クロスもの   作:とましの

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3話

ある晴れた昼下がり。捜査中の魚住は街中で自動車による多重事故と遭遇する。すぐさま部下に命じて管轄の署に連絡させた魚住は現場に直行した。

正面衝突事故からの玉突きによる多重事故なのだろう。ざっと状況を把握した魚住は二次被害を防ぐことを考えつつ救急に通報した。

しかし負傷者の出血を目にしたとたんに全身の血の気が引く。周囲には目撃者や野次馬が何人もいて救急車はまだかと声をあげている。その中で魚住は吐き気をこらえるため口を手で押さえた。

 

そんな魚住の背中を軽くたたき、誰かが横を抜ける。その瞬間、魚住の鼻に煙草の匂いが届いた。

「石黒は向こうの負傷者を救援な」

「わかりました」

長身の男性に指示を向け、その男はネクタイを肩に投げて袖をまくりあげる。頭部から血を出し地面に倒れる負傷者に近付くと大丈夫かと声をかけた。

やがてサイレンを鳴らして何台もの救急車が集まる。救急救命士が負傷者に駆け寄り男性らに声をかけた。迅速な処置をしていたふたりは外科医だと名乗った上で負傷者の状態を説明する。

「トリアージと応急処置を済ませて月城医大にも連絡してあります。向こうは受け入れ準備ができていますから、すぐ搬送しても大丈夫です」

「わかりました。ありがとうございます」

男の説明を聞いた救急救命士はすぐさま負傷者の搬送準備を始める。その頃には少し遅れた所轄の警察官が事故現場に到着していた。

 

「魚住さん大丈夫ですか?」

今までと違い会社員風の服装をした男を眺めていると部下に声をかけられる。男は今まさに担架に乗せられようとする負傷者に声をかけていた。

大丈夫だからと励ますその姿は魚住の怪我を処置したものと同じだった。

「魚住さん」

再び名前を呼ばれて魚住は部下に目を移す。すると真面目なオッドアイの瞳が心配そうに細められていた。

「大丈夫ですか? 顔色が悪いですし…ぼんやりしているようなので」

「ああ、大丈夫だ」

血が苦手であることは自分の問題で人に迷惑をかけることではない。それにこの状況でそれを心配されるのもおかしいのだろう。

そう考えながら魚住は再び現場に目を戻そうとした。そこであの男と視線がぶつかり魚住は驚きに眉を浮かせる。そんな魚住の視線の先で男は連れの男性の元へ近づいた。

男性に話しかけながら足元のカバンに手を入れている。すると男性も眼鏡越しに魚住へ目を向けてきた。

何を話しているのか気になるが、素知らぬそぶりを見せるべきだとも思う。そもそもあの男を目で追ってしまう理由が今でもわからなかった。

魚住は男たちから顔を背けると部下に後は所轄に任せる旨を告げる。

 

「お疲れ、外回り中か?」

そこに声をかけられ魚住は驚きの目で声の主を見た。すると怪我をしていないほうの腕をつかまれ手に缶を握らされる。

魚住が自分の手元を見る合間に男は部下にも缶を渡していた。

「救急に電話してくれたんだろ? 血が苦手だってのにすげぇな。助かった」

自分たちは救護で手一杯だったからと、男は礼を言って立ち去ろうとする。今までならその背中を見送るところだったが、今回は違っていた。

 

缶を部下に持たせると男の後を追いかけその腕をつかむ。そうして足を止めさせると連絡先を問いかけた。

魚住が見つめる先で問われた男はぽかんと目を丸めている。だがややあって不遜な笑みを浮かべると携帯電話を取り出した。

番号を魚住に見せながら飯でもおごってくれるのかと笑う。

「ああ、肉で良かったら」

「なんでそこで肉なんだよ。ガチの体育会系かよ」

「男なら肉だろう?」

「んなことねぇよ」

男であれば当然喜ぶはずの肉に、この男は喜んだりしないらしい。やはり高給取りの医師だけあって一筋縄ではいかないのかもしれない。そう魚住が考えかけたところで連れの男性が声をかけてきた。

「明紫波、そろそろ行きますよ」

眼鏡を押し上げながら声をかけた男性は荷物を手に歩き出す。そのため男も魚住の肩をたたくと男性の後を追うように立ち去った。

 

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