クロスもの   作:とましの

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4話

捜査一課の課長となると普通の刑事より仕事の量は多くなる。しかしおそらく月城医大のあの医師はそれ以上の多忙さを抱えているのだろう。

何度となく誘いを断られ約束を破られれば普通なら嫌われたと思って身を引く。予定が空かないという理由で断られ続けた魚住も例外なく連絡を控えるようになった。

 

「魚住さん、最近元気がないようだな。怪我がまだ痛むのか?」

連絡を控えて二日が経った頃、部下の灰原に問われて目を向けた。書類から目を移して見上げたそこにはいつもと変わらない落ち着いた瞳がある。

思えばあの医師も、あの凄惨な事故現場で慌てる様子がなかった。もちろん医師なのだから怪我人を見ることにも慣れているのだろう。

そして彼は連れの医師には軽傷者の対応と医大との連絡をさせて自分は重傷者を見ていた。出血し動けない負傷者の元を巡って応急処置などをしていたのだ。

あの医師は、あの場で本当に冷静に迅速な対応をしてくれていたものだと思い返す。

 

「また想い人のことを考えているのだなぁ」

灰原からの思わぬ指摘に魚住は眉をひそめる。しかし灰原は臆することなく口を開いた。

「その医師とやらは、魚住さんが相手でも心揺れたりしないのか」

「前にも言ったが、相手は男だ」

「しかし美人なのだろう?」

「そういうのはわからねぇよ」

部下のくだらない追求から逃れるように魚住は手元の報告書に目を落とした。すると灰原は腕を組み仕方ないとつぶやく。

「魚住さんは本当に仕事人間だからな」

追求することを諦めたらしい灰原はそう言い放つと笑顔のまま立ち去った。

 

 

 

連絡を控えてから半月が過ぎた頃に魚住の元へ一本の電話が入る。

既に腕の怪我も完治していて捜査現場にも復帰して久しい。そんな折りの連絡と食事の誘いに魚住はふたつ返事で承諾した。

 

仕事を終えて約束の店にたどり着くが、そこから30分も待たされる。そうしてやっと現れた医師はやはり会社員風の服装をしていた。もちろん白衣を着てくるとは思っていないが、ネクタイ姿には違和感を持つ。

「医者もネクタイを締めるんだな」

「あー、学会だとな。それなりの服装じゃねぇとダメなんだわ」

開口一番に問いかけた魚住へ、今までにないほどラフな口調が返ってきた。それにも驚いていると相手は店の入り口に向かい出す。

「先生も大変だな」

しかし魚住がそう告げた瞬間、医師は目を丸めて振り返った。そのため魚住も怪訝な顔で相手を見る。

「なんだ?」

「いや、あー…光秀でいいわ。堅苦しいの勘弁な」

職種が違うのだから上下をつけられたくない。そう言いながら店に入った光秀に続き、魚住はのれんをくぐった。

 

光秀が指定したのは美味しい牛タンが食べられる店として有名な場所だった。賑やかな店内でカウンター席に座った魚住はテレビで見た時のことを思い出しながらメニューを眺める。

そんな魚住の隣で光秀はネクタイを緩めてまずはビールと注文を飛ばした。

「おまえもビールで良いよな」

「俺はウーロン茶で」

注文される前にと魚住は自分で店員に告げる。それを隣で聞いた光秀は驚いた顔を見せていた。

「体育会系のくせにウーロン茶かよ」

「そこは関係ねぇだろう」

「あー、まあいいけどよ…あ、牛タン焼きふたつな」

続けて店員に注文すると入れ替わりに飲み物が出された。

 

注文した料理を食べながらアルコールを飲み続ける。そんな光秀の隣で魚住はウーロン茶を飲んでいた。普通より厚みのある牛タンは食べごたえがある。

「飲み過ぎていないか?」

「んー…?」

カウンターに頬杖をついた光秀は魚住の問いかけに眠そうな目を向けてきた。

「眠そうだな。そろそろ出るか」

きっと学会とやらで疲れているのだろう。そう考えた魚住は立ち上がり伝票を手にしようとした。しかしそれを光秀がかっさらい立ち上がる。

「今日は俺が出すわ」

アルコールに赤らんだ顔を緩めた光秀はそのまま会計に行ってしまう。それを唖然と眺めていた魚住はふと彼がカバンを忘れていることに気付いた。

それを手に席を立つと光秀の後を追いレジへ向かう。

 

 

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