのかなと想像していましたがどうやらそんな感じではなさそうです。
この前散々怒鳴り散らしてたのに、急にしおらしくなると調子狂うではないですか。
「あ、も、もう昼休みが終わりますね。私はレッスンに戻ります。では。」
そういうとありすちゃんは速足で中へと帰っていきまいた。
何か話があって話し掛けてきたかと思いましたが、本当に私が寂しそうに見えたんでしょうか?
それはそれでちょっと凹みます。
昼休みが終わり、部屋へ戻って書類整理をしていましたが、ありすちゃんの態度がどうしても気になり千川さんに彼女がどういう子か聞いてみることにしました。
「橘ありすちゃんですか?可愛い子ですよね♪」
はい、怒らなければすごく可愛いです。怒らなければ。
「でも少し気になるところがあって...」
気になるところ?それは興味がありますね。
「彼女、何て言うか...すごく背伸びをしているんですよ。周りに一人前として認められたいって感じで。」
あー、確かにそうですね。
初めて会った時そうでしたが、子ども扱いされるのがすごく嫌いそうでした。
「それで担当のプロデューサーの方と上手くいってないみたいで...。最初はありすちゃんの相手を真面目にしていたみたいですが、彼女が求めるアイドル像とプロデューサーさんが求めるアイドル像が食い違ってしまったみたいで....」
なるほど、方向性の違いですか。
要は子供向け番組などの出演に文句を言ったようです。
いや、子供なんですから子供向け番組でも良いんじゃないかと思いますが。
「担当をしているプロデューサーさんも同じようなことを言って言い聞かせようとしたみたいですが、口論になってかなり強く叱りつけたみたいですね。」
なるほど、かなり勝気な性格だと思いましたが、大の大人と口げんかして、思いっきり叱られたと。
教育といえば聞こえは良いですが、あんな小さな子を強く叱りつけるとは私にはできませんね。
いえ、半人前が偉そうな事は言えませんが。
「でもウチってプロデュースの方針はプロデューサーさんに一任してるんですよ。ですから、どちらかから担当を変えて欲しいって言われるまでは様子を見ようって話になって...あ、もちろんあまり怖がらせないようにって注意はしましたよ?で、それからしばらく様子を見てたんですが、先日ありすちゃんのプロデューサーさんが異動届を出してしまって...」
ということは、ありすちゃんは今担当プロデューサーがいないってことですか。
あ、なるほど。もしかしたらさっき私に声を掛けてきたのは悩み相談だったんですね...
私は今日は早めに仕事を切り上げ、プロダクションのエントランスでありすちゃんが出てくるのを待った。
千川さんの話では、彼女は一人になってからも毎日事務所へ顔を出しレッスンに励んでいるとのとこです。
何て強い子でしょう。
ありすちゃんは時間ギリギリまでレッスンをしていたようで、私が彼女を見つけたのは夕方でした。
「あ...半人前さん。いえ、もう担当持ちの一人前のプロデューサーさんでしたね。」
やはり先日会った時と比べて元気がない。
「何か用ですか?これから帰りますので用件があれば手短にお願いします。」
心なしか話し掛けてきた昼とは違い、私と距離を置こうとしているように見えました。
私は駅まで一緒に歩こうと提案して彼女と帰ることにしました。
彼女は迷惑そうな顔をしましたが、私が半ば無理やり付いて行くと諦めて「では、駅までだけですよ。」と良い溜息をつきました。
そんなあからさまな態度を取らなくても...
「で、何の用なんですか?昼間の話の続きですか?担当アイドルの自慢でしょうか?」
明らかに機嫌が悪そうです。
でも私が話したいのは今回はそれではありません。
正直誰かに自慢はしたかったですが、今の彼女に話す言葉ではありません。
私は千川さんからありすちゃんの事情を聞いたことを話しました。
「な...そ、そうですか。それで?貴方も私に説教を言いにきたのですか?この前の仕返しというわけですか!?確かにこの前貴方にエラそうなことを言ったので罰があたったかもしれませんね!でもそんなにいけませんか!?自分の理想を語るのって!?私だって、あの人が言っていたことを理解できてないわけではありません!でも、しょうがないじゃないですか!夢があるんですもん!それとも子供は大人のいう事を素直に聞かないといけない決まりでもあるんですか!?」
あ、熱くならないでください!
そして、とりあえずこのハンカチで涙を拭いてください!
ちょっと予想外です。
まさかいきなりここまで感情的になるなんて。
もう少し理論的な子だと思ってました。
あぁ、私もきっとその人と一緒なのでしょう。
彼女を勝手に強い子だと思い込んでしまっていた。
見てください、顔を赤くして瞳に目いっぱいの涙を浮かべて...どこが強い子ですか。
ちょっと気が強いだけで、大人ぶってるだけのか弱い女の子なんです。
私は彼女が落ち着くまで何も言わず待っていました。
何も言えないと言ったほうが正確かもしれません。
今まで流されるまま黙々と仕事をして、真剣に何かに向き合ったことのない私に彼女の心に響く言葉が言えるはずありません。
「す、すみません。少し感情的になりました....」
いえ、良いんです。
私がそうなるように仕向けたようなものですし、こちらこそすみません。
「な、なんで頭を下げるんですか?私、貴方に謝られるようなことされてませんけど。」
いえ、しましたよ。
無神経にも貴女の心を傷つけてしましました。
本当をすごく寂しかったんですよね。
誰かに言いたかったんですよね。
それなのに私は浮かれて貴女に得意げにスカウトの話などをして...
「別に気にしないでください。こちらも話せて少しすっきりしましたから。ありがとうござます。」
そんな冷静を装わないでください。
貴女が強がる度に私の心が痛くなります。
私は何て半人前のプロデューサーなんでしょうか。
これから一人のアイドルをプロデュースすることになるのに、目の前のアイドルを笑顔にすることさえできないなんて。
...いや、まだ諦めません。
簡単に諦めたらいけないと思います。
成り行きで始めたこの仕事ですが、プロデューサーとして生きるためにここは諦めたら駄目です。絶対。
目の前のアイドルを見放して何がプロデューサーか!
私にだって彼女に出来ることがあるはずです...!
「あの...どうしました?急に黙り込んで?本当に気にしてませんから貴方も気にしないでくだ...」
彼女が話を切り上げる前に私は彼女に言いました。
------私の下でアイドルをやりませんか?
ご拝読ありがとうございます。
そしてまた誤字を修正いただき誠にありがとうございます。
今回も勢いで書きましたが、シリアス苦手です。
おそらくシリアスは今回限り?だと思います。
お前本当に桃華Pなの?ありすの方が気合入ってんじゃない?
って感じかもしれませんが、桃華Pです。
でも、桃華は脳内で楽しい妄想しかしていないので、こういった話は書けないと思います。
次からは楽しい感じにしたいです。